第433話 オーク討伐その1
「スンドウ、この町でさらわれた女はどれくらいいる?」
町に戻ったダンはシルフィードに席を外させてスンドウに状況把握をしていた。
「ここ1年で行方不明になった者は男女合わせて50名は越えてます。うち女性は20名以上です」
「ここ1~2か月で行方不明になった女は?」
「12名」
「ダン、どういうこと?」
「仮に全員さらわれたとして、生きてる可能性があるのは12人だ。男は利用価値がねぇから生存の可能性はねぇ」
「女性は?」
「子供を生まされてるだろう」
最悪だな。殺されるより辛いかもしれん。
「でも、仮に30人が子供を生まされたとしてあんなに増えるの?」
「俺もその辺はよくわからん。オークが人間に子供を生ませるということぐらいしかな」
「その先はワシが説明してやろう」
「ミグル、何だよ勝手に入ってきて」
「シルフィードからオークの集落が出来ておると聞いた。町から近い所に集落なんぞ最悪の状況じゃ」
「オークはどうやって増えるんだ?人間に生ますだけじゃあんなに増えないだろ?」
「子を生むものならなんでもよい。牛や豚、鹿、コボルトなんかが多いな。メスならなんでも手当たり次第じゃ。子供を生めなくなったら餌になる」
「・・・・・」
「オークの子はとにかく成長が早い。人間が捕まると1ヶ月に一度出産させられる。一度に10匹~15匹くらいな。人間が生んだオークは上位種になることが多い。その上位種が生ませたならその上の上位種になることもある。町のそばに集落が出来たと言うことはこの町が狩場兼繁殖の為の場所になったということじゃ」
最悪の状況とはそういうことか。
「スンドウ、すまんが席を外してくれ。討伐の打ち合わせをしたい」
ミグルは真剣な顔をしてスンドウに席を外させる。
「ダン、ワシが討伐に行こう。うぬもオークの集落を見たことがあるのじゃろ?」
「一度だけな」
「後はグリムナに頼む。3人でオークの集落、しかも上位種とその上もいることが予想される。厳しい戦いになるぞ」
「俺も行くよ」
「いや、ゲイルには現場を見せたくはない」
「ぼっちゃん、さっき戻ったのもそのせいだ。シルフィードには見せられんし、ぼっちゃんが暴走する可能性がある。全員死んでりゃまだいいがな・・・」
それほど悲惨な現場なのか・・・
「さらわれた人が生きてたらどうするの?」
「正気を失っていたら保護する。正気を保っていたら、ここに帰りたいか、よその町に行きたいか・・・・」
「よその町に行きたいか・・・?」
・・・
・・・・
・・・・・
「・・・死にたいかを聞く。ほとんどの者が死ぬことを選ぶ」
そうか。魔物に弄ばれ、子供を生まされる。自分の腹からうじゃうじゃオークが出て来るんだ、正気を保ってるほうが不幸だな。
「いや、俺も行く。正直その3人じゃ火力不足だ。グリムナさんもミグルも倒すより敵を弱体化させる方が得意だろ」
「地獄を見る事になるぞ」
「そうだろうな。まぁ、俺が暴発しそうなら巻き込まれんようにしてくれ」
「ったく、なんて言い種だ。頼むから待避する時間はくれよ」
「止めるより逃げるの優先すればいいじゃん」
「うむ、ではそうしよう」
グリムナにはここの防衛を頼んでおいた。シルフィ一人じゃ心配だからな。
一刻も早い方がいいだろうという事で、明日の朝イチからオーク討伐に向かうことにした。
グリムナに状況と役割の話をする。
「ゲイルよ。ここの防衛は構わんが、大丈夫か?」
「何が?」
「お前の心がだ」
「あぁ、トラウマになるかもしれないね。だけどこのメンバーを考えたらこの布陣が一番適切なんだよ」
「トラウマ?」
「心に傷を負うってことだね。まぁ、知らずにいきなりその現場に出くわすよりマシかな。それに成人したら冒険に出るつもりだからいつかは同じ事を経験する可能性がある。だからいいんだよ」
「そうか、覚悟を決めているならもう何も言わん。こちらは必ず守るから安心しろ」
「うん、グリムナさんとシルフィがいてくれたら心配する必要ないよ」
「わかった。なら今晩はきちんと眠れ。やつらに作った小屋と同じ物を作ればマットを出してもわからん。見張りは私とシルフィードでやるから、3人は寝ろ」
「ありがとう。そうさせてもらう」
人数分の小屋を作り、それぞれにマットを出しておいた。ジョンとアルは何も出来ず待機してるだけだというのも辛いだろう。が、二人の仕事は自分の安全確保だ。もう少し耐えろ。
日もとっくに暮れて暗い。昼間のうちに住民達は食料を取って来たのか昨日よりはマシな食事だが質素な内容には変わりがない。日頃からこのような食事なのだろう。そんな中で飯を作る気にもなれず、干肉のスープとパンを食べた。
色々と考え事をしているとなかなか寝付けない。俺は悲惨な現場を見て耐える事が出来るのだろうか?
