第413話 ミグル登場

「ゲイル、頼みがあるんだが」


「なに、改まって?」


アルが頼みがあると言ってきた。


「冒険者活動を引き受けてくれてありがとう」


「いや、別にいいよ。街の開発もみんな手伝ってくれるみたいだし、ベントも負けないからなとか言ってから学校に行ったから大丈夫だと思うから。で、頼みってのは何?」


「いや、冒険者をしている間、ここを拠点にさせてもらえないかと思ってな」


「ぜんぜん良いけど、エイブリックさん所に住むんじゃないの?」


「いや、あそこは父上の私邸だからな」


「ん?だったらアルの家だよね?」


「いや、俺の家は別にある」


「そうなの?」


「父上には第一妃、第二妃、とかそれぞれ別に妻がいて、子供はそれぞれの母親と住んでるんだ。同じ敷地で建物だけ別なんだ。で、俺には母親がいないから家に戻ってもつまらんのだ」


日本の大奥みたいな感じなのかな?


「お母さんは死んじゃったの?」


「俺が小さい頃にな。使用人達はよくしてくれるが家族ではない。父上の私邸に遊びに行くと他の異母兄弟の目があるし、住むのも無理だ」


王家は王家でややこしいんだな。だからエイブリック邸に行っても他の家族を見なかったのか。ずっと不思議だったんだよね。


「うちは別に構わないからいいよ。ジョンも住むでしょ?」


「あぁ、世話になる」


「俺も貰った家だし別に構わないよ。まぁ冒険に出るならあまり家には帰って来ないかもしれないけど」


「それもそうだな」


「どこで冒険者登録するの?」


「王都で登録すると面倒臭いかもしれんからディノスレイヤ領でしようかと思っている」


「なら、次に帰る時に一緒に行こうか。それとも明日とか父さん達が帰るときに行く?」


「いや、グリムナさんに言われた通り、この冬は特訓に当てる。まるで敵わなかったからな。正直二人がかりなら勝てるんじゃないかと思ったが甘かったな」


「二人とも凄かったけど、グリムナさんはもっと凄かったね。あれどうやってたんだろ?二人の剣がすり抜けてたよね」


「あぁ、俺達も煙を斬ってるのかと思った。そこにいるのに当たってないんだ」


うん、やっぱり帰って来たらグリムナに聞いてみよう。


「ジョンは剣筋は違うけど最後のは父さんみたいな剣だったね」


「そう言われると嬉しいぞ。まだ連続して使えんけどな」


「二人がやってた闘気、身体強化は魔法だって説明しただろ?何回も使えるようになるには魔力を増やすか、使い慣れないとダメなんだよ」


「使い慣れる?」


「身体強化も前より長く使えるようになってない?」


「あぁ、なってる」


「人間の魔力ってそう簡単に伸びていかないから、使い慣れてそうなったんだよ。だから必殺技も使い慣れると数使えるようになるよ。魔法と一緒」


「そうなのか?」


「そう。だから、冬の間は必殺技だけ稽古し続けるのがいいと思う。だんだん数が増えたり炎の魔剣を使える時間が長くなると思うから」


「よし、ジョンさっそく特訓開始だ!」


二人は今からやるみたいなのでアルに俺の魔剣を貸してやった。やり過ぎて気を失うなよ。



ー最後の一人を訪ねたエイブリック達ー


「ここだ。ダン止めてくれ」


「面倒臭ぇだろうなぁ」


「ここまで来てごちゃごちゃ言うな。行くぞ」


エイブリックがここだと言った家は石造りの古い家。小さくはないが見るからに怪しげな雰囲気を醸し出している。


「待て、何か仕掛けがしてあるぞ。迂闊に敷地に入るな」


グリムナが皆を止めたのでアーノルドが小石を拾って敷地に投げる。


「なんにも起こらんぞ」


次はグリムナが何やらぶつぶつと詠唱して少し大きめの岩を浮かせて敷地に動かすといきなりファイアボールが飛んできた。


「なんだこりゃ?」


「恐らくある程度の魔力があるものに攻撃するようにしてあるんだろ。まったく面倒な」


「まぁ、ゲイルみたいにいきなり燃やせるわけじゃないみたいだから、避けるか斬るかすればいいんじゃないかしら」


「そうだな。叫んでも出てこんだろうから行くしかないか」


ダンは馬車を見ておくと言ったがアイナに掴まれて連行されていく。


「アーノルドとエイブリックが先頭、ドワンとダンが両脇、グリムナが後ろね。か弱い私を守ってね」


みな何かを言いかけてモゴモゴする。アイナが手にしたトンファーが唸りを上げていたからだ。


敷地内に入るとあちこちからファイアボールが飛んで来るのをそれぞれが斬っていく。スケルトンの兵士みたいな者まで居やがるのでグリムナが蔦を絡ませて動けなくしていった。壊してしまうと何を言われるかたまったもんじゃない。


