第435話 オーク討伐その3
「ミグル、あそこだ。あの木の影を狙え」
エイブリックの元に走ったミグルは指示される方向を狙って矢を放つ魔物をファイアボールで倒していった。
「しかし、オークとゴブリンが共闘してるとは驚きだな」
「それよりゲイルとダンは・・・」
「まぁ、勝算があるから飛び込んだんだろ。無理なら突入なんてしないだろうからな」
「ワシは弱いの・・・」
「建物の中は接近戦になる。魔法主体のお前には向いてないだけだ。普通の魔法使いなら攻撃役のサポートしか出来んがお前は倒すことも出来る。気にすんな」
「その点ゲイルは凄いの。魔法も剣もサポートもなんでも出来るからの」
「あいつは特殊だ。魔法を使える癖に剣の修行もしてたからな。そんな奴は他にはおらん」
「ち、父上。ゲイルはなぜ冒険者をやりだしたと思いますか?」
「あいつは魔獣の登録をする必要があったから冒険者登録をしただけだ。別に冒険者になろうとは思っとらんだろ」
「それだけですか・・・?」
「あいつは冒険者として稼ぐ必要も無いし、他に理由なんてないだろ?興味を持ったらそれを行動に移すだけだ。困ってる人がいたらそれを助ける為に能力を使う。別に見返りも求めないし、性分ってやつだろう。お前らに渡されてるその腕輪の価値はわかるか?」
「す、凄いものということはわかります」
「それは国宝級の魔道具に匹敵する。オークションに掛ければとんでもない値段が付くというか争いが起きるくらいのな。そんな物をホイホイ人にくれてやる奴だ。お前らの常識には当てはまらん」
・・・
・・・・
「ダン、こっちから血が混じった異臭がするし、かなり強い気配がする。」
「あぁ、間違いねぇな。最終決戦てやつだな。罠があるかもしれんし、気配を消している奴もいるかもしれん。気を付けてくれ。ぼっちゃんが想像しているより悲惨な現場だろうからな」
ダンの忠告にゴクリと唾を飲む。
ひときわ大きくていびつなドアの向こうだ。何かが襲ってくる気配は無い。
「行くぞ」
ダンはそう言ってドアを蹴破った。
ぐっ・・・
ドアを蹴破った先には人間や魔獣を食い荒らした後の死体が散乱し、腐敗臭を放つ。まだ生きているであろう女性は手足を折られ、動けないようにされた後に蹂躙されているのだろう。あられも無い姿にされ、大事な所から血や粘液が流れ出している・・・
思わず目を背けると強い気配を放っているオークがしゃべる。
「な んだ ぎ ざまらは」
「オークがしゃべるだと・・・?」
言葉を話す醜く太ったオーク。女性を蹂躙しながら人間の腕を食ってやがる。
一気に吹き上がる怒りの感情が脳天を突き抜ける。
「きさまっ・・・」
「ぼっちゃん、押さえろっ」
「くそ豚っ!そいつを放せっ」
怒りに任せて土の玉を撃ち込むが硬く厚い脂肪に覆われた最上位種と思われるオークには効かない。制御が効かなくなってる今の俺がこれ以上威力を上げると貫通して女性に当たってしまうかもしれない。
剣を構えるダンに対してはまだ息のある女性を盾にして余裕の態度だ。
さらわれた女性より殲滅を最優先。そう決めていても実際に生きた人間ごと斬ることは出来ない。
「も うすぐ だ」
腰を振りながら恍惚の表情を浮かべるこいつに俺はキレた。
「いい加減にしやがれっ!」
思いっきりデバフを掛けてやる
「ぐぉぉぉぉ な にを ずる・・ いいど ごろを じゃましや が て」
オークの身体が金色に光ってレジストされた。さらに金色に光ったオークはこちらを向いて盾にしていた女性をダンに投げつけた。
投げられた女性を斬ることも避けることも出来ないダンは女性もろとも吹っ飛ぶ。
「ご、ろじてや る」
金色に加えて赤く光るだと?こいつヤバい
