第440話 一歩前進?
ガツガツガツガツ
よっぽど飢えてたのか何もしゃべらずに食べ続ける3人。ミグルなんて泣きながら食べてやがる。
「ふう、もう食えん」
アルも満腹になったようでお腹をさすっている。
「ジョン、いつから迷ってたんだ?」
「王都に戻ってから2日後に出発した」
とすると往復の日程合わせても6日くらいには旧グズタフ領に着いてる計算だな。
「俺達10日くらい町で作業してたんだよ。来るかなぁと思って」
「ゲイル、今回は人の手を借りずにボロン村まで行けということだったのだ。だから町を迂回してここへ向かった」
「じゃあ、俺達の方が後から出たんだね。それでずっと迷ってたの?」
「はっきりした場所がわからなくてな。初めは魔物を倒してたんだが、魔物があまり出なくなってから狩りをしてたんだがなかなか上手くいかなくて・・・」
「こやつらに準備を任せておったら、ちっこいテントと干肉を少ししか持って来ておらんかったのじゃ。オマケに野菜の種すらない。なーんも食べる物が無くなって死にかけたんじゃぞ」
「ミグルも人のせいにしてるけど、冒険慣れしてるお前が確認しなかったのが悪いんだろ。しかも、ボアの罠に掛かるやつなんて初めて見たぞ」
「あんな空腹の所に旨そうな果物を置いてあるのが悪いんじゃっ」
コイツ・・・
「母さんに言う」
「は?」
「だからボアの罠に掛かった事を母さんに言う。死ぬほど馬鹿にされろっ」
「なぜそんなことをするのじゃぁっ」
「まったく反省してないからだろ?お前の脳ミソはボア並みだ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「明後日ここを出発するから食材仕入れておけよ。自分達で持てる分を計算しておかないと動けなくなるぞ。1ヶ月はぶっ通しで修行するからな」
「なに? ゲイルのバッグに入れてくれるのではないのか?」
「自分の力で冒険しろと言われてるんだろ?当たり前じゃないか。言っておくけど、初めの1ヶ月はエイプの森、それをクリアしたらコングの森だ。なかなかハードだぞ」
「そんな・・・」
ゲイルはエイブリックからの手紙をミグルからもらってみんなが飯を食っている間に読んでいた。
・ミグルには今回隠密を付けてないと言ってある。そのつもりでいてくれ。
・すべて自分達の力で冒険をさせるように。ただ修行中の休憩場所は提供してやって欲しい。
要約するとこんな内容だった。
甘やかすなということだな。まぁ、エイプの森とコングの森をクリア出来るなら大抵の場所に行っても大丈夫なぐらいの力が付くな。よし、地獄を見てもらおう。
翌日、ミグル達が食材の調達で村を回る。店がないからそれぞれの所で売ってもらわねばならないのだ。
「ゲイルの仲間だからと誰も金をいらんと言いよるな」
「ゲ、ゲイルのお陰でこの村は救われたから当然です」
「シルフィードが付いてくれて助かったぞ。お前が言わねば金を受け取って貰えず、ゲイルに怒られるところだったからな」
金を受け取ろうとしない村人にシルフィードが説明をしてお金をちゃんと払えたのだ。
「ゲイルはこの村で何をやったんだ?」
アルは元々のボロン村を知らない。なぜここまでゲイルが持て囃されるのかシルフィードに聞いた。
「まず誰も買ってくれなかったワインを全部買ってくれました。それでこの村の女性が悪徳領主に狙われてるのを知り、アーノルド様が退治してくれたのです」
「それがあのグズタフってやつだったのか」
「そうです。それからは食べる物に困ってた状況を確認して、女性でも獲物を狩れる方法、畑の開墾方法、果樹園とか色々と改善してくれ、味噌を使ったタレとか現金収入を得られるようにしてくれたんです。お陰で食べる物に困らなくなったどころか、美味しいものがこうやって溢れるようになりました」
「ゲイルはシルフィードだけでなく、村ごと救ったのだな・・・」
「はい。ですから、この村ではゲイルは神様みたいな人なんです」
アルはエイブリックの言っていた、ゲイルが関わった所の住民は生き生きとしているだろうという言葉を目の当たりにする。
俺が王になったとして、こんな事が出来るようになるのだろうか・・・・
