第400話 旅の報告

小屋に着いてからエルフのくにへの旅の話をしていくが、結界の説明とどんな風に隠匿されてるとかの話はしていない。ただ見付けるのに苦労した事や自力では見付けられなかったので森を荒らしてエルフ達を呼び寄せた事は説明する。


「なんちゅう強引なやり方をするんじゃ」


ドワンは呆れ返るがあれしか方法が無かったのだ。


「で、ダンは敵討ちも出来たってわけか」


アーノルドは俺が里を見付けた事よりダンの話が気になったようだ。


「あぁ、ぼっちゃんとシルフィードの力を借りたが、これで刺さっていた心のトゲが抜けたような気がするわ」


その話を聞いたドワンもうんうんと頷いた。


「ゲイル、そのオーガの頭を持ってんだろ?見せてくれ」


アーノルドに言われて魔道バッグからオーガの入った箱を出して中身を見せる


「こんなやつが居たのか。オーガの上位種や変異種とは大きさも色もまったく違うな」


アーノルドも初めて見るみたいだ。


「鑑定したら特変異種ってなってたよ」


特変異種?


アーノルド達の声がそろう。


「なんだそれは?」


「父さん達が知らないのに俺が知ってるわけないじゃないか。でも変異種の条件で推測したんだけど」


アーノルドが帰って来る前にアイナとグリムナに話した魔法水が原因でコボルト達が変異種になった可能性、魔力を込めたマスを食った守神が少し大きくなった説明をする。


「なるほどな。変異種は普通のやつより強いからな。その可能性があるかもしれん。強い奴を食ってまた強くなるってことかもしれんな」


「ただ、守神が大きくなったのは2000の魔力を込めたマスなんだよ。それで大きくなるなら人間を2~3人食っただけで大きくならないとおかしいかなぁとも思うんだよ。」


「ゲイル、じっちゃんが死ぬ時に魔力が抜けるとか言ってたがそれが関係するんじゃないか?」


死ぬ時に魔力が抜けるというのは確かだと思う。


・・・

・・・・

・・・・・


あっ。


「魔物や魔獣はだいたい殺してから食うよね。ということは魔力が抜けてから食ってるから大きくならないとか?」


「今までの話を聞いてそう思ったんだがな。どうだ?」


「おやっさん、蛇って獲物食う時に生きたまま丸のみするよね?」


「そうか、じゃからあんなにデカくなるのか」


推測がだんだんと現実味を帯びていく。


あとは瘴気の森に疑問が残っている。


「ダン、瘴気が流れているところって変異種多かったよね?」


「あぁ、前もそうだったから間違いねぇな」


瘴気を浴びても変異種になるのだろうか?それとも凶暴化するだけなのだろうか?仮にそうだとしたら変異と凶暴化が進むと特変異種になるのか?瘴気によって特変異って鑑定に出てたからな。


うーむ、一歩謎に近付いたかと思うと新たな疑問が出て来る。


一人でうんうん考えてると、


「まぁ、相手がなんであろうと向かってくるなら倒せば良い話だ」


うん、実にアーノルドらしい回答だ。取り敢えずグリムナみたいな魔力が多い者が丸のみされなければ問題ない・・・か?


ひとつヤバい事に気付いてしまった。


「父さん、闘技会の景品に魔力全快ポーションってことで魔力水出したよね。あれごと食われたらヤバくないかな?」


「あれにどれくらいの魔力入ってんだ?」


「はっきりわかんないけど5000とかかだったかな?」


どれぐらい魔力を込めたかいまいち記憶が無い。


「なら問題無いだろ。たかが数十匹変異種になった所で現状は変わらん。ちょいと魔物の多いとこに行きゃ変異種なんてうじゃうじゃ居やがるんだからな」


それもそうか。でも次からは念のためにちゃんと鑑定しながら3000くらいに抑えておこう。


「それはそうと、このオーガはどうやって止めを刺したんじゃ?」


「お、そうだ、おやっさん聞いてくれよ。俺は剣に火魔法纏わせて斬って止めを刺せたんだ。これで魔剣作ってくれるよな」


「なにっ?普通の剣に火魔法を纏わせたじゃと?それで剣じゃなく刀を持っておったのか。まぁ火魔法を無理矢理纏わせたなら剣がダメになっても仕方がない。てっきりワシはヘマをして剣を折ったと思っておったわ。いや、スマンスマン。よし念願の魔剣を打ってやろう。大剣と普通の剣どっちがいいんじゃ?」


・・・

・・・・

・・・・・


俺は無言で魔道バッグからドワン作の折れた剣を出した。


「ん?火魔法を纏わせたらこんな折れ方するのか?無理矢理力任せに硬い物を斬った折れ方と似ておるが・・・」


「いや、おやっさん、あのな・・・」


続いて熔けた形見の剣を出す


「こ、これは・・・」


「おやっさん、実は・・・」


「ばっかもーーーーーん!ワシを騙そうとしおって!ワシの剣は力任せに使って折ったんじゃろっ」


「いや、このオーガの頭が想像以上に硬くてな・・・」


「お前が苦戦するような奴の頭が硬いのは当たり前じゃろがっ!頭に剣が届くならクビを狙えっ。どうせ敵を目の前にして逆上して力任せに斬ろうとしたんじゃろがっ!この未熟者めっ。未熟者の為に魔剣なんて打てるかっ」


その通りだけど、あの状況では仕方がなかったとは思う。でも理論的にはドワンの方が正しい。余計な口は挟まないでおこう。


「そ、そんなぁ・・・・」


涙目になってるダンがちょっと哀れだな。剣に炎を纏わせたのは事実だし。


「おやっさんを騙そうとしたわけじゃないよ。ダンは形見の剣で敵討ちをしただけなんだ。炎を纏わせたのは事実だし。こいつはめちゃくちゃ強かったからよく倒せたと思うよ」


俺がそうフォローするとすがるような眼で俺を見るダン。


そしてしばらく考えこんだドワンは条件を出してきた。


「仕方がねぇ、ワシの前でもう一度剣に炎を纏わせてみろ。それが出来たなら作ってやる」


「ほ、本当かおやっさん?」


「ワシはお前と違って騙そうとはせんっ!」


ダンも騙したわけじゃないんだけどね。


「よし、ぼっちゃんの剣を貸してくれ」


俺の剣を渡すとダンは俺の魔剣を手にして構えた。


「よく見てろよおやっさん!」


「おう、さっさとやれ」


「だーっ! あ、あれ?おかしいな。だーっ! だーっ! だーっ!」


何度もダンは気合いを入れるが一向に剣に炎が纏わない。


「あ、あれ?おかしいな・・・」


だーっ! だーっ! だーっ!


何度やっても魔剣に炎が纏うことは無かった


「時間切れじゃ。魔剣はまだお預けじゃな」


残念、またもやダンは魔剣を手に入れることが出来なかった。極度の集中力が出たあの時と平時の今とでは状況が違い過ぎる。俺もドワンが言ってた心眼とかは今ここで使えないからな。所謂ゾーンって奴に入らないと使えないのかもしれない。


しくしくと泣くダン。一回出来たんだからそのうち出来るさ。



「ダン、その腕どうするの?」


アイナが熊腕を戻すか聞いてきた。


「あ、あぁ、アイナ様の心使いは嬉しいが、こいつはぼっちゃんが初めて部位欠損を治せた記念だ。このままでいい」


そんな事を言い出したダンに思わずホロっとしそうになる。やっぱりダンって良い奴だよな・・・って、まさかミケに熊腕を褒められたからじゃないよね?


「まぁ、ゲイルが部位欠損を治せたのは良かったけど、元の状態にならないのは未熟ってことね。斬り落としてもう一度やってみる?」


アイナはまた恐ろしい事を・・・


ダンはそれも丁寧にお断りをした。


「ゲイルよ、お前達はいつもここでこんな事をしているのか?」


「ここは誰も来ないから、他に聞かれたくない話とかどんちゃん騒ぎするのにちょうどいいんだよ。ここで焼き肉とかよくしてたよ」


「そうか。さっきのバルの飯は旨かったが、俺はここの方が落ち着くな」


グリムナはこうした森の中の方が良いのだろう。それに人見知りなのかもしれないな。


「そうだ、アーノルド、アイナ、お前達に話がある」


「なんだ?」


「いや、シルフィードとゲイルの婚約の話なんだが」


ぶーーーーーっ


俺は飲もうとしたジュースを盛大に吹き出してしまった。


「ちょちょちょ、グリムナさん。あれはグローナさんが勘違いして・・・」


「ぼっちゃま、シルフィードさんと婚約したんですか?」


キョトン顔のミーシャ。


してないっと言おうとするとジッと俺を見つめているシルフィードが目に入る。なんかここで明確に否定するのも可哀想な気もしてきた。


「いや、あれは誤解でね・・・」


「前にマルグリットさんもぼっちゃまと婚約をとか言ってませんでしたっけ?」


おいっ


「マルグリット?誰だそれは?他にも女がいるのか?」


うわ~、グリムナからめっちゃ冷気出てんじゃん。それに他にもって…


「あれはマリさんがみんなをからかって言ってるだけで・・・」


「シルフィードはシルフィードのままなのに、そのマルグリットとやらは愛称で呼ぶ仲なのか?」


その冷気やめれてくれ。凍り付いてしまう。


「そういや、ミサもゲイル君と、とか言っておったな」


おいっ ドワンもいらんこと言うな。


ゴゴゴゴゴゴ


寒い寒い寒いっ グリムナから本当に冷気出てんじゃないだろうな。どんどん俺の顔が凍り付いていく。


「うちも乳揉まれたで」


ゲッ!


