第448話 冒険の後の実務
ボロン村から旧グズダフ領を経由して王都へ帰還。
「ゲイル、あそこの町の柵とか凄いな。住民もあんなに慕ってるとか何やったんだ?」
「新領扱いで5年間中央への税金をエイブリックさんが免除してくれたんだよ。それ以外何もやってないよ。まだ柵作ったくらいだ」
今は屋敷で飯を食い終わり、のんびりとおしゃべりタイムだ。ジョンとアルは俺が何をやったのか不思議だったようだ。
「ゲイルは魔法が凄いからなんでも出来ていいな」
「アル、ぼっちゃんには魔法っていう力があるが、お前には権力って力があるの忘れてねーか?」
「権力?」
「魔法も権力も使い方次第ってやつだ。税金の使い方を決められるのは権力者の責任だ。あの魔物避けの柵も税金を使えば設置出来る。お前は将来その凄い力を得られる立場にあることを自覚した方がいいと思うぞ」
アルはダンの言う事にまだピンと来ていない。
「普通の魔法使いは敵をやっつけるとかにしか使わないだろ?ぼっちゃんのはそうじゃねぇ。人の役に立つものが多いんだ。権力も同じだと思うぞ。人の役に立つ使い方ってのをちゃんとやっていけば国民は幸せになる。出来ないものを羨むより、出来る事を生かす事を考えていけ」
「う、うん」
翌日からは後処理に大忙しだ。西の街の発展の進捗確認と次の指示を出して、エイブリック邸に冒険の報告に来た。
「アル、ちょっとは成長したか?」
「辛い事も多かったけど、なんとか猿達は倒せるようになりました」
エイブリックはフフンと笑った。
「あ、魔物がどうやって増えるか確認してきたよ。それが全部じゃないとは思うけどね」
特定の池から魔物が生まれてくる事を話した。
「なるほど、それならば様々な所に同じような物があると考えて間違いないな。探し当てて駆除を試みるか?」
「もし駆除出来るとしてもやり方を考えていかなければダメだと思うんだよね。オークとゴブリンがあの町で急に増えたのはその前に俺達がコボルトを殲滅したのが原因じゃないかなと思ってるんだ」
「どういうことだ?」
「あの町付近で冒険者がオークやゴブリン狩りをしてなかったのは昔からでしょ。それが急に増えた原因はコボルトかなあって。それぞれが適度に戦って増えすぎないようなバランスを保ってた可能性があるんだよ。そこでコボルトだけが激減してバランスが崩れた」
「なるほどな。その隙にオークが進化したり、増えすぎたりしたのか」
「エイプ達は自分以外の魔物が生まれてくると食べて駆逐してた。他の魔物もお互い戦って食べてるんじゃないかと思うんだよね。それでバランスが保ててるとか。特定の所だけ潰すとどんな弊害が生まれるか想像が付かないよ」
「うむ、そうかもしれん。その件も研究所で調べさせておこう。取りあえず王都の近くにそのような場所があるか把握しておく必要はある」
国全体に関わるような事は任せておこう。俺がやるのは気付いた事を報告するだけだ。
エイブリックとの話し合いが終わった後に厨房に顔を出すと、今年の社交会の話を教えてくれた。エイブリックの指示でヨルド達は王家のコック長、ウィスパーの指示に従うだけで新作メニューとか一切出さなかったらしい。その結果、何も代わり映えしないどころかウィスパー達が考案したメニューの評判は最悪だったとの事。
エイブリックはウィスパーが私憤でコックをクビにした事に怒っていたようで、お灸を据える為に今年の社交会を犠牲にしたみたいだ。
ウィスパーは処分とまではいかなかったみたいだが、そのうちコック長を辞任するんじゃないかとの事。
まぁ、ウィスパーがどうなろうと俺の知ったこっちゃない。もう二度とあそこに行くことはないだろうからな。
昼からはエルフのヨウナと養魚場の改良だ。孵化から成魚にするまでの完全養殖サイクルを確立するために色々とやらねばならない。取りあえず今は孵化から稚魚にするまでの施設を作った。一般流通するまでにはならないだろうけど、宿や食堂で食べられるようにはしていきたいのだ。
これらの事を数日でやってからミーシャとミケも連れてディノスレイヤ領に戻った。
アーノルド達に冒険の報告がてらバルへ食事をするために向かう。
バルでミグルの恥話を話すつもりじゃなかったのにワイワイと盛り上がるに連れてついしゃべってしまった。
「でさぁ、ボアの罠にミグル達が捕まっててね・・・」
「きっさまぁぁぁぁ!それは言わん約束じゃろうがっ!」
「そうだっけ?」
「ミグル、さすがねぇ。そんな貴重な体験したことある奴いないんじゃないかしら?」
「う、うるさいっ!アイナはあの腹ペコの状態を知らんからそんな事が言えるのじゃっ!」
しまったな。ミグルが猿に集られる話の方が良かったかもしれん。まぁ、言ってしまったものは仕方がない。ここからはアーノルドに任せておこう。アーノルドをアイナとミグルの間に挟んで座らせたのは正解だ。生け贄になってくれたまへ。
「おい、お前ら。剣を見せろ」
ドワンがジョンとアルにいま使ってる剣を見せろと言うので二人は差し出す。
「かぁー、ダメじゃの。無茶苦茶じゃ」
どうやら歯こぼれや剣の歪みが出ているらしい。
「腕が未熟じゃから剣がこんな事になるんじゃ。疲れて来た時とか慌てた時に無理矢理斬ろうとしたじゃろ。これじゃせっかく打ってやった剣を渡す訳にはいかんな。修行のやり直しじゃ」
「えぇーーーー」
ジョンとアルはこの冒険から帰って来たら新剣と魔剣を貰える事になっていたのだがお預けになってしまった。
「お、おやっさん、俺の魔剣はくれるんだよな?」
「お前が付いていながら、コイツらにこんな雑な扱いをさせた責任を取れ。こいつらが合格するまでダンもお預けじゃ」
キッと俺を睨むダン。
俺のせいじゃないからな。睨むなよ。
「お前ら、明日から死ぬほど稽古するからな」
「は、はひ・・・」
二人はドワーフの国に行くまでみっちりとダンにしごかれる事が決定した。俺は他にやることがあるしちょうどいいかもしれん。
ドワンに馬に付ける農機具を春までに作っておいてくれるように頼んでおいた。大型のが6つ、普通の馬が使えるのを複数だ。アーノルドにはボロン村の馬6頭を予約済み。西の街に3頭、新領に3頭配置しよう。
数日掛けてディノスレイヤ領でやることを終え、王都に戻った。
ちょっとのんびりしたいなと思っててもやることが山積みのゲイルなのであった。
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