第404話 凱旋か街宣か
釣りから帰って商会に寄った。
「坊主、お前も自分の馬車がいるだろう。作っておいたぞ」
なんと馬車も必要だなと思っていたけど作ってくれてあったのか。さすがはドワンだ。
あ・・・・
トゲトゲは無いものの黒光りする車体にでかでかと入った旭日旗の紋章。前後左右に付けられた魔道ライトがスピーカーみたいに見える。
ちゃんちゃんちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪
あぁ脳内に巡る軍艦マーチ。
「この紋章はお前のか?」
「そう・・・」
「良いデザインではないか」
「ありがとう・・・」
グリムナはほうほうと旭日旗を見てうなずいていた。この世界の人、こういうの好きだよね。
屋敷に戻ってアーノルドに相談する。
「ジャックを王都に連れてっていいかな?」
「あいつがいいなら構わんぞ。お前達の馬もいないし、ドワン達の馬もいなくなったからな」
ボロン村から来た10頭の馬は全て買い取られていた。ミゲルとロドリゲス商会が5頭ずつ買ったらしい。俺も西の街の開発に欲しかったんだけど、次の入荷に期待しよう。
ジャックは二つ返事で王都に来ると言ってくれたのでコボルト達と一緒に連れていくことにした。
翌朝、アーノルドの馬車と俺の馬車がコボルト達を引き連れて王都に出発した。
王都に着くと閉まっていた門が開き、アーノルドの馬車と魔獣を従えた俺の馬車が入る。
ざわめく王都の住民。
小熊亭の前ではなく大通りを通る為、注目度は抜群だ。
なんだあのデカい魔獣は?
あんなのを従えているのは魔王じゃないのか?
まだ俺の紋章は誰なのか知らない人も多い。衛兵達はわかっているので剣を胸の前に構えて出迎えてくれている。大通りを歩く人もモーゼよろしく避けてくれた。
なんのセレモニーだよ・・・
アーノルドの馬車はトムが、俺の馬車はジャックが御者をしてくれているのでまだ良かった。
そのまま進み俺の屋敷に到着する。
「お帰りなさいませ」
執事のカンリムが出迎えてくれた。
「ただいま。こちらはグリムナさん。しばらくここに居てもらうから」
「かしこまりました。皆様お部屋にご案内いたします」
すぐにメイド達が呼び集められてそれぞれを部屋に案内する。男の使用人達は荷物を運んでくれた。
「ジャック、お前もここに住むだろ?」
「ぼ、ぼっちゃん。ここディノスレイヤの屋敷よりデカいじゃねーか・・・」
「そうなんだよね。だから部屋たくさんあるよ」
「い、いや、そういう意味じゃねぇ。出来れば普通の所がいいな・・・」
「そうなの?じゃあどっか探すわ」
まぁ、街の方がコボルト達を連れて行くのにはいいかな。
ソドムやフンボルト、コックの講師シュミレとかにグリムナを紹介していく。
シュミレも俺の帰りを待ってエイブリック邸に戻る予定にしていたらしく、今夜の飯はパリス達に任せるようだ。俺がいない間も王の護衛騎士達が良く来ていたらしく、客慣れしたようだった。
「おぉ、やはりお戻りでしたか。大きな魔獣を連れた馬車が王都に入ったと報告を受けましたので慌てて戻りましたよ」
衛兵団長のホーリックは報告を受けて急いで帰って来たようだった。
またグリムナを紹介して飯を食いながら今後の事を皆に説明していく。
「なるほど、ではエルフやドワーフが王都に増えるということですな」
「多分そうなると思う。特にエルフに会ったことある人ってほとんどいないでしょ。もめ事が起こらないように気を付けて欲しいんだ」
「かしこまりました。見た目でも解ると思うのですが何か解りやすい方法はありませんか?」
美形と言うことと耳が特徴的だと言う以外違いがないからな。あとエルフだから丁寧に扱えというのもなんか違う気がする。でも過去の悲劇の事もあるからなぁ・・・
「グリムナさん。エルフがいる事が普通になるまで俺の客人ということにしてもいいかな?」
「どういうことだ?」
「エルフだからとかじゃなくて、他種族が普通に生活している状況を作りたいんだよね。でもエルフも王都の人もお互い慣れてないだろ。生活習慣も違うし考え方も違う。初めは揉めるかもしれないんだよね。だから俺の客人と言うことにしておけば防げると思うんだ。で、お互い慣れていけばいいかなと」
「あの獣人の娘みたいなやり方ということだな?」
「そうそう」
「わかった。お前に任せる。アーノルド、お前の所はどうする?」
「こっちは初めっからそのままでいいだろ。住む所とかは用意してやる。お前ら金持ってないだろ?初めの一年間は全部面倒見てやるから、それで生活基盤を作ってくれ。王都は外から来る奴も多いしゲイルの言ってたやり方の方がいいだろ。ゲイルも住むところとかは用意してやれよ」
「もちろんだよ。ホーリックさん。エルフがここに住むようになったら、俺の貴証を持たせるよ。それなら解りやすいでしょ」
「わかりました。では皆に通達しておきます」
「ドワーフはどうするんじゃ?」
「ドワーフは会ったことある人多いから大丈夫じゃない?」
ダメじゃエルフだけズルい。用意しろとのことだった。
皆の分も作って渡しておこう。これがあれば門が閉まっても入れるし、王都に入る為のお金もいらない。
翌日エイブリック邸に向かう。ドン爺もミーシャとシルフィードに会いたがるだろうと思って連れてきた。
「おぉ、ゲイル様。よくぞご無事にお戻りになられました」
「ご無沙汰だね執事さん」
「ええ、本当に」
エイブリック邸の執事の胸元に前にあげた万年筆がチラリと見えた。良かった使ってくれているようだ。
「こちらの方がグリムナ様でいらっしゃいますね」
「そうだよ。エイブリックさんの元パーティーメンバーであり、シルフィードのお父さんでもあるよ」
「ようこそおいで下さいました。部屋に案内いたします」
「おい、アーノルド。昨日から思ってたが、お前よりゲイルの方が当主らしいんじゃないか?」
「そうだな。すでに身分も政治力も俺より上だぞ。なんせ各種族の王族だからな」
あっはっはっはと笑い飛ばすアーノルド。アーノルドにとって身分や政治力なんてどうでもいいのだ。
しばらく部屋でエイブリックの帰りを待つ事になったので、俺だけ厨房に行く。新しく手にいれた種と醤油を分けるのだ。
「ヨルドさんお久しぶり!」
「おぉ、ゲイル殿お待ちしておりましたぞ」
「お土産持って来たんだよ」
醤油とワサビ、他の野菜の種を渡す。
「おぉ、この醤油というのは先日手に入れた調味料と似ていますがこちらの方が他の料理に合いますな」
似た調味料?
