第455話 次の行き先

さてもう一つの目的は楽器作りの件だ。宴会の最中にバンデスに相談する。


「ほう、音を出す機械作りか。どんなやつじゃ?」


色々な楽器を説明していく。


「音楽に興味があって細かい作業が得意な人じゃないと無理だと思うんだよね。そんな人がいるかな?」


「どうじゃろうな。しかしここから出てまでやりたがるやつがおるかどうかじゃな」


「親父、エルフは移住するやつが出て来ると思うぞ。すでにゲイルに付いて来た奴もおるからな。そのうちぞろぞろと来るはずじゃ」


「ずっと隠れてた奴らがか?」


「あぁ、ゲイル達が飯や酒を持ち込んだり、劇を見せたりしたら関心を示したそうじゃ。ここにおるやつらも武器以外に何か新しい物を作ってみたいとか考えてる奴がおるんじゃないのか?」


「劇とはどんな物じゃ?」


「ゲイル、お前らエルフの所で色々とやったんじゃろ?ここでもやってやれ」


「分かった。取り敢えず簡単に出来そうな楽器を作ってもらってやってみようか?」


作るのは鉄琴とシンバルだ。太鼓やタンバリンとかそんなのも作れるかな?



図に描いて説明していく。音階はミグルとシルフィードに聞いてもらえばいいかな。二人とも歌上手かったし。


翌日から楽器作りだ。


微調整を繰り返しながら鉄琴を作っていく。音階が正しいかどうかわからないけど自分が聞いた限りでは合ってる気がする。


「これを叩くと違う音が出るのは分かったが、どう使うんじゃ?」


俺が演奏出来そうなのはサクラサクラとかチューリップくらいだ。後はドレミの歌とかだな。


取り敢えずドレミの歌を演奏しながら歌ってみる。


「ほう、これはおもしろいな。他にもあるのか?」


「歌とか曲は無限に作れるんだけど、俺にはその才能がないんだよ。だからこういうのが好きな人達に作っていってもらいたいんだ」


「よし、なら皆を集めて劇というのもやってみてくれ。あと今のもな」


という事で嫌がるミグルを説得して数日後に劇をした。


ミグル達の失敗談の喜劇、ダンを悪役にした戦隊物が好評だった。


鉄琴を演奏しながらのドレミの歌もなかなかだ。太鼓はまだ出来てないけど、ドワーフ達には受ける気がする。和太鼓みたいなものでもいいし、ドラムとか盛り上がるのが好きそうだからな。


