第432話 ゲイルの手紙

「なんとか間に合ったね」


第一次ゴブリンの襲撃をしのぎきり、家畜を守る柵も間に合った。グリムナがいなければ柵が間に合わなかっただろう。


「一旦逃げたゴブリンどもが次に来る時が本番だな。より多くの奴らを引き連れて来るだろう」


「オークは来るかな?」


「オークはゴブリンより強いがあそこまで増えてるとは思えん。上位種が生まれてなければな」


「オークにもいるんだね、上位種が」


「変異種は見るが、上位種は少ないな。そいつらがいると統率された動きをするからけっこう厄介だぞ」


変異種は個の力が上がるだけ、上位種はリーダーみたいなものになるのか。しかし、ゴブリンとオークが突然増え出した理由はなんなんだろうか?


皆の元に戻って今の出来事を報告する。



「そうか、グリムナさんの言う通り次の襲撃は規模がデカそうだな。オークと鉢合わせたら面倒なことになりそうだ。応援間に合うか?」


「うん、間に合わなければ大規模に魔法使うよ。竜巻とかで対応するしかないね」


「この辺が吹き飛ぶぞ」


「そうなったらちまちま木を生やしていくしかないね」


「家とか吹き飛んだらどうすんだ?」


「命を失うよりいいだろ?」


「そりゃあそうだけどよ」



誰かが走って王都まで手紙を出すのが一番早いけど、ここの人数を減らすのは危険だし、一人で使いにやるのも心配だな。あの娘に頼むしかないか。


取りあえず手紙を書き、気配を消して皆から離れた。



(ごめん、お願いがあるんだけど)


(エイブリック様に手紙をお持ちすればいいのですね)


(うん、非番なのにこんなこと頼んでごめんね)


(いえ、お役に立てるのは嬉しいです。明日の朝にはお届け出来ると思います)


(これ、おやつに食べて。たくさん作るとくっついてしまうから少しだけど)


シルフィードの隠密は満面の笑顔で手紙と飴を受け取りスッと消えた。



皆の元に戻ると各自が簡単な食事を取っている。


「ぼっちゃん、アレに頼んだのか?」


「うん、緊急事態だからね。やむを得ずってやつだよ。明日の朝には届くらしいから、3日後くらいには応援が来ると思う」


「なら、それまで大規模襲撃が無いことを祈るぜ。明日は朝からオークの調査。見付けたらなるべく多く狩っておくか」


「そうだね」


「晩飯なんにするんだ?」


「ここでなんか作れると思う? さすがに住民の前で俺達だけご馳走って言うわけにはいかんだろ」


「はぁ、干肉って訳か。せめてカレー味の奴にしてくれねぇか・・・」


そんな物は作ってはいない。ただの干肉だ。一応非常食として持ってきてあるのだ。


スンドウ達が食事を提供すると言ってくれたが住民にも十分行き渡らなさそうなので丁寧にお断りをした。


干肉とお湯とパンの食事に誰も文句は言わず寂しい夕食を取った。ダン、グリムナ、ミグルで見張りをしてくれるらしいので遠慮無く寝た。住民達も地面に敷物を敷いた上で寝てるのでスプリングマットを出す訳にもいかず、俺達も毛布だけだ。



さっむぅぅぅ

寒さで目が覚める。


「ゲイル、寝ておらんで大丈夫なのか?」


今の見張りはミグルみたいだ。


「寒くて目が覚めたんだよ」


「これくらいでだらしないのぅ」


「最近まともな夜営することが無かったから慣れてないんだよ。住民の子供達とか寒がってないか見てくるよ」


赤ちゃんとか居たからな。


うっすらと灯りを点けながら見て回ると案の定赤ちゃんを毛布にくるんで震えているお母さんが居た。


「大丈夫?」


「す、すみません。お気遣い無く。私は大丈夫です」


自分の毛布まで赤ちゃんに使ってるのだろう。お母さん凍死しちゃうぞ?


