第396話 もりがみ

「エイプとかコングとか全然出ないね」


「そういう道だ」


汚ねぇ。そんな道があるとかズルいじゃねーか。グリムナが先導する帰り道は来る時にさんざん追い回された猿達がまったくと言っていいほど出なかった。


季節は秋を過ぎてもう冬だ。エルフの国の周りは針葉樹が多かったけど、滅びた村に近付くにつれ落葉樹が増える。その落葉樹にちらほらと黒ずんだ赤や黄色の葉っぱが残っているだけで寂しい景色だ。



猿が出ないのでのんびりと湿った落ち葉の道を歩いているとグリムナが止まれとハンドサインを出した。


気配察知を最大限まで高める。


あっ


その落ち葉と同化したフォレストパンサーがいる。


来る時には緑と黒の美しい毛並みだったが今は落葉樹と同じような毛並みになっている。黒っぽい赤黄の毛並み。これはこれで美しい。



「森神だ」


グリムナがボソッと呟く。


「森神?」


「この森を守っている魔獣だ。こいつがいるから猿どもはナターシャ達の居た村までは行かんのだ」


なるほど、森神じゃなくて守神か。


守神と呼ばれたフォレストパンサーは縄張りに入った俺達に警戒心がマックスになっているが、俺達の事を覚えているのか唸るだけで襲いかかろうとはしない。


進行方向にいるため闘いを避けるには回り道をするしか方法がない。


「グリムナさんはいつもどうしてたの?」


すでにフォレストパンサーに気付かれているので気にせず声を出す。


「いつもは気配を消してたから、こちらから見ることはあっても気付かれる事はない」


初めて会った時もグリムナから声かけられるまで気付かないくらい綺麗に気配を消してたからな。フォレストパンサーでも気付けないのか。


グリムナもフォレストパンサーを守神と呼ぶだけの事はあって攻撃する様子は無い。しかし回り道して今さら猿と戦うのは面倒だな。ちょっと話し掛けてみるか。


「おい、守神。俺達はここを通りたいだけなんだ。森を荒らすつもりもお前を攻撃するつもりもない」


話し掛けてみるも唸ったまま変化がない。


「お前はバカなのか?魔獣に言葉が通じる訳なかろう」


「いや、賢そうだし分かってくれるんじゃないかなと思って」


そんな訳あるかと白い目で見られた。


ならば餌付けしてみるか。


魔道バッグからエルフの国で貰ってきた鶏肉を守神の前に投げてみる。


「ほら、お近づきの鶏肉だ。これ持ってここから離れてくれないか」


ピクッと反応した守神。しかし鶏肉を食べようとはしない。


「守神は気高いんだ。与えられた物を食うわけないだろう」


いや、反応したから可能性はあるはずだ。次はマスを投げてみる。多分猫系だろうから魚が好きなんじゃないかな?昔テレビで魚を食べたことが無いライオンに肉と魚を並べたら先に魚食ってたからな。


目の前にマスを投げたらしっぽがパタンと動いた。唸りつつも匂いを嗅いでるみたいだ。よし効果がありそうだな。


もう一度試そう。次はマスに栄養という名の魔力をたっぷり注いでから投げる。


お、唸るより嗅ぐ方が増えたぞ。


しっぽのパタンパタンが止まらなくなってきてついに魔力たっぷりのマスにかじりついた。


「ば、馬鹿なっ」


グリムナは俺が投げたマスを守神が食べ出した事に驚愕している。


ん?フォレストパンサーが少し大きくなった気がする。気のせいか?


「おい、守神。俺の魔力の匂い覚えただろ?この匂いのするものはお前と敵対しないし、森も荒らさないから襲わないようにしてくれ」


そういうと守神は何度かしっぽをパタンパタンとさせてから食べ掛けの魔力の籠ったマスを咥えてどこかに消えて行った。


「ゲイル、お前はいったい何をした?」


「え?守神に襲わないようにお願いをしたんだよ」


「違うっ!なぜお前が投げた魚を食ったか聞いてるんだっ」


「マスに俺の魔力を込めたんだよ。魔獣には魔力が栄養になるみたいでね。強い魔獣はそういうのがわかるみたいだよ。だから次に強い魔物や魔獣が現れたらグリムナさんが狙われるよ」


「そうなのか?まぁ気配を消すから問題はないが」


「そうすると次に魔力の高い俺とシルフィードが狙われる。娘を危険にさらしたいなら気配を消していいよ」


「ぐっ、貴様・・・」


シルフィードも気配を消すことは出来るが俺達程でもない。恐らく今の俺はシルフィードより少しだけ魔力が多いから、俺が集中的に狙われているのだろう。エルフの掟が消えたシルフィードはまた魔力が伸び出すかもしれないから常に俺の方が多い状態にしておく必要があるな。グリムナがいる間はそんな心配も不要だから気配を消させないようにしておいてやろう。


「なぁ、ぼっちゃん。フォレストパンサーがマス齧った時に少し大きくならなかったか?」


「あ、やっぱり?ダンもそう思ったんだ」


「スライムも大きくなったしよ、ちとやべぇんじゃねぇか?どれくらい魔力込めたんだ?」


「鑑定しながらじゃないからよくわかんないや」


「ならば自分の魔力を鑑定して減った分を確認したらわかるだろう?」


グリムナの言うことももっともだ。


自分の魔力を鑑定すると2000近く減っていた。魔力をたっぷり込めてやろうと思ったのがいけなかったのか結構魔力を使っていた。


「2000くらい使ってたね」


「それが多いか少ないのかわからんな」


およそ普通の人間の二人分ってところかな。じゃあ人間二人食ったら大きくなるのか?いや、それなら人間を襲って食ったゴブリンとかもっと大きくなってもおかしくないな。魔力を補充して大きくなるのは特定の魔物だけなんだろうか?またわからないことが増えてしまった。


「まぁいい。守神はここを通してくれるみたいだから行くぞ」


考え事をしてフリーズした俺はグリムナに声を掛けられて我に戻った。


その後は何事もなく進み、滅びた村を抜けてボロン村へと向かった。行きはよいよい帰りは怖いという歌があるが圧倒的に帰り道の方が楽だった。






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