ここですぐに行きたいと言う人は出て来なかったので貴章を渡しておく。西門から入ってもらえればスムーズに入れるよと付け加えて。



「ドワン、もう帰るの?」


「用事が済んだからな。次はお袋達が遊びに来るといい」


「あら、じゃあそうするわ」


バンデスも一度ドン爺と会わねばならんと言っていたのでそのうち来るだろう。その時はグリムナも呼んで3ヶ国会議とかしてもらえばいいかな。



「予定よりずいぶんと早く終わったな。このまままっすぐ帰るか?」


「ジョン達はどうする?一度帰ると次に出発するのに時間がかかるかもしれないよ」


「なら違う所に行ってみるか?」


「アルはどうしたい?」


「ゲイルは行きたいところはないのか?」


実はある。南の領地に行ってみたいのだ。鰹節を作った奴に会ってみたい。転生者かその子孫の可能性が高いからな。


「じゃあ行ったことのない領地に行こうか? 南は全然知らないんだよね。おやっさんは帰らなくて大丈夫?」


「坊主にあれ作れと言われんから大丈夫じゃ。今まで作った奴は他の奴らでも作れるようになっとるからの」


という事でこのまま南の領地に向かうことになった。



「ここから山超えじゃな」


南の領地に向かうのは山を超えなければならないみたいだ。荷馬車も通るので馬車でも行けるけど、山賊が結構出るらしい。離村した盗賊モドキでなく、本気の奴等だろう。


嫌な感じがしたら討伐だな。


道中に宿場町があったので今回は泊まる事にする。もしかしたら珍しい食材が食べられるかもしれないからだ。


しかし、まぁ、こんなもんだ。値段はさほど高くはないが宿はショボく風呂は無い。が、料理は山菜を使った物が出て来た。


「こりゃ草か?」


「草って言えば草だけど、山で採れるやつだね」


春に採れた物を塩漬けしておいたのか乾燥させてたのかはわからないが俺は好きだ。


皆には不評だったが。


後で分けてもらおう。山菜の炊き込みご飯とか食べたい。



途中の道で狩りをして鹿とかキジみたいな鳥を狩っていく。取り敢えず食べれそうなものは狩るのだ。猿の事もあるし、意外な発見があるかもしれない。



時々ゴブリンやオークが出でジョンとアルに討伐を任せる。オーク肉は通り掛かった商人にあげると喜んでくれた。


他の宿屋にも泊まってみるとしいたけが出て来た。帰りにしいたけ採取して栽培を試みよう。


やはり来たことがないところは色々と発見があって良い。他の皆は代わり映えしない景色に感動は薄いが、俺は新しい食材が手に入って嬉しいのだ。



「ゲイルよ、あのキノコがそんなに嬉しいのか?さほど旨くはなかったじゃろが?」


「調理の仕方が悪いんだよ。分けてもらってあるから昼飯に食わせてやるよ」


昼飯はキジみたいな鳥の焼き鳥、ガラ出汁と肉、山菜の塩漬けから塩抜きしたもので炊き込みご飯だ。多めに炊いて、残りはおにぎりにしておこう。


あとはしいたけだな。


「ミグル、こうやって焼いてな、ここにポツポツと水滴が出てきたら食べ頃だ。そこに生姜と醤油をちょっと垂らしてと。ほら、このままこぼさずに食べろ。熱いからな、気を付けろよ」


「まだ焼けとらんじゃろ?」


「いいから食ってみろって」


パクっ


あっづっーーーー!」


「だから気を付けろって言ったんだよ」


「お、おふひかくへといっひゃんひゃろかぁっっっ」


ポワンと腕輪からピンクの光が出てミグルの口に入って火傷を治す。


「きっさまぁぁぁ! ワシを殺す気かっ!」


「汁をこぼさずに食えとは言ったが全部口にいれるならハフハフしてから食え」


「まだ焼けとらんと思ったのじゃっ」


「熱いから気を付けろと言っただろ? 人のせいにすんな」


「ぐぬぬぬぬぬ」


「お、旨ぇなこれ」


「だろ?宿のは焼きすぎて美味しくなかっただけなんだよ。こうやって食べるか油で炒めてやると旨いんだよ」


「酒が欲しくなるの」


「バンデスさんの所にほとんど置いて来たからね。南の領地に行ったらなんか酒があると思うからそこで仕入れたら?」


「じゃあ先を急ぐぞ」


「まだご飯食べてないだろ。炊き込みご飯がもう出来るから」


ジョンとアルはしいたけより焼き鳥の方がいいようだ。ガツガツ食ってるな。その分俺は炊き込みご飯を食べよう。


おぉー、オコゲも出来てて旨そうだ。


ご飯を混ぜたシルフィードがよそってくれる。


「シルフィ、その焦げた所も入れて」


「え?こんな所を食べるの?ちょっと失敗しちゃったんだけど」


「これはこんな風に炊けるのが正解。醤油が入ってるから焦げやすいんだよ。でもこの方が美味しくなるから。焼おにぎりも少し焦げた方が美味しいだろ?これも同じだよ」


という事でオコゲ入りの山菜炊き込みご飯としいたけを食べる。めっちゃ旨い。


俺が旨そうに食ってるとオコゲの争奪戦がおこり、おにぎり用に多めに炊いたのに全部食われてしまった。


「草も飯と一緒になると旨いもんじゃの」


「どこも調味料が塩しか無いから工夫するのにも限界があるからね。醤油が流通しだしたらどんどん変わっていくと思うよ」



ようやく山頂まで来ると遠くの方に海が見えた。


「ほら、海が見えるよ」


山から見下ろすと大きな町が中心にあり、海沿いにも集落があるようだ。


「よし、あの大きな町に行って色々と仕入れた後に海の近くの集落に行こう!」



俺は海を見て異常にテンションが上がっていたのだった。




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