ここで大規模火魔法を使われたら全員巻き込む。俺は一気にオークから魔力を吸い取る。
「ぬぉぉぉぉっ」
苦しそうな声を上げて暴れるオーク。魔力を吸いながらデバフを掛ける。
必死にレジストしようとするが、そうはさせない。ありったけの魔力を吸い、吸った魔力でデバフを掛ける。
「ダン、今だ首を落とせっ」
魔力を吸われテバフをかけ続けられたオークは両手を床に付いた。土下座をするような体制になった所をダンが首を落とした。
ドスンっ
ぶっしゃぁぁ
俺はオークの首から吹き出る血を浴びても動揺することは無かった。こいつへの怒りが精神を支えたのだ。
吹き出る血が収まった頃にエイブリック達がやって来た。
「ゲイル無事かっ!」
血に染まった俺を見て驚くエイブリックとミグル。付いて来たジョンとアルはその場で吐いた。
「問題無い。ミグル。生存者は手足を折られている。俺が治すから後は頼めるか?」
こくんとミグルが頷いたので、ダンに折れた手足をまっすぐにしてもらってから治癒魔法を掛けていく。まっすぐにする時に気を失うほどの激痛が走るはずなのに反応がない。残念ながら心が壊れてしまってるのだろう。
最後まで蹂躙されていた女性の手足をダンが引っ張ると、
「ぎぁぁぁぁぁぁっ」
悲鳴を上げる女性。慌てて治癒魔法とクリーン魔法を掛ける。意識があるのがかえって可哀想だ・・・
手足が治っても、いやぁぁぁぁぁと悲鳴を上げ続ける女性にミグルは杖で腹を殴って気絶させた。
ミグルはぶつぶつと詠唱して部屋と女性、俺にクリーン魔法を掛けた。
生存者5名、うち4名は精神崩壊、1名気絶。
全員に毛布を掛けてやる。
「ゲイル、この者達は王都で保護する。町の奴等には全員死亡していたと伝える」
「うん、エイブリックさんに任せるよ」
このまま連れて帰る事も出来ない為、エイブリック達が待機している騎士を呼びに行くことになった。そのまま王都に連れて帰らせるらしい。
オーク討伐完了。しかし、心が晴れる事はなかった。
騎士達が来るのを待ってる間に、オークを集めて焼いて行く。
「ミグル、なんでゴブリンがいるの?」
落ち込んだ声でミグルに質問をする。
「木の上から矢を放って来たのがこいつらじゃ。まさかオークとゴブリンが共闘しとるとは思わなんだ」
「えっ?それならゴブリンの巣にもオークいるんじゃないのか?」
「ワシもエイブリックにその可能性は伝えた。じゃが任せてあるからとだけしか言わん。もし全滅してたらお前達に頼むと。薄情な奴じゃ・・・」
エイブリックはナルディック達を信頼してるのだろう。ちゃんとそう言えばいいのに。
ミグルは上位種と俺達が倒した最上位種を鑑定してるようだ。分析はミグルに任せてオークの死体を焼いていく。脂が多いからよく燃えるし、意外と旨そうな匂いを放ちやがる。
「ぼっちゃん、なんか飯作ってくれ。焼き肉が食いてぇ」
「こんな状況で良く飯を食いたいとか抜かすなお主は!?」
「こいつら旨そうな匂いしてんじゃねーか。人を食ったかもしれん奴等を食うのは気が引けるが、牛肉なら問題ねぇだろ?」
ダンも心に傷を負ってるはずだが、これはダンなりの気遣いだ。
「よし、ミグル、炭に火を点けてくれ。俺は焼き肉を仕込むから」
「ゲイルまで何を言っておるのじゃ!なんじゃお主らはっ?」
「食えねぇへたれは食わなくていいぞ」
「誰がへたれじゃっ!ワシも腹が減っておるっ!」
売り言葉に買い言葉。腹が減ったと言い返すのはミグルらしい。
へたれと言われてぷんすか怒るミグルは炭に火を点けていく。オークの血で汚れた魔剣にクリーン魔法を掛けてから肉をスパスパと切り、焼き肉のタレを掛けていき、他に牛乳に砂糖とパンを入れたパン粥を作った。
「肉の準備出来たから勝手に焼いて食べて」
「それはどうするんじゃ?」
