第430話 亀裂

翌日からは皆で揃って移動する。ジョンとアルは身体強化しながら付いてくる。


どうやら話し合いの結果、アル、ミグル、ジョンの並びで移動するようだ。


半日ほど走るとわりと大きな町に着いた。


「こんな所に町があるんだね」


「本当だな。しかし、活気のねぇ所だな」


冬だからだろうけど、もうすぐ感謝際だというのに浮かれた感じがない。ディノスレイヤ領や王都の街だとそわそわし始める時期なんだけど。


道を歩いていた人になんという町か聞いてみる。


「すいませーん、俺たち冒険者でここに初めて来るんだけど、ここはなんていう町なの?」


「おぉ、やっと来てくれたのか。さ、こちらへ来てくれ」


ん?


「いや、俺たち通りすがりの冒険者で依頼を受けたわけじゃないよ」


「そうなのか・・・」


なんか訳ありそうだな。


「王都のギルドに依頼をかけたの?」


「そうだ。だが間に合わなかった・・・」


「どんな依頼なの?」


「町にくる魔物ども、ゴブリンやオークが頻繁しててな。収穫が落ちているところへ度々襲撃を受けているんだ。それで討伐依頼を出した」


「いくらで?」


「銀貨50枚だ」


まぁ、先を急ぐ冒険でもないので取りあえず話を聞くことになった。収穫前に出した依頼でまだ来ていないところをみると春になるまで来ないだろう。


立ち話もなんだということで領主代理という人の元へ案内してもらって話を聞くことに。



「お前達が話を聞いてくれる冒険者パーティーか?」


「通り掛かっただけなんだけどね。ここなんていう町?」


「今は正式な名前が決まってはおらん。元グズタフ領だ」


ん?グズタフ?なんか聞いたことあるな。


「ぼっちゃん、ボロン村を狙ってたやつの町じゃねーか?確かそんな名前だったぞ」


あー、そうかも。


「元領主の人って脱税とかで処分された人かな?」


「そんな事まで知っているのか?」


ビンゴだな。


「グズタフって人がある村にちょっかいかけてたからね。それで知ってるんだよ。あとハンスだっけ?奴隷商か金貸しだかなんだか知らないけど」


「坊主、お前何者だ?」


「俺はゲイル・ディノスレイヤ。領主のアーノルドは俺の父さんだよ。グズタフって人の処分には父さんが関わってるというか、当事者だから」


「何っ?領主の息子が冒険者を・・・?そういえばディノスレイヤ領の領主様は英雄と呼ばれる冒険者だったな。なるほど」


「代理さんの名前は?」


「これは失礼を致しました。私はスンドウと申します。この度の失礼な振る舞いをお詫び申し上げます」


「今は冒険者だから言葉使いとか気にしないで」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて・・・」


スンドウという領主代理の人の話を聞くと、グズタフの圧政に反発して一揆を計画していたところに、いきなり領主が処分され、ここが王都直轄地になると言われたそうだ。誰か他の領主が決まるまでは税率は王都に納める2割だけで良いと言われ、その後、自分達でこの領を運営するならそのままでも良いとのことだったので、自分達で運営する道を選んだとのこと。


「ほう、自分達で運営するなら安全も自分達で確保せにゃならんな。大丈夫か?」


「前領主が居た時と変わらん。そう思ってたが、そうではなかったみたいだ。他領から攻め込まれる心配は無いが、ここの者で対応出来ていた魔物が増加し続けている。応援は見込めないので冒険者ギルドに依頼を出したんだ」


「なるほどな。銀貨50枚でこの町周辺の魔物殲滅だと依頼を受ける冒険者いねぇんじゃねぇのか?」


「税率が下がったとはいえ、収穫量が年々落ちている。元々現金収入の少ない町でな、あれでも精一杯なんだ。魔物と戦って怪我をした者のポーション代も馬鹿にならん」


ここは連作障害が始まっているのか。古くからありそうな町だからな。


「じゃあ、その依頼を受けてあげるよ。冒険者ギルドには後から報告するから。俺達がギルドに報告するまでに誰か受けてやって来たら、その人達の依頼達成でもいいし」


「そうなったらただ働きではないのか?」


「俺達は春まで王都に戻らないからね。まぁ、そうなったらそうなったらでいいよ。ここまで話を聞いてほっとく訳にもいかないし、王都に戻る時間ももったいないから。みんなそれでいいよね?」


「厄介事に首を突っ込むのはぼっちゃんのスキルみたいなもんだからな。ジョン達にやらせればいいんじゃねぇか?」


「そうだな。このまま先に進んでもエイプ達には通用しない可能性が高い。修行するならゴブリンやオーク相手ならちょうどいい」


グリムナも賛成のようだ。


「ゴブリンやオークやら相手じゃと・・・ワシを舐め・・・」


ゴツンっ


「お前、まだ解ってないのか?。そんなんだからコボルト相手に死にかけるんだ。嫌なら俺達がやるからここで留守番してろ。で、討伐し終わったら王都に戻り、冒険は中止だ。いつまでもそんなんだと命がいくつあっても足りん」


「ゲイル、俺たちにやらせてくれ。騎士も冒険者も困っている人を助けるのが仕事だ。ミグル、俺とアルの二人だけでは力が足らん。協力してくれ」


ジョンはリーダーらしく、そして若輩者らしくミグルとアルにそう言った。


「どうするミグル?」


「解ったのじゃ」


「ダン、グリムナさん。この3人の護衛をお願いしていい?」


「ゲイルとシルフィードはどうするのだ?」


「収穫量が落ちているみたいだから、作物育てておくよ。それと皆がいない間にこっちが襲撃される恐れもあるからね」


「ゲイル、俺達は守られながらなんかっ・・・・」


アルはまだ解ってない。


「いい加減にしろっ!何も成していないうちから自惚れんな。その根拠の無い自信が自分自身のみならず仲間まで危険にさらすんだ。もう今回2回もやらかしておいてまだ解らんのなら、今すぐ冒険なんてやめて王都に戻れ。それがお前自身の為でもあり、皆の為だ!」


俺は初めてアルを怒鳴った。今まで友達の弟として可愛がってもらい、事ある毎に遊びに来ては楽しそうにしていた。歳もけっこう離れている。そんな俺に怒鳴られてさぞかしショックだろう。しかし、グリムナが何度説明せっきょうしても、ジョンがまとめようとしても変わらないのなら無理だ。危険過ぎる。新米冒険者はゴブリンを舐めて殺される事が多いらしいからな。


アルは怒りと悔しさが入り交じった表情を浮かべ俺を睨む。


「アル、残念だがお前が理解出来ないのならここで終わろう。ゲイルはお前に対してこんな事を言いたくはなかっただろうからな。ミグルにも悪い事をしたな。俺達はパーティーだからお前もここでゲイル達との同行は終わりだ」


ミグルも俺が本気で怒鳴ったのを理解したのか、ジョンに反論せずに目に涙を貯めて頷いた。



「じゃ、体制を変更する。ジョンとアルとミグルはこの町で待機、グリムナさんは不測の事態に備えてジョン達と一緒に待機をお願い。俺達は魔物の状態調査に向かう。今まで町の人で対応出来てたのが無理になるほど魔物が増えてるならゴブリンやオークの巣が出来ている可能性があるからね。もし、巣が出来ていたなら王都ギルドに応援要請を行う。ダン、こんな感じでいいかな?」


「ぼっちゃん、完璧だ」


「ゲイルっ!待ってくれ!」


「待たない。これは決定だ。ジョンとアルが俺に冒険の同行を頼んで俺は了承した。俺は二人の冒険を安全に終わらせる責任がある。何度言われても変わらないアルにこれ以上責任持てないからな。大人しくここで待機しててくれ。ダン、シルフィ行くぞ」


スンドウに聞いて魔物が多く現れる方面を聞いてそこから調査を始めた。



「ぼっちゃん、アルの事どうすんだ?」


「言った通りだよ。まぁ、あとはエイブリックさんの判断に任せるよ」


「あの二人はこのまま冒険者になる訳でもねぇんだ。俺達とまとまってりゃなんとかなるんじゃねえのか?」


「この2年間だけならね。思い出作りの楽しい旅を経験させるだけならそれでもいいんだけど」


「違うのか?」


「出発前にエイブリックさんから、アルは自分が一番強いと思ってる時期だから痛い目に合わせてやってくれと言われてんだよ」


「あの歳頃で腕に覚えがある奴ならみんなそうだな」


「うん、だから俺もそこそこ痛い目に合うくらいの経験してもらえばいいかと思ったんだけどね、アルの将来を考えたら下手に自信を付けさせるのは良く無いかなと思ったんだ」


「どういうこった?」


「アルはエイブリックさんに憧れてるんだと思うんだよね」


「父親に憧れるなんてありふれたことだろ?」


「うん、そうすると父親と同じ行動を取ろうとするだろ?今回の冒険者になりたいと言い出したのもエイブリックさんの影響だと思うんだ」


「そうだろうな」


「エイブリックさんは王族、しかも王位継承権1位の人が冒険者なんて普通やる?」


「やらねぇな」


「あの人って多くを語らないからよく解んないんだけど、冒険者をやりたかったんじゃなくて、やらないといけない理由があって冒険者をしたんじゃないのかな?と思ってるんだ」


「ふむ、それで?」


「恐らく、ディノ討伐をしたのは結果論であって他の目的があったんじゃないかな?王家として何か必要な物を探してたとか、継承権を確たるものにするためのものとか」


「なるほど」


「それと比べてアルはそんな目標が無いと思うんだよね。だからこれからもエイブリックさんの表面を真似し続けると思う。護衛を付けずにフラフラと出歩いたり、自由奔放な行動したりとか」


「そうだろうな。で、エイブリック様程の実力も無く、中途半端な力だと危ないからここで止めておく方が賢明ってやつか」


「エイブリックさんの行動ってさ、自分勝手で我が儘だけで動いているみたいに見えるけど、常に色々と先手を打ってあったりとか、実はなんかの意味があるやつが多いんだよね。俺もよく手の上で転がされてるしさ」


カッカッカッカ


「実際、今も王都の開発をやらされてるしな」


「そう、まるで蜘蛛の糸にからめとられたみたいなんだよね。だから今回、アルの冒険を許可したのもなんか意味があるかもしれないし、単に息子に少しの間の自由を与えただけなのか解んないんだよ。だから一旦冒険を中止して、エイブリックさんの判断に任せようと思うんだ。楽しませてやってくれと言うなら、楽しい冒険でもいいし、危険だから止めろと言えば止めればいいし」


「ジョンはどうすんだ?」


「ジョンの目標は騎士になって何かを守る事だ。別に冒険者をやる必要は無い。今回の冒険は対魔物を経験してくれれば良いかなと思ってたんだ。対人は騎士学校でやってるだろ?」


「相変わらず、色々と考えてんな。ミグルはどうすんだ?」


「ミグルは単に寂しいだけだ。この冒険が中止になれば俺達も冒険する必要は無い。ドワーフの国にお使いに行って帰って来たら一緒に街の開発をすればいい」


「そうだな。じゃあ、後はエイブリック様の判断に任せるか。しかし、身分があると生きるの面倒臭ぇな」


「そうだね・・・」


俺もすでに身分を持ってしまった。権力がある代わりに責任としがらみが付いて回る。面倒臭いよね本当に・・・


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