第451話 アルからの依頼

拠点まで来ると掘っ立て小屋に女性、赤ちゃん年寄り等が居た。みな痩せている。


「どこから逃げて来たんだ?」


「イナーク村だ。去年の税が払えず少しばかりの猶予をもらったが払えそうにないから親父がお前達だけでも逃げろと」


盗賊もどきの一番年上の少年が泣きながら語る。4家族の父親が村に残り、家族だけでも逃げろと言われてここに潜伏していたらしい。しかし、狩りも上手くいかず持ってきた食料も底を尽き俺達の馬車から食べ物を盗もうとしたみたいだった。


「アル、お前は理由はどうあれ盗賊とは盗賊と言ってたがどうするつもりだ?全員殺すのか?」


俺が皆を殺すのかと聞くと全員がビクっと怯える。


「こんな人達を殺せる訳がないだろっ」


「じゃあどうすんだ?」


「ゲイル、食べ物を分けてやってくれ。俺達のはまた町で仕入れればいいじゃないか」


「全部あげてもいいけど、数日しか持たんぞ。その後どうするつもりなんだよ?」


「そ、それは狩りをして・・・」


「出来てないからこんな事になってんだろ。アルも鎌だけで鹿とか狩ってみろよ。無理だろ?」


「じゃあどうすればいいんだ・・・」


「アル、これは貸しだ」


「え?」


「今回は俺がなんとかしてやる。だが、タダじゃない。ここは他領だからな。その請求はお前にする。」


「わ、分かった。帰ったら払う」


俺達の会話が何を言っているのか理解できない人々。


「アル、請求するのは金じゃない。お前が払うと言った金はお前が稼いだものじゃないだろう? 元々はこうやって飲まず食わずの生活をしながら払われた税金だ。そんな金受け取れるか。お前に払ってもらうのは働きだ。出世払いにしてやるからちゃんと返せよ」


俺の言うことをいまいち理解出来ないアル。


取り敢えず皆臭いのでクリーン魔法を掛けてから、野菜入りの味噌汁を作ってやる。いきなり肉とかより汁物の方がいいだろう。食べたら馬車まで移動して村に向かうか。


うっうっうっう


盗賊に来たなかで一番小さい少年が泣きながら味噌汁を飲んでいる。他の者達も似たような感じだ。しかし、赤ん坊を抱いた母親は飲もうとしていない。


「お母さんは食べないの?」


「この子にやる乳もほとんど出ないのに私だけが食べるなんて・・・」


痩せた女性は赤ちゃんを抱き締めて嗚咽する。


「赤ちゃんは生まれて何ヵ月?」


「半年です・・・」


ならそろそろ離乳食も行けそうだな。人肌くらいの牛乳でもいいかな?いや赤ちゃんって牛乳ダメだっけな?それは犬や猫か。あー、子供が生まれて世話してたのは3~40年前の事だからな記憶がはっきりせんな。ほとんど嫁さんに任せっきりだったし・・・


牛乳はやめて極薄い塩味でじゃがいもを茹でよう、それをどろどろにしてと。甘くすると食べるかな?砂糖より魔力で甘くしてみるか。


そうして作ったものを赤ちゃんの口に少し入れてみる。


むにゃむにゃと嫌がる素振りをみせるが少しすると食べた。


「もうこの子、離乳食いけそうだね。後は俺がみといてやるからお母さんも食べてきな。お母さんがちゃんと食べないと乳も出ないからね」


「で、でも・・」


「大丈夫。これ食べたら出発するから」


えっ?と全員がこちらを向く


「ゲイル、どこに行くんだ?」


「この人達の村に決まってんだろ」


「戻ってどうするんだ?」


「税金払えるように農作物育てるに決まってるじゃないか。俺とシルフィ、ミグルでやればなんとかなるだろ。」


「そうかっ!助かるぞゲイル」


「別にいいよ、アルが払うんだから。言っとくけど村一つ救う代償は高いからな。覚悟しとけよ」


俺にそう言われてアルはゴクリと唾を飲んだ。


味噌汁を飲んだ母親は一息付いたようでこちらに戻って来た。


「ありがとうございます。あんなに美味しいスープは初めて飲みました」


涙ながらにお礼を言う母親。赤ちゃんも少し食べて満足したのかすやすやと寝てしまった。ゲップとかさせてないけど大丈夫かな? あれはミルク飲ました時だっけか? 

よく分からないので母親に赤ちゃんを返しておこう。しかし、赤ん坊って温かいな。離した途端に寒くなる。


春とはいえ夜は冷える。赤ちゃんと母親に毛布を出して掛けてやる。


「こ、こんな上等な毛布を・・・」


「アルのだから大丈夫。他にもあるから気にしないで」


味噌汁を食べた事で少し元気が出た人々に回復魔法を掛けて馬車まで戻った。



「なんじゃぞろぞろと人を連れてきおってからに」


ドワン、なに酒飲んでんだよ?


「村から逃げて来た人達だよ」


「離村したのか。さっき追い払った盗賊の仲間じゃの。こんな事だろうと思っておったわ。どうするのじゃ?」


「アルが皆を救うんだって。お前も手伝えよ」


「なんでワシが手伝わないとダメなんじゃっ。そんなやつらはうじゃうじゃおるんじゃぞ。キリがないじゃろうが」


「アルからの依頼だ。これは仕事として引き受ける。お前もうちに居候してんだ、たまには働け。俺の仕事を手伝うのが条件だったろ?」


「ぐぬぬぬぬぬぬ」


「ダン、二人を連れて鹿とか狩って来てくれ。野菜はなんとかなるけど肉が足らん」


「お、俺達も手伝うっ」


盗賊をしようとした少年達が手伝うと言い出した。


「いらん、足手まといだ。それより寝ておけ。お前らは夜が明けたら歩いて移動だからな」


ダンはそう言うとジョンとアルを連れて森に消えて行った。


皆の寝床を土魔法で作っていく。母親と赤ちゃんは馬車の中で良いだろう。


「こ、これは魔法か?お前達は何者なんだ?」


「貴族だよ。馬車にも紋章が入ってるだろ? 俺達は旅の途中なんだよ」


「えっ?」


全員冒険者の出で立ちだ。立派な馬車とはいえ貴族とは思わなかったのだろう。未遂とはいえ貴族に盗賊行為を働こうとしたのだ不敬罪で殺されてもおかしくはない。


全員が一斉に地面に頭を擦り付けて謝る。


「いいよ、そんな事をしなくても。普通にしてろ。面倒臭くて敵わん」


「しかし・・・」


「いいってば。だから早く寝ろ」


面倒臭いから無理やり小屋に押し込めた。


「坊主、何をするんじゃ?」


「村に行って農作物を育てるよ。植物魔法の使い手が3人居たら税金分と今年食べるものくらい2~3日でなんとなるでしょ」


「さっきミグルも言ってたがキリが無いじゃろ?」


「そうだね。まぁアルには国の現実を見て貰うのにちょうどいいんじゃない? 国政に携わるならこういうことも知っておかないとね。見ると聞くじゃ大違いだから」


「そんな事は坊主がすることじゃないじゃろ? エイブリックがやらねばいかんことじゃ」


「エイブリックさんは気軽に外に出られないからね。だから俺達と同行するのを許可したというより任されたんだと思うよ。国の現実を見せてやってくれとか思ってんじゃないの?」


「あやつは肝心な事は言わんやつじゃからの。坊主の言う通りかもしれん。アーノルド達もそうじゃが、ちゃんと言わねば伝わらん事もあるじゃろうが」


言葉より手が先に出るドワンが一番俺に色々と教えてくれるからな。アーノルドは言葉で説明するより体感させて覚えさせるタイプ、エイブリックもそれに近しいが、どう転んでも良いように色々と先手を打っていく策士タイプ。アルの社会勉強もあるだろうけど、他にも裏があるのだろうな。


なかなか戻ってこないダン達を待ちながら、シルフィードとミグルに小麦や野菜を育てる役割分担を決めていったのだった。




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