第412話 最後の一人

「アイナ、ベントはどうだった?」


「なんとか落ち着いたわよ。シルフィードを振り向かせたければゲイルを羨むより自分がより魅力的になるようにならないとダメよと言っておいたわ」


「まぁ、その通りだな。じゃあそろそろ寝るか。明日は帰らんといかんからな」


「そうじゃな。グリムナよ、お前はまだ残るのか?」


「明日の朝、ジョンとアルの腕前を確認してからでもいいか?」


「そうかお前は二人の剣を見たことがなかったな。まぁ、自分の目で見て確認してみてくれ」


皆がじゃあそろそろと言い出した時に


「こうやって久しぶりに皆で飲めるんだまだいいだろ?」


とエイブリックが言い出した。


「お前は忙しいじゃろ。こうやってグリムナもちょくちょくこっちに来ることになったんじゃ。そこまでがっつくこともあるまい」


「いや、なんか一人足りないなと思ってな・・・」


「あぁ、そうだな」


「ひ、久しぶりにあいつに会いにいかないか?」


「えー、お前あいつの事面倒臭がってただろ?なんでそんなこと言い出すんだ?」


「そうじゃ、お前が一番会いたくないじゃろが」


「な、仲間外れは、か、可哀想だなと思っただけだ」


いつもの様子と違うエイブリック。


「なんじゃ?言いたいことがあるならはっきりと言え。」


「・・・・、あいつの力を借りなきゃならんのだ」


「何をさせるんじゃ?」


「あのオーガの鑑定だ。あれは早急に解明しておく必要がある」


「坊主の鑑定でも詳しく分からんかったんじゃろ。あいつの鑑定で解るのか?」


「それも分からん。ただあいつの趣味と合わさったら何か解るんじゃないかと思ってな」


「あー、そういえば魔物マニアだったわね」


「シャキールが奴の弟子だったんだろ?あいつに頼めばいいじゃないか。研究所に来いとな」


「使いを出したんだが門前払いだ。シャキールが俺んとこにいるのが気に食わないらしい」


「なるほどな。お前、責任取らなかったからな」


「ひ、人聞きの悪いことを言うなっ!」


「さぁ、それはどうかしらね?」


「なんだ、エイブリックはあのハーフエルフに手を出した事があるのか。どうりで・・・」


「だ、出しとらんっ!変な妄想をするなっグリムナっ! そ、それよりお前らが一緒に来てくれた方が助かるんだ。頼むっ」

 

「俺も面倒臭いからあんまし会いたくねーんだよなぁ。エイブリックとアイナで行ってこいよ」


「何言ってんのよ。私とエイブリックが二人で行ったらもっと面倒臭いわよ」


「エイブリック、私は同行しよう。少し確認したいことがある」


「グリムナ、助かるっ」


「ちっ、しょうがないワシも付き合ってやる。アーノルド達も来いっ。全員揃ってる方がマシじゃろ。それに元はと言えばお前の息子が持ち込んだ物が原因じゃろ」


「ったく、しょうがねーなぁ。わかったよ。朝にジョンとアルとグリムナの立ち合い、その後に行くのでいいな?」


「助かる」


「ゲイル達は連れて行くのか?」


「いや、やめておこう。あれは教育上良くない」


「あいつはどこにいるんだ?」


「北の庶民街にいる。ここからはそんなに離れてはいない」


「なら、お前がノコノコ出歩くのはまずいだろ。馬車で行くしかねぇな。といって俺達も冒険者どもがうろつく場所で御者すると目立つな。トムにやらせるか」


「エイブリックを乗せるのよ。何か問題があったらまずいわ。隠れて行くならうちの紋章を外していかないとダメでしょ。ダンに頼みましょ」


「そうするか」



翌朝、ジョンとアルにグリムナが立ち合いをさせた。


「本気でやってもいいのですか?」


ジョンはグリムナに問う。


「二人同時でいいとか痛い目にあってもしりませんよ」


アルはエイブリック譲りの強気が出てきたようだ。俺も去年の闘技会でのデモンストレーション以降の二人を見ていない。あの時のエイブリックからアドバイスを受けて更に鍛練を積んだのだろう。卒業までずっと騎士学校で断トツだったみたいだからな。


