第416話 ミグル撃沈

「では見るぞ」


「いいよ」


「む、確かに種族は人間じゃが・・・なんじゃ魔力が7000じゃとっ!」


そう、この前7000まで上げて止まってしまったのだ。


「称号が神、悪魔、魔王、神の使徒、猿殺し・・・む、名前が・・・」


あーっと、忘れてたっ


慌ててミグルにデコピンをする。しかも軽く身体強化してだ。


ブッ


「いだっ! な、何をするんじゃっ」


「見えた物は本人の許可無しに口にしないのがマナーだろ?」


「た、確かにそうじゃが、いきなり攻撃する必要はない・・・、そうかそんなにワシに触れたいか・・いひゃひゃひゃひゃやめれ」


いらん事を言いそうだったからほっぺたをつねる。


「痛いではないかっ!」


「いらん事を言う口はこうなるんだ」


「貴様っ!何度もワシをコケにしおって!ぶつぶつ・・・」


なんだ?なんか紫色の魔力が俺に・・・ぐっ、身体の力が抜けて重い・・・


「ほーれ、身体に力が入らんじゃろっ、その状態でデコピンでも口をつねるのも好きにしてみるが良いっ」


なんだこの魔法? もしかしてデバフってやつか?クソっ身体強化でレジストしてやるっ


がっと思いっきり強化してやると自分を包んでいた紫の光が弾け飛んだ。よし思った通りだ。デバフなんてあるんだな。ゲーム知識が無かったらわからんかったぞ。


わーはっはっはっと高笑いするミグルに近付く。


「ほれほれ、デコピンでもなんでもしてみせよ。痛くも痒くも」


ドゴンッ


バタン


あ、身体強化したままデコピンしてしまった。死んでねぇだろうな?


慌てて鑑定すると状態気絶と出ていた。思ったより丈夫だな。


魔力は6500、種族はハーフエルフ。

ん?なんだこの <【スキル】イラつかせ> って。挑発みたいなもんか?どおりでこいつがしゃべるとイライラするわけだ。


「死んだのか?」


「いや、気絶してるだけ。父さん、今ミグルが俺に掛けた魔法って何?身体の力が抜けたんだけど」


「あぁ、闘気の逆の奴だ。こいつの得意技だな。どうやって解いた?」


「身体強化したら解けたよ」


「正解だ。初めて会ったときに俺もやられてな。危うくその後のファイアボールにやられそうになったんだ。お前は何をされたかよく分かったな」


「見たことがない色の魔法だったからね。ちょっと焦ったけど」


「そうか、お前は魔法が見えるんだったな」


「どうすんのこれ?このままほっとくの?治すなら治癒してもいいわよ」


「母さん、ちょっと試したいから治してやって」


このままの方が静かじゃわいとか言うドワン。同感だけど試したい事があるから仕方がない。


アイナがぶつぶつと詠唱するとピンクの光がミグルを包んで目を覚ました。


「はっ・・・何で動けるんじゃ?かなり強めで掛けてやったのに」


「こうか?」


俺から紫の光が出てミグルを包む。


「ぬぉぉぉぉぉっ な・・ぜ おま・・・えが つか える」


「ミグルよ。こいつは魔法を見ただけでコピー出来るんじゃ。ワシの錬金釜だってあっさりと・・・」


ドワンはまだ錬金釜の事を根に持ってるのか・・・


そんな事を思ってる間も ぬおぉ、とかぐおぉぉとかミグルがスローにジタバタしている。


「早くレジストしないと死ぬんじゃない?初めて使ったから加減がわからないんだよね」


「ギ、キブ ギ・・・ブ」


本当に死にそうだな。なんか不味い気がして魔法を解除する。


「ハァハァ ハァハァ お前は本当に何者なんじゃ・・・」


「ん?神か悪魔か魔王かのどれかじゃない?いい加減にしとかないと魔力全部吸うからね」


「分かった。全部吸うのは勘弁するのじゃ。本当に死んでしまう」


魔力が無くなる=死は共通認識なんだな。


「で、俺は鑑定でも人間だったろ?」


「うむ、信じられんが鑑定ではそう出ておった。しかし、うぬのその魔力量はなんじゃ?おかしいではないか」


お前とかお主とかうぬとか色々と変な呼び方をするやつだ。特にうぬってなんだよ。


「自分で増やしたんだよ」


「自分で増やしたじゃとっ?」


「そう。魔力は成長以外にも増える条件があるんだよ」


「お、教えてくれっ。ワシはあと少しでハイエルフになれるかもしれんのじゃっ」


「魔力6500で止まってからどれくらい経つ?」


「かれこれ100年くらい経つ。それまで順調に延びとったのがそこからさっぱりじゃ。だから早く教えてくれ」


「あー、それお前の上限だと思うぞ。もう何やっても無駄だ。俺も7000で止まったからな。千とか500とかキリのいいところで止まるのは上限みたいだからな。100年以上伸びてないなら間違いないだろう」


