第397話 ボロン村に到着
ボロン村に到着する前に真っ先に出迎えてくれたのはシルバーだった。よだれと涙を振り撒きながら俺への愛が止まらない。
「長い間ごめんよシルバー。ほらちゃんと帰って来たからね」
俺を弾き飛ばすばかりの勢いで顔をこすり付けてくるシルバーをよしよしし続ける
「お前の馬か?」
「そうだよ。シルバーっていうんだ。シルバー、この人はグリムナさんだよ」
少し落ち着いたシルバーにグリムナを紹介する。
「止まれっっ 止まってくれっ どうしたんだお前達っ」
クロスに引きずられてシドが叫びながらやって来た。
クロスはダンにフンフンして帰りを喜んだ。
「あ、ぼっちゃん! どおりでシルバーがいきなり走り出したかと思ったらクロスまで言うことをきかないわけだ」
「シドただいま。シルバーとクロスの世話ありがとうね。シルフィードのお父さんを連れて来たから村長のところに挨拶に行くよ」
「おーー、初めまして。ボロン村のシドと言います。シルフィードには村を豊かにしてもらって助かってます」
「グリムナだ。娘が世話になった。礼を言う」
お互いに挨拶をしてから村長の家に向かった。
俺達に気が付いた村人達は大きく手を振ってくれるのでこちらも手を振り返す。
「よくぞ、よくぞ、無事に戻ったシルよ。ぼっちゃん、ありがとうございます」
「ダートスさん。シルフィードのお父さん、グリムナさんだよ」
「お前達がシルフィードを育ててくれた者達か。私の名前はグリムナ。シルフィードを無事に育ててくれた礼を言いに来た」
スザンが中へ案内してくれ、落ち着いて話をすることになった。
ダートスからはシルフィードの母親が殺されてしまった村の悲劇とボロン村に逃げて来た経緯、それからの事を。グリムナからはナターシャとシルフィード、エルフの里を守る為にディノを倒した後に村の惨劇を知り、シルフィード達を探し続けていたことを話した。
「アーノルド様が推測された話の通りでございましたな。良かったなシルや。やはりお前はちゃんと愛されておったのじゃ」
「うん」
「村長。シルフィードを守り育ててくれた礼を改めて言う。本当に今までありがとう。エルフの里には何もないがせめてこれを受け取ってくれ」
俺は預かっていたエルフの弓を魔道バッグから取り出した。
「こ、こんな高価な弓を・・・」
「実用的には普通の弓と変わらんが飾っておくのには良いだろう」
エルフの里には魔道具の弓もあるらしいがエルフの魔力がないと意味が無いものらしく、装飾された弓の方が良いだろうと判断したようだ。魔物や虫かなんかの素材で装飾されているのだろうか?白を基調とした弓に華美ではないが品の良い飾り付けをしたデザインの弓だった。
「ありがとうございます。村の宝としてありがたく頂きます」
遠慮しかけたダートス達だったが、お礼の品を断るのはダメだよと言うと素直に受け取った。
「ダートスさん。珍しい種も貰ってきたからここにも分けて帰るよ。育て方は明日村のみんなに伝えるね」
野菜の種はもちろんだけど、砂糖大根はかなり良いものだ。ボロン村でも容易に甘いものが作れるようになる。
その後いつもの如く村人達が集まりだし宴会になっていく。
「シルフィード、お前は村で愛されてるんだな。村人もみな活気があって楽しそうだ」
「アーノルド様やゲイル様達がこの村に来てくれるまでこんなんじゃなかったの。食べる物も少なくて、こんなに人も居なくて・・・」
「アーノルドが助けてくれたのか?」
「そう。怖い貴族からこの村を救ってくれたの。ゲイル様が村の女でも狩りが出来るようにしてくれたり、野菜や果物を増やす為の道具を作ってくれたりしたの」
「そうか。魔法でなく道具でか・・・」
翌日から新しい種、ワサビ、砂糖大根の説明と実際に育てて食べ方を教える。特に砂糖大根から砂糖を作る方法を教えるのは重要だ。
「こ、これで砂糖が自分たちで作れるようになるんだな」
「そうだよ。一応砂糖は勝手に外に売るの禁止ね。砂糖を栽培するのも販売するのも許可がいるんだよ。もし売るほど栽培出来るならぶちょー商会に卸してね」
