第410話 それぞれの道

「卒業おめでとう」


「よう、ゲイル。ありがとう。久しぶりだな」


「おまえまた大きくなったな。最後の夏休みだってのにお前が居なかったからすることがなかったぞ」


ジョンとアルも元気そうで何よりだ。


「グリムナ、紹介しよう。俺の長男のジョン、エイブリックの長男アルファランメル。今日騎士学校を卒業した。 こいつは元パーティーメンバーのグリムナだ。今はグローリア王国の王であり、シルフィードの父親だ」


二人とも丁寧にグリムナに挨拶をする。


「二人の息子とは思えんな。実にしっかりしている。ゲイルはお前の子供らしいがな」


どういう意味だよ?


「ベントはどうした?」


「もうすぐ来ると思うよ。今日は屋台を他の人に任せて来るって言ってたから」


「そうか。あいつも頑張ってるんだってな」


「そうそう、屋台も人を雇ってやってるよ。帰って来たらそんな事になってたから驚いちゃった」


「ベントはベントで動き出したんだな」


「二人はこれからどうすんの?」


「あぁ、それなんだがな・・・」


ジョンは少し言葉を濁した。何かあるんだろうか?


「ゲイルよ、その話は後にしよう。父上が来てから話す」


アルもエイブリックにまだ何をしたいか言ってないのか。王家は色々とありそうだからな。


それから二人にはしょりながらグリムナ探しの旅の話をした。結界やダンの過去のことは伏せた。


「そうかぁ、やっぱり過酷なんだなあ」


「そうだな、ぼっちゃんが居なけりゃもっと辛い冒険だ。まぁ、普通はそうなんだがよ。冒険の最中に普通に寝泊まり出来て風呂入れたりとか旅行みたいなもんだ」


そう言ってカッカッカッカと笑うダン。そう普通なら良くても魔道テントくらいしか用意出来ない。俺達には魔道バッグもあり、土魔法で小屋を作れるのだ。水の心配もない。きつかったとはいえ、エイプとゴングがいない時は旅行みたいなものだったのだ。


そうこうしているうちにベントがやって来た。ダンもそろそろ行ってくるわと、馬車でドン爺とエイブリックを迎えに出た。



パーティーの準備も整い、ジョン達がうずうずしているとドン爺達がやって来た。お忍びということで護衛はナルディックのみ。衛兵団長のホーリックは膝をついて出迎える。ソドムとフンボルトは恐れ多いとパーティー参加は辞退していた。使用人達もガチガチだ。


「ゲイルよ、遠慮無く参ったぞ」


ダンが使用人に何か包みを渡したらミーシャとシルフィードが部屋に行ったので新しい服を渡されたのだろう。サラも参加すればいいのにベントの部屋で待機するとのことだった。


ジョンとアルへの卒業祝いの言葉はドン爺から始まり、エイブリック、アーノルドと続く。乾杯の音頭はグリムナにお願いした。ドワンはそういうのが苦手らしい。といってもグリムナも得意ではなかったみたいだが。


ミーシャとシルフィードは新しい服を着てきた。貴族のドレスみたいなのを想像していたが、普段でも着れるようにと可愛らしいワンピースとボレロみたいなやつだった。


とても可愛らしい。


ジョンとベント、アルまでもがシルフィードに釘付けだ。


ミーシャを気に入っているドン爺もホクホク顔だな。



今日のメニューはアルのたっての希望でハンバーグ、ピザ、フライドポテトといった、ザ・ファミレスメニューだ。ハンバーグに旗立ててやったら喜ぶんじゃなかろうか?


まぁ、それ以外にもローストビーフや唐揚げとかもあったけど。


さんざん飲み食いした後にポット作のスクエア形デコレーションケーキの登場だ。ふんだんにイチゴが使われている王道のケーキ。これは俺に対しての挑戦だろうか?ごまかしが効かないケーキは職人の腕がよく分かるからな。


ポットによってケーキが綺麗に切り分けられていく。


「ゲイルさん、どうぞ。本日のデザートでございます」


ポットの野郎、緊張して手が震えてやがる。なんで王や王子には普通に渡せて俺には手が震えてるんだよ?


ありがとうと礼を言って一口食べた。


うん、ふんわりと口の中で溶ける生クリーム。飾られたイチゴは甘く、中のイチゴはやや酸味が利いている。スポンジもキメが細かくとても美味しい。素晴らしい!元の世界の美味しいケーキと遜色がないというかこっちの方が旨いんじゃないか。俺にはこんなの作れないからな。


「めちゃくちゃ旨いよ!もう完璧って言っていいよ!」


「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございます・・・」


ポロポロと泣き出すポット。


「おいおいおい、何泣いてんだよ?」


「いえ、自信はあったんですが、美味しいと言ってもらえてほっとして・・・」


「なんで俺が旨いといってほっとするんだよ。エイブリックさんに誉められて嬉しいならわかるけどさ」


「ゲイル殿、ポットはゲイル殿が厨房に来られるまでパッとしないコックだったのです。それがお菓子作りを教えてもらい、ずっと精進して来ました。弟子ともいえるものまで出来て、それが今報われたのです」


ヨルドがこう説明してくれる。


「いや、本当に美味しかったよ。もう俺なんかよりずっと上手に作れるよ。さすがエイブリックさんところのパティシエだね」


羨ましい。こんなケーキなら俺も毎日のように食べたい。


「で、ゲイルよ。ポットに店をやらせてやってくれ」


は?


エイブリックがポットに店を持たせろと言ってきた。


「そんなのエイブリックさんとこ困るじゃん」


「今こいつが育ててるやつが代わりにうちのを作る。あいつはちと訳有りでな。庶民街の店をやりたいと言ってたがそういうわけにもいかんのだ。ポットももっと自分の腕を試したいと言ってるからちょうどいいだろ。今日が最終試験だったってわけだ。合格でいいな?」


「合格もクソもないよ。いまこの国で一番美味しいケーキ作れると思うよ。自分の腕を試したいなら貴族街で店やった方がいいんじゃない?」


「ここを美食の街にするんだろ?そうなりゃ味の解る奴はここに集まるようになる。貴族街は高級ってだけで何でも良い奴等が多いからな。西の街で店をやりたいのは本人の希望だ」


「そりゃ願ってもないことだけど」


「ただし、新しく出来たものはこっちにも教えろ。あと社交会は手伝え。俺からの条件はそれだけだ。まぁ白砂糖を使うから庶民には手が出ないかもしれんが、そこはお前がなんとかしろ」


「あ、砂糖の件はなんとかなると思うよ。もう準備始めてるから」


「何っ?サトウキビの栽培に成功したのか?」


「いや、あれは上手くいかなかった。大規模な温室を作るか、俺が魔力を注ぎ続けないと無理みたいなんだ。その代わりの植物をグリムナさんの所でもらってきたからそれで作るよ」


「ほう、そんな物があるのか。その砂糖は売るのか?」


「ディノスレイヤ領とこの街の業務用だけね。安価で一般流通すると南の領地が困るでしょ」


「そうだな。そうしてくれると助かる。南にはそのうち他の作付けが出来るように伝えておこう」


エイブリックはこういうのに話が早くて助かる。


「そうだ。二人はこれから何をするのかエイブリックさん達の前で話すんだよね」


「う、うむ。では話す。父上、お願いがあります。私は成人するまでの間、ジョンと冒険者をしたいと思っています」


「冒険者に? 何故だ? お前は公務の見習い、ジョンは騎士見習いになるんじゃないのか?」


「そうですけど、父上のように見聞を広げたいのですっ」


「しかしなぁ・・・」


「いいじゃねぇかエイブリック。たった2年間だ。それから見習いやったって間に合うだろ?」


「まぁ、それはそうなんだが・・・、剣士二人でやるつもりか?」


エイブリックの疑問も当然だ。剣士二人。アーノルドとエイブリックの二人とかなら戦闘はなんとかなるだろう。ただ冒険には飯作ったり寝る場所を確保したりとか色々ある。アーノルド達より劣る二人でやるなんて無謀だ。


「ゲイルが一緒に来てくれないかなと思ってる」


は?


アルがとんでもないことを言い出した。


「いや、俺は街の開発があるし、エルフやドワーフが来たら迎えないとダメだし・・・」


「ゲイルそれは分かってる。だが俺達にの時間はこの2年間しかないんだ」


ジョンもそのつもりか。


身分がなければ成人してからでもいいけど、先が決まってる二人に与えられた時間はその通りだ。しかし、俺も自由の身ではない。


「短期で行くやつなら出来るかもしれないけど、遠征は無理かも・・・」


それを聞いたアーノルド


「ゲイル。お前も2年間冒険者をやってこい。エイブリック、それならいいか?」


「西の街はどうする?」


「なぁに、やることをきっちり他の奴等に伝えておけ。どうせやるのは周りのやつらだろ?エルフやドワーフも初めはディノスレイヤ領で暮らすのを試せばいい」


「ゲイル、俺も卒業してからと思っていたが、そういうことなら学校に通いながら西の街の開発を手伝うぞ」


ベントも二人を応援しだした。


「俺、あと1年ちょっとしたら義務教育始まるんだけど」


「先に卒業試験受けとけ。それで問題無いだろ」


そんなこと出来るのね・・・。まぁ、俺も通う意味はないから行きたくはなかったけど。


「横から口を挟んで悪いが、その冒険にはシルフィードも連れて行くんだな?」


グリムナが質問してきた。俺としては冒険に行くとしても王都かディノスレイヤ領に置いておきたい。シルフィードが二人の冒険者活動を手伝う必要もないからあえて危険な目に合う必要もない。


「はいっ!私も行きますっ」


「えっ?シルフィードも?」


ジョンとベントとアルの声が揃う。


「シルフィードも冒険に行くの?」


ベントがわなわなとして問いかける。シルフィードはここに居ると思ってたのだろう。


そこへグリムナが答える。


「ゲイルとシルフィードは婚約をした。共に苦労するのは当然だろう。アーノルドとアイナもそうだった」


グリムナの野郎、完全に周りを固めて来やがった。


「ええええええええーーーーーっ!」


ジョン達はこの話を知らなかったので盛大に驚く。特にベントは魂がめぐみの元に行ってしまったんじゃないかと思うぐらいの放心状態だ。


「ゲ、ゲイル・・・」


「な、何かな?ベントくん・・・」


「やっぱり、お前のことキライだーーーーっ!」


あー、ベントの野郎泣きながら部屋に行っちゃったよ。それにやっぱり嫌いってなんだよっ


「どうすんのさこれ?」


「さあ、お前がなんとかしろ」


グリムナの野郎他人事だと思いやがって・・・



ベントの所へはアイナが様子を見に行ってくれたので任せておく。


その後色々と話をして、成人までと期間を設けてアルとジョンの冒険者活動が認められたのであった。






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