第406話 文化ってなに?
元英雄パーティー達とドン爺は食堂で飲みながら話をするとの事だったのでダン達と部屋に戻ろうとするとエイブリックにむんずと掴まれた。
「父さん達と飲むんだろ?俺関係ないじゃん」
「いいから来いっ」
エイブリックに連行される俺を手を振って見送るダン達。こういう時は本当に薄情だよな。
「さてゲイルよ、これから西の街でやろうとしていることを教えてもらおうか」
「前に言ったじゃん」
「エルフやドワーフが増えるなら状況が変わっただろ?何をやらせるつもりだ?」
「どんな人が来るのかわかんないじゃん」
「お前はどんなやつが来て欲しいんだ?本人の希望と合致するならそれが望ましい」
それはそうか。
「エルフは歌が上手いとか踊るのが好きとか目立ちたい人がいいな」
「何をさせるつもりだ?」
「ミュージカル俳優とか歌手とかのエンターテイナー。エルフがやれば100%人気が出ると思う。楽器が演奏出来れば尚いいけど、それはこの街とかにも居そうだから演者がいいね」
「ミュージカルとはなんだ?」
グリムナは俺が話す事をまったく理解出来ない。
「歌いながら劇をするんだよ。貴族街で劇やってるよね。あんな奴を歌いながらするんだ。他は演奏と歌だけとか」
「楽器とは吟遊詩人が使っているようなやつか?」
今度はエイブリックだ。
「いや、新しく作る。複数作りたいんだけど俺もなんとなくしか仕組みがわからないし俺自身は使えない。音楽が出来る人とそれを元に楽器を作れる人が必要なんだよ」
「それをドワーフに作らせるのか?」
「そう。おやっさん音楽得意?」
「いや、まったくじゃ」
「俺もまったくなんだよね。楽譜とか書けないし読めないし。だからみんなの協力があれば出来るかなっていうものだよ」
「坊主がまったく出来んもんなんて無理じゃろ?」
「いや、こういうのが得意な人は絶対に居るんだよ。ただこういう仕事がほとんどないから埋もれてるだけなんだよね。それに音楽があればドン爺が王宮で出てくる時とか盛り上がる演出とか出来るよ」
「ほう、どんなのじゃ?」
パッと出てくるBGMか無かったので思わず炎のファ◯ターを口ずさんでしまう
ちゃーちゃーちゃーん ちゃーちゃーちゃーん♪
「ほう、初めて聞くが何かこう興奮してやる気が出てくるのじゃ。よしエイブリックよ。音楽が得意な者を探せ。身分は問わぬ」
え?
「王宮でもやるの?」
「お前が考えた楽器とやらを作るのにそういうのが得意なやつが必要なのであろう?せっかく作れても商売にならんとダメではないか。売り先はたくさんある方が良い」
それはそうだ。
「ゲイル、笛なら吹けるやつがいるぞ」
おお、エルフは笛が吹けるのか。
「それなら他のも覚えやすいと思うよ。あとは打楽器とか」
棒を2本作ってテーブルを叩いてみせる
タッタ タッタ タラララララタッタ
なんかの行進の初めに叩く小太鼓のリズムだ。
「そういうのならドワーフに好きな奴がおるぞ」
酒飲みながら茶碗叩くとかじゃないだろうな?
「とまぁ、本当に出来るかどうかわからないから。取りあえずは歌と演技とかだけでもいいんだけど」
「かなり時間が掛かりそうだな」
「こういうのは時間が掛かるよ。ゆっくりでもいいから作り上げて行ければこの国の文化になると思うんだよね」
「文化とはなんだ?」
グリムナの質問はもっともだ。言葉で説明するのは難しいものなんだよね。
「うーん、色々な意味を含むんだけど、国の生き様というか有り様とか特徴とかそんな感じかな。食べ物とかもそう。領でも特徴あるじゃない?そこに根付いてるものが」
「音楽とどうつながる?」
今度はエイブリックからだ。
「生きていくには必要ないものだけど、あれば豊かな生き方が出来る。酒も旨い飯も無くてもなんか食べられる物があれば生きていけるでしょ。でも旨いものがあった方が楽しい。そんなものだよ」
「なるほどな。国民を精神的に豊かにするってことか?」
「そうそう」
「上手く楽器が作れるようになったら音楽学校とかあればいいよね。王宮楽団に入れたり、劇団に入ったりとか」
「そいつらはどうやって収入を得るんだ?」
「劇場で働いている人と一緒だよ。お客さんがお金払って見てくれるようになれば稼げるし、人気がなければ食べていけない。冒険者と同じだね。弱いと食べていけないでしょ。でも人気が出れば大金を稼げる。王宮で楽団を作るなら給料制だね。コックとかと同じ」
「なるほど、雇いたがる貴族が出てくるかもしれん」
「多分出てくるよ。社交会とかでも音楽が流れてれば雰囲気いいしね」
前から思ってたけどこの世界というか国は音楽というものがほとんどない。とても不思議だ。元の世界ならどんな時代でも場所でも音楽というものがあったからだ。楽器も大昔からある。
それがほとんど無い世界に音楽を根付かせるのは難しいかもしれないけど、ちょろっと口ずさんだやつでも良いと思ったなら成功する可能性は高いよね。問題は俺に音楽の知識がないということだ。まぁ得意な人が出てくるだろ。
「他は何をするんだ?」
「宿屋、料理屋、甘いもの屋とかかな。それと的当てとかクジとか輪投げとかの遊ぶ所」
「なんだそれは?」
「お金払って簡単な遊びをして上手い人は景品もらえるとかだよ」
適当に輪投げを土魔法で作ってやる。
「輪っかを投げてあの棒に入れるんだよ。棒によって点数変えて何点以上で景品もらえるとかにするんだよ」
「こんなの簡単じゃないか」
細い棒はね。点数が高いのは棒が太いから難しいよ。
くそっ
あーっおしいっ
あーあー、なかなか入らないからムキになってるよ。
「それ銅貨1枚で3回しか投げられないからね。3回投げたら点数リセットされるから」
ムキになる元英雄パーティーと王様。
「はいはい、グリムナさん魔法禁止だからねズルしちゃダメだよ」
魔法で操作しようとしても俺にはわかるからね。
チッと舌打ちしてやり直す。
それにしても何回やるんだよ・・・
「はい、本日の営業は終了だよ」
「もう少しで入るんじゃっ!」
ドワン、そんなムキになるなよ・・・
「今ので銀貨1枚稼げたよ」
「何っ?」
「観光客がお金落としてくれるいい商売でしょ。原価は安いけどなかなか手に入らないような物を景品にしたら勝手に儲かるよ。リンスとかちょうどいいね。蒸留酒のミニボトルとかラー油とか買えば高いけど、俺達には安く手に入るものがたくさんあるから」
「的当てとはなんだ?」
「弓矢で的を狙うんだよ。」
「エルフ達なら簡単に当てられるだろ?」
「まっすぐ飛ばない矢でやるから難しいと思うよ」
「そんな汚い手を使うのか?」
「汚くないよ。見ためにもまっすぐ飛ばないようにしておくから。わかってても弓に自信があるほどムキになる。冒険者向けの景品置いとけば死ぬほどやるだろうね。全回復ポーションとか」
「坊主はえげつないこと考えよるな」
「1回銅貨1枚ってところがミソなんだよ。1~2回失敗しても損した気にはならないでしょ。でもムキになるとあっという間に銅貨10枚~20枚くらい使ってしまう。時々成功する人が出てくるとよし俺もってことになるよ」
・・・・
・・・・・
みんなドン引きするけど、こういう遊びも有る方が盛り上がるのだよ。
「うむ、客がドワンみたいなものばかりだと全財産使う奴が出てくるかもしれんな」
その時は何か救済措置か挑戦上限とか決めた方がいいな。
ま、メインは温泉宿と各種食べ物屋だ。役者じゃなくても農業を手伝ってもらえれば御の字だな。
ゲイルはこれから増えるであろう人達になにで活躍してもらおうかと考えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます