第449話 ジョン達は護衛
春になり、西の街の住人、東の辺境伯領、新領とそれぞれ農業研修生が集まった。指導者はドワーフのファムと手伝いがディノスレイヤ領から来てくれた。
輪作の説明や水田作り、普通のイチゴの苗、トウモロコシ各種など指導していく。俺達も出発するまではその手伝いだ。魔法で育てて見せて、実際に育つ過程を見ながらの説明はわかりやすくて良い。
みな生活に直結するものなので真剣な表情で見ている。
ボロン村の馬達はまだ作業デビューが出来ないので普通の馬の農機具をデモンストレーションする。西の街と新領には配布するが、東の辺境伯領は農機具の設計図を販売して自作してもらうことになった。製品を持っていくには遠いからね。
マルグリッドも様子を見に来たが、領民の前だからか、俺に馴れ馴れしくせず、貴族らしい振る舞いをするだけだった。それでも農地に見学に来たことに東の領民達は驚いていた。じゃあ、領主自ら畑作業をしている俺は何だって話だよな?
料理教室とウエイトレス教室も盛況でどんどん生徒が増えている。俺が見ているときにミーシャ先生、ミケ先生と呼ばれて照れ臭そうにしていたが、何故かサラだけは教官と呼ばれていた。
ザックの店も小熊亭のそばに仮オープンしていた。新しく建物が出来たらそこに肉屋、酒屋、八百屋が入るらしい。西の街で採れた野菜、肉とかすべてロドリゲス商会に卸す仕組みにした。かなりの特権だ。その代わり、西の街の宿や飯屋、住民には安く売り、豊作で採れ過ぎてもすべて買い取らせる。売り先はどこにでもあるのでそれは努力してくれ。ディノスレイヤ領からの品物もロドリゲス商会が取り扱うので、もう流通センターと言っても良いぐらいだ。
ザックにさばけるか疑問だが、商会長や大番頭が尻拭いしてくれるだろう。
「坊主、そろそろ出るぞ」
「じゃあ行こうか」
さて、ドワーフの国に出発だ。今回は俺の馬車で行くので偽装もせずに東の辺境伯領を通るルートで行く。ジョン達はこの馬車の護衛という名目だ。王都ギルドにドワーフの国までの護衛兼御者の依頼をかける。報酬は飯と宿泊のみだ。当然誰も受ける事はないので、ジョン達が受注した。護衛だから馬車について歩かせようかと思ったが、さすがに可哀想なので、御者の訓練を兼ねて御者台に座らせる。ミグルはまぁ御者は免除して気配察知で盗賊を探してもらう。俺達も出来るけど、察知から退治まで任せる事にした。
「御者って思ったより簡単だな」
「たわけがっ!シルバー達だからじゃ。3頭立ての御者は本来素人が出来るようなもんじゃないわっ」
順調に進む馬車の御者をして調子に乗ったアルをドワンが叱る。当然だ。シルバー達にはほとんど何もする事がないし、言葉でも言うことを聞く。
「ドワン、宿場町には泊まらんのか?」
ミグルが宿場町を通り過ぎた事を不思議に思ってドワンに聞いた。
「泊まりたければお前らだけ泊まれ。ワシはごめんじゃ」
「ワシは泊まらんのかと聞いただけじゃっ!なぜそんな意地悪な言い方をするんじゃ」
「分かりきった事を聞くからじゃっ」
「昔は泊まってたじゃろうがっ」
「いつの話じゃ。前回の途中から泊まっておらん」
いや、その時ミグル居なかったし・・・
ミグルの隣に座ってるドワンはスキルにやられているのだろう。今のはドワンが悪い。
「ゲイル、どうして宿場町に泊まらなくなったの?」
シルフィードがさりげなく聞いてくる。
「飯は不味いし、風呂も無いか、あっても汚いしね。泊まる価値ないんだよ。初めはこういうところにお金を落としていくものと言われたんだけど、なんの工夫もしてないのに腹が立って泊まらなくなったんだよ」
「工夫してないとはどういうことだ?」
今はダンとジョンが御者をしているので客室にいるアルが聞いてくる。
「こういう街道沿いには宿場町があるんだけど、どこも同じなんだよ。ここを通る人は安全の為に宿場町に泊まらざるを得ないからサービスが悪くても利用者が減ることはない。だから何の工夫もしないんだ」
「それでやっていけるなら別に問題ないのだろ?」
「今はね。でも他に良い宿場町が近くに出来たらあっという間に潰れるよ。慌てて改善しても客が戻ることはないだろうし、そうなりゃ一気に仕事がなくなる」
「ゲイルならどんな宿場町を作るんだ?」
