第414話 面倒臭ぇ

「で、責任を取りに来たんじゃないのなら雁首揃えて何しに来たんじゃ。おまけに獣人まで連れて来おって」


「俺は獣人じゃねぇ」


「嘘つけっ!どう見てもその腕は熊の腕じゃろがっ」


「これはちぎられた腕を治してもらったらこうなっただけだ」


「ふん、淫乱女の魔法も落ちたもんじゃの。アーノルドと乳くりあって色ボケしとるから腕が落ちるんじゃ」


ゴトンっ


アイナがトンファーを強く握りしめて持つところが砕けちって床に落ちるトンファー。


「止めろっ、アイナを怒らすなっ」


アーノルドが慌ててミグルを止める。


「アーノルド、怒ってなんかないわよ。そのツルペタチンチクリンが可哀想だなと思っただけよ。ハーフエルフってずいぶんと成長期が遅いのね。背中かと思ったわ」


「誰がツルペタチンチクリンじゃっ!この豊満な我が儘ボディの魅力が分からんとはの。それにしてもアイナよ、乳が老化で垂れ下がってきたんじゃないのかえ?」


「なんですってぇぇぇぇ」


「だから止めとけって。こいつの妄想癖に付き合うな。アイナはいつまでも綺麗だっ!」


「おーおー、勃たんような年齢になると言葉で愛を埋めてやらんとダメとはのぅ。アーノルドも可哀想にの」


「俺は現役だっ!そんな歳じゃねえ。ドワンと一緒にするなっ」


「ワシも現役じゃっ!」


「もう、アーノルド様もおやっさんも止めろよ。話がまったく進まねぇ。馬達を外に置いたまんまで心配だから俺は外で待ってるぜ」


「獣人よ。貴様はメス熊じゃなくて馬もいける口か?とんだ変態じゃの。エイブリックと良い勝負じゃ」


ケッケッケッケ


・・・こいつマジクソ面倒臭ぇ。皆が会いたがらないはずだ。


ダンはイラッとした心を落ち着けてゲイルがいつもやるように真似をしてみる。


「あんたみたいなのが良く英雄パーティーに居れたな?アーノルド様達もさぞ子守りが大変だったんだろうな」


「誰が子守りじゃっ!ワシの魔法が無ければこいつらはみんな死んでたんじゃぞ。ワシがこいつらの面倒を見てやってたんじゃ」


「どうだかね。ぼっちゃんと比べたらあんたの魔法攻撃なんて子供の遊びだ。まぁ実際にチンチクリンだから仕方がねぇがな」


「獣人風情がいい加減な事を抜かすなっ!ワシより優れた攻撃魔法の使い手なんぞおらんっ」


「そういうのを井の中の蛙って言うんだ。シャキールはお前の弟子なんだってな?」


「フフン、そうじゃ。あやつは中々やりおるぞ。変態の配下に成り下がりおったがの」


「その中々やる弟子はぼっちゃんに瞬殺されたぞ。赤子の手を捻るようにな。それ以来あんたの事なんて頭にねぇんじゃねーか?」


「嘘をつくなっ!この前も訪ねて来おったぞ、追い返してやったがな」


「お別れを言いに来たんじゃねーか?もう師匠は必要ありませんとな」


「きっさま・・・獣人風情がぁぁぁ」


「あんた鑑定出来るって嘘だろ?何度も獣人と言うが鑑定に出てんのか?それならエイブリック様無駄だ。帰ろう。こいつが鑑定出来るなんて嘘だ」


「貴様、まだワシを愚弄するかっ!よし、お望み通り鑑定してやるっ。覚悟せよ」


ミグルの目がカッと見開いた。


グッ


何度かぼっちゃんに鑑定されてきたとはいえ、この感覚は嫌なもんだ


「ん? 貴様の腕・・・」


「腕がどうした?」


「強い思念によって変異した腕とはなんじゃ?こんなもの初めて見るぞ。それに人間にしてはそこそこ魔力が有る。お前何者じゃ?」


「ミグル、そいつはアーノルドの息子の護衛だ。今回来たのはそいつが倒したオーガの特変異種の鑑定をしてもらいたいからだ」


「特変異種?詳しく話を聞かせろ」


ようやく本題に入れたエイブリック。



「ほう、瘴気の森近くに現れたのか。死体はあるのか?」


「頭だけな。デカいから体は燃やしたそうだ」


「わかった。報酬はその頭の片割れじゃ」


エイブリックはそれを了解した。


「おい、お前の腕をもう一度見せろ」


ミグルはダンの腕をマジマジと見つめる


「元は反対の腕と同じじゃったのか?」


「そうだ」


「で、アーノルドの息子が無くなった腕を治癒したらこうなったわけじゃな。アーノルド、お前の息子は何者じゃ?それとアイナが治癒魔法の手解きをしたのか?」


「ゲイルは私とアーノルドの子供。治癒魔法は見ただけで覚えたわ」


「見ただけでじゃと?」


「そう。さっきダンが言った通り、攻撃魔法はあなたの比じゃないわ。火魔法もファイアボールじゃなしにいきなり燃やしたりすることも出来るし、シャキールが使った雷魔法も発動スピードも威力も段違いよ」


「か、雷魔法まで使えるじゃとっ?あれは禁忌の・・・」


「ゲイル曰く、そんな大層なもんじゃないらしいわよ。攻略方法もすぐに見つけたし。もうあの魔法はアーノルド達にも通用しないわ」


「攻略方法じゃと。そんなものが有るわけが・・・」


「ミグル、本当だ。何度か実験したからな。やっかいなのは確かだが対応出来ねぇわけじゃねぇ」


「会わせろっ」


はっ?


