第439話 アルの冒険

「じゃから、もっと気配を殺せと言ったじゃろうがっ」


「どうやって気配を消すんだよっ。お前の方が小さいんだからウサギを狩るの向いてるだろっ」


相変わらず言い合いをするミグルとアル。手持ちの食料が少ないので途中で狩りをするが上手くいかない。


向かってくるボアなら倒せるが逃げるウサギを剣で狩るのは難しいのだ。


どうしても上手く行かなかったのでミグルがファイアボールでウサギを仕留めるが黒焦げだ。



「不味いっ」


「焼く手間が省けたじゃろがっ」


「まだここ生だぞ」


「炙れば良いじゃろっ」


不味い飯にイライラが募る。



「だーっ、3人とも一緒に寝てどうするんじゃ。交代で見張りをせんといかんじゃろっ」


「あ、そうだな。じゃあ俺が始めにやろう。次はアル、最後はミグルでいいか?」


「うむ」



「しかし小さいテントじゃのう?お前も王族ならば空間拡張付きのテントぐらい用意せぬか」


「なんだそれは?」


「値段と魔石の使用量にもよるが中が何倍かに広く使えるのがあるのじゃ。そこそこ高いがの」


「なぜ始めに教えないのだ?」


「そんなもん知ってて当然じゃと思うじゃろうがっ。まさかわざと小さいテントにしてワシを触ろうとか思ってるんじゃなかろうな?」


「誰が前か後ろかわからん奴を触りたがるんだっ」


「なんじゃとーっ!」



あー、うるさい。さっさと寝ればいいのに・・・


焚き火の火を見つめながらジョンはいつまでも寝ない二人に呆れていた。


「おい、アル交代だ」


「ん・・・、もう・・交代か?」


「いつまでも騒いでてさっさと寝ないからだ。早く替われ」


むにゃむにゃ言うアルを引っ張り出し、テントに潜り込むジョン。足をおっぴろげてグースカ寝ているミグルに毛布を掛けてやり眠りに付く。


ふっと意識が落ちた瞬間にミグルに起こされた。


(囲まれとるぞ)

(何っ?)

(アルはどうした?まさか殺られたんじゃなかろうな?)


ジョンが心配して慌ててテントから顔を出すとアルはグースカ寝ていた。


幸せそうな寝顔に無性に腹がたったジョンはアルの頭を殴る。


「痛って、何すんだよっ!」


「こっちのセリフだ。見張りなのに寝てるヤツがあるかっ。俺達囲まれているらしいぞ。とっとと構えろ」


ミグルも出て来て3人の背中を合わせる。


「いいかお主ら、数はそう多くはないが、夜目はあいつらの方が利く。無闇に飛び出すな。襲って来た奴だけを確実に仕留めるんじゃ。コボルトは襲い方にパターンがある。まず一匹目が飛び出してきて慌てて逃げた奴を襲う。獲物が逃げなかった場合は一気に総攻撃してくるのじゃ。慌てるなよ」


ミグルの説明通り、1匹目がミグル目掛けて襲って来た。それをファイアボールで迎撃すると、一斉に何匹も飛び掛かって来る。


予め説明をされていたジョンとアルは慌てずに倒していく。


「うむ、残りは逃げたようじゃ。ワシが見張りしながら焼いておくからお前達はもう寝ろ」


「まだ俺の見張り番じゃ・・・」


「また居眠りされてもかなわんからな。早く寝ろ」


アルはごめんと言ってからジョンとテントに入っていった。




「寒いし、地面は固いしよく眠れなかったな」


「アルは速攻寝てたぞ。ミグルが一番長く見張りをやったんだ。俺達で朝飯を作ろう」


「そうだな」


「ミグル、朝飯を・・・」


あれ?目を開いたままのミグルが反応しない


ぐーーーっ


「お前も寝てんじゃねーかっ!」


ミグルは器用に目を開いたまま杖を支えに寝ていた。




「ジョン達、ディノスレイヤ領経由で行ったのかな?」


冒険に来るならボロン村でなくても旧グズタフ領で落ち合えばいいかと作業していたが、10日経っても来なかったのでゲイル達は出発したのだ。後から追いかけてくるにしても旧グズタフ領を通って来るなら同じ道になるはずだ。道といっても獣道だから分かりやすいように時々木を伐りながら進んでいる。


「ディノスレイヤ領経由の方が道は分かりやすいんだがな、近道になるこっちを選ぶんじゃねーか?」


「ちゃんと来れたらいいんだけどね」


「まだ来るかどうかわかんねーだろ?結局10日作業してても来なかったんだからよ」


いや、冒険を不許可にしたなら、エイブリックは誰かを使って俺に知らせて来るだろう。待ちぼうけという無駄な時間を使わせないように。


ゲイルは知らなかった。ジョン達はゲイルが旧グズタフ領で魔物避けの柵を作ったり作物を育てたりしている間にすでに王都を出発していたのだ。エイブリックから自分達の力で冒険をするように言われていたため、旧グズタフ領を迂回してボロン村を目指して迷子中だということを。



「ミグル、本当にこっちであってんのか?」


「知るかっ、ワシはボロン村の場所を知らんのじゃぞ」


はーーー?


「お前、あっちだ、こっちだと指図したじゃないか」


「勘じゃ」


「そんなもんあてになるかーーーつ!」


「だいたいは合ってるはずじゃ。ディノスレイヤ領から見て北、旧グズタフ領から見て西じゃ。方角は合っとる」


迷子になってるとはいえ、すぐボロン村の近くまで来ていた3人は村を見付ける事が出来ずに相変わらずケンカしていた。





「・・・なぜ、野菜の種とか持っておらんのじゃ・・・」


「今さら何回も説明させるな。持ってきていないものは持って来ていない」


「もうほとんど食ってないから限界だぞ・・・」


腹ペコの3人は限界に来ていた。



「なにか食い物の匂いがする・・・」


そう呟いたミグルがフラフラと歩いていく。


「おい、勝手にどっかに行くな」


フラフラと歩くミグルを二人が追いかける。



「あっ!あんな所に食い物が落ちておるっ!」


「本当だっ!」


落ちている果物を見付けた3人は一斉に走っていった。



ガシャッン


「え?」


果物を手にしたとたんに大きな音が鳴り、閉じ込められる3人。


「しまった!罠じゃっ!腹ペコのワシらを果物で罠に嵌めるとはなんと汚い手を使うのじゃ」


「しっ!誰か来るっ!」


3人は罠の中で臨戦態勢を取る。



「来たぞ、槍を持ってる」


「不埒な賊めっ!これでも食らえっ!」


ぶつぶつと詠唱したミグルから小さなファイアボールが飛ぶ。


「きゃーーーーっ」




「今悲鳴が聞こえたよね?」


「あぁ、あっちだ急ぐぞっ」


ゲイル達が悲鳴の聞こえた所に走って行くとボアの罠の中にミグル達が捕まっていた。


「何やってんの?」


「ゲイルぅぅぅぅ、賊に捕らえられたのじゃぁぁぁぁぁ、腹が減ってまともに魔法も出せんのじゃぁぁぁぁ」


ミグルが撃ったファイアボールはほとんど威力が無く、罠に掛かった獲物を見に来たボロン村の女性陣の前にヘロヘロと落ちたらしい。


女性陣に自分達の仲間だと説明して、3人を檻から出してやる。


しかし、ボアの罠に掛かる人間なんて初めて見た。よくエイブリックさんは冒険に行く許可を出したもんだ・・・




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