「中央地点に居心地の良い宿場町だね。きれいな風呂と旨い飯や酒。1泊の所を2泊してもいいかなって思わせるくらいの物を作る。他の場所は素泊まり専門でもいい。安全を担保出来たらそれで十分かな。小規模な商人ならそっちを利用する。馬を休ませる場所と水だけとか。お金が無い人は宿代払うのももったいないと思ってるだろうからね」
「働く人はどうするんだ?」
「素泊まりの場所はそんなに人がいらないから全部中央に集中させればいいんだよ。儲けるのも全部そこで。素泊まりの所と交代でやれば済む話だ。食べていけなくて村を捨てて出てくる人とか多いから街道沿いは雇う人に困らないと思うよ。利用者が増えたら中央の宿場町は本当の町みたいになっていくだろうし」
「なるほどな。ゲイルがここもやればいいじゃないか」
「手が回るわけないだろ?アルが試しにやってみればいいじゃないか。」
「無理だよっ。2年間しか自由な時間が無いのに」
「いや、作業とかは人に任せればいいんだよ。方向性とか指示を出してやればいい。人の往来が増えるのは国を豊かにする事にも繋がるんだぞ」
「国を豊かにする・・・」
「そう。お金や物が常に動いてる事が重要なんだよ。俺がやってるのはまさにそれだね。新領ももらったから、王都、ディノスレイヤ領、ボロン村、新領とぐるぐるとお金と物、人が動くようにしていける。それぞれの特産品を作っていけばその動きは加速する」
俺がそういうとアルは黙ってしまった。何かを考えてるのか頭がパンクしたのかは不明だ。
「ぼっちゃん、今日はここらで夜営するぞ。ジョン達に見張りをやらせるのか?」
「気配察知して盗賊が来たら討伐してもらうよ。取りあえず飯を一緒に食おう。それが報酬だからな」
ここは宿場町と宿場町の間だ。夜は誰も来ないけど少し広くなっている。昼間の休憩ポイントになってるのだろう。馬車のライトを点けて飯の準備を始める。
「ジョン、アル。曲者が潜んでおるぞ。注意を払っておけ」
ミグルが二人に指示をする。煌々と明るい馬車に呼び寄せられた虫のごとく盗賊が寄って来ているようだ。
街道沿いの盗賊は前にやっつけたのにまた増えて来たのか。盗賊を生む池とかあるんじゃないだろうな?
まぁ、あの人を殺した嫌な感じはしないし、荷物だけを狙う盗賊といった感じだろう。
ジョンとアルは剣を抜き警戒する。
「さぁ、出来たぞ」
俺がそういうとミグルは森の方に向かって小さなファイアボールを一発撃った。
小さく、ヒッと声が聞こえた後にガサガサと盗賊が去っていく音が聞こえた。
「どうせ襲ってこんじゃろうが、鬱陶しいので追い払ったぞ」
「討伐しなくて良かったのか?」
「盗賊なんぞうじゃうじゃおるわ。そんなもんいちいち討伐してたら前に進まんぞ。ちんけなやつは追い払うだけで良いのじゃ」
「しかし・・・」
「アル、盗賊は殺すか捕まえて衛兵に引き渡さねぇとダメなんだ。ここで捕まえたら一度王都に戻らにゃならん。賞金クビ稼ぎ冒険者ならそうするが、今回はドワーフの国に行くのが依頼内容だ。捕まえる必要はねぇ」
「しかし盗賊を放置したら他の者が襲われるんじゃ・・・」
「だからみんな護衛を雇って宿場町に泊まるんだよ。夜にこうやって夜営すると格好の餌食だからね。これからも何回も同じ目に合うよ。その度に捕まえてずっと引き連れて行く? それとも殺す?」
「しかし・・・」
「盗賊をやる人は食えなくなってやむを得ずやってる人、奪った方が手っ取り早いとやる人とか色々いる。やむを得ずやってる人は食べて行ける環境を作ってやれば盗賊を止める。自分勝手に盗賊をやってる奴等はゴブリンと同じだから討伐しても構わないと俺は思う。中には改心する人もいるからなんとも言えないけどね」
「盗賊は盗賊だ。理由があろうと無かろうと関係ないのではないか?」
「それも一理あるね。でもこの旅で食べていけない人々を直に見てみるといいよ」
アルは飢えて死にそうな人を見た事が無いだろう。理屈はアルが正しい。罪は罪だ。しかし飢える家族の為に荷物を奪おうとした盗賊を見たらどう感じるのかな?
今回のドワーフへの国の護衛はそういう経験も積んで貰えると良いなとゲイルば思っていたのであった。
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