いや、無理だろうな。ショックで動けなくなるか、逆上するだろう。自分が自分でなくなるかもしれない。しかし、このまま放置することも出来ない。グリムナは魔道具の弓を持ってきていないから攻撃は剣、ダンも剣、ミグルはファイアボール。オークはタフだからファイアボールでは一撃で死なない可能性が高い。高威力の火魔法だと生存者を巻き込む可能性もあるしな。
ミグルがデバフを掛けてダンが斬り込み、俺が土魔法で脳天をぶち抜く。これで上位種がいても対応可能だろう。
頭の中で何度もシミュレーションをしていく。
ん?馬の足音がする。誰だこんな時間に・・・
外に出ると軽鎧を着た団体が来た。
「ナルディック・・・さん?」
「おぉ、ゲイル殿。応援に参りましたぞ」
他の騎士達も馬を降りて並んで剣を胸の前に構えている。
「え?手紙届いたの今朝だよね?」
「ようゲイル、苦戦しているようだな」
「エイブリックさんまで来たの?」
「俺に応援を頼んだんだろ?俺が来るに決まってるだろ」
「い、いや。ギルドに応援を頼んでくれるのかと・・・ 魔物討伐に騎士団連れて来てくれたの?」
「まぁ、色々とあってな。こいつらの出番もたまには作ってやらんとな。アルはどこにいる?」
「ち、父上・・・」
土のテントからジョンと出てきたアルファランメル。
「おう、コボルト相手に死にかけたらしいな。ったく情けない」
「あ、あれは・・・」
「言い訳すんな見苦しい。お前が弱いからそんな目に合うんだ。皆に迷惑を掛けて謝ったか?」
「い、いえ・・・」
「エイブリック、アルを責めてやるな。あれはワシが悪い」
「ほぅ、ミグルが自分の非を認めるとは成長したじゃないか。どうしたお前らしくない」
「どうもこうもない。ワシが二人の実力を把握してなかったのが原因じゃ」
「そうか、まぁいい。ゲイル、ダン、状況と予定を教えてくれ。ナルディック、2交代で皆を休ませろ」
あれよあれよと言う間に指示を出してこの場の統率者になるエイブリック。さすがだな。
取りあえず状況と予定をエイブリックに話す。
「なかなか厄介だな。ダン、最優先は何だ?」
「オークの殲滅」
「生存者がいたらどうする?」
「殲滅が最優先だ。生存者が居ても心が死んでるだろう。討ち漏らして逃げられる方がまずい」
「解った」
「ゴブリンの巣はどうする?」
「オークを殲滅してからになる」
「よし、そっちは騎士団にやらせる。ナルディック、お前が指揮を取れ。1匹も討ち漏らすなよ」
「勿論です」
「グリムナは予定通りここの防衛を任せていいな?」
「あぁ、任せておけ」
「アル、ジョン。お前らはこっちに参加だ。但し見学のみだ」
えっ?
「二人を参加させるの?」
「俺が二人の面倒を見るから心配すんな」
「エイブリックさんも行くの?」
「当たり前だろ?ミグルのへたれ具合を笑いに行かねばならんからな」
「誰がへたれじゃっ!」
「コボルトにやられかけた奴はへたれじゃないのか?」
「ぐぬぬぬぬ」
「まぁ、お前の魔物狂いがやっと役にたったんだ。それを確認する必要もあるからな。オークのそんな生態は誰も把握しておらん。帰ったら他のも聞かせろ」
「い、嫌じゃ・・・」
「うるさい、たまには役に立て。それで今回の失敗は帳消しにしてやる。断るならコボルトにやられたことをアイナに教える。さぞかし笑われるだろうな」
「貴様卑怯な真似を・・・」
「お前ら寝てないんだろ。さっさと寝ろ。見張りはやつらに任せておけ」
エイブリックはアルとジョンに話があるから他の者はとっと寝ろと言い放ってアル達のテントに消えていった。
「相変わらず勝手な奴じゃ」
「ミグル、さっさと寝よう」
「わかったのじゃ」
一瞬にして場を掌握したエイブリックをさすがだなと思い、俺も寝る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます