第401話 酒の席は重要な事が決まる
「いや、あのこれはその・・・寒いから勝手に入ってきて・・・」
親から見たら娘が他の女と共に男のベッドに入っている状況・・・ 俺が普通の子供なら気にしないだろうが、グリムナは俺の中身が大人であることを知っている。
「グリムナ、この子達はいつもこんなのよ。気にすることはないわ」
ほっ、アイナがフォローを入れてくれた。
「うちもここで寝ようっと」
「ミケ、お前まで来たら狭すぎる」
「ケチくさいこと言いなや。皆で寝た方が温いやん」
それはそうだけど。
仕方がないので魔道バッグからスプリングマットと毛布を出して俺はそこで寝る。ミケはミーシャ達のベッドに押し込んだ。この騒ぎで起きないミーシャとシルフィードを俺は尊敬する。
「じゃあ母さんはゲイルと寝るわ」
残された男どもに残りのスプリングマットを2つ渡した。部屋のベッドとこれを使って好きに寝てくれ。
「おい、今回の同盟の件を詳しく聞かせてくれんか?」
ゲイル達が寝たのを見計らうようにドワンがグリムナに声をかける。
「あぁ、わかった」
グリムナは長老が同盟を決意したこと、エルフ達が国を出る許可を出したこと。自分が王になったことを話していく。
「そうか、坊主にもエルフの王族の地位を与えたか」
「手紙にはドワーフの王族にも入ってると書いてあったぞ」
「親父はゲイルの事を相当気に入ってたからな。勝手にそうしたんじゃろ。そのままドワーフの国に住んで欲しかったみたいじゃったしな」
「あぁ、じっちゃんたちもそんな感じだった。国を出る時に寂しそうな顔をしていたよ」
「ゲイルは負け知らずじゃった親父をぶちのめしたことで気に入られたんじゃが、まさかエルフのとこでも同じことしおったのか?」
「いや、長老と呼ばれる俺のじっちゃんとばっちゃんを救ったんだ。エルフの国には結界が張られていてな。その結界があれば誰にも見付けられることはない。結界を維持するためにじっちゃん達は
「何百年もか?」
「そうだ。そのままそこで生涯を終えるつもりだったみたいだ。それをゲイルは部屋から出ても問題無い方法を見付けた。里に来てわずか数日でな」
「どうやったんじゃ?」
「結界の魔法陣を魔石で起動させた。それからどれくらいの期間で魔石の魔力が減るか試して最低10日、侵入者がいなければ5~60年は部屋から出てても問題が無いことを調べてくれたんだ」
「なぜ結界の部屋にゲイルを入れたんだ?最重要事項だろ?」
「里があるであろう場所を見抜いた推理力、エルフを誘い出したやり方。俺の威圧にも引かない胆力。俺が出来なかったシルフィードを里に住まわせるという悲願をこいつならなんとかしてくれるんじゃないかと思ったんだ。それにあの攻撃魔法があればいずれ結界もくそもなく里を焼かれたかもしれんからな。まぁ、じっちゃん達を外に出してくれたのは予想外だったが」
「うむ、坊主らしいやり方じゃの。あいつは思い付いた事をやってみて改良していくからの。単純なアーノルドの子供とは思えんわい」
「うるせぇ。で、同盟結んでからどうすんだ?」
「俺は希望するエルフがいればこっちに移住させようかと思っている。アーノルドはそいつらを引き受けてくれるか?」
「そりゃ問題ないがお前らはそれで大丈夫なのか?」
「遅かれ早かれあと数百年もすれば国は滅びる」
「どういうこった?」
「国には子供がいない。元々エルフは人間と比べて寿命が長い分子供が生まれにくい。それに生まれた子供がすぐに死んでしまったり、お腹の中で死んでしまったりするのが続いた。それで子供を作るものがいなくなった。人間がかけた呪いなんじゃないかとな」
「そんなものがあるのか?」
「ゲイルは血が濃くなりすぎているのが原因じゃないかと言っていた。じっちゃんが鑑定しても呪いは見えていないから呪いではないと」