審判はアーノルドだ。もし本気でヤバそうなら止めるだろうし、怪我してもアイナがいるから心置きなくやって問題ない。剣は木剣だけどね。


「始めっ」


ジョンとアルが金色に光った。最初から全力で行くんだな。


二人は正面から行くと見せかけて二手に別れてグリムナを左右から挟み撃ちする作成だ


「貰ったっ!」


アルが叫んで二人が同時に剣を振り下ろす。


フォンッ


グリムナを斬り裂いたように見えたが二人には手応えがない。


「それだけか?」


その場にグリムナはいるのに剣は空振りをしたようだ。


「まだまだっ!」


そこから二人の連撃が始まる。


ひゅぱぱぱぱぱっと剣が空気を斬り裂く音が聞こえるがグリムナには当たらない。ただその場に立っているだけのように見えるが剣がグリムナをすり抜けていくようだ。


「くそっ、まるで煙を斬っているみたいだ。確かに当たっているはずなのに・・・」


アルが下唇を噛む。


グリムナは自分に結界でも張ってるんだろうか?あんな事あり得るのか?


ジョンは連撃を止め、静かに上段に構える。凄い精神統一だ。周りの空気が止まったように見える。


ジョンの剣先が霞んだと思った瞬間にグリムナがその剣を掴んでいた。


「うむ、合格だ。これが真剣なら掴むのは不味いからな。アルもこのような技があるなら早く出せ」


「くっそぉぉぉっ!」


アルは木剣に炎を纏わせた。


ボオウ


木剣は一瞬で消し炭になり、アーノルドは終了を宣言した。


ハァハァハァハァ


二人は肩で息をしている。ジョンは極度の集中と身体強化による魔力枯渇。アルは純粋に魔力が枯渇しかけているようだ。


「うむ、二人とも合格だ。足手まといにはならんだろうが、強敵が複数いると死ぬな。何発でもその技が出せるように精進しろ」


「おぅ、二人とも成長したな」


審判をしていたアーノルドが誉める。


「うむ、アーノルドとエイブリックが子供の頃はこんな感じじゃったんじゃろうな。よし、ワシが二人の剣を打ってやる」


ドワンも新たに二人の実力に合った剣を作ってやるようだ。


二人を鑑定していないが、ジョンにはアーノルドと同じスキル神剣ってのを会得出来るのかもしれない。スキルを会得出来る条件は知らないがそんな気がする。アルもエイブリックと同じ炎の魔剣使いになれるだろう。


「しかし、アルがエイブリック譲りなのはわかったが、ジョンの剣筋は綺麗だな。アーノルドの息子とは思えん」


「うるせぇ。ジョンは基礎からみっちりやったからな」


「その基礎もお前が教えたのだろ?なら尚更じゃないか」


アーノルドは生きる為に剣を持ち、ジョンは志の為に剣を持った。親子の血というより、そういう違いが剣筋に現れるのかもしれないな。


俺はダンに正統な剣筋を教えられたのにアーノルドと同じ剣だと言われた。解せぬ。


それにしてもグリムナもやっぱりすごいな。後で何をやったか聞いてみよう。



「じゃあ俺達は出掛けてくる。ダン、御者を頼む。ゲイル達は留守番だ。たまにはのんびりと屋敷で話でもしておけ」


「どこ行くの?」


「子供には教育上良くない所だ」


アイナが居なければ娼館かな?とか思うがまさかな。


アーノルドの馬車の紋章を外して全員でどこかへ出掛けて行ってしまった。勝手に出歩くなよと言われたので大人しく留守番だ。


暇だし、ジョン達とこれからの話をしておくか。



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