第446話 ジョン達のエイプ修行 その5

晩飯のスペアリブは好評だった。これからもちょくちょく登場することになるだろう。


似たような日々が続き、ここに来て半月程経過した。



「よしっ!肉を狩りに出よう」


「そうだな。もうなんとかなる」


ジョン達は肉を食べたい一心でかなり成長していた。今日は守り神の所より向こうへ行って狩りをして来るらしい。


「いつ戻って来る予定だ?」


「一週間後には戻る」


「気を付けて行けよ。俺達はここにいるから」


「あぁ、大物を狩って来てやるから見てろよゲイル。俺達も肉を食ってやる!」


「あぁ、頑張れよ」


テントを畳んで持ち、3人は鳥籠を出て走って行った。魔力水は各自10本ずつ渡しておいたけど足りるかな?まぁ、ミグル用のを薄めて飲めば何とかなるか。


移動時は戦いをなるべく避けて行けば問題ないだろう。



「ぼっちゃん、あいつら帰って来るまで暇だな」


「俺、どうしても気になってること有るんだよね。ジョン達が帰って来るまでそれを確認したいんだけど」


「なんだ?その気になってることって?」


「エイプの死体をどこに持って行ってるんだろう?って。本当に食ってんのかな?」


「じゃあ、死体を運んでるやつらの後をつけてみるか?」


「うん、そうしたいんだけど、完全に気配消さないと無理だろ? シルフィはそこまでまだ消せないし。でもここに一人で置いておくのも心配なんだよね」


「わ、私も一緒に・・・」


「エイプに完全に気付かれないように気配を消せる?」


「や、やってみる」


シルフィは気配を消しながら鳥籠の外に出て木の陰に隠れる。


お、いけるか?


と、移動を開始したらエイプに気付かれてしまった。何度繰り返しても高速で移動しようとすると気付かれてしまう。


「シルフィ、戻っておいで」


鳥籠にシルフィを呼び寄せる。


「まだエイプを尾行出来る程じゃないね。残念だけどお留守番だ。3日程エルフの国で待っててね。」


「・・・うん」


国の入り口までシルフィを送り届けると寂しそうに笑いながら手を振って入って行った。


「良いのか?」


「仕方がないよ。尾行に気付かれたら意味ないし、鳥籠に一人でいるよりいいでしょ」


シルフィードにも気配を消す訓練をやった方がいいな。あともう少しなんだけどね・・・



俺とダンで何匹か猿を倒してから物陰に隠れてから気配を断つと他の猿がそれを持っていく。散り散りに持って行ったので、狙いを定めて後をつける。


散り散りに死体を持って行ったはずの猿達がだんだんと同じ方向へ向かって集まって来た。


これ、夏場の木が繁ってる時なら見失ってただろう。丸1日以上追跡し、ある場所までたどり着いた。


なんだろう?他の魔物の気配もする・・・


透明な池というには小さな水場だ。そこから魔物の気配がする。これはゴブリンだろうか? しかし姿は見えない。しゃべると気付かれるので隠れてその水場を見つめ続けると、ゴブリンがその水場から出て来た。


その瞬間、エイプが一斉にゴブリンに襲いかかり食べてしまった。ゴブリン以外にオーク、コボルトなんかも出て来てはエイプに食べられる光景が幾度となく繰り返される。


この池、もしかして魔物を生む池?


エイプの死体はその池に投げ捨てられていく。しばらくすると池からエイプも出て来た。


なんだこの池?


鑑定しても何も出ないので、一晩中その光景を見ていた。


延々と繰り返される光景。池から沸いて来たエイプ以外の魔物はすべてエイプの餌食になっていく。


昼も夜も変わらない光景が続いたので、ダンが戻るぞと合図をする。


また1日掛けて鳥籠に戻って来た。



「ダン、あれなんだと思う?」


「あの池が魔物を生んでるのは間違いねぇな。繁殖以外にあんな増え方してやがったのか」


もしかしてリポップしてるのかもと思ってたけど、だいたい予想通りだ。


「エイプが減らない理由がわかったね。死体を投げ込んだ後はエイプの出現比率が高かったから、復活か新たにエイプが生まれやすくなるかどちらかだね」


「みてぇだな。エイプやコングは頭が良いから、他の魔物が出たら餌にするのと同時に敵になる奴を駆逐してやがるんだ。コングも同じことやってやがるんだろ」


「あんな池みたいなヤツがあちこちにあるってことだよね。魔物を倒しても倒しても減らないわけだ」


「どうする?あの池を焼いてみるか?ぼっちゃんなら出来るだろ?」


「そうだね。でもやめておくよ。エイプやコングはエルフの国の防衛も兼ねてるからね。人の住むところに危害を加える訳でもないからこのままにしておこう」


「ミグルが帰って来たらこの事を教えてやるか。また新たな発見だから喜ぶぞ」


「無事に戻って来るかな?」


「まぁ、死にはせんだろ。デバフを前方に掛けながらジョンとアルがその後ろを走りゃほぼ素通りだ。いくらなんでも気付くだろ」


「そうだね」



翌日、シルフィードが鳥籠に戻って来た。


「あれ?いつの間に戻って来たの?」


「普通に走って来たの」


どうやらエルフの国でグリムナに気配を完全に断つ魔法を教えてもらったらしい。俺達に置いていかれた理由を話したら教えてくれたそうだ。使い慣れると魔法を使わななくても気配が断てるようになるそうだ。


「ズルいっ!」


俺は思わずそう言ってしまった。


3人で気配を絶ちながら外に出て試してみるとエイプ達は襲って来なかった。これで移動がかなり楽になる。余計な戦闘をしなくてすむのだ。


「新しい情報も増えたし、シルフィも成長した。後はジョン達が帰って来るの待つだけだね」


グリムナからの伝言でもうみんな国に連れて来ても大丈夫だとの事だったので、ジョン達が帰って来たらエイプ修行は終わりでいいな。予定より早いけど期間より中身が重要だ。


しかし、1週間で戻る予定のジョン達は出発から10日経っても戻って来なかった。


「帰って来ないよね?なんかあったのかな?」


「狩りで肉をたらふく食ってこっちに戻るの嫌になったんじゃねぇか?」


何かあったらジョンの隠密が知らせに来るだろうと思うけど・・・


あっ!