「それどんなの?」
他のコックが似た調味料というのを持ってきてくれたので味見をしてみる。
これ、魚醤じゃん
「珍しいもの手に入れたね。ちょっと扱いが難しいけど少量で風味付けとかに使えそうだね」
魚醤を使った料理には馴染みが無いので何に合うかはよくわからない。鍋とかによさそうだけど。
「他にもあるんですがどうも使い方がよくわからず困ってたんですよ。珍しいものは手に入れておけと言われたので取りあえず購入はしたんですが」
といって出してきたのは木材ではなく鰹節みたいなものだ。元の世界のよりずいぶんと大きいが間違いないだろう。もしかして異世界から来た日本人が海の側にいるんじゃなかろうか?
「これたくさんある?」
「全て買い取りましたので大量にありますよ」
「俺にも分けて。これ欲しかったんだよ。あと昆布とかない?海草を干したやつなんだけど」
「あぁ、なんか水に戻すとぬるぬるするやつのことですか?海で取れると言ってましたから」
やっぱり。
「海で作った塩とかもある?」
「よくお分かりですね。少ししっとりした塩もあります」
やっぱり王都は素晴らしい。手に入るものがディノスレイヤ領と違い過ぎる。
俺はヨルドにこれらの説明をしていく。
「なるほど、そのような使い方をするのですか」
「ヨルドさん。近々うちの屋敷でこれらを使った料理を作ってみない?」
「ここではダメですか?」
「ここでもいいんだけど、うちのコックにも教えたいんだよ。うちでやれば同時に出来るから」
「わかりました。では私が参りましょう」
取りあえずすぐに出来る物で味を確かめる。味噌汁とだし巻き玉子だ。
魔剣で鰹節を薄く削って昆布と出汁を取る。一部をだし巻き玉子、残りを味噌汁だ。
「おぉ、あの木のような物がこんな味になるとは。なぜかほっとする味ですな」
そうだろ?
「鰹節は薄く削って出汁にもなるし、このままでも食べられる。昆布は味に深みを持たせてくれるからね。これを持って来た商人が次いつ来るかわかる?」
「どうでしょう?早くても1年くらい後かもしれません」
そうか。なら安定供給は無理だな。どこから手に入れたか調べておいてもらおう。場合によってはそこへ行ってみる価値がある。海の魚も食べたいし。
それまではこれらは外に出さずに俺だけで楽しもう。くっくっく
「海の塩はこちらの塩と何が違うのですか?」
「海の塩にはニガリってのが含まれててね、それを取り出せば豆腐が作れるんだよ。まぁ、皆はあまり好きにならないかもしれないけどね」
「豆腐とは?」
「大豆を煮ると豆乳っていうのが出来るんだけど、それを固めたものだね。ちょっとニガリを取り出すのは色々試さないとダメだけど」
「まだまだ知らない物もあるのですな。どうぞ好きなだけお持ちください。それで新しい物を教えて頂けませんか。次の社交会に何も新しい物がなくてエイブリック様のご機嫌がその・・・」
なるほど。2年続けてセンセーショナルな料理だったからな。
「じゃあ、今までの料理をアレンジしようか」
取りあえず簡単に出来る物はガーリックバター醤油のステーキ。ローストビーフのワサビ添え、酢豚と肉団子とかかな。それに餃子やラーメン、チャーハンとか。後半は庶民の中華屋で食うようなやつだな。とても社交会で出す料理とは思えんが出すか出さないかは選んでくれ。
後日うちの屋敷での料理教室を開くことになり、今晩のメニューを急遽変更してステーキとローストビーフにするとのことだった。予定はから揚げだったらしい。
グリムナはステーキのガーリック醤油ばっかり食うことになるけど気に入ってたからいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます