第429話 誰がリーダー
グリムナの
「よく解ったか。コボルトと舐めているからこんな目に合うんだ」
「仕方がないだろっ、もう魔力が無かったんだから」
「自分の力を過信していざと言うときに余力を残さんからだ。実力が下でも数が多かったら勝てんという事を理解しろ」
「ミグルも英雄パーティーに居たとか嘘だろ。コボルトに苦戦したじゃないかっ」
「馬鹿者っ、ワシ一人ならあんなもん余裕じゃっ。お前が抜かれたのが原因じゃろがっ」
またギャーギャーミグルとアルが言い合いを始めた。
確かにジョンとアルが居なければミグルは全部のコボルトをファイアボールで倒せたのだろう。ミグルは全方面同時に撃てるみたいだからな。さらに強力な火魔法も使えるだろうから、二人が居なければ気にせず殲滅出来たのかもしれない。
言い合いが止まらない二人に呆れたグリムナもこっちに来た。
「何も解ってないな。どうするゲイル?」
「もうあのままでいいわ。面倒臭い。これで最後の冒険になるかもしれないし」
「どういうことだゲイル。俺達は2年間の許可は貰ってるぞ」
言い合う二人を残してジョンもこっちに来た。
「父さんはそのまま許可出すだろうけど、エイブリックさんはどうかな。ジョンとアル二人でも危なかっただろうしね。もう次の許可出ないんじゃない?」
「なんとかならんのか?」
「ずっと俺達に守られるだけの冒険なら許可が出ると思う」
「そんなの冒険ではないではないか」
「仕方がないじゃない。グリムナさんが説明してもあの二人がずっとあんな調子なんだから。同じ事がまた起こるよ」
「ゲイルとミグルが交代する訳にはいかんのか?お前となら大丈夫だと思うが」
「別にいいけど、そうすると結局俺に守られる冒険だから一緒の事だよ。なんかあったら俺が対応すると思って行動するでしょ?」
「・・・む、そうかもしれん」
「それが嫌ならジョンがリーダーになって二人をコントロールするしかないね」
「俺がリーダーに?お前達は誰がリーダーなんだ?」
「ぼっちゃんに決まってるだろ」
「いや、なんだかんだ言いながらダンがリーダーだ。俺に指示を出すように仕向けてるからな。サポートに徹しながら上手く誘導されてんだよ」
「仕向けるとか人聞きの悪いこと言うなよ」
「ダンは俺たちより経験豊富だし大人だからな。俺達の安全を最優先に考えてくれている。だから上手くいってるやり方だ。俺もシルフィもそれを理解しているからもめないし、スムーズに動ける。ジョン達は経験豊富なミグルは子供だし、アルも子供だ。一番しっかりしているジョンが向いてると思うけどね」
「俺はダンみたいに経験がないぞ」
「アルよりかはあるだろ。父さんとゴブリン狩りにも行った事があるし、心構えも聞いてる。アルはそれすら無いからね」
「俺の指示に二人が従うと思うか?」
「従うとかじゃくて号令みたいなもんかな。何を最優先にするか、こういう場合にはどう動くかとか話し合って、それをその時に言えばいい。失敗したら反省会をやって、休憩の時に動きの確認するとかね」
「話し合いか。あんな調子の二人が聞くと思うか?」
「それが出来なければ冒険は今回で終わり。春になったらドワーフの国に行くけど、ジョンとアルは騎士見習い、ミグルも王都でお留守番だ」
「それは嫌だ」
「なら、ジョンも素直に自分の気持ちをぶつけたら?ジョンだけドワーフの国に連れて行くのは可能だけどそれは嫌でしょ?」
「そうだ。アルと一緒に冒険すると約束したからな」
「じゃあ、飯食ったら話し合いしたら?あいつらも腹減ったら食いに来るでしょ」
晩飯のクリームシチューを作りながらジョンと話をした。脅しでも何でもなく、隠密に助けてもらうような事態になったのは大事なのだ。特変異種とかに襲われたのならともかく、相手はコボルトだからな。エイブリックがもう許可しない可能性は高い。順当にいけばアルは王位継承権1位の人なのだから。そう思うとよく許可を出したものだと思う。
「ぼっちゃん、晩飯はこれだけか?」
「そのつもりだけど?」
「肉は焼かねぇのか?」
「シチューにも肉入ってんじゃん」
「そりゃ、そうだけどよ。シチューも旨えんだが、なんか食った気がしねぇんだよな」
酒が飲めないダンは食い気でそれを補いたいらしい。
「ソーセージでも焼く?」
「ありゃ、エールが飲みたくなるからな。牛か豚を焼いてくれ」
仕方がない。豚バラを塩焼きにしてやるか。何焼いても酒飲みたくなると思うけどね。
豚バラを串に刺して焼き出すと皆食べたいと寄ってきた。もうただの旅行だ。グリムナも苦笑いするがジョンもアルも食べ盛りだからな。気持ちを切り替えてバンバン焼いてやった。別に本格的に冒険者になるわけではない。しかもこれで最後になるかもしれないし。
腹いっぱいになったところで小屋を建てていく。7部屋作っておいたのでそれぞれに別れて寝よう。一応風呂も作ったが男湯と女湯は分けて離しておいた。
風呂から上がったあと、ジョンが中心となって話し合いをするそうだ。
「なんじゃ話とは?」
「俺達の冒険はこれで終わりになるかもしれないとゲイルが言っていた」
「なぜだっ?」
「コボルト相手に死にかけるようではエイブリックさんがもう冒険を許可しないだろうと」
「わははははは!残念じゃったのう。まぁ、あの実力なら仕方があるまい」
「お前が頼りにならんからだろうがっ。ゲイルがパーティーにいればあんなことにならなかったんだっ」
「ワシのせいにするのかっ!自分の実力不足を人のせいにするなっ」
「ゲイルは守られながらの冒険をしたいならそれでもいいと言った。この冒険で終わりなら、次からはミグルも留守番だそうだ」
「守られながらだと?」
「ゲイルがいればなんとかしてくれるだろうと思いながらやるのは守られてるのと同じだということだろう」
「ワシがなぜ留守番なんじゃっ?」
「ダン、シルフィードだけで十分だからだ。冒険に必要がないメンバー、それに加えてこんなにいがみ合ってる奴らがいたら面倒臭いだろう。俺もいい加減うんざりしているからな」
アルは初めてジョンからうんざりしていると言われてショックだった。ミグルも必要ないメンバーと言われてショックを受ける。
「ゲイル達のリーダーはゲイルだと思っていたが、実際にはダンだそうだ。経験豊かなダンが上手く誘導してくれると。俺たちにはそれがない。経験豊かなミグルはアルともめる。俺達には経験がない。八方塞がりだ」
「あんな所に切り株がなければ転ばずにすんだんじゃ。あれがなければコボルトなんぞワシ一人で倒せたんじゃ」
「俺達が走って来た道に所々切り株があって木が倒れていた。それに妙に走りやすくなかったか?こんな誰も使っていないような道なのに」
「た、確かに・・・」
「多分、ゲイル達が切り開いたんだ。邪魔な木を伐ってな」
「ゲイルがやったのか?」
「いや、ダンがやったんだろう。ゲイル達はダンを先頭にシルフィードが中、ゲイルが最後尾だ。常にシルフィードを守るように二人は動く」
「コボルトを倒した時もそうだったな」
「それに比べて俺達はただ競って走っていただけだ。魔物は突然現れると言われてても警戒せずにいがみ合うようにな」
・・・
・・・・
・・・・・
「ミグル、俺達を鑑定してみてくれ。魔力が少ないと言われてもどれくらいなのかわからん」
「嫌な気分になるぞ」
「今さらだ。とっくに嫌な気分になっている」
ふんっと言いながらミグルはジョンを鑑定する。
続いてアルを鑑定。
「ジョンは魔力411、アルは423じゃ。」
「それは少ないのか?」
「他の奴らはあまり見たことがないからよく知らんが、その歳の人間なら普通ってところじゃろうて」
「ちなみにゲイル達はどれくらいなんだ?」
「ワシは6500、ゲイルは7000と言っておった。シルフィードは知らんが少なくともおぬしらの10倍以上あるじゃろう」
「そんなに差があるのか・・・」
「言っておくが、ワシとシルフィードにはエルフの血が入っておるから比べる事自体おかしい。ゲイルは自分で魔力を増やしたと言っておった。そんな事を出来る奴は他におらん。ダンもお前らの歳ぐらいの時は変わらんかったじゃろ」
「しかし、ダンのあの強さはなんなんだ?」
「何度も死線をくぐり抜けて来たんじゃろ。どことなくアーノルドと同じ臭いがするからの。魔力に頼らず戦ってきた奴の臭いじゃ」
「ダンはそれほどなのか?」
「アーノルドがゲイルの護衛に付けておるのじゃろ?当然ではないか。生半可なやつなら不要じゃろうからな」
「ミグルはどうすればいいと思うんだ?」
「移動はアルが先頭、ワシが中、ジョンが最後尾じゃ。囲まれたら二人はワシの背中へ並べ。二人なら魔物に抜けられる事はないじゃろ。ワシも後ろから来ないと分かればいくらでも対処のしようがある。さっきみたいに数が多くて対応が無理になれば相手の動きを遅くする魔法を使う。ぬしらはそれを解除出来るだけの魔力を必ず残しておけ」
「解った」
「なぜジョンを最後尾にする?」
「ワシとお前は感情的になるからの。ジョンが一番冷静じゃ。ワシらの動きが一番後ろならわかるからジョンが指示を出せ。簡単なもので良い。進めとか止まれだけで良い。止まったらアルはすぐにワシの後ろに回れ」
こうして3人の行動指針が決まっていく。
ミグルはコボルト達を倒してくれたのは誰かと思い返していた。初めはゲイル達がこっそりと助けてくれたと思っていたが、ゲイルも誰が倒したか聞いてきたから違うのだろう。その後すぐに納得したような素振りを見せたこと、今回の事がエイブリックに伝わると確信してる事を考えるとアルに手練れの護衛が付いているのは間違いない。こやつは王族だからの。
しかし、これはアル達には言わん方がいい。誰かに守られていると知ったら慢心するか無茶をするからな。ゲイルもだから言わんのだろう。
冷静になったミグルは状況を飲み込みつつあった。
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