砂糖の栽培と販売許可を持つのはぶちょー商会だ。サトウキビを使って作るとかの許可ではないので砂糖大根から作っても問題ないだろう。
そうこうしてると村人が俺に話し掛けてきた。
「ぼっちゃん、食えそうな豆を見つけて栽培してみたんだが、どうにも渋くて不味いんだよ。いい食べ方ないか?」
その豆を見せてもらう
「変わった色してますね」
おーぅ、なんてこったい。この豆・・・
念のため鑑定するとやはり小豆と出た。
「でかしたよ!これ小豆っていうものなんだけどね。甘くして食べたりご飯に混ぜて食べたりするんだよ」
たくさんあるとのことなので明日食べる事にした。どっさり30キロくらいもらってダートスの家に戻る。
作るのはアンコロ餅と赤飯だな。
餅米が無いから普通の米でやるしかない。
まずは砂糖大根を育てて砂糖作り。育てるのはグリムナとシルフィードがやってくれる。ほうれん草とかと同じで寒さに耐える為に糖分を作るのだと思うが魔法で育てても甘くなるのが不思議だ。考えてもわからないのでそういうものと思うしかない。
汁を絞るのはダンの仕事だ。熊毛入れんなよ
ゆっくり煮詰めながら熱い風魔法と併用で砂糖にしていく。あれだけの大根でも取れる砂糖って少ないんだな。ダン頑張れ。大根追加だ。煮詰めるのと熱い風魔法はグリムナとシルフィードでやってくれるみたいだ。エルフの王様と姫様に砂糖作りをさせる俺って・・・。いや気にしたら負けだ。
では小豆を煮ていこう。
さっきの村人、名前は知らないので村人Aと心の中で呼ぼう。
「この豆は小豆っていうんだけどね、渋いのは水に溶けるから茹でて煮汁を捨てるんだよ。そうすれば美味しく食べられるから」
一度で渋みが抜けるはずだけど、まだ渋みが強かったのでもう一度渋抜きをする。
次に灰汁を取りながら茹でてと。コトコトコトコト・・・
よしこんなもんか。
赤飯にする分を分けて、後は出来立ての砂糖と少しの塩を入れて煮詰めていく。
結構時間掛かったけど完成だ。
「味見するよー」
ダートス夫妻と村人Aも交えてアンコの試食。
「ほう、なんというかしっとりした甘さというか落ち着く旨さだな」
そう洋菓子とは違った甘さになるのが不思議だ。お茶飲みたいな・・・
「明日はこれを使って料理を作るよ」
米を洗って水に浸けてから寝る。
翌朝から赤飯、餅を作っていく。
「こっちは炊くんじゃ無くて蒸すんですか?」
「そう餅というものを作るにはそうやるんだよ」
確か蒸した米をもう一度お湯で洗うんだったよな。うるち米から餅を作るのは面倒だな。
せっかく蒸した米を洗い出した俺を不思議そうに見ているシルフィード。
よしこんなもんかな。
洗った米をもう一度蒸してから土魔法で作った臼と大工に慌てて作らせた杵で餅をついていく。つくのは勿論ダンだ。
手を挟まれるのが怖いので魔法でついた餅をひっくり返したりしていく。餅米と違ってつくのに時間が掛かる。
「ぼっちゃん、まだか?」
「もう少し。まだ米の形が残ってるやつがあるから」
よいさっ、ほいさっと掛け声をかけて応援してやるがしんどいのはダンだけだ。
ようやく出来た餅はほとんど伸びない。これアンコ包むの無理かな。アンコロ餅を諦めてぜんざいにしていく。
包むのはパンにしようということであんパンも作った。
まずは赤飯から。シルフィードのお父さんが見付かったお祝いだ。
もっちり感がないので物足りないが初めて食べる人たちはすこし塩気のある小豆ご飯を美味しいといった。俺の中ではこれは赤飯ではなく小豆ご飯だ。
あんパンとぜんざいはもっと好評だ。わらわら集まった村人達にぜんざいを振る舞うとあっという間に無くなってしまった。伸びない餅もぜんざいにすると結構いけた。正月は無いが年明けに雑煮を作ろう。醤油も手に入ったからな。
うんうん
ゲイルは次に食べられる物を想像して一人で頷いているのであった。
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