第454話 ドワーフの国再び
戻ってから村人達に来年の税が免除になったことを伝える。
「そ、そんな事が可能なのですか?」
「この町の現状を伝えてね。どこかで立て直さないと町が滅びるよと言ったら免除になったんだよ」
脅したとは言わない。
「俺達は明日ここを発つから、他の村が何か聞いて来たらここで教えた事を伝えてあげて。トウモロコシの種が足りなかったら大豆で代用すれはいいから」
やっとまともな生活に戻れるかもしれない村人達は本当に喜んでくれた。あとは自力で頑張ってくれ。
やりかけてた小麦の育生はシルフィード達がやってくれてたので、トウモロコシの種を増やして終了とする。
持ってた鹿肉とストックしておいた猿肉をすべて放出。他にも肉はあるし、途中で狩りをしてもいいからね。
翌日、門まで見送りに来てくれた村人達に万歳三唱をされながら出発した。
それからの道中も盗賊を追い払いつつ、離村したところや貧しい村を見たが関わらないようにした。それに対してアルは心を痛めていたが、本当にキリがないのだ。アルはその心の痛さをいつまでも覚えておいてくれ。
あのワイバーンの出た道もスムーズに通り、ケルベロスの出迎えも前と同じだ。そしてトンネルをくぐるとそこはドワーフの国だ。
早速バンデスの所に向かう。
「ドワンさん、お帰りなさいっ」
「あら、また来てくれたのねっ! ドワン、娘が出来たの・・・・?」
「そんな訳は無かろうがっ」
「いやぁねぇ、冗談に決まってるじゃないの。ゲイルもよく来たわね」
ここでもむぎゅっとされる。やめて窒息するから。
「おー、馬鹿息子。酒は持ってきたか?」
「会うなりいきなり酒か」
うん親子だね。
「今回は報告とか色々兼ねておるが、そんなに長くはおらんぞ。用が済んだらとっとと帰るからな」
「酒とゲイルがおればそれでいいワイ。お前だけとっとと帰ればいいじゃろっ」
「なんだとくそ親父っ」
「おーし、掛かってこい」
また始まったので気にせずドワンの母親、タバサに奥へ案内してもらう。
「ゲイルいいの?」
「あれがおやっさん達のコミュニケーションだからほっといていいよ。前もあんなんだったから」
「ドワンの親父さんはそっくりじゃな。一目で親子じゃとわかったわ」
タバサに皆を紹介していく。
「へぇ、遠いところよく来てくれたわね。ハーフエルフには初めて会ったわ。お嬢さんたちはいくつ?」
タバサはシルフィードとミグルを俺と同じ歳くらいに思っているのだろう。
「23歳です」
「200とちょっとじゃ」
「あら、ミグルは私と同じ年代ね。それにミゲルと名前も似ているし、なんか親近感あるわね」
タバサも鈍感スキルを持っているのだろうか?
「ミゲルとはドワンの弟か?そう言えばゲイルもワシにそんな事を聞いておったな」
ミゲルとミグル、絵本のタイトルみたいだな。子供向けの芝居にいいかもしれん。
「おー、いちちち。くそ親父は相変わらず馬鹿力じゃ」
「お前こそ手加減せんかっ」
二人ともぼこぼこだ。治癒魔法を掛けておこう。ドワンには治癒の腕輪渡してなかったからな。
バンデスに皆を紹介していく。ジョンとアルは迫力に圧されたのか少し引き気味だ。
「そうか、エルフとも同盟が成立したのか。まぁそうなるとは思っておったが良かったな。で、そっちのシルフィードがお姫様ってこったな?」
「そうだよ」
「姫とか言われてもピンと来ませんが、父は王になりました。これからも父共々宜しくお願いします」
「そうかそうか。宜しくな。で、用件はなんじゃ。それだけじゃなかろう?」
「あぁ、一つは名前、もう一つは移住者募集の件じゃ。ゲイルよ、皆に聞かれても良いのか?」
「別にいいよ」
「まず、名前じゃがな。親父はゲイルをドワーフ国の王族に勝手に入れたじゃろ?」
「おぅ、もうワシの孫みたいなもんじゃ。後を継がせてもいいぞ」
「誰がこんな所の後を継ぎたがるんじゃ」
「こんな所とはなんて言い種じゃっ」
「そうじゃろうがっ」
また始まった。話が進まねぇ。
タバサがハンマーで二人を殴る。もうたんこぶはそのままにしておこう。
「いちちち、話を戻すぞ。うちの親族にした件じゃがな、ゲイルはエルフの王族にもなっておる。」
