第423話 たまには小屋でのんびりと

ミケに引っ掛かれた顔でぐすぐす泣きながらバルの料理を食べるミグル。


「わーはっははは。旨いのぅ」


ガツガツガツガツ


こいつ立ち直り早ぇな。まぁ、そうでなきゃ生き残ってないか。



「ゲイル、連れて来たで」


「お話ってなんでしょう?」


ミケがチュールを連れてきた。


「話というかお願いなんだけど、ミケを2年間借りれないか?」


「2年間ですか?」


「そう。今から王都にどんどん店を作って行くんだけど、料理人と接客員が足りない。料理人はすでに教育を始めていてなんとかなりそうなんだ。接客員の講師をミーシャとベントのメイドのサラにやってもらう事になってるんだけどね」


「そこにミケをということですか?」


「うん。俺もそれに関わる予定だったんだけど、急遽ジョンとアルの冒険活動に2年間加わる事になってね、王都から離れていることが増えるというかほとんどいないと思うんだ。それで教育そのものよりミーシャが心配でね」


「なるほど、講師兼ミーシャちゃんの友達として一緒にいて欲しいということですね」


チュールは頭もいいから話が早い。


「うちはええで」


少し考えるチュール。


「わかりました。ちょっと店としては痛手ですが、他の者にがんばってもらいましょう。何よりゲイル様の依頼を断れるはずもありませんからね」


「すまんな、恩に着る。ポットの店の接客員もちゃんと教育してもらうからな」


「えっ?ポットが店を出すんですか?」


まだ知らされてなかったか。


「あいつ相当腕を上げててな。後輩も育てたということで独立するんだよ。それでお菓子の店を一つ任せる予定なんだ」


「そうだったんですか。ポットが独立ですか。相当頑張ったんですね」


「今の所、この国で一番旨いケーキを作れるんじゃないかと思う。この前作ってもらったケーキは俺の作るやつよりはるかに旨かったからな」


「そこまでですか。うーん、先を越されてしまったなぁ」


「チュールの作る飯も旨いぞ。割高なバルがずっと流行り続けてるんだからな」


「いえ、ゲイル様に教えて頂いた範疇から進んでおりません」


「ブリックから餡かけの事は聞いたか?」


「はい、ただあれをどう生かすか試行錯誤している所なんです」


「あれ、色々な物に使えるんだよ。ミケを貸してくれるお礼に明日ちょっと何品か作ってやるよ。餡掛け以外もな」


「本当ですかっ?」


「今醤油っていう調味料を作ってもらってるから、それが量産出来るようになったら飛躍的に作れるものが増える。新メニューの試作用に分けてやるから、量産に備えてメニューを開発してみてくれ」


「はいっ、楽しみにしています」


これで俺がいない間も安心だな。


皆も食べ終えたみたいだし、そろそろお開きかな。


ダン、ミーシャ、シルフィード、ミグル、ジョン、アル、ミケがこのまま小屋に来るらしい。グリムナはアーノルド達と話をするということで屋敷に泊まることになった。



「おー、言ってた通り小さい小屋じゃの。これは土魔法で作ってあるのか?」


「そうだ。ここで土魔法と剣の腕を磨いてたんだよ。宴会もよくやってたしね」


ここに来ることもすっかり少なくなってしまった。そう思うとなんか寂しくなってくる。


「寒いから小屋の中でなんか甘い物でも作ろうか?」


さんせーいっとの事なので小屋に入った。


「ここも魔道ライトがあるのか。ゲイルの関わってるところはどこも明るいの」


「そうそう、暗いと気分も暗くなるしね。さてなに作ろうか?」


「うむ、何か食べた事がない物が良いのぅ」


ミグルが食べたことないものは簡単だ。ほとんどの物がそうだからな。


すぐに出来るならポップコーンでいいか。味付けも変えられるし。


ジョンとアルにも手伝わせてみる。これから冒険に出るならなんでもやれるようになった方がいいからな。


土魔法で深めの鍋を作って作らせていく。ポンポンと小気味良い音を出して弾けるポップコーン。


塩バター、カレー、砂糖を溶かして絡めた3種類だ。


「しかし、このポップコーンというのは不思議だな。」


ジョンとアルは甘いのとしょっぱいのを交互に食べながらなぜこうなるのか不思議がっている。


「このとうもろこしは爆裂種で皮が硬いんだよ。だから爆裂するまで皮が破れなくて耐えられなくなった所で一気に破裂するんだ。そうするとこんな風に中身がフワッとするんだ」


