第431話 襲撃
「けっこうゴブリン多いね」
「あぁ、こいつは巣が出来てる可能性が高いな」
俺達はすでに30匹程のゴブリンを狩っていた。一応依頼ということなので討伐証明に耳を斬ってから焼き払っている。
「じゃあ、巣を探そうか。スンドウの話じゃオークもいるんだよね」
「お互い縄張りがあるから別方面にいると思うぞ。冬で獲物が少ないだろうからこのままだと町があぶねぇな。町でゴブリンとオークが鉢合わせしたら皆を巻き込むぞ」
「魔物同士で争うの?」
「大概は弱い方の魔物が逃げる。この場合だとゴブリンだな。しかし、ゴブリンの方が数が多かったり、空腹で獲物を取り合うなら戦う事もある。もしくは獲物の奪い合いだ」
「なるほど。これは急いで調べないとダメだね」
「あぁ、走ろう」
俺達は見かけたゴブリンを倒すよりも巣を見つける事に専念した。
「あそこだ。うようよ居やがるから間違いねぇ」
「殲滅する?」
「いや、バラけられたらまた巣が出来る。一網打尽にするには応援があった方がいい。オークの事もあるからな」
「了解。じゃ一旦帰ろう」
巣の場所を確認して町に戻った。
戻ってみると3人で散々言い合いをしたのだろう。雰囲気は最悪だ。ここで心を入れ替えていれば可能性はあったかもしれないけど、待機させて正解だったな。今はジョン達よりもゴブリンの巣退治の方が重要だ。
「スンドウさん、ゴブリンの巣が出来てたよ。かなり不味い状況だね。いつ襲撃されてもおかしくないから住民を避難させておいて。応援を呼ぶから」
「そ、そんなに不味いのか?」
「うん、明日はオークの調査に出る。魔物と戦える人をまとめて警備にあたって。纏まってくれている方が守りやすい。グリムナさんとミグルは襲撃された時の対応、ジョンとアルは住民の避難の手伝い」
「俺も戦うっ」
「アル、いい加減にしてくれ。もう構ってる状況に無い。事は一刻を争う。避難の手伝いすら出来ないのなら一緒に守られててくれ。ジョン、住民の避難はスンドウさん達に任せるからジョンはアルの護衛を頼む。他の住民の事はいい。護衛騎士としてアルは必ず守れ」
「解った」
ジョンは素直に返事をするがアルは納得がいかない。
「ジョンと俺は同じくらいの強さなんだ。なぜ守られなければならんのだっ」
「覚悟と身分の違いだ。ジョンは守るために騎士になる道を目指した。その覚悟があるから素直に返事をした。アルにはなんの覚悟がある?」
「俺も命を掛けて戦う覚悟があるっ」
「そこが間違いだ。お前に必要なのは生き延びる覚悟だ。死ぬ覚悟じゃない。自分の立場をよく考えろ」
「俺は・・・ 俺は・・・」
「じゃあ、そんなセリフはせめてダンより強くなってから言ってくれ。エイブリックさんはダンより強い。生半可な力で死ぬ覚悟とか言ってると無駄死にする」
「俺は騎士学校でずっとトップを争ってたんだっ!」
ふむ、自信の根拠はそこか。
「ダン、本当の剣って奴をアルに見せてやってくれ」
「良いのか?」
「もちろん」
「アル、自分の言葉に責任を持て。ダンから一本取れたら冒険の事も今回の申し出も受ける。取れなければ俺の言う事を聞いてくれ」
「ほ、本気を出すぞ」
「もちろん。身体強化でも炎の剣でもなんでも好きにしてくれ。俺の剣を貸してやる」
「死んでも知らんからなっ!」
「ダンが負けたら、不敬罪で斬られたと証言してやるから気にすんな」
二人が対峙したので開始の宣言をする。
アルは身体強化しながら剣に炎を纏わせた。同時に出来るとは中々やるな。こういうのが過信につながるんだけど。
ダンはアルの身体強化と炎を待ってから威圧を放った。
「うっ・・・」
