第411話 寿命

ドン爺達だけ帰る事になり恨みがましい目でエイブリックをにらみながらダンに送られていく。


アーノルド、エイブリック、ドワン、ダンと俺で風呂に入りながら今後の事と魔力総量が7000で止まった事、ハイエルフにならなかった事を話す。


「そうか、お前は7000で止まってしまったか」


「そうだね。ハイエルフにもならなかったし、順調に身体も成長してるからやっぱり違うんだよ」


「うむ、お前の鑑定が確かなら残念ながら可能性は低くなってしまったな」


「だからさ、シルフィードとの婚約も考え直した方がいいと思うんだよね。別にエルフの王族とかでなくても手伝えることはやるし。シルフィードは成長具合から見てもグリムナさんの血を引いていることを見ても明らかに俺より寿命が長いと思うんだ。すぐ死ぬのが分かってる者と一緒にさせるのはどうかと思うよ」


「お前はシルフィードが嫌か?」


「嫌とかそんな問題じゃないよ。もしシルフィードと俺が結婚して子供が生まれたとする。ハーフエルフと人間の子供だ。人間になる可能性の方が高い。そうなればシルフィードは俺だけでなく、子供まで死ぬのを見送る事になる。孫が出来たとしてもその孫までもね。そんな可哀想な事をしたくないんだよ」


俺の話を聞いてドワンがしんみりとしだした。


「おまえ達、すまんがゲイルと二人で話をさせてくれんか」


グリムナがそういうとアーノルド達は手を振ってのぼせんなよとあがっていった。


「ゲイルよ、お前は前世の記憶があるから結婚したくないのか?」


「それもある。俺は向こうで結婚して子供を育てた。先に逝ってここに来たわけだけど、その記憶がはっきりと残っている。だから心は既婚者なんだ」


「その割には寂しがったりしないんだな」


「自分でも不思議なんだけどね。ちっとも寂しくないんだよ。死にそうになったときに親としての役割が終わったと思って、もう頑張らなくていいかと思っちゃったんだよね。普通は死にたくないとか最後まで抵抗するらしいんだけど、俺にはそれが無かった。だから予定より早く死んだらしいんだけど」


「俺はナターシャが先に逝くのを知ってても一緒になりたいと思った。まぁ、こんなに早く逝くとは思ってなかったがな。恐らくシルフィードはお前が先に逝く覚悟をしているだろう。もしかしたら娘のシルフィードも俺より先に逝くかもしれん。お前との子供が生まれてその子供もな」


グリムナもしんみりしている。


「しかしそれでもいいのだ。肉体は滅びようとナターシャは俺の中で生きている。早いか遅いかの違いはあれど生き物は全て死ぬ。ただ寿命が長いものがそれを見送り、心の中でその者達を生き続けさせる。元の世界ではお前が残した妻や子供達の中でお前は生き続けてるだろう。だからお前は元の世界の者ではない。ゲイルなのだ。記憶が残ってようと残ってまいとな」


よく意味はわからないがグリムナの言いたいことは解る。もう過去の記憶に囚われるなと言いたいのだろう。


「エルフやドワーフが人間と関わる時には必ずや同じ問題に当たる。だからといってお前は関わらない方がいいと思うか?」


「いや、そんな事は無いよ」


「なら、種族の寿命の違いに拘るな。シルフィードを一人の女性として見ろ。種族に拘らないのはお前の考え方なんじゃないのか?」


・・・

・・・・

・・・・・


「うん」


「お前の記憶は別として、まだ子供なのは理解している。女性を意識する年頃になったら改めて考えてくれ」


「わかった。俺の気持ちがどうなるかわからないけど、そうするよ」


グリムナも良いやつだよな。種族は関係ないと言いながら拘ってるのは俺の方か・・・


例えは悪いがペットが先に死ぬと分かってても飼うのと似ているのかもしれん。一緒にいる間はお互い愛情を持って接するのが重要だ。子供の頃から飼ったペットを全部覚えている。あいつらは異世界に来ても俺の中で生きてるってことか。


「さて、そろそろ出るか。明日はあの二人が足手まといにならんか確かめんといかんからな」


えっ?


「ジョンとアルの事だ。お前とダンにはシルフィードを任せておける。だがあの二人の実力はどんなものか知らん。親として確かめるのは当然だろう。せめて足手まといにならんくらいじゃないとな」




ーゲイルとグリムナが風呂で話している時の食堂ー


「ドワン、どうしたんだ?さっきから黙って飲みやがって」


「坊主の話じゃよ」


「寿命の件か?」


「ワシはお前らより先に知り合った人間もおる。魔物にやられて死んだやつ、事故で死んだやつ、寿命で死んだ奴。見送る方は辛いもんじゃて」


「そうだろうな」


「仕方がないもんじゃとは思っておったが、坊主がワシより先に死ぬと思ったら悲しゅうなってしもて・・・」


ホロホロと泣き出すドワン。


「おやっさん、寿命が同じでも大切な奴に先に逝かれることもある。死んでもいねぇうちに泣くなよ」


「そうだドワン、ゲイルはピンピンしてんだ。死ぬ想像なんてすんなよ。じじいのお前が先に死ぬかもしんねぇじゃねぇか」


「え、縁起でもないこと抜かすなっ。誰がじじいじゃっ アーノルド」


「ほれ、みろ。死んでもいねぇうちから想像されたら嫌だろうが。みな覚悟は必要だが死んでもいねぇうちから先に悲しむ必要もねぇ」


「そうよドワン。悲しい酒嫌いでしょ」


「あぁ、そうじゃったな。すまん、ワシが悪かった。」


「アーノルドよ、ゲイルとシルフィードの事はどうするんだ?グリムナの野郎、婚約の件をどんどん事実化していってるぞ」


「お互い好きにすりゃいい。惹かれ合うなら一緒になればいいし、そうでなけりゃくっつかん。グリムナもエルフの国うんぬんじゃなくて親心からだろ。シルフィードはゲイルにべったりだからな。それが恋心か依存かは俺は知らんが、グリムナは恋心だと思ってるみたいだからな」


「ミーシャもゲイルにべったりよ」


「ゲイルに聞いたらあっさりとミーシャの事を好きだと言った。お互い好きなのは確かだろうが恋心じゃねーだろ。シルフィードと婚約と聞いてもミーシャは焼きもちひとつも焼かねぇし、ゲイルもミーシャに言い訳するでもねぇ。お互いその気ならそんな風にならん。恋心とかそんな物を越えた好き同士なんだろよ」


「アーノルド、シルフィードがゲイルに依存とはどういうことだ?」


「シルフィードに取ってはゲイルは闇から救い出してくれた神様みたいなもんなんだよ。それにいつでも身体を張って自分を守ってくれる。惚れてるかもしれねぇし、自分を守ってくれる神様みたいなもんかもしれねぇ。それはゲイルとシルフィードが大人になってお互い男女を意識し出したらどっちか解るんじゃねーか」


「お前とアイナがそうだったのか?」


「う、うるさいっ!俺とアイナの話はどうでもいいだろうがっ」


「なんだアーノルドがのろけ話をしてたのか?ちょっと風呂から上がって来るのが早かったみたいだな。嫌な所に来てしまった」

 

今の話を聞いたグリムナは嫌そうな顔をする。


「してねぇっ!ゲイルはどうした?」


「もう寝るってよ。食堂に行ったら酔っぱらいどもがいるから顔出さないとよ。俺もそうすれば良かった」


「だからのろけ話なんてしてねぇって言ってんだろっ。それより飲めっ」



元英雄メンバーが揃って酒を飲む。一人欠けているが誰もそれを口に出さずに言いたいことを言い合って飲むのであった。



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