第442話 ジョン達のエイプ修行 その1

「ここから先はエイプのテリトリーだ。そこそこの攻撃力だけど、スピードは速い。しかも数が多いからな」


一応どんな敵かは説明しておく。


「ここからしばらく走れば広場がある。俺達はそこに休憩ポイントを作っておくから頑張ってたどり着けよ。魔力水が無くなったり、怪我が酷かったりしたら逃げ込んで来い」


「分かった」


俺達が一緒にいると共闘することになるから先に行って準備をしておくことに。グリムナは1ヶ月後くらいにジョン達をエルフの国に連れて行くことを長老達に説明しにいくようで、1ヶ月後に休憩ポイントに迎えに来ると去って行った。


「相変わらず猿ども多いな」


「子供生んで増えるんじゃなしにどっかから沸いて出て来るのかな?普通これだけ倒したら減るよね?」


走って移動しながらエイプを倒して行く。前にさんざんやったので慣れたものだ。


広場に着いたので柵で休憩ポイントを作る。その間はダンとシルフィードにエイプはお任せだ。


一旦ぐるりと柵を作って完成。壁にしなかったのは周りを見ないといけないからだ。ジョン達がどこで戦っていても見えなければならない。


寝床の内風呂付き小屋を作り、竈やパンとかを焼ける用にオーブンとかも作っていく。まるでグランピングだ。もしかしたら柵を登って入って来るかもしれないな。ふとそう思い、柵を伸ばして上も繋げていくと巨大な鳥籠みたいだ。動物園でこんなのを見たことがあるな。


「ぼっちゃん、中に入って来てた猿は全部討伐したぞ」


「ありがとう。こいつらって食えるのかな?」


「どうだろうな?」


テレビとかで猿を食う人種がいたよな。芸人が食って旨いとか言ってたっけ。


「ちょっと試しに食べてみる?」


「俺は構わんが、ぼっちゃんが食えるのか?」


「無理かもしれないね。まぁ、物は試しに調理してみようよ」


という事で猿をさばいていく。


「ぼっちゃん、こいつら魔石持ってるぞ」


えっ?


ダンが取り出したのは確かに魔石だ。鑑定してみると100程の魔力を持ってやがる。


「そこそこ使える魔石だね。今まで勿体ないことしたねぇ」


「本当だな。あいつらが来たら俺達も暇潰しに魔石取りでもするか」


「そうだね。じっくりやるなら今回は簡単に倒せる方法もあるし」


「お、そうか。そりゃ楽しみにしてるぜ」



すでに拠点が出来て、お試し用の猿肉も準備出来たのにジョン達はまだ来ない。まさかやられてんのか?


まぁ、なんかあったら隠密が知らせに来るだろ。エイブリックの手紙には気にすんなと書いてあったし。


さばいた猿肉を取りあえず塩で焼いてみる。


「思ってたより旨いな。ぼっちゃんには微妙かもな」


ダンが無理だとは言わないので試しに食べてみる。野生の風味は有るけど食べられなくはない。胡椒を使えば普通に食えそうだ。


「食べれなくはないね。魔石取りだけに殺すのは忍びないから、ちょっと味付けに工夫してみるよ。シルフィも食べれそう?」


「ぜんぜん大丈夫だよ」


うん、敬語で話すよりこっちの方が断然可愛い。だいぶ話し慣れて来たせいかもしれない。


シルフィードにトマトを育ててもらう。生野菜の他にトマトソースを作るのだ。


そうこうしているうちにジョン達が大勢の猿を連れてやって来た。


「開けてくれぇぇぇっ!」


柵を一部解除して3人が入ったのを確認してまた閉める。


「ずいぶんと遅かったね」


「なんじゃあ、この数はっ!」


「だから言ってあっただろ?数が多いって」


「多過ぎじゃっ!」


「俺達もずっと追いたてられてたからな。まぁ、無事で何より」


あちこち引っ掻き傷だらけの3人。治癒魔石も空になってるじゃないか。治癒魔石が無かったら死んでるんじゃないか?


