第417話 ミグルと合体

少し泣き止んで来たのでべっこう飴を口に突っ込んでやる。


ミーシャへのご褒美に密かに作ってたやつだ。小さい子はたいていこういうので泣き止む。


「むぐっ! 何を・・・・ん、むぐむぐ。おいひぃ。なんりゃこれはっ?」


「飴だよ。少しは落ち着くだろ」


「まふょうだけでなふこんなほのをふくれるのふぁ?」


こいつには少し大きかったか?ミーシャが喜ぶかと思って大きめに作ったからな。何を言ってるのかよくわからんので舐め進むまで待とう。


待ってる間にコボルトたちに塩無しで作った干肉をやる。


「お手、おかわり、ふせ、はいごろんごろん」


はっはっはっと舌を出して喜びながら言うことを聞くコボルト達。


「よーし、偉いぞー」


干肉を少しずつ与えると尾っぽを振るスピードがあがる。実に可愛いらしい。しばらくコボルト達と戯れているとミグルが近付いて来た。


「うぬは・・・」


「いい加減、呼び方を統一しろよ。それに名前で呼べ。俺はゲイルだ」


「うむ、ではゲイルよ」


「なんだ?」


「なぜ、ワシの魔力量を知っておったのじゃ?」


「お前が・・・」


「名前で呼べ。ワシはミグルじゃ」


「ミグルが気絶した時に死ぬんじゃないかと思って鑑定した時に見えたんだよ。不可抗力だ」


「こっそり見たのか。イヤらしい奴め」


「死ぬよりマシだろっ」


「死にかけたら鑑定しても無駄じゃろ?」


「助けられる事もあるんだよ。助けられなかった者もいるがな・・・」


「人は死ぬ時に急速に魔力が抜けていきよる。そうなるとポーションも飲めん。そんなもん助ける事なんで不可能じゃ」


「魔力を補充しながら、回復魔法と治癒魔法を掛け続けるんだよ」


「魔力を補充?それに同時に複数の魔法じゃと?」


「そう。使い慣れた魔法なら同時でも使える。毒消しは初めてやったから同時には無理だったけどな」


「次の詠唱をしたら先に使ってた魔法の効果が消えるじゃろ」


「魔法に詠唱はいらないって言っただろ。詠唱なしなら複数同時に使えるようになる。ほら」


右手に火の玉、左手に水の玉を浮かべて見せる


「相反する魔法を同時に・・・」


「複数の魔法を応用すればお湯も出せるし氷も作れる。風魔法と組み合わせたら炎の竜巻とかも作れるぞ。魔法はなんでも有りだ」


「もしかして植物魔法も使えるのか?」


「グリムナさんが娘のシルフィードに教え、俺はシルフィードから教えてもらったんだ」


「古代エルフ語まで理解しているのか?」


「だから、詠唱無くても出来るって言ってるだろ。詠唱なんて知らん」


「なら、どうやって使えるようになった?」


「シルフィードに俺の身体を通じて植物魔法を使ってもらったんだよ」


「そんな事で出来るようになると言うのか?」


「人によるけどね。おやっさんも土魔法を使えるようになったし、父さんも不安定だけど火魔法を使えるようになった。ダンもね」


「と言うことはワシにも植物魔法が使えるようになるのか?」


「あれ? エルフの血を引いてるのに使えないのか?」


「植物魔法は親から子に伝えられる。ワシはエルフの母親と人間の父親のハーフじゃ。母親は人間に殺され、父親はワシが厄を呼ぶと捨てた。だから教えてもらっておらん。古代エルフ語は失われた言語。エルフの里には残ってるかもしれんが、人間の国には文献が何もない。だから使えんのじゃ」


こいつも結構ハードモードの人生だったんだな。


「なら、俺が使えるようにしてやろうか?」


「本当にそんな事が出来るのか?」


「ドワーフも使えるようになったから大丈夫じゃない?」


「ドワーフに植物魔法を使える者がおるのかっ?」


「ちょっと時間掛かったけどね。ミグルなら魔法慣れしてるからすぐに出来ると思うよ」


「た、頼むっ。ワシが植物魔法を使えんと知った時のグリムナの哀れむ目が忘れられんのじゃっ」


それは馬鹿にして哀れんだんじゃなくて、ミグルが植物魔法を使えない背景を瞬時に悟って本気で哀れんだんじゃないのか?グリムナが英雄パーティーに参加したのはシルフィードが生まれてからだから、ハーフエルフの悲哀を我が事のように思ったんじゃないのかな?