「アル、何をぼさっとしておる。次に行くぞ。果物を仕入れなければならんのじゃ」
「まだ買うのか?もう持てんぞ」
「何やら干し柿というものがあるらしいのじゃ。甘くて旨いらしいぞよ」
一軒でたくさん買うとその家が困るので柿の木がある家を回って少しずつ仕入れていく。
「おほーっ、この何とも言えんねっちょりとした甘味はたまらんの」
「冒険の食料を今食うなよな」
「少しぐらい構わんではないか。これには種が入っておるから、現地で育てればよいのじゃ。干してこの味なら、新鮮な物も旨いはずじゃ」
「なら良いけどよ」
明日の朝出発すると言うことで、夜は村人あげての宴会だ。ここでは定番の味噌ボア鍋と味噌漬けの焼き肉をしてくれる。
次々と訪れる村人達。今年の農作物はこうだったとか、新作の檻は人まで捕まえられたとかみな楽しそうに話してくれる。お腹の大きい女性や見慣れぬ男連中も増えていた。
「ジョン、本当に皆楽しそうだな。ゲイルやダンの所に村人がずっと集まったままだ。それにシルフィードってあんなに笑うんだな」
「そうだな。ゲイルはどこに行ってもあんな感じだから疑問に思わなかったが、改めて言われると凄いことだと分かる」
「俺もあんな風になれると思うか?」
「父上も領ではあんな感じで領民達が集まって来る。俺達は自分の事で精一杯だったから同じ様になれる筈がない。これから何を成すのかが大事なんじゃないか?」
「ゲイル達が羨ましいな。気を使って話しかけたり褒められたりとかじゃなく、嬉しそうに話かけられるなんて・・・」
「俺達はゲイルみたいに色々な物を考えたり思い付くことは出来ん。しかし、魔物から人々を救うことは出来るようになるだろう。だからまずは強くなる。俺はそれしか出来ん」
「そうだな。俺もまずは出来そうな事からやっていくしかないな」
二人の目標はまず強くなることで一致した。次の目標はそれからだ。
まず目の前の目標が定まった二人の横でミグルは食べすぎて風船の様になって腹を出して寝ていた。
「ゲイル達はまだまだ解放されそうにないから先に寝るか。ほら、ミグル、先に寝に行くぞ」
「うーん、もう食えん・・・。ムニャムニャ」
「起きんな」
「ちっ、しょうがないな」
アルはミグルをおんぶしてダートスの家に連れて行った。
「さ、行こうか」
「分かった。うんしょっ」
ジョンとアルは山程の食材を背中に背負い、テントとかはミグルが持つ。準備万端なのはいいけど、持ちすぎじゃないか?魔物に襲われても戦えないぞ?
口出しするのもなんなのでそのまま出発した。
ばんざーい ばんざーい いってらっしゃーい
村人達に盛大に見送られながら村を出て行く。
荷物がパンパンな3人にちょっと意地悪がしたくなって、少しずつ進むスピードを上げていく。
「待って、待ってくれっ」
ジョンとアルは必死になって付いてくる。
ミグルは足の速くなる魔法を使ってるのと、二人に比べて荷物が少ないのでちゃんと付いて来ていた。
「ジョン、アル。これは身体強化魔法の訓練でもあるから使い続けて付いて来て。魔力切れそうになったら言ってね」
「もう使ってる!魔力が切れそうなんだっ!」
えっ?もう?
仕方がないので休憩だ。
(ゲイル、二人を皆と一緒に考えるな。魔力も400ちょっとしかないんじゃ)
(そうか、魔力総量が少ないと回復も遅いしな)
身体強化の最適化もまだ進んでないだろうから、二人の為に魔法水を作る。今持ってる奴は濃度が高過ぎて変異種とかになったら困るしな。
土魔法で小瓶を作り、魔力を500込めた魔法水を作っていく。それぞれ5本の計10本。
「ハイ、マジックポーション代わりに飲んで。二人なら全回復もするから。取りあえず5本ずつ渡しておくから、魔力が切れそうになったら飲んでね。さ、出発するよ」
「えっ?もう?」
「ゲイルが悪魔に見える・・・」
「何言ってんだ?俺が父さんにやらされたのはもっと酷かったんだからな」
二人が魔法水を飲んだのを確認して出発したのだった。
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