第402話 発展の一歩

翌朝小屋を片付けて商会に立ち寄る。ファムにエルフの国で手に入れた種を渡して砂糖の生産を依頼しておいた。紙はいくつか試作品が出来ていたが書き物に使えるような品質には至ってなかったが、食べ物を包んだり出来そうな物があったので量産を依頼する。これで屋台でコロッケとか出せるようになるな。


芋の酒やら米の酒が出来ているのに驚いた。味見を頼まれたが朝っぱらからテイスティングする気にならなかったので、ブリックの料理教室の見学が終わったらもう一度来ると約束した。


屋敷に戻るとアーノルドとアイナは仕事に行った。


「俺はブリックの料理教室に行くけどみんなどうする?」


全員付いて来るとのことだったので料理教室に向かった。場所はアーノルドの職場のすぐ近くだ。



「おー、結構繁盛してんじゃねーか」


「本当だね」


「お前が国でやってた時よりずいぶんと道具が多いな」


「皆、魔法が使えないからね。その分道具が必要なんだよ」


と、グリムナに説明していると、ブリックがこっちに来た。


「あ、ぼっちゃん。お待ちしてました。今日はラーメンを作るんですよ」


やった!久々のラーメンだ。


「ラーメンとはなんだ?」


エルフの国では作らなかったからグリムナはラーメンを知らない。


「麺料理のひとつだよ。何ラーメンだろね?」


「いろいろと種類があるのか?」


「そうだね、塩、味噌、醤油・・・あっ!ブリック、今日は何ラーメンを作るんだ?」


「味噌ですよ」


「じゃあ、もう一つ違うのを作ろう。醤油をもらって来たんだ。」


「醤油?」


「そう。じゃあ醤油味のは俺が作るよ」


グリムナを見てキャッキャ喜ぶ女性陣。それは無視して鶏ガラをグツグツと煮ていく。チャーシューは味が染み込むのに時間がかかりそうなのでバラ肉のローストポークで代用しよう。煮卵も無理だから半熟卵でいいか。スープに加える野菜も煮込むのに時間が必要だからダンにすりおろしてもらって時間短縮だ。


シルフィードにはスープの灰汁取りをしててもらって俺は麺作りと手分けして準備していく。


「ずいぶんと手間がかかるんだな」


「本当はもっと時間かけてスープ作ったりするんだけど、家で食べるならこれくらいでいいかな。商売をするならもっと工夫していかないとダメだね。家で食べられないものじゃないとお客さんは来ないから」


「なぜだ?」


「自分で作った方が安いからね。商売しようと思ったらそれより何か得する事を足さないとダメなんだよ。美味しいとか手軽とか安いとかね」


「なるほどな」


「料理を商売にするならやっぱり美味しいが一番いいかな。手軽や安いは真似されやすいけど、美味しいはなかなか真似されないから」


教室に来ている人達はブリックの教える事を板に書いていく。やっぱり紙が手軽に手に入るようにしないとな。あんなのちょっとしか書けないや。


そうこうしている内にラーメンが出来上がってくる。俺達は出来た醤油ラーメンを食べる。


「わぁ、初めて食べる味です。これも美味しいですねぇ」


ミーシャは醤油ラーメンが気に入ったようだ。


「うむ、旨い。手間隙かけただけの事はあるな」


グリムナも気に入ったようた。


「いや、この肉をとろけるようなチャーシューにしたり、卵に味が染み込んでたり、スープにもっとコクを出したりとかしないとね。醤油があるから今までより美味しい物がたくさん作れるようになるよ」