ま、それはいい。取りあえずミグルのコンプレックスの一つを取り除いてやろう。


「ミグル、俺は魔法に付いて学んだ訳でも文献を読んだ訳でもない。すべて独学だが理論は正しいと思っている。まずはこれを信じてくれないと上手くいかないかもしれない」


「どういうことじゃ?」


「魔法とは魔力を具現化するもの。それには自分の魔力を外に出す事が出来なければならない。これが理解出来ない人間が多いから魔法が使えないんだ」


「うむ、それはその通りじゃ」


「次にその魔力をどう変化させるのかだけど、魔法を学んだ者は師匠に詠唱を使って教えられる。もしくは文献を読んで覚える。これは合ってるか?」


「合っておる」


「ちなみに詠唱を唱えたら誰でもその魔法が使えるか?」


「いや、魔力が出せる者でも詠唱しただけでは発動せん。その魔法を見た事がなければ無理じゃ」


やっぱり。


「あの人を弱くする魔法は誰かに教えてもらったのか?」


「あれは魔法を研究している時に文献で発見した魔法じゃ。ワシはこの通り人より小さく弱い。身を守る為には他のヤツをワシより弱くすればいいんじゃと思っておった時に発見したのじゃ」


なんだ自分が小さいのも理解してんじゃん。こいつの言動はすべてコンプレックスの裏返しなんだな。


「今ミグルが言った通り魔法はイメージなんだよ。その魔法は人が使ったのを見てないのに使えるようになったんだろ?詠唱はそのイメージを強く持つためのものなんだ。イメージを強く持てさえすれば詠唱は必要無いんだよ。ミグルが人が使ったのを見てなくても使えるようになったのがその証拠だ」


「真か?」


なんで時代劇みたいなしゃべり方になるんだよ。そのうち自分の事をわらわとか言い出すんじゃないだろうな?


「あぁ、今まで色々と実験してきたから間違いない。詠唱で覚えた魔法はそのイメージが固まってしまっているから無理だけど、使えなかった魔法は詠唱無しで使える。グリムナさんの娘のシルフィードも詠唱で覚えた植物魔法と治癒魔法は無理だけど、俺が教えた火や水、土魔法は詠唱無しで使えるからね」


「グリムナの娘もか?」


「エルフは攻撃魔法を使えないだろ?」


「そうみたいだな」


「それも思い込みだと思うんだよね。多分教えたらグリムナさんも攻撃魔法を使えるようになるんじゃないかと思うよ。ただ、もしかしたらエルフは膨大な魔力を持つ代わりに何かしらの制限が掛かってる可能性もある。エルフ全員が攻撃魔法を使えたら世界を支配出来るからね」


「ハーフエルフはどうなんじゃ?ワシは攻撃魔法を使えるぞ」


「もしエルフに攻撃魔法が使えない制限があったとすると、ハーフエルフはイレギュラーというか選ばれた存在だね」


「選ばれた存在・・・」


「と言っても調子に乗るなよ。恐らく過去に調子に乗ったハーフエルフが居て、その利用価値に気付いた人間が利用し出したのが災いの噂の始まりだ。また同じ事を繰り返すぞ」


「う、うむ分かった」


「話は逸れたけど、俺の言った事は理解出来たか?」


「うむ、初めは信じられんかったが合点がいった」


「じゃ、今から種からの発芽、そしてそれを成長させるのをやってみるぞ」


「どうやるのじゃ?」


「俺がミグルの身体を通して植物魔法を使う。その魔力の流れと感じを掴んでくれ。次に俺の魔力の流れに乗せて自分の魔力を流す。その時に自分が植物魔法を使ってるつもりでな」


「ややこしいの」


「やりながら俺が指示を出すから大丈夫だ」


取りあえず白菜の種をいくつか庭に埋めていく。


「じゃやるぞ」


ミグルの後ろから腕を持ち、ゆっくりと植物魔法をミグルを通して流していく。


「アッ♥️」


ゴンっ


「変な声出すなっ」


「す、すまぬ。ゲイルから熱い物が流れ込んで来おったからつい声が出てしもうた。初めての経験じゃっ」


やっぱりイラっとさせやがる。慣れてきてもこいつのスキルは強力だな。



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