玄関のドアの前まで来て大きくノックする。


「おい、ミグル。俺たちだ。話がある。ここを開けろ」


エイブリックが叫ぶが返事が無い。


ゴンゴンと何度もドアを叩いても返事がないのでドアを無理矢理開けて入った。


「凄い臭いね・・・」


ドアを開けると異臭が漂う。


「あいつ死んで腐ってんじゃねーか?」


「ばかもん、気配があるじゃろ。奥にいるわい」


「冗談だよ。しかし臭ぇな」


玄関までちらかり放題の家の中を皆嫌そうに進んでいく。


ダンもゴブリンの巣みてぇな家だなと言いながら付いて行った。


「ここじゃろ」


ガチャ


「おい、ミグルっ」


「ギァャァァァァァァァっ!またワシを狙ったイヤらしい男どもが来おった。死ねっ 死ねっ 死ねっ!」


ファイアボールがバンバン飛んで来る。


「馬鹿っ!家の中でファイアボールなんて撃つんじゃねぇっ!」


アーノルドが慌ててファイアボールを斬り、アイナが水魔法で消火していく。


「ミグル、俺だっ!エイブリックだっ!やめろっ」


「エ、エイブリック?じゃと・・・?」


「そうだ。アーノルドやドワン達もいる。お前に会いに来たんだ」


「エイブリック・・・・」


「そうだ。俺だ」


ワナワナワナワナワナ・・・


「ワシを捨てた奴が今更何をしに来たぁぁぁぁ」


ボン ボン ボン ボンっ


また大量のファイアボールが飛んで来る。キリがないのでグリムナがミグルを蔦で拘束して詠唱出来ないように口を塞ぐ。


「わひのくひをふさひだくらひでなめふなよ」


「こいつ、心の中で詠唱するつもりだっ!アイナっ口の中に水を突っ込めっ」


「うぼぼほぼぼっ やめっ うぼぼほぼぼっ や、やめっ うぼぼほぼぼっ」


やっと大人しくなった所でアイナも水を止めた。


「な、なんひゃおまへりゃなひをひにきひゃ」


「グリムナ、もう蔦を解除してくれ。何を言ってるのかさっぱり分からん」


「俺はからめられるがそれだけだ。斬ってやれ」


ぼっちゃんなら枯らせられるのによ、とぶつぶつ言いながらダンが刀で蔦を斬っていく。


蔦から解放され、びしょ濡れになった自分を魔法で乾かしていくミグル。


「乳デカ淫乱女に命じて、ずぶ濡れプレイをワシにさせるとは相変わらず変態じゃの」


「誰が淫乱女よっ!」

「誰が変態だっ!」


「まぁいい、何をしに来た。責任でも取りに来たのかエイブリック」


(アーノルド、エイブリックは何をやらかしたんだ?)

(さぁ?寝込みでも襲ったんじゃねーか?)

(エイブリックも物好きなもんじゃて)


「お前らっ、俺は何もしてねぇって言ってんだろっ!」


「何もしてないとはなんじゃっ!ワシにあんな辱しめを・・・・」


(やっぱり)

(やっぱり)

(やっぱり)


「お前があんな所で小便してんのが悪いんだろうがっっっ!」


かーーーーっ


真っ赤になるミグル。


「可憐なワシが小便なぞする訳ないじゃろうがっ! わ、ワシの大事な所を覗き見しおったくせにーーーっ」


「男はこっち、女はあっちと決めてあったのにお前がこっちで小便してたのが悪いんだろうがっ」


「しょ、小便なんぞしておらーーんっ」


「嘘つけっ!くそもしてただろがっ」


「ほーれ、見たことかっ!やっぱり覗き見してのではないかっ」


「するかっ!でっけぇくそが落ちてたんだよっ。ちゃんと埋めやがれっ。危うく踏む所だったんだぞっ」


「くそなんてしておらーーんっ。貴様、あの時ばかりでなく今も言葉で羞恥プレイを強いるとはとんだ変態じゃっ!」


「誰が変態だっ!」


(しょーもな)

(しょーもな)

(しょーもな)


冒険者が遠征の時にその辺で用を済ますのは当たり前。男女混合パーティーでも気にしない所もあるが、アーノルド達は男女で用を済ませる場所を分けてあったのだ。魔物マニアのミグルは倒した魔物をいじくるのに夢中で取り決めを良く聞いておらず、男女の場所を間違えたのだろう。そこへたまたま用を足しに来たエイブリックと鉢合わせたみたいだった。



すっかり蚊帳の外になった5人はしばらくぎゃーぎゃーと言い争う二人を呆れた顔で見ていたのだった。

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