全員分の小屋を建てるほど魔力が足らないかもしれないけど、ドームテントを作れるだけ作ろう。


ちょっと離れててもらってかまくらみたいな物を作って行く。大規模襲撃に備えて魔力と魔法水を使うのを控えていたが、先に凍死したら本末転倒だ。


「簡易の場所だけど、何も無いよりマシだから」


床も土だから寒さはあまり変わらんかもしれんけど、夜露が当たらないだけマシか。


いくつも同じタイプの物を作っていき、寒さに耐えられない人に入っていってもらう。皆でくっついて眠ればマシだろう。すでにヤバそうな人には温風と白湯を渡していく。


これから最短3日、長くて10日はこの生活が続く。ヤバいな。


魔法水を飲んでかまくらテントを改良していく。入り口は開いたままだけど暖炉を作ってやろう。すでに入ってる人に断りを入れて改良していく。一度作ったものはサクサク出来るのだ。薪は各自で運んでね。


柵の中が難民キャンプみたいになった所で夜が明け出す。


ほとんど眠れなかったな。自分に回復魔法を掛けて眠気を覚ましておかなければ。



ーエイブリック邸ー


「どうした?アルが危険だったことは聞いている」


「ゲイル様より手紙にございます」


ゲイルがこいつを使って手紙?緊急事態か?


「見せろ」


ゲイルからの板に書かれた手紙を読むエイブリック。


・元グズタフ領の町のそばにゴブリンの巣あり。オークの巣もある可能性あり、応援求む。


・アルファランメルの冒険活動可否の判断を求む。



「ずいぶんと簡潔な手紙だな。どんな状況だ?」


「町はすでにゴブリンから襲撃を受けています。ゲイル様の指示により住民を避難させ守りを固められております。本日はオークの調査に向かわれます」


「ゴブリンの巣程度ならゲイル達で出来るだろ?」


「アルファランメル様と住民の安全を最優先にされているものと思います」


なるほどアル達が足手まといになってるのか。コボルトにやられかけたから万全の体制を取ったんだな。


「解った。至急応援を出すとゲイルに伝えろ」


「はっ」



さて、ギルドにいかせるか、騎士団を出すかどうするか・・・ しかし、いきなり襲撃されたわけではなさそうだな。先に住民を避難させた所を見ると兆候があったのだろう。とするとギルドに討伐依頼が出てもおかしくはないな。依頼料が安くて誰も受けてないのかもしれん。ディノスレイヤ領のギルドなら依頼料が安くても町の安全を守る為に依頼を受ける奴がいるだろうが、こっちは金でしか動かん奴が多いからな。


よし、ここはギルドの顔を潰しておくか。お前らが頼りないから騎士団が動くことになったのだと。そうせんと次々に同じ問題が出てくるからな。


「おい、ナルディックを呼べ。騎士団で魔物討伐隊を組む。人数は20人、俺も出る。使える奴を集めろと伝えろ」


エイブリックの号令により一気に慌ただしくなる部下達。エイブリック自ら隊を率いる事など通常ではあり得ないのだ。




「ぼっちゃん、最悪だ。オークの集落が出来てやがる」


「ゴブリンの巣の事もあるし、竜巻で殲滅するわ」


「ダメだ。中にさらわれた人間がいる可能性がある」


「どういうこと?まだ生きてるってこと?」


「オークがここまで増えてるなら女がさらわれて子供を生まされてる可能性が高い」


「じゃ、すぐに助けに行かなきゃっ」


「ダメだ。一旦戻るぞ」


「なんで?生きてる人がいるなら今すぐにでも・・・」


「ぼっちゃん、頼む。俺の言う事を聞いてくれ」


ダンがこういうなら何か事情があるのだろう。


「解った。急いで戻ろう」


ダンの苦渋に満ちた顔を見た俺はそれ以上何も言わずに戻ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る