「上限じゃと? ワ、ワシの上限が6500・・・。そんな・・・あと500で・・・」


もう魔力が伸びないと言われてショックにうちひしがれるミグル。


「なんでそんなにハイエルフになりたいんだよ」


「ワ、ワシを捨てたエルフどもを見返してやりたいんじゃっ。それにエルフどもはハーフエルフを見下す。ワシがハイエルフになりさえすればやつらより上の立場になるんじゃ。すべてのエルフを我が名の元にひれ伏せさせるのじゃぁぁぁぁ」


こじれてんなぁ。過去に何があったが知らんが相当鬱屈してやがる。


「そこにおるグリムナもいつもスマシ顔でワシを呆れた目で見よる。ワシがハイエルフになって同じ目で見返してやるのじゃっ」


それはハーフエルフが理由で呆れた目で見てるんじゃないと思うぞ。


「お前バカだな。グリムナさんはとっくにハイエルフだぞ。それも最高峰の魔力持ちだ。例えお前がハイエルフになったとしても敵う訳ないだろ。」


「何っ?グリムナがハイエルフじゃと?」


「言ってなかったか?」


「ワシを騙しおってぇぇぇぇ」


誰も騙してはいない。ハイエルフの事を知っていたのにグリムナの実力を見て何も気付かない方がおかしいのだ。


ミグルがまたなんかやらかしそうなのでデコピンの構えを見せると止まった。


「お前さぁ、過去に何があったか知らんけど、グリムナさんはハーフエルフの事を見下したりしてないぞ。娘もハーフエルフだしな」


「何っ?」


「俺がお前に今回会いに行ったのは聞きたいことがあったからだ」


「お前みたいなスカしたやつに惚れた人間の女がいたとでもいうのか?」


「うるさい。お前に惚れる男の数よりは多いだろう。少なくとも俺は1人、お前は0人だ」


0人・・・、ひでぇ・・・


「ワ、ワシのこの美貌とワガママボディをめぐって人間どもが争いをおこしてたのじゃぞ、0人な訳があるかっ!」


「それ勘違いだぞ。お前をめぐっての争いがあったのは本当かもしれんが、それは単に兵器として奪いあっただけだ。エルフと同等の魔力を持ち、攻撃魔法を使える生きた兵器としてな」


「ゲイルの言う通りだ。お前に女としての魅力は皆無だ」


皆無・・・、ひでぇ・・・


「え、エイブリックはワシを覗き見してたではないかっ」


「お前のクソが気になってただけだろ。足元にクソが落ちてたら気になって見るだろ?それと同じだ。」


さすがにクソ扱いされるのは可哀想になってきた。


「嘘じゃっ!エイブリックはワシの事が好きだったんじゃーーーーっ!」


「エイブリックはアイナの事が好きだったんだろ?すでにアーノルドとくっついてたから口には出さなかったみたいだが」


アーノルドがポリポリと頭を掻き、アイナはそっぽを向いている。ドワンもいらん事を言いおってみたいな顔だ。なんだみんな気付いてたのか。


近くにいるのにアーノルド達が結婚してからしばらくエイブリックと連絡してなかったのはこういう理由があったのかもしれんな。ドワンとも少し距離を置いてたみたいだし。色々とあったのだろう。


「嘘じゃ 嘘じゃ 嘘じゃ。エイブリックはワシとの身分差を気にして好きだと言えなかっただけじゃ!」


「勘違いするな。お前は足元のクソだ。エイブリックは踏まんように気を付けていただけだ」


グリムナが止めを刺す。


「グスッ グスッ グスッ。うわぁぁぁぁぁっん」


あーあ、泣いて出て行っちゃったよ。


「母さん、様子を見てきてあげなよ。流石に可哀想だよ」


クソ扱いされたからな。それにエイブリックの事を好きだったのかもしれん。


「私が行ったらまた喧嘩になるわよ」


「ゲイル、お前が行け」


アーノルド、何を言い出すんだ?


「父さん達の仲間だろ。仲間が行けばいいじゃないか。俺は今日初めて会ったばかりだろ」


「いや、坊主の方がいいじゃろ」


ドワンまで何を言い出すんだ?


「ゲイル、すまんが頼む。お前があいつの扱いが一番上手い」


止めを刺したのあんただよ、グリムナ。


「ぼっちゃん、行ってやれよ。ぼっちゃんなら言いくるめられるだろ?」


ダンまで・・・。言いくるめるとかお前ら日頃から俺をどんな目で見てやがんだ。


「余計にこじれても知らんからな」


満場一致で俺に行けと言うので仕方がなくミグルの気配を探って追いかけた。



気配の先にはコボルト達も居てミグルの涙を舐めてやっている。


俺が近くに行くとコボルト達が一斉に俺の元にやって来た。


「グスッ グスッ お前の魔獣か?」


「そうだよ。子供の頃テイムしたんだ。可愛いだろ」


「こんな穏やかな顔をしたコボルトは初めてじゃ。それに6匹とも変異種じゃろ。そんな奴を同時にテイム出来るとはたいしたもんじゃ」


またミグルの元に行ったコボルト達をよしよししながらミグルは泣き続ける。


もうしばらくこのままにしてやるか。コボルト達が慰めてくれるだろう。



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