第399話 宴会

「ぼっちゃん、お帰りなさい。無事に戻られて良かったです」


「ブリック、ただいま。料理教室始まってるんだって?」


「はい、夏に教室が完成したんです。初めはなかなか人が来なかったんですけど、だんだんと増えて来ました」


「そりゃ良かったじゃないか。明日急な用件が入らなかったら見に行っていいか?」


「是非お願いしますっ!」


良かった。ブリックからあのぼーっとした感じがすっかり抜けているので安心した。その調子で頑張って料理人を増やしてくれ。そうすればディノスレイヤ領も美食の街として有名になっていくだろう。


その後すぐにアーノルドも帰ってきた。


「おー、グリムナ。久しぶりじゃねーか。お前ぜんぜん変わんねーな」


「アーノルドはおっさんになったな」


「うるせぇ、エルフと一緒にすんな」


差別意識のある人が言えばイヤミに聞こえる言葉もアーノルドが言うとぜんぜんそんな感じがしない。同じ言葉でも不思議なもんだ。言われたグリムナもぜんぜん嫌そうじゃない。


「アーノルド、今晩はバルで食べるわよ」


「おぉ、あそこに行けばドワンもいるしな。そうしよう」


「バルというのはなんだ?」


「うちの領にある飲み屋だ。バルは飯も酒も旨ぇぞ。どうせゲイルがお前の所で飯作って目を丸くしたんだろ?そんな食い物が出て来るところだ」


ぐぬっとなるグリムナだが図星な為、自慢気にそう言ったアーノルドに言い返せなかった。


馬車にグリムナ、シルフィード、アーノルド、アイナ、俺、ミーシャが乗り、御者はダンがしてくれる。ブリックは明日の準備をするらしい。


「ずいぶんと揺れない馬車だな?」


「これはおやっさんに作ってもらった新型馬車なんだよ」


ほぅと感心するグリムナ。屋敷の食堂や部屋が明るいことにも感心していたからな。



バルは相変わらず盛況だ。何も言わずとも個室に案内してくれる。


「ゲイル、やっと帰って来たんや」


「あれ?ミケ、耳としっぽ出してんの?」


「そうやで。始めはびっくりされたけどなんとも無かったわ。こんなんやったら隠す必要なかったんちゃう?」


ミケは夏場に暑くて帽子を脱いでた所を客に見られたらしい。それでも驚かれただけで逆に人気者になったそうだ。


「へぇ、良かったじゃないか」


「そうやろ。それに見てみ、うちのしっぽも手入れ続けてるから艶っつややろ。触ってみたい?」


ミケはしっぽでほれほれとしつこく鼻先をちらちらさせるのでギュッと握ってやった


「ふんぎゃーーーっ!な、なにすんねんっ!」


「触って欲しかったんだろ?」


「触ってみたいか聞いただけやろっ!誰が触れ言うてんっ!ほらこれ見てみ」


バンっとテーブルの上に何か書かれている板を置いた。


〈お触り厳禁。お触りした者は出入り禁止!〉


どこのキャバクラやねん・・・


どうやらしっぽや耳を触ろうとするやつが後をたたなかったらしい。すでに何人か出禁になったみたいだ。


「あんた出禁やで」


「アホかっ、しょうもない事言うとったらチュールに言うてクビにしてもらうからなっ」


「えっ、嘘やん。そんなん言うのズルいわ。職権乱用や」


えらい難しい言葉覚えたな。


「いや、ほら、触るんやったらもっとこう・・・優しくやな・・・」


「ゴホンっ」


あっ、グリムナの機嫌悪っ。また浮気してるとか思ってんじゃないだろうな?


「ミケ、シルフィードのお父さんのグリムナさんだ。偉いさんだからちゃんと挨拶しろ」


「えへへへ、初めましてシルフィードのお父さん。うちはミケ。ここで働いてんねん。シルフィードとはちょっとの間一緒に住んでた仲やねん。ゲイルは逃げて来たうちを救ってくれた恩人やから出禁とか冗談やで」


ミケ、グリムナは俺に出禁と言った事を怒ってるんじゃないぞ・・・


微妙な空気を変えるがごとくダンがミケに話し掛ける。


「ミケ、お前、耳やしっぽを隠してるより今の方がずっといいぞ。よく似合ってんじゃねーか」


ダンよ、ミケのはコスプレでもないのに似合ってるとかちょっと違うぞ。


「へへへ、そうかな」


ダンに面と向かって褒められたミケは照れて右耳の後ろをポリポリと掻いた。


そんなミケが突然大声をあげる。


「あーーーっ、その腕どないしたん?うちとお揃いやんかっ!やっぱりダンも獣人の血流れてたんか」


プッ やっぱりとか言われてやがる。


「違うっ!腕を食われちまったのをぼっちゃんに治してもらったらこうなっただけだ。」


「なんや違うんかいな。でもそっちの方がカッコええで」


おりょ?熊腕を褒められたダンもなんとなくまんざらでもなさそうだ。熊腕を気に入ったんだろうか?


「ダン、元の腕に戻したいならアーノルドに腕を斬り落としてもらったら?その後元に戻してあげるわよ」


サラッと怖いことをいうアイナ。それは俺も考えたけどさ・・・


「おぅ、坊主帰って来たか・・・、お、グリムナじゃねーか。ずいぶんと久しぶりじゃな」


「ドワン、お前は変わらんな」


ドワンは変わらないのか。もしかしたら子供の頃からこんなんだったのかもしれな。


他のドワーフ達もどやどやとやってくるのでグリムナに紹介していく。そして始まる宴会。あーうるさいっ。


エルフの里いや、国は静かだったよな。グリムナは酒よりうるささ酔いしてんじゃねーか?ずっと苦笑いだぞ。


がーはっはっはっ

わーはっはっはっ

カッカッカッカッ


それぞれの大笑いする声が個室に響き渡る。これ一般の客席まで響き渡ってるよね?大丈夫?


注文を取りに来たミケにうるさくて問題ないか聞いてみると、ドワーフが集まる日はいつもこんなんだから問題がないようだ。


さんざん飲み食いをした後、お開きにするのかと思ったら小屋に移動して今回の旅の話をするらしい。これはお泊まり確定だな。


チュールに酒のつまみやら明日の朝食に使えそうなものとか色々と準備をお願いする。


小屋に向かうのに馬車に乗り込み、ドワンが御者台に座って満席だ。



久々の小屋は荒れてるんだろうなと思ってたら前と変わらない姿を保っていた。


「ずいぶんと綺麗だね」


馬車から降りた俺がそういうと、お前が小屋を見とけといったんじゃろがっ!とドワンに怒られた。


ドワン達がこまめに様子を見に来てくれていたようだ。ありがとう。


スライムも少し小さくなっているが元気でほっとした。



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