皆の傷を治し、治癒魔石にも魔力を補充しておく。


「あれ?食材の入ったバッグは?」


「う、奪われてしまった・・・」


あーあー。


「このエリア、鹿もウサギもボアも居ないからね。獲物狩るなら守り神の居るところより戻らないと」


「ゲイル、そうなのか・・・?」


「前に来た時に俺達も食料調達に戻ったからね。頑張れよ」


「そ、そんなぁ・・・」


「貴様がそんなに意地悪とは思わなんだわっ!」


「こうやって休憩ポイントがあるだけ有り難いと思えよ。俺達も寝ずに戦いながら移動してたんだからな」


「ぐぬぬぬぬぬっ」


「はい、お代わりの魔法水。頑張って来てねぇ」


「いや、飯が先じゃ。ワシにはまだコイツがある」


そう言ってミグルが取り出したのは柿の種だった。


「こやつを育てて柿を食えばよいのじゃ」



ミグルは勝ち誇った顔で地面に種を植え、植物魔法で育てていく。


次々に実を付ける柿。


「フハハハハハハッ!これでしばらく凌げるぞ」


早速出来た柿をジョンとアルが木に登って取りに行く。柿の木は脆いから気を付けろよ。


取った柿をミグルに向かって投げていく二人。これで投げ付けたら猿カニ合戦みたいで面白いのに。


山盛り取ったあと、嬉しそうにかぶり付く3人。


その途端に顔全部が真ん中に寄る。


「なんじゃぁぁぁぁっ!クソ不味いではないかっ」


真ん中に寄った顔を元に戻してべっべっと吐き出す3人。


「渋柿だからな。そのままじゃ食えたもんじゃないだろ?」


「貴様、知っておったのか?」


「当たり前じゃん。ボロン村に柿の木植えさせたのは俺なんだから」


「なぜ先に言わんのじゃ?」


「いや、渋い物が好きなのかなぁって思って」


「そんな訳あるかぁぁぁぁっ!」


「ま、何事も経験だよ。ジョン達も初めて食べる物をいきなりかぶり付いちゃダメだぞ」


「わ、分かった」


「これは干し柿と同じものなんじゃな?」


「そうだよ」


「では干せばあのように甘くなるのじゃな?」


「そうだね」


「ジョン、アル、この柿を全部干すのじゃ。残りを全部取って来てくれ」


ミグルはジョン達が取った柿に枝を刺していく。


「よし、これで何日か後に食えるようになるじゃろ」


皮剥かずに干し柿作ったらどうなるんだろう?面白いから黙っておこう。皮剥いて干しても揉んだりしてやらんといつまでも渋いから、きっとここで修行している間には完成しないだろうけど。


野菜の種はミグルが持ってたみたいで、ベジタリアンみたいな食生活は可能みたいだ。


塩も奪われてしまったみたいなので、白菜とじゃがいもをただ茹でただけの食事を取る3人。さすがに哀れだな。塩は必需品だからなぁ。


「ダン、冒険に行ってて塩が無くなったらどうするの?」


「塩が取れない所で無くなりゃ無理だな。最悪獲物の血を飲むしかねぇ。だから必ず予備の塩の塊は身に付けておくんだよ。それを使うはめになるようなら撤退だ」


やっぱりそうか。


「ミグル、お前達塩の予備はあるのか?」


「ワシは持っておるが、コイツらはカバンに入れておった」


「なら、ここで修行は終わりだな。またボロン村に戻るか?それともエイプの血を飲むか?」


「えっ?」


「いまダンに聞いたら撤退か血を飲むしか方法は無いみたいだ」


「ミグルっ!それは本当か?」


「本当じゃ」


「なんで先に言ってくれなかったんだよっ!」


「人間、生きて行くには塩は必需品じゃろうがっ!まさか全部カバンに入れとるとは思わんじゃろうがっ!」


ミグルが言うのももっともだ。俺も塩を身に付けてたことなかったからジョン達を責めることは出来んな。


「仕方がない、塩は分けてやるよ。だが食料調達は自力でしろよ」


まぁ、野菜の種はあるみたいだし、肉は猿を食うか、守り神の向こうまで狩りに行けば済むしな。ここでエイプ狩りに慣れたらボアか鹿を狩りに行けばいい。


「ゲイル、すまんな」


素直に謝るジョン。


「いや、俺も塩を身に付けておくなんて知らなかったしね。ダンがいなければ同じ目に合ってたよ。ミグル、お前は今夜にでも冒険者の常識ってやつを初めから教えてやってくれ。何も知らないと思って細かい所もだぞ」


「わ、分かったのじゃ」


飴とムチならぬ、塩とムチだ。


「それと、食料調達はどうするか二人と相談しておいてくれ。あとエイプとの戦い方もな。作戦も無しに修行始めたら治癒の魔石がまたあっという間に空になるぞ」


ゆで白菜とじゃがいもに塩を掛けてモソモソと食った後、3人は小さなテントを張り出した。この鳥籠の中で寝る分には見張りは要らないけど、あのテントで3人寝るのかね?


そう思いながら男トイレと女トイレを離して作っておく。その辺で毎日されたらたまらんからな。風呂は自力で作ろうと思えば作れるから任せておこう。ミグルがお湯を出せなくても、水風呂にファイアボールでも撃ち込めば湯になるだろうからな。



さて、これからあの3人はどうやっていくのか見物だなぁ。


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