一瞬にして恐怖で身体が硬直し動けなくなるアル。
ブンっ
その刹那、ダンが目の前から消える。
「終わりだ」
そう呟いたダンの剣がアルの首元に当てられて勝負は付いた。
「勝者ダン。アル、解ったら俺の言う事を聞いてくれ。もう時間が無い」
しかし、ダンの威圧も凄いね。こっちまでビビリそうだったよ。
何も出来ずに動けなかったアルはジョンに連れられてフラフラと避難場所に誘導されていった。
避難場所には女子供、年寄りと大勢いる。一度に襲撃されたら守り切れないかもしれない。
人数が多いので壁ではなく柵で周りを囲む事にする。
「今から柵を作るから動かないでね」
下手に動かれて串刺しにしてしまってはシャレにならん。
初めはゆっくりと柵を隆起させていく。
ボコボコッと盛り上がる柵に住民は悲鳴を上げる。そりゃ初めて見たら怖いよね。
柵から住民が離れたので、そのまま一気に柵を伸ばして3mくらいの高さにする。
「出入り出来るように入り口は開けておくから、警備の人はここで見張りをお願いね」
まだ避難して来る人もいるので締め切りにすることは出来ない。今日襲われるとも限らないから避難訓練も兼ねればいいか。
「こ、これはいったい・・・」
「土魔法だよ。オークぐらいならこの柵を壊せないから。襲われるの夜でしょ?寒いけど、焚き火とかで暖を取ってしのいでくれるかな?最悪10日間くらいの辛抱だから」
何人かずつ魔物退治が出来る人を護衛に付けて食料や薪などを運び込んで貰う。
「ぼ、冒険者様、おらたちの牛や豚はどうなるんじゃ?あいつらが食われちまったら・・・」
そうか、家畜も狙われるな。というかそっちの方が可能性が高いかもしれない。
「グリムナさん、ミグル、ここを頼む。じいちゃん、家畜がいるところに案内して」
「ゲイル、俺が行こう。ダンがここに残ってくれ。お前の柵の間隔を広げて私がそこに蔦を這わせる」
「解った。じゃダン宜しく」
「了解」
「ここですじゃ。後は他のやつらのもいるんですじゃ」
家畜は森に近い場所に固められている。こりゃ急がないとな。
まず森に近い方に柵を建てていき、それに合わせてグリムナが蔦を這わせていく。
「来てるぞ」
俺が柵に集中しているとグリムナが叫んだ。ゴブリンの襲撃だ。
「シルフィ、頼んだ。こっちは柵を急ぐから。対応出来なかったら言って」
「解ったっ!」
ボンッ ボンッ ボンッ
シルフィードはゴブリンが近付いて来ている森に向かってファイアボールを撃っていく。
「どうやら来やがったみたいだな。あのファイアボールはシルフィードのものだろう。おいスンドウ。食料を取りにいかせた奴らを呼び寄せろ。こっちに来るかもしれん。襲撃だ」
「みんなこっちへ逃げろっ!」
キャーとかワーッとか叫びながら住民達が柵の中に逃げ込んで来る。
「ジョン、俺達は何も出来ないのか・・・?」
「俺達に何が出来る?住民達に指示を出すことも出来んし、次に何をすれば良いのかも解らん。手伝うと言っても足手まといになるだけだ。せめて俺達が危険にさらされて助けられるようなヘマをしないことだ」
「そうか。俺は何も出来ないのだな」
「そうだな。あのまま俺達だけでゴブリン討伐に出ていたら目の前の敵を倒す事は出来たかもしれんが、それだけだ。かえって住民を危険にさらしていたかもしれん。ゲイルはそういうのも見越してダンとグリムナさんに応援を頼んだのだろう」
「これからどうすればいい?」
「帰ってから考えよう。今は自分の安全を考えてくれ」
「そうか。短い冒険だったな」
「そうだな・・・」
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