第428話 思い知る
「くそっ!あのクソチビめっ!ジョン、もっとスピードを上げられるか?」
「やめておけ。魔力切れになるぞ」
「くそっ!」
「わーはっはっはっはっ!いくら剣の腕があろうと所詮は魔力の少ない人間じゃ。ワシに挑もうなどとは200年早いわっ」
全速力でスピードを出しながら後ろを向いて高笑いするミグル
ブッ ゴンっゴロンゴロンゴロン
「
「ダン、その木を伐る腕は大したものだな。いい木こりになれるぞ」
「誰が木こりだ。これはぼっちゃんにさんざん木を伐らされたからだ。」
人と馬が通れるくらいの道があるのだが、ダンとグリムナが先に進んで枝や邪魔な木を伐ってくれているのだ。俺達は小さいし非常に楽チンだ。
もう少し進むと休憩出来そうなポイントを見付けたので昼飯休憩にする。
まず皆で水分補給。真冬だと言うのに冷たいスポドリもどきがめちゃくちゃ旨い。
「はぁ~、一息付いたね。ご飯はサンドイッチでいい?」
すぐに食べられる軽食を持ってきてあるのでそれを食べる。ドリンクはホットロイヤルミルクティーだ。
温かくて甘いロイヤルミルクティーを美味しそうに飲むシルフィード。
「ゲイルさ・・・ゲイル、あの3人は今どのへんかな?」
少しずつ、敬語から普通に話そうとしているシルフィードの口調が可愛い。
「コボルト達と戦わずに抜けて来たらもうすぐ来るんじゃない?」
「戦ってたら?」
「またアルがとびだせしてるかもね」
俺がそういうと真っ赤になるシルフィード。俺はまるでセクハラ親父だ。
「いだだだだだっ。ワシの可愛いあんよが傷だらけではないか。しかし、こんな事で治癒の魔石が減ってしまったのはもったいないの」
切り株につまづいて傷だらけになった足が見事にきれいになっていく。
「ま、待ちやがれクソチビッ!」
ぜーはーぜーはー言いながらジョンとアルがミグルに追い付いた。
「走るだけで息切れとは情けないの。おぬしそれでもエイブリックの息子かえ?それに比べてジョンはまだ余裕がありそうじゃの?」
「アルより俺の方が身体強化を使い慣れてるからだろう」
ミグルが杖の先からじょぼじょぼと水を出してやる。ジョンはそれを手で掬って飲む。
「水なら自分で出せるっ」
アルはそう言うと自分で口の上に手を持っていき水を出して飲んだ。
「ただでさえ魔力が尽きかけておるのに無駄な事をするもんじゃの」
「うるさいっ、お前の世話になんぞならんっ」
「そうか、なら自分の身は自分で守れ。ワシには構わんでいいからな。また飛び出されて死なれてもかなわん」
「何をっ!」
「アルっ、後ろだ」
特攻のコボルトがアル目掛けて飛んで来た。
「うわっ!」
ザシュッ
「気を抜くなアル」
反応が遅れたアルの代わりにジョンが特攻のコボルトを斬った。
「すまん」
「おしゃべりしてる暇はないぞ。すでに囲まれておる。アル、お前は魔力がほとんど残っておらんじゃろ。闘気は防御以外に使うな。魔力が無くなると気を失うぞ」
「言われんでも解ってるわっ」
「ほれ、早く指示を出さぬか。もう飛び掛かってくるぞ」
「くっ、ジョン、ミグル。ゲイル達が見せた陣形になるぞ。互いの背中を守れ」
3人はアルの指示で三角の陣形を取る。
「一匹も後ろにやるなっ」
次々に飛び出して来たコボルトをそれぞれが倒していく。ミグルも味方が後ろにいるので誤爆の心配をせずにファイアボールを撃っていく。
「ぐ、身体強化無しだと、この数は・・・」
先程より多くのコボルト達がいる。強化無しの剣のスピードとパワーしか使えずに押され始めるアル。
ジョンも身体強化をせずにやっているようで苦戦している。ここぞという時の為に魔力温存をしているのだ。
ガウッ
「しまったっ!」
反応が遅れたアルをすり抜けてミグルの背後から襲いかかるコボルト
「ミグルっ!」
アルの叫び声に振り向くミグル。
「チッ」
舌打ちをしながら杖でコボルトに応戦し、ぶつぶつっと詠唱をした。
「ぐっぅぅ!」
コボルト達の動きが一斉に鈍ると共にジョンとアルも呻きをあげて動けなくなる。
「貴様らっ、闘気を纏えっ、それで動けるとゲイルは言っておったっ!」