「捕らわれてた女性達に食べさせるんだよ。ガリガリだから何も食べさせてもらってなかったんじゃない?」
ダンとミグルは焼き肉を口に入れては吐きそうになりながら、旨いのぅとはしゃいでみせた。
「はい、口を開けて」
ぼーっとしている女性を座らせてフーフーしたパン粥を口の中に入れてやるとモゴモゴと食べた。
「はい、偉いねぇ。ゆっくりで良いからね」
気絶している一人を除いて順番に食べさせていく。モゴモゴ食べるうつろな女性達を見て勝手に涙が頬を伝う。
「ゲイル、ワシもやろう」
何口か焼き肉を食べたミグルが手伝いに来てくれた。
「どうした?口を開けぬか!?」
ミグルがスプーンを口の前に持っていってもどの女性も口を開けない。俺が口元にスプーンを持っていくと素直に口を開けて食べる。
「なんじゃっ貴様らはっ!ワシから食べても同じじゃろがっ!」
ぐぬぬぬぬっとミグルがスプーンを口元に押し付けても食べようとしない。
「何故じゃぁぁっ!」
ミグル激オコ。
こいつのイラつかせスキルすげぇな。精神崩壊している女性にまで発動するとは・・・
ううっ
ミグルの大声に気絶していた女性が目を覚ます。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」
いかん、またパニックだ。
両手で頬を掻きむしりながら叫び声を上げる女性を正面からぐっと抱きしめる。というか抱きつく。
「大丈夫っ!もう大丈夫っ!」
何が効くかよくわからないので、そう叫びながら、心が落ち着くようにと念じて治癒魔法と回復魔法を同時に掛けていく。
次第に叫ぶ声が小さくなっていく女性。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
そう言い続ける俺に気付いたのか、自分に抱きつく俺をぎゅっと抱き締め返して来た。
「あら、僕はどこの子かしら?」
「俺はゲイル。冒険者をしてるんだよ。オークの部屋に閉じ込められているところを見付けたんだ。魔法使いのミグルとあそこのデカい熊みたいなダンがね」
「お、オーク・・・・」
オークの名前を聞いただけで身体が硬直する女性。
「もう大丈夫。全部やっつけてご飯食べている所だから。お腹空いてない?パン粥と焼き肉があるよ」
どうやら恐怖のあまりに記憶が飛んでいるようだから、記憶をすり替えていく。自分は何もされてない。寸前の所で助かったのだと。
「はい、パン粥」
「ありがとう坊や。あっ、甘くて美味しい・・・ こんな物初めて食べるわ」
「たくさんあるからゆっくり食べてね」
「はー、良く食ったぜ。腹が一杯だ」
そう言いながらダンがこっちに来た。良く言うわ。ぜんぜん肉減ってないじゃないか。
よし、ダンが来たからチャンスだな。ダンの横に立ってさっと鑑定する。
「キャッ」
パシッ
「変な目で見ないでっ」
ダンよすまん。
「おねーさん、ダンはもう枯れてるから大丈夫だよ」
「枯れてねぇっつってんだろっ」
バシッ
今度は俺がダンに頭を叩かれた。
その様子を見てクスクスと笑う女性。大丈夫そうだな。鑑定した結果、妊娠もしてなかったし、大事な所も含めて傷は治ってる。身体の汚れもクリーン魔法で綺麗になってる。
「あ、助けてくれたのにすいません」
「かまわんよ。ぼっちゃんのいつものイタズラだ」
意識を取り戻した女性はシーラというらしい。他のぼーっとしている女性達は一緒に部屋で閉じ込められていた所を救出。恐怖で意識がハッキリしないから王都で治療すると説明した。
それから間もなくして、エイブリックが馬に乗った8人の騎士を連れて来たのであった。
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