「ミケっ、お前なんでここにいるんだよっ?」


「店終わったからやで」


「違うっ、何しに来たって言ってるんだよっ」


「遊びに来たに決まってるやん」


アーノルド達はミケがこっちに向かっていた事に気付いていたのか元々来る事を知っていたのか驚きもしない。


いきなり婚約の話をされパニックになった俺だけが気付いていなかったのか・・・


「ほーぅ、その歳でずいぶんとモテるようだな?」


「ち、違うっ。みんな俺をからかってるだけだよっ」


「そうか、なら問題ないな」


「いや、その・・・・」


シルフィードにも見つめられ明確に否定出来ないままグリムナはアーノルド達と話をしだした。どうすんだよこれ。


勝手に来て爆弾発言をしたミケはダンと毛並み談義をしてるし、ドワンはグリムナの話に加わっている。ミーシャとシルフィードは持ってきたつまみとリンゴ酒でキャッキャ話し出した。


もう好きにしてくれ。


グリムナの冷気で身も心もすっかり冷えきった俺は風呂に入ることにした。この中で飲めないの俺だけだしな。


こそっと風呂に入りにいくと酔ったミーシャ達がまた来るかもしれないから、先に来るなよと言っておく。


湯船にクリーン魔法をかけて熱めの湯を貯めていく。


はぁぁぁぁぁぁ、風呂はいい。今日は曇ってるのか星明かりすらないけど、真っ暗闇の風呂もオツなもんだ。


半年以上の遠征の疲れが湯に溶け出していくようだ。疲れって渋味と似ているのかもしれんなとか思っていると、ちゃぽっと二人が入ってきた。


「無事のお帰りお喜び申し上げます」


「元気だった?」


「はい、頂いた治癒魔石の魔力も減っていません」


「なら良かった。しばらくディノスレイヤ領と王都しか行かないと思うからまた宜しくね」


「はい、ゲイル様」



(おい、アーノルド。さっきから気になってたんだがこの気配はなんだ?)

(シルフィードとミーシャの隠密護衛だ。エイブリックが付けてくれている)

(ゲイルが言ってたやつか?)

(お前にしゃべったのか?短期間でずいぶんと信頼されたな)

(信頼?)

(あぁ、あいつは賢い。余計な事は話さんが必要となれば話す。まだ俺達に話してないこともあるだろうがそれはまだ話す時じゃないと考えてるからだろ)

(・・・・・)


(エイブリックの所の隠密は優秀だ。お前もこんな近くまで来るまで気付かなかっただろ?)

(あぁ。見事だ)

(そんな優秀な隠密がゲイルの前にはああやって時々姿を見せる。お互い気に入ってるんだろ)

(隠密がか?)

(初めは違ったがな。ゲイルがなんか言ったか何かしたんだろ。初めの頃は血の通わないような気配だったが、だんだん人らしい気配に変わって来たからな)

(女か?)

(恐らくな。それに二人の気配はどっちかわからんくらい似てるから双子かなんかだろ)

(ゲイルは女たらしなのか?)

(いや、あいつはみな家族みたいに思ってるだけだ。シルフィードに対してもな)

(家族・・・)

(あいつはそういった大切な者を守るために時々タガが外れる。それも自分で学習していってるからまぁ大丈夫だろ)

(そうか。シルフィードは家族か)

(あぁ、本当に結婚するかどうかはあいつらに任せておけ。なるようになるさ)

(そうだな)




そろそろのぼせそうだと思った頃に二人は消えた。ちゃんと乾かしたのかな?


一度お湯を捨て、女湯と共にもう一度湯を貯めて入れておく。



「風呂に湯を入れてあるから冷めないうちに入りなよ」


俺がそういうと全員が一斉に風呂へ向かった。そんな大勢でいったらギチギチだぞ。


女湯から聞こえるキャッキャトークが男湯にも丸聞こえだろう。ここまで聞こえてくる。


ほこほこになった全員を温風で乾かし、服にはクリーン魔法をかける。どうやらこのままここでお泊まりみたいなので先に寝よう。部屋で最近やって無かった魔力アップを再開しようとしたらミーシャとシルフィードが寝にきた。さも当然のように俺のベッドに潜り込む。まぁ、いいけどね。


二人が寝たのを見計らって魔力アップをしようと自分を鑑定する。


【名前】ゲイル・グローリア・ディノスレイヤ


「あーーーーーーっ!」


なんだよ名前にグローリアなんて付いてんじゃん。なんなんだこれ・・・


「どうしたっ!」


俺の叫び声を聞いてアーノルド達がやってきた。


シルフィード、ミーシャが俺のベッドで一緒に寝てるのを見てグリムナが呟く。


「責任とれ」




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