ややこしい説明をしても理解出来ないだろうからこれくらいの説明で良いだろう。


「米とかも硬いがこんな風にはならんのか?」


「米は皮が硬いわけじゃないからね・・・」


あ、ポン菓子があるじゃん。


「同じじゃないけど、似たような感じにする方法はあるよ」


「どうやるんだ?」


ドワンならポン菓子の釜作れるな。取りあえず土魔法でやってみるか。


土魔法でポン菓子の装置を作っていく。


中に米を入れて蓋を閉じてくるくる回しながら加熱っと。


「ダン、シルバー達が驚くと思うから落ち着かせてやって。物凄く大きな音がするんだ」


小屋の中だと危ないから外でやっているのだ。絶対馬達がパニックになる。


布袋を被せてその向こうに壁を作っておいてと。


「今から大きな爆発音がするからね」


皆が聞いた事がない音がするであろうから予告しておく。


「じゃ、いくからね」


ばーーーーっん!


フンギャー!


だから言ったろ。


ミケは爆発音に毛を逆立てている。


「本当だ米が膨らんでるぞ。しかし、旨くはないな」


「まだ味付けしてないからね。これに溶かし砂糖を絡めて冷めるまで待つ」


冷たい風魔法で冷ましてやると完成だ。


「おぉ、さっきのポップコーンとはまた違った旨さじゃ」


ミグルは両手に持ってがっつく。


ミーシャ、ほっぺたにポン菓子付いている。ちょっと砂糖が多かったのか甘みが強くてベタベタする。


濡らしたタオルでミーシャの口の周りとほっぺたを拭いてやる。


ミグルはもっと口の周りと手がニチャニチャだ。幼稚園児かお前は。


食べ終わったミグルの口と手を拭いてやると、シルフィードがそっとポン菓子を自分でほっぺたにくっ付けているので、見てみぬフリをして同じ様に拭いてやった。


「ジョンとアルは自分で拭け」


「ゲイル、あんた皆のオトンみたいやな」


「ミケ、お前のヒゲにも付いてんぞ」


「ヒゲなんか生えてないわっ」


イメージ的には生えてんだけどな。


「ぼっちゃん、なんか酒のアテになるようなもんねぇか?」


ふむ、飯もオヤツも食べた後のアテか。もう肉類って感じでもないしな。


「がっつり食べたい?」


「いや、ちょっと口寂しいだけだ。」


ならオニオンスライスでもいいか。前に作ったポン酢も魔道バッグにあるし、鰹節もあるからな。


玉ねぎをスライスして水にさらす。栄養が抜けるとかいうけど、俺はさらした方が好きなのだ。水気をよく切って、鰹節をのせてポン酢をかける。


「はい、物足りなかったら唐辛子をかけるといいよ」


「なんなん?このきぃ削ったみたいなやつめっちゃええ匂いする」


「これは鰹節っていうんだよ。鰹っていう海の魚を硬くしたものだよ」

 

「これ魚なんか?」


「ミケ、食いかけだけど食ってみるか?」


とダンが言うや否やダンの箸からパクっと食べた。そう、ダンも箸をマスターしたのだ。


「うまっ!ダン、うちはこれ食べるからあんたはタマネギ食べぇや」


ダンはお前なぁ、とか言いながら鰹節をミケに食べさせてやっている。行儀の悪い猫だ。


他の皆も食べてみたいとの事だったので作ってやるがそこまでの感動が無かったので、タマネギはダン、鰹節はミケに行った。俺は自分の分を食べる。あー、酒飲みたくなるな。


ドワン達が居ないので大宴会になることもなくワイワイと話をした。ミケとミグルは距離を離していると大丈夫みたいだな。



男風呂には同時に入る。乱入されたら困るのと


「ジョン、アル覗くなよ」


そう思春期真っ只中の二人は興味本意で女風呂を覗くんじゃないだろうかという心配があるのだ。修学旅行で女湯を覗きにいく心理と同じだ。騎士学校は男子校だったから尚更だ。


「の、覗くかっ!」


二人とも顔を真っ赤にしていたが、赤くなるのが気になってる証拠だ。女湯を覗いて、ばれたら一生言われるからな。


女の子曰く、男がどこを見てるか知っているらしい。胸を見たり尻を見たりしてるのはすべてバレているのだ。中学生時代、バレてないと思ってた俺はそれを指摘されて驚愕したのを覚えている。見てたんじゃない、見えたんだとか言い訳したけどね。それもバレバレだ。


ミグルもシルフィードもミケもある程度気配察知出来る。お前らのモンモンとした気配なんか100%バレるぞ。


これ、アーノルドとエイブリックに言って二人に彼女とか紹介するようにしてもらわんとダメかもしれんなぁ。


ジョンは自分で探せばいいが、アルは家柄とか色々あるだろうからな。


それまではそんな気が起こらなくなるまでダンに剣の特訓してもらおう。

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