「なぁ、もしかしたら結界が発動してて迷ってる可能性無いかな?」


「そういや、全員ここを離れたからな。距離が開きすぎたのかもしれんぞ」


そう、シルフィードは国に、俺達は魔物の湧く池に行ってたのだ。結界がどうやって働くかわからないけど、別パーティーと認識されてもおかしくない。


慌ててエルフの国に行き、挨拶もそこそこに結界が発動してるか確認をしたらやはり発動しているらしい。それも一週間前から。


「やっぱり迷ってんだよ。今も結界が発動してるから生きてるのは間違いない。探しに行こう」


ざっくり計算すると守り神の所まで1日、狩りで1日、獲物を堪能してから戻ろうとしたのなら計算が合う。しかし、それから7日間エイプの森をさまよってるなら危険だ。俺みたいに襲われない為の小屋を作って寝る事も出来ないからまともに睡眠を取る事も出来てないだろう。最悪コングの森に入ってればヤバい。


「ダン、探しに行くぞっ!」


全速力でジョン達を探しに行く、グリムナも来てくれるようだ。半日程で守り神の所まで来た。


また俺たちの前に立ち塞がる守り神。


「守り神、俺達の仲間を知らないか?どこかで迷ってるみたいなんだ」


俺がそう言うとフッと守り神が走り出した。付いて来いと言っているようだ。


「守り神が案内してくれるって、急げっ!」


守り神が森を駆け抜けるスピードは速い。木の上に登らず地を駆けるのは俺達に合わせてくれているからだろう。グリムナとダンは付いていけてるけど、俺とシルフィードがヤバい。身体強化してもギリギリだ。ミグルの足の速くなる魔法を教えてもらっておくんだった。


「シルフィ、まだいけるか?」


俺の問いかけに首を振るシルフィード。もう限界でしゃべる事も無理なのだろう。何かいい方法はないか・・・・


そうだっ!


俺は背中側から風魔法で俺とシルフィードを押した。いきなり強くするとバランスを崩してコケるかもしれないので、徐々に強くしていく。平地ならこれでもいいが、木々を避けながらの疾走に合わせての風魔法はかなりコントロールに神経を使う。自分一人なら何とかなるけど、シルフィードと二人同時に風で押すのはとてつもなく難しい。


「シルフィ、俺の真後ろに来いっ。俺が手で木を避ける合図をしたら同時に動けっ」


俺の真後ろに付くシルフィード。これで風のコントロールが幾分かマシになる。


手で右や左へと合図を出しながらやってるうちにだんだんと呼吸があってくる。俺の僅かな身体の動きに合わせてシルフィードは付いて来れるようになっていった。



前方にジョン達発見!先行しているダンとグリムナが剣を抜く。


すでにエイプに集られている3人。ピンクの光も出てないから治癒魔石も空なのだろう。ヤバいっ!


ここから何の攻撃をしてもジョン達に当たってしまう。そう思った時に


ガオーッン


守り神が一鳴きするとエイプが一瞬でジョン達から離れた。


「ジョンっ!」


エイプが離れた3人は血塗れになっていた。慌てて治癒魔法を掛ける。部位欠損も無いし見た目ほど重症ではないようだ。良かった。


「ゲ・・ゲイル、助けにきてくれたのか?」


「もう大丈夫だジョン。安心しろ」


3人は俺達を見て安心したのかそのまま寝てしまった。ほとんど寝てなかったのだろう。


守り神が近くにいるからなのかエイプ達は襲って来ない。俺達には何度やられても執拗に襲って来るのに・・・


静かに佇む守り神に近寄って手を出してみると嫌がる事なくじっとしている。


「ありがとう守り神。お前のお陰で助かったよ」


そう言って守り神を抱き締めるというか首もとにしがみ付き、ポンポンと身体を叩いた。すると守り神はぐるっと首を回し、俺の顔を舐める。


ザリリリリリリっ


痛い痛い痛いっ


守り神の舌はヤスリみたいな舌だった。顔の皮膚をもっていかれそうになる。


「守り神、ごめん。舐められると痛いわ」


腕輪からピンクの光が出て、擦りむけた顔を治癒してくれる。


魔導バッグから牛肉を出して魔力を込めてから守り神に差し出す。お礼だから奮発しておいた。


その牛肉を咥えて守り神はどこかに消えて行った。


ここで1日ジョン達を寝かせる為に小さな鳥籠と小屋を作ってマットを出し、3人を寝かせた。


さっきまで大量のエイプの死体があったから隠密が倒したのだろう。それでも尚守りきれなかったのかもしれないし、俺達が来たから最後は任せたのかもしれない。


治癒魔法を込めた水、回復魔法を込めた水、それとたくさん作ったサルジャーキーを近くの木陰に置いて来た。皆が寝静まったらアルの隠密は持って行くだろう。


鳥籠を作ったが周りからエイプの気配はしない。恐らく守り神が近くにいてくれているのだ。


鳥籠に戻り、寝ている3人に回復魔法を掛けておいた。


みな無事で良かった。






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