第427話 昔もこうだったらしい
とびだせどうぶつの亀をしてしまったアルに着替えを出してやる。
ミグルは慌てた様子がなかったが、初めて大人になった亀を見てしまったシルフィードはショックを受けていた。俺の可愛い亀とはまったく違うからな。仕方がないけどなんか複雑だ。
「お前達は連携うんぬんよりも、お互いの実力が解ってないうちから戦いに挑むなんて愚か過ぎる。ゲイルが作った腕輪が無ければ死んでいたところだぞ」
グリムナはこうなる事を予想していたようだ。最初に言わなかったのは身を以て体験させるつもりだったのだろう。
「ミグル、お前は仲間を焼き殺す所だったんだぞ。反省しろ」
「こいつがいきなり飛び出してくるからじゃろっ!それにエイブリックならファイアボールぐらい避けるか斬ってたはずじゃ。こいつが未熟過ぎるんじゃっ」
自分だけ怒られて言い返すミグル。
「そうだ。こいつらは未熟だ。アルはエイブリックじゃない。冒険者として経験を積んだお前がそれを解ってないからこんな事になるんだ。アルも自分が未熟だと自覚しろ。騎士学校でトップを争ってたからといってそれが冒険で通用しないこともあるとな」
なんで助けに行って怒られなきゃならんのだとぶつくさ言うアル。
「言っても理解せんようだな。ゲイル、お前達が手本を見せてやれ。ゲイルは魔法を使うな。シルフィードがミグル役をやれ。ちょうど次の群れが来たぞ」
次の群れに向かって先頭ダン、中がシルフィード、最後尾が俺でアタック開始。
ダンがバッサ、バッサと新しい剣でコボルト達を倒していく。魔剣はこの冒険が終わった時に用意しておいてやると言われてるので普通の剣だ。
コボルト達はさっきと同じように散開し、周りを囲み始めたのでお互いが背中を預けるように三角の陣形を取る。
俺とダンはシルフィードが背後から襲われないように剣でコボルト達と対峙し、シルフィードはファイアボールの連射で広範囲に倒す。
「見たかお前達。鮮やかなものだろう。お互いが背中を預けつつもゲイルとダンはシルフィードが危なくないか気を配りながら戦っている」
「あれはゲイルとダンが上手いのじゃっ。あいつらと組んだらワシでもあれぐらいは・・・」
「当たり前だ。あの中ではシルフィードが一番戦力的に弱いし、経験も不足している。だから二人はシルフィードに気をやっているのだ。それをお前がやらんでどうする?剣の腕はともかく、魔物相手の戦いはお前が一番経験が豊富だろうが」
「・・・・」
「なんの為にお前達を組ませたと思ってるんだ。あの二人の冒険に勝手に付いてくると言ったのはお前自身だろうが。それくらい役に立て」
ミグルはぐうの音も出ない程グリムナにやり込められてしょげてしまった。ミグル一人で戦ってきた後にアーノルド達とパーティーを組むことになり、パーティー内で自分勝手にやっていても問題がなかったのはアーノルド達の実力のお陰だとまだ気付いていないのだ。
「終わったよ」
「うむ、見事な連携だ」
グリムナに誉められる俺達。グリムナがアーノルド達と組んだのは少しの期間のはずだが、俺達は見ていて安心出来る戦い方だと分かるらしい。
連携は何度も訓練したし、寝ずにエイプやコングとも戦ってきたからな。特変異オーガとの死闘もやったし、ずっと一緒に居るからお互いの動きも考え方も分かる。シルフィードも置いていかれまいと必死だったから、遊び感覚が抜けないジョンとアルとは雲泥の差だ。
「ジョン、アル。お前達が連携の重要さが理解出来ないならこれから先に進むのは中止だ。ミグルもコボルト相手ですら二人のサポートが出来ないようならパーティーには不要だ。なぁ、ゲイルもそう思うだろ?」
可哀想な言い方だが、危険性を考えるとグリムナの言う事はもっともだ。そんな事ないよと言ってやりたいがこの先の事を考えると同意した方がいいな。
「うん、この辺かディノスレイヤ領近辺なら大丈夫じゃない?でもエイプやコングの森は無理だと思う。それか馬車旅で比較的安全な街道を進む旅に切り替えてもいいし」
「そんなの冒険ではないではないかっ!」
「仕方がないじゃん。危ないんだから」
「ワ、ワシもいらんと言うのか・・・?」
「ミグルだけなら俺が守ってやるから大丈夫だよ。防御に徹しててくれればいいから」
「そんなもんパーティーではないではないかっ!ワシは護衛対象ではなーいっ!」
「ゲイル、俺たちには何が足りないのだ?」
ジョンだけまともだな。
「今回の冒険の目的は覚えてる?」
「無論。俺達が冒険するための修行だ」
「そうだよね。個人の力量を上げる為でもあるんだけど、魔物は数が多かったりものすごく強い奴がいきなり現れたりするんだよ。個々で戦うには危険過ぎるからパーティーを組む。3人パーティーですら連携出来ないようなら6人パーティーなんて無理だと思うよ」
「連携をするには何が必要だ?」
「お互いの実力を把握すること、役割を決めること、お互いを信じることかな。あうんの呼吸で動けるようになるまでは声かけてやった方がいいんじゃない?」
「なるほど。ではミグル、お前がリーダーになって声を掛けてくれ。一番経験が豊かな者が適してるだろう」
「馬鹿者っ!ワシは詠唱もせねばならんのだ。声をかけるのは貴様らのどちらかがやれっ」
「そうだジョン、なぜ俺達がこんな奴の命令に従わねばならんのだっ」
アルはミグルにリーダーになれと言ったジョンに反発する。
「では貴様がやればいいではないかっ!ファイアボールすら避けれん未熟者につとまるとは思えんがなっ!」
「なんだとっ!」
ミグルとアルはまたぎゃーぎゃー言い合いを始めた。
「ねぇ、グリムナさん。昔もこうだったの?」
「あぁ、面倒臭くなって話さなくなるのわかるだろ?」
確かに・・・ ドワンが手を出したくなるのもよく分かる。シルフィードがミグルと喧嘩するようなタイプだともっと大変だったろうな。
「どうすんだぼっちゃん?」
「もう面倒臭いから置いていこう。俺達は走って先に進もう。やる気があるなら付いてくるだろうし、無ければ帰るだろ」
「ぼっちゃんがそう言うならそうするか。シルフィード、ちょっと飛ばすけど大丈夫だな?」
コクンと頷くシルフィード。
じゃ、走るかと4人は身体強化をして走り出した。
「いい加減にしろ二人とも。置いてかれたぞ」
「何っ!」
「ワシを置いて行くとはなんと薄情な奴らめっ。しかし、ワシを振り切れると思うなよっ。ぶつぶつぶつぶつ・・・」
「へっ、お先にっ!」
「あっ、待て貴様らっ!抜け駆けは・・・。しまった。また詠唱のやり直しではないかっ!ぶつぶつ・・・」
「アル、ミグルは待ってやらんでいいのか?」
「知るかあんなやつ!それより飛ばせっ。ゲイル達を見失うぞ。しかし、あいつらなんてスピードを出しやがる」
「付いて来てるみたいだけど大丈夫かな?またコボルトの群れいるよ」
「まぁ、なんとかするんじゃねーか?」
「ゲイル、後ろは気にするな。このまま進めばボロン村に行くはずだ。もしはぐれてもそこで待っててやればいい」
「そうなの?」
「あぁ、方角的に間違いない。」
「ぼっちゃん、コボルトとやらねぇなら面倒臭ぇから気配消して行くぞ」
「本当にいいんですか?」
シルフィードも心配そうだ。
「シルフィード、あいつらが心配か?」
「うん、だって可哀想・・・」
「ちっ、ゲイル。このまま進んでコボルトの群れを抜けたらそこで飯でも食いながら待つ。3人が見えたら出発だ」
ひでぇ。飯も寝具も俺が持っている。水はなんとかなるだろうけど、飯を食わさないとは・・・
「ぬはははははっ!遅いぞ貴様らっ」
「ゲッ!追い付いて来やがった」
「足の速くなる魔法とは凄いものだな」
「ジョン、飛ばして振り切るぞっ」
ジョンとアルはさらにスピードを上げたにも関わらずミグルに追い付かれ、さらに抜かされてしまった。
「遅い、遅いぞ未熟者どもめっ わーはっはっはっは!」
「くそっ!待ちやがれっ!」
「誰が待つかバーカ バーカっ!」
二人にあっかんべーしながら抜き去っていくミグルにアルは激怒していたのだった。
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