「ほう、それで?」
「エルフの里はグローリア王国と名を改めた。ゲイルの今の名前は、ゲイル・グローリア・ディノスレイヤになっておる。」
「なんじゃと?なぜエルフの家名が付いたのじゃっ?まさかこの姫と結婚したのか?」
「いや、まだしとらん」
「まだ?とは」
「シルフィードの父親が婚約と言っただけじゃ。ゲイルはまだ成人しとらんからの。この先はどうなるかは未定じゃ。しかし、エルフの長老がゲイルを王族にすると皆の前で宣言はしたらしい。それで家名が付いたと推測しておる。で、親父も家名つけろ。それでゲイルにその家名が付くかどうか確かめるのじゃ」
「それだけの為に家名を付けろというのか?」
「嫌なら構わん。ゲイルがドワーフの王族とかは親父が勝手に言うた戯れ言になるだけじゃ」
「戯れ言とはなんじゃっ!」
「そんな事と言うたじゃろうがっ!」
タバサがハンマーをポンポンと叩くと二人は収まる。たんこぶをハンマーで殴られたくないのだろう。
「うーむ、家名のぅ。ちなみにエルフはどうやって決めたんじゃ?」
「里を作った長老、グローナさんとリアードさんっていうんだけど、二人の名前から付けんじゃないかな?」
「なるほどのぅ。先代の名前から付けたのか。よし、ならば親父の名前を家名にするか。今日からワシらの家名はハーデスじゃ」
げっ、俺にもハーデスが付くかもしれないじゃん。称号に冥界の神とか付いたらどうすんだよ。
自分を鑑定してみる。
【名前】ゲイル・ハーデス・グローリア・ディノスレイヤ
あ、付いてる。称号は怖いので見ない。
「おやっさん、俺にもハーデスの家名付いたわ」
「おう、そうか。皆の前で宣言せんでも付くんじゃな」
「そうみたいだね」
「がーはっはっは、ゲイルは名実共にワシらの家族になったわけじゃ、タバサ、宴会じゃ。祝いの宴会をするぞ」
「わかったわ。何を作ろうかしら?」
「ゲイルよ、あの味噌焼の肉はあるか?」
「あるよ。他にも新しいタレもあるし」
「お、そうかそうか。ならそれも頼む。ドワン酒を出せ」
「ゲイルが持っておる」
「よーし、飲むぞ。ドワン、勝負じゃっ!」
あーあー、前と同じパターンだ。
「タバサさん、お手伝いします」
「あらぁ、気が利くわねぇ。いいお嫁さんになるわよ。ゲイルと結婚したらあなたにもハーデスの名前が付くのかしらぁ」
「ワ、ワシにもディノスレイヤの家名が付いておるのじゃぞっ!」
馬鹿、ミグルっ。ばらすなよっ
「あらぁ、良かったわねぇ」
さらっと受け流すタバサ。もしかして本当はスキルが効いてるんじゃないのか?
「ミグル、こっちおいで。シルフィードに任せておけばいいから」
「わ、ワシにも・・・」
まるで相手にされなかったミグルは泣きそうだ。
「今のでわかったろ? 名前が変わるのはただの表記だ。ああやって宣言しただけで変わるんだからさほど意味はない。称号と同じだな」
「ワシにディノスレイヤが付いたのは・・・」
「お前がそうなれって強く念じたからじゃないか。魔法と同じだ。強くイメージすれば変わると思うぞ」
これは嘘だ。一人で強く思って変わるわけではないだろう。家名が付くのはお互いが了承した時だけのような気がする。グローリアやハーデスの家名は名誉職みたいなもんだから別にいいかなと思った事で了承した事になったのだろう。
仮にウエストランドの正式な王家にしたと言われても家名は付かないと思う。後継争いに加わるつもりがないからな。
ミグルに付いたディノスレイヤは俺がどこかでミグルを受け入れてしまったのだろう。こいつとぎゃーぎゃー言い合うのはムカつくことも多いけど、意外と楽しいのだ。エイブリックもそうだったのかもしれんな。
しかし、これはミグルには言わない。俺の心の奥底にしまっておこう。
「さ、焼き肉食うぞ。今日のは醤油ベースのやつだからな。お前好きだろ?」
「う、うん」
うむじゃなくてうんか。珍しいな。
ミグルは複雑な表情を浮かべていたが、焼き肉の匂いが漂いだしたらスキップして行った。
こういう立ち直りの早さは天下一品だな。
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