「血が濃い?」
「親族とか同じ血が流れる者同士が子供を作るとそうなりやすいそうだ。稀に極めて優秀な者が生まれたりするそうだが、だいたい身体が弱くなる方が多いらしい」
「エルフは数が少ないからそうなのかもしれんな」
「じっちゃん達もそう長くは生きていないだろう。急速に老化が進み出したからな。だから今のうちに手を打たねばならん」
「しかし、人間に怨みを持ったエルフがこっちに来るか?」
「ゲイルが旨い飯や酒を教えたことで興味を持った者も多いだろう。それに国のやつらはゲイルがハイエルフになると思っている。ゲイルが住む街なら移り住むんじゃないか」
「ハイエルフ?なんだそれ?」
「エルフは生まれた時から人間より魔力が多い。エルフの中でも特に魔力が多い者をハイエルフと呼ぶ。魔力数でいうと7000を越えた者だ」
「お前もハイエルフなのか?」
「そうだ。じっちゃん達と俺がそうだ。シルフィードもこのまま行けばハイエルフになるだろう。ハーフエルフだがエルフの平均より魔力が高い。それはゲイルも同じだ」
「ゲイルにエルフの血は流れてないぞ。それにあいつは自分で魔力を増やす方法を見付けて増やしたみたいだからな。元々魔力が多かったわけじゃない」
「それを聞いたのはじっちゃんが皆にゲイルがハイエルフになると宣言してからだ」
「先に宣言しちまったのか。もう訂正出来んのか?」
「訂正するかどうかはゲイルがハイエルフにならなかった時にする予定だ。まだ可能性が0になったわけじゃない」
「いや、人間がエルフにはならんだろ」
「俺はゲイルと話をしていて何がなんだか良くわからなくなってきたんだ。そもそもエルフとドワーフと人間の違いはなんだ?寿命か?それとも魔力か?見た目か?」
「それは・・・」
「エルフは魔力が高い。ゲイルも高い。ドワーフは物作りが得意だ。ゲイルも得意だ。じゃあ見た目が違えば種族が変わるのか?そうじゃないだろ?あとは寿命の違いがあるが、それは今はわからん。じっちゃんは魔力が多いほど寿命が長いと言っていた。その理屈が自分で魔力を増やしたゲイルにも通用するのかわからんのだ」
「なるほどな」
「だから答えは30年くらい経ってからだ。ゲイルがアーノルドみたいに老けていけばエルフにならなかったということだ」
「はっ、俺が老けたとか余計なお世話だ。まぁ、エルフがここに来るなら受け入れる。うちの領民達も初めは驚くぐらいでなんとも思わんだろ。ここで農業を手伝ってくれるなら助かるしな。あとはゲイルがやりだした王都の庶民街も問題ねぇだろ。農業以外にも面白ぇ仕事作るかもしれんしな」
「途中でよったボロン村はどうだ?」
「あそこもうちの領地だ。シルフィードもいたからエルフに対してなんとも思わんだろ。お前見てもなんともなかったろ?」
「あぁ、そうだな。あそこはここより少し里に近いし田舎だ。手始めにあそこに移住するやつが出て来るかもしれん」
「ここからも移住者募集してるからなちょうどいいんじゃねーか?」
「アーノルドよ、ドワーフ達も追加で来たがってる奴がいるみたいなんじゃがの」
「そっちが問題なければどんどん来たらいいぞ。エルフ、ドワーフ、人間。いっそ東まで行って獣人の移住者募集でもするか。ごちゃごちゃいろんな奴がいて楽しそうじゃねーか。な、ダン」
「そうなりゃいろんな奴の血が混じってなんの種族かわからんようになるな。いずれひとつの種族になるかもしれん」
「お、いいなぁそれ。そうなりゃ種族間の差なんて無くなって、グリムナの疑問も解決する」
「ふっ、そうかもしれんな」
男どもの話は明け方近くまで続き、そのままそこで雑魚寝をしたようだった。
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