「ぼ、ぼっちゃん。自分にもそのラーメンを食べさせて下さい」


俺達もブリックの味噌ラーメンをもらい、ブリックには醤油ラーメンをわたす。


「う、旨いです」


「ブリックの作った味噌ラーメンも旨いよ。ちょいとニンニク入れてネギをたくさん入れてもいいと思うよ」


ニンニクネギ味噌ラーメンは旨いのだ。今度作ろう。


ブリックは教室に来ている人達の作ったラーメンを味見して麺が茹で過ぎとかアドバイスをしていた。俺達はラーメン2ハイ食べて満腹だ。


ブリックは忙しそうなので見学を終了して商会へ向かった。



「おう、先に酒の味見をしてやれ」


朝にやらなかったやつから片付ける。


まず芋の酒。


「お、ちょいと癖があるがいけるぞ」


「うむ、土産に貰った酒みたいな強さがあるが風味というか匂いが全然違うな」


俺はテイスティングでも酔いそうだから水で割って味見をする。うん芋焼酎だね。


次は米のお酒だ。


「これ、蒸留する前の奴もある?」


ジョージはアルコール度数を高めるのが好きだからな。これ米焼酎だろ。


蒸留前のも持ってきてくれたのでテイスティング。おぉ、純米酒だ。飲み干したいのを我慢してペッとする。


「ジョージ、でかした。これは特産になるぞ。これ米をもっと削って半分くらいに小さくしてから酒を作ってみてくれ」


「米を小さくするんですか?」


「そうだ。削り具合を変えた米で作ると同じ米からでも違う風味の酒が出来る」


イメージは純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒だ。くーっ、早く酒が飲める身体になりたい。


「ぼっちゃん、この米の酒はなんに合うんだ?」


「合わない料理が思い付かないくらいだけど特に魚料理、しかも刺身に合うよ。キリッと冷やして飲んでもいいし、温めて鍋とかで飲んでもいいし」


俺がそう言うとダンがタラーっとヨダレを垂らす。


「坊主、こいつは温めて飲んでも旨いのか?」


ドワンが熱燗に興味を持ったので、試しに土魔法で徳利と盃を作り、それを湯煎して人肌より少し熱いくらいにして入れてやる。


クッと飲むみんな。


くーーーっ


なんでシルフィードまでおっさんみたいになってんだよ?


「刺身とはカルパッチョと違うのか?」


ドワンが聞いてくる。


「似て非なるものだね。カルパッチョにしたのはワサビと醤油が無かったから。今回両方手に入ったんだよ」


「よし、明日釣りに行くぞ」


「ダメだよ。エイブリックさんの所にも行かないといけないし、俺は西の街のこともあるんだから」


「数日遅れた所で何も変わらん」


「明日はダメだって。ブリックがグリムナさんの歓迎料理を作るんだから。」


「じゃあ明後日出発じゃ。これは決まりじゃ」


マジかよ・・・


「俺は構わんぞ」


グリムナも反対しなさい。


最終的に4日後に出発することになってしまった。取りあえずエイブリックには帰って来たことと10日後ぐらいにそちらへグリムナと共に行くことを手紙で知らせておこう。



屋敷に戻ってグリムナの歓迎会だ。お決まりの鉄板焼きだがちょっと変わった前菜が出てきた。


「ブリック、これなに?」


「グリムナ様の歓迎会とぼっちゃん達の無事お戻りになられたお祝いに新しい物を作ってみました」


薄く小さく切って焼いたパンにチーズややや塩気が強めのベーコンとか色々な種類が乗せてある。あとこれなんだ?


薄茶色というかなんというか。それが一番気になったので一番先に食べてみた。


あ、これ、


「肝をすりつぶして味付けしてるのか?」


「正解です。ぼっちゃんは肝が好きなので色々と試して作ってみました。」


レバーペーストやパテとか呼ばれるやつだな。まったく臭みもないし、丁寧に裏ごしもしてある。ニンニクや玉ねぎとかで付けてある味付けもバッチリだ。


「ブリック、めちゃくちゃ旨いよ」


「本当ですか?嬉しいです」


「おう、ブリック。このちょいと甘いワインと良く合うな。旨ぇぞ」


「これはゲイルが考えたのか?」


グリムナも旨いと思ったらしく聞いてくる。


「いや、ブリックが自分で考えたんだよ。こうやって皆が新しい物を考え出していくっていいよね」


「皆が新しい物を考え出していくか・・・」


俺が作ったものばかりじゃなく、皆が新しい物を考え出す。これが発展だな。うんうん。


ブリックが作ってくれた美味しい物を皆で楽しんで食べて満足だ。




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