ミグルはファイアボールではジョンとアルを巻き込むと思い、全体にデバフを掛けたのだ。
「ぬおぉぉぉぉお」
ジョンとアルは残りの魔力を振り絞ってデバフを振り払おうとする。
「おぇぇぇぇぇぇ、ゲロゲロ
~」
アル魔力切れで撃沈。
ジョンはなんとかデバフを振り払ったが魔力切れ寸前でフラフラだ。
「ちっ、役立たずどもめ、しかしこのままでは・・・」
デバフの掛かったコボルトがゆるりと近付いてくる。ファイアボールで攻撃するにはデバフを解かなければならない。そうなると全部のコボルトにファイアボールを撃つ詠唱が間に合わないかもしれない。
「くそっ、どうすれば・・・」
ジョンは気力を振り絞って動きの遅いコボルトを斬るが数はまだ多い。
万事休すの3人
「3人とも遅いよね」
「そうだな。コボルト達とやりあっても、もう姿が見えてもおかしくないんだがな」
「なにかあったのかもしれんな。戻って見に行くか」
待てど暮らせどやってこない3人が心配になり戻って様子を見に行く事にした。
しばらく走って来た道を戻るとミグルとジョンがへたりこみ、アルは気を失っていた。回りには死んだコボルト達が多数転がっている。
「大丈夫か?」
「うわぁぁぁぁぁん ゲイル~。死ぬかと思ったのじゃぁ~」
涙と鼻水を垂らして泣きじゃくるミグルが俺に抱き付いて来た。汚いので殴ってやろうかと思ったがさすがに可哀想なのでタオルで拭いてやる。
アルは魔力切れで倒れたのか。ジョンもフラフラだから魔力切れ寸前ってやつだな。
まだ泣きじゃくるミグルをちょっとだけ抱き締めて頭をポンポンしてやる。よっぽど怖かったんだな。憎まれ口も出てこない。しかし、コボルトなら余裕なんじゃなかったのか?
そう思いながらコボルトの死体を見ると斬られて死んだやつ、焦げて死んだやつの他に何かで頭を撃ち抜かれたように死んでいる奴がたくさんいた。
「ミグル、この頭を撃ち抜かれた奴はお前がやったのか?」
「もうダメじゃと思った時にコボルトどもが全部倒れて助かったのじゃ」
ヒックヒックと泣きながら答えるミグル。
ジョンも放心状態だから何が起こったのか理解出来てないな。
ー出発前のエイブリック邸ー
「ゲイル、知ってると思うがアルには隠密を付けてある。まぁ、お前達が居るから出番は無いと思うがな。」
「エルフの国には入れないと思うよ」
「あぁ、それは解っている。中以外は付ける。何かあったらそいつらに任せろ。もし、ジョンとアルが同時に危険になるようなら、ジョンを選べ。隠密にはアルを最優先にしろと命令してある」
「解った」
「あいつは自分が世界で一番強いと思ってる時期だからな。魔物や魔獣の事も舐めているだろう。少々痛い目に合わせてやってくれ。自信を持つのはいいが過信は危険だからな」
「元からあまり手出しはしないつもりなんだけどね。治癒の魔石付き腕輪も渡してあるから、即死しなければ問題ないよ」
「そうか、アルにもくれてやったか。まぁ礼になんか面白い物を見繕っておいてやる。魔道バッグもオーガの特変異種を狩って来てくれたお陰で問題無かったからな。また面白い奴がいたら狩ってこいよ」
そんなバンバン特変異種なんて出会いたくないわ。
なるほど、この後ろから撃たれて死んでるコボルトは隠密がやったんだな。ミグルやジョンの状況を見るとヤバかったのかもしれない。
ジョンとアルに魔力を補充してやり、コボルト達を焼き払ってからさっきの休憩ポイントまで戻り、そのままここで夜営することになった。
落ち込む3人から置いていかれたあとの顛末を説明してもらうと、グリムナはまた説教を始める。本当にヤバかったみたいだから説教も長い。俺が言うより年長者に任せておこう。
俺も3人の実力を過信していたようだ。これは反省だな。
これからは完全に引き離さず、目の届く範囲で走り続けることにしよう。まさかこんな所で隠密の力を借りる事になってしまうとは・・・ アーノルドはともかく、次の冒険はエイブリックから許可が出ないかもしれない。
悪いことしたな・・・
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