第452話 どうするアル?
ようやくダン達が戻って来た。
「結構時間かかったね」
「こう木が入り組んでたら弓も使えねぇしよ。ジョン達が鹿に気付かれるもんだから手間取っちまった」
時間が惜しいということで全部ダンが仕留めたらしい。合計4頭だ。やっぱりジョン達には俺がやらされた気配を消すのと察知する修行が必要だな。
解体は村に着いてからやることにして、血抜きの為に木にぶら下げておいて俺達も寝た。
朝ご飯はオジヤだ。ダン達は物足りなさそうだが、別メニューで作るのも面倒だ。昨日狩った鹿を魔道バッグにしまい少年達に村へと案内させる。
「こっちです」
げっ、戻るのかよ。てっきり先に進むものと思い込んでいた。
少年達がここですと言った場所は素通りした町だった。
「村って言ってなかった?」
「この町の中にいくつか村があるんです」
壁は無いけど柵で囲われた町。門番までいるじゃないか。少年達は柵の隙間から逃げたそうだが、馬車があるから門を通るしかない。
仕方がない、身分証を見せてまっとうに入るしかないか。
想像ではボロン村みたいな所を想像してたが、新領くらいの規模はあるだろう。
少年達を引き連れて門番の所まで来た。
「この町へ来た用件と身分証をお願いします」
馬車を見て貴族と気付いたのだろう。わりと丁寧な態度だ。
「これがぼっちゃんの身分証。俺達は従者と護衛だ。旅の途中でこの町の住人を保護したから連れて来た。ついでにしばらくこの町で休憩を取りたい」
ダンが対応してくれる。
「準王家?なんですかこの身分証は?このような身分は聞いた事がありません」
「新しく出来た身分だ。悪いことは言わん。ぼっちゃんの機嫌を損ねるとこの町程度なら軽く潰せる力がある。大人しくここを通せ」
「しかし・・・」
「冒険者証もあるぞ。身分を疑うなら冒険者としてこの町に入れろ」
「わかりました。ではお通り下さいませ。しかし、保護されたという住人はこの門から出た記憶がありません。事情を聞かせてもらわねばなりません」
「門番よ。お前達の仕事だと言うことは理解している。が、ここは何も聞かずに通してやれ。そうしないと、ぼっちゃんが権力を使う事になったらお前達のクビどころか領地までお取り潰しになるぞ。それでも良いなら気の済むようにやれ。準王家ってのは王族だ。その意味がわかるな?」
アルは何かを言おうとしてジョンに止められていた。
「か、かしこまりました。このままお通り下さいませ」
「脅すような真似をして悪かったな。2~3日したら出て行くから心配すんな。これは手間賃だ」
ダンは門番二人に銀貨を1枚ずつ渡すと驚きつつも受け取った。田舎町では大金だろうからな。
少年達に案内されて元居た村という所に連れていかれる。
「お前達っ! なぜ戻って来たっ」
「このご貴族様の馬車を襲おうとして・・・」
バゴンっ
「も、申し訳ございませんっ、か、家族をろくに食わしてやれなかったワシたちの責任です。罪はワシらが償いますので何卒、何卒、息子達の命はっ」
「顔を上げよ。こいつらはまだ何もしておらん。される前に追い払っただけだ。それに罪を問いにきた訳ではない。少し話を聞かせてくれ」
ちょっと貴族風にやってみた。その方が後腐れも無さそうだし、命令という形なら素直にしゃべるだろう。
10箇所に村が別れていて、それぞれ300人くらいいるらしい。ここは小麦と自分達が食べる野菜を育てていて、小麦の不作が続いて4家族は税の支払いが出来なかったみたいだ。他の村人も助ける程収穫出来ておらず、明日は我が身なのだそうだ。
「税を払えなかったものは強制的に出稼ぎに行かされます。そうなればもう戻って来るのは不可能なのです。一家揃って逃げると他の者達にそのしわ寄せが行くので、やむを得なく息子達を逃がしたのです」
なるほどね、将来ある息子、乳飲み子がいる母親と赤ん坊、強制労働に耐えられなさそうな年寄りを逃がして自分たちだけで済むようにしたのか。
「分かった。税を払えるくらいの小麦は作ってやる。あと食べる野菜とかもな。鶏とか飼ってるか?」
家畜は物を運ぶ小型の馬、数頭の牛、鶏がいるようだ。これらは税の差押えになっていて、飢えても食べる事が出来なかったそうだ。
「じゃあ、家畜と野菜は俺がなんとかするからシルフィードとミグルは小麦をお願い。どれくらいの量が必要かわからんから作れるだけ作って。ダン達は鹿の解体を宜しく。おやっさんは農具がどんなのか見て改良出来るならお願い。お前達は収穫をしろ」
矢継ぎ早に指示を出す俺に付いてこれない少年達。
「この二人はハーフエルフだ。植物魔法が使えるから小麦もすぐに育つ。だから収穫を手伝えと言ったんだ。ぐずぐずするな。昼飯は鹿の焼き肉を食べさせてやるから頑張れ」
まともに肉を食べてない食べ盛りの少年達は肉を食わせてくれると聞いて疑問がどこかにぶっ飛んだようだ。
あっちは任せておこう。
「じゃ、こっちは野菜をやるから。先に家畜達の餌を作るよ」
牛と馬達の牧草を一気に育てていく。今は草が生えてるからそれを食べているみたいだけど、牧草の方が栄養価が高いだろう。シルバー達も食べるしな。
住民達に家畜を連れて来させたら喜んで食べだした。鶏にも餌が必要だな。ほっといてもその辺のミミズや草で十分かもしれんが。
飼料用のトウモロコシを育てていき、それを残ってた家長達に収穫させる。牛と馬には茎や葉ごとあげても大丈夫だけど、鶏には砕かないとな。
石臼と石杵を作って潰して貰おう。
砕いたトウモロコシを鶏にやると必死に食べ出した。
「ご貴族たちはいったい・・・」
「俺達は魔法が得意なんだよ。そんなの気にせず作業して。旅の途中だから長い間ここに居れないからさっさとやらないと収穫量が減るよ」
いちいち説明するより、収穫物を増やさないといけない。魔力が無くなるまで作業して、手作業して、の繰り返しだ。何日かしたら領主関係者が来るだろう。出来ればそれより早く終えてここを出て行きたい。確実に面倒臭いことになるからな。
次に野菜を育てていく。日持ちする根菜を中心にして、次にキュウリやトマトといった生野菜だ。
キュウリは種を取るやつ以外は雄花をとって受粉させないように教えていく。これで種が気にならないキュウリが出来る。あとはキャベツや白菜だな。
「ぼっちゃん、解体終わったぞ」
「じゃあ、今と今夜食べる分だけ焼き肉用に切って。俺達の分もね。残りは保存魔法を掛けておいておくよ」
1頭分をダン達に切り分けてもらい、俺はバーベキューの用意をする。タレもあるけどこの先必要だしな。薪で塩焼きにすれば良いだろう。赤ちゃん用にはじゃがいもと白菜の離乳食だ。
人間用のトウモロコシも育てるか。育てながらこの人達に育て方を教えていく。ちょうど今からなら育てるのにいいシーズンだからな。種をおいといてやれば自分たちでも作れるだろう。
他に何か種がないかと聞いたらカボチャがあったのでそれも育てる。ついでに種をもらっておこう。
さて、昼飯は鹿肉と野菜のバーベキューだ。そろそろシルフィード達も帰って来るだろう。
「と、父さん。この娘たち凄いよ。あっという間に小麦が育ったんだ。収穫が間に合わないから手伝って」
この娘って・・・。お前達より歳上だからな。
「それ、昼飯食ってからにしろ。肉と野菜を準備したから先に昼飯にするぞ。腹減っただろ?もう肉は食えそうか?」
「い、いいんですかっ?」
「昼からも働かせるからな。自分で焼いて食えよ」
うわっーと喜んでバーベキューの周りに座る少年達。
「肉が足りなかったらまだあるからな。でも食べ過ぎて腹を壊すなよ」
「ぼっちゃん、タレはねぇのか?」
「出してもいいけど、この先ずっと塩焼きになるぞ」
そういうとダンはタレを諦めた。
「この葉っぱの塊みたいなのはなんですか?」
「トウモロコシだ。まだ焼けてないからもうちょっと待て。その葉っぱが真っ黒に焼けたら食べられるけど、いきなり強火で焼くなよ。生焼けになる。」
取り敢えず肉やカボチャをがつがつ食べていく餓えた人達。
あれ?年寄り達は肉を食べていない。
「肉食べないの?じいちゃん達は肉嫌いかな?」
「いや、どうもワシらには硬くての」
なるほど。
魔道バッグからミンサーを出して鹿肉をミンチにしてやり、棒の周りに張り付けてツクネ串にしてやる。
「これなら食べられると思うから」
焼けたツクネ串を渡すと物凄く喜んでくれた。
「包丁で肉を細かく切って叩いてやれば同じようなもの作れるから」
だいぶ打ち解けてきた皆はどんどん肉や野菜を食べていく。
そろそろ焼けたトウモロコシの葉をむしらせた後に醤油をちょいちょいと塗っていってやるとめちゃくちゃ香ばしい匂いが辺りに漂う。
「なんだこりゃ?めちゃくちゃ美味いっ」
焼きトウモロコシを嫌いな人なんているのだろうか? 皆旨い旨いと感激する。
ふと気が付くと俺達を遠巻きに見ている人達がたくさんいた。
そりゃ、いきなり小麦が育ち、これだけいい匂いを漂わせているのだ。人が集まって来ない訳がない。
さぁ、アルよ。どうする? この村全部に施しをしたら他の村も同じようにして欲しいと言うだろう。つまり町全部に同じ事を求められる事になるのだ。
まぁ、初めから分かってたけどね。ここはアルの判断に任せよう。
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