「お前達の息子に会わせろっ」


「嫌よ」


「なんでじゃっ!」


「あんたみたいな変態に会わせたらゲイルが汚れるわっ」


乳が垂れたと言われた事を根に持つアイナ。


「フフン、アイナよ。お前の息子がワシの色香に狂うのを心配しておるのか?」


「ゲイルはモテモテなのよ。あんたみたいな貧相なババァに狂うわけないじゃない」


「誰がババァじゃっ!まだ200歳とちょっとじゃっ!垂乳のアイナと一緒にするなっ」


「なんですってぇぇぇっ!」


男5人は女同士の争いが一番恐ろしいと実感するのであった。



結局、変態妄想癖自意識過剰で魔物マニアのミグルは王室研究所で特変異種のオーガを鑑定して、ゲイルと会う事に決まる。



「おい、馬車まで臭くなる。洗浄魔法を掛けろ」


スンスン


「ワシから醸し出る清らかな乙女の香りと淫乱女、飢えたオスの臭いしかせんがの」


「お前から魔物の腐った臭いがしてんだよっ!何が清らかな乙女の香りだっ!腐った卵みたいな臭いしてやがる癖に」


「いい加減にしろっ、私が洗浄魔法を掛けてやる」


グリムナが家とミグルに洗浄魔法を掛けた。


「お前、出来るなら初めからやれよっ」


エイブリックはご機嫌斜めだ。


グリムナは馬車の客室にいるのが面倒だとダンと御者台に乗り、そのまま研究所まで馬車で移動していった。



「うむ、確かに瘴気により特変異と出ておる。」


「それだけか?」


「それだけじゃ」


「そうか、ゲイルの鑑定と変わらんな。後は魔物を変異種にする実験なんだが・・・」


「変異種にするじゃと?どうやってじゃ?」


「魔物に過剰に魔力を与えると変異種になるんじゃないかと推測している」


「ほう、どうやるのじゃ?」


「そこのゴブリンに魔力ポーションを与えてみる。それで本当に変異種になるか試したいんだ」


「面白そうじゃな。ワシはそれを鑑定してればいいんじゃな?」


「そうだ。ちなみにこの魔力回復力ポーションはどれくらい魔力が回復するかわかるか?」


「それぞれ500前後って所じゃな」


「上級魔力回復ポーションでもそれぐらいか・・・」


「人間が使えば1本で半分から1/3程度回復するんじゃ、上等じゃろ」


「このゴブリンの魔力はどれくらいある?」


「32じゃ。ゴブリンの平均くらいじゃな。魔力は満タンじゃ」


ゴブリンにポーションを渡すと手当たり次第に飲んでいく。


1本、2本、3本・・・・・10本


「変化せぬぞ」


「そうだな。見た目にも変わらん」


更に10本与えても変化せず、ゴブリンはそれ以上飲もうとしなかった。


「うむ、魔力が少し増えたの。32じゃったのが今は41じゃ。魔力ポーションを飲むと魔力が増えるのか?これは新しい発見じゃ」


「いや、それはすでに知っている」


「なんじゃとっ?」


「ゲイルがすでに発見したからな」


「なにっ?魔法の研究をしつくしたワシですらそんな事は知らんぞ」


「まぁ、後で本人に聞け。お前が知らん事も知ってるだろうし、アイツが知らん事をお前が知ってる物もあるだろう。アイツのは独学だからな」


「独学?」


「あいつに魔法の師匠はおらん。全部自分で考えて発見していったからな」


「フフフフ、こんなに楽しみな事があるとは思ってもみなかったの。エイブリック、貴様の責任はこれで許してやろう」


「初めから責任なんてなかったろうがっ」


「ねぇ、アーノルド。ミグルを本当にゲイルに会わせて良いのかしら?」


「なぁに、ゲイルなら上手くあしらうだろ。さっきダンも上手くあしらってたじゃねーか。あれゲイルの真似したんだろ?」


「ぼっちゃんならあんな風にもってくんじゃねーかと思っただけだ」


「あれ、お前がゲイルに魔法で操作されてんじゃねーかと思ったわ」


「うむ、ゲイルと話す時は気を付けねばいつの間にかやつのペースに巻き込まれてしまうからな」



アイナは心配しつつもゲイルならなんとかするだろうと皆に言われて会わせることを了承したのだった。





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