第395話 エルフの血

全ての発表を終えて部屋に戻る



「魔力を増やせる件、教えてもらおうか」


俺はグリムナ達に説明していく。


・成長と共に魔力が増えること

・魔力が0になったら1増えること

・ポーションなどで過剰回復すると増えること

・強い魔物を倒すと魔力が増えること


補足事項として同じ魔法を何度も使うと魔法が効率化され、使用魔力が減ることを説明する。



「なぜそんな事を知っている?初めて聞くぞ」


グリムナが眉をしかめる。


「鑑定魔法を使って自分の魔力を見ながら試していったんだよ。他の人の元々の魔力がどれくらいあるとか成長でどれくらい増えるかは知らないけど人間はだいたい同じような感じじゃないかなとは思ってる」


「エルフは生まれた時から人間より多くの魔力を持っておる。人によって異なるが2~3000は誰しもある。成長と共に増えるのは同じじゃ。それがある時を境に増えなくなる。成長したエルフの魔力の平均は4~5000。魔力が多いほど寿命も長い。ハイエルフと呼ばれるのは魔力が7000を越える者を指し、他のエルフより寿命がさらに長くなるのじゃ」


へぇ。グローナの説明にゲイルは感心する。


「ちなみにワシの魔力は8500、リアードは8000、グリムナは9000じゃ」


おお、グリムナってこの世界最高記録ホルダーじゃないか。


ん?なんか魔力がぴったり8000とか8500とかきりの良いところで止まるの不自然だな。


「グローナさん。ある時を境に魔力が増えるの止まるんだよね?それって、千単位とか500単位とかきりのいい数字?」


「そうじゃ」


なるほど、これは人によって上限が決まってる可能性が高いな。きりの良い数字で止まるところは実にゲームっぽい。


「魔力を鑑定したらどう見えるの?」


グローナの説明では俺と同じ見え方みたいだ。魔力総量の限界値は俺より優れているであろう鑑定でも見えないやつなんだろうな。見えたら面白くないってやつか?


「ゲイル、人間はみな魔力が増やせるのか?」


「増やすのは可能だけど、俺のやり方は無理だね。ポーションとかで過剰回復して増やすのも魔力が少ない人には効果あるけど、1000超えたあたりから極端に増えるのが少なくなる。強い魔物を倒すのも相当やってもエルフ並みにはならないんじゃないかな。ディノに止めを差した父さんでもエルフの一番低い人に届くかどうかだから。


「お前はどうやって増やしたんだ?」


「俺は魔石とか色々な物に魔力を充填出来るし、そこから魔力を吸うことも出来るんだよ。だから魔力を0にしてその瞬間に魔石から魔力を吸う。それで1増えるからその繰り返しを毎日やってたんだ。最近は魔力回復スピードが上がって効率よく0→1を繰り返すのが難しくなってきたからほとんどやってないけど」


「魔力を吸ったり出したりするのは人にでも出来るのか?」


「出来るよ。吸うのはリッチーと同じ魔法らしいね」


「それならばお前が他人の魔力を吸って入れてをすれば増やせるじゃないか」


「俺もそう思ってダンにやってみたんだけど、少し増えた所でギブアップしたよ。魔力を吸われるのもキツいし、すぐに補充するとはいえ魔力0になるのが延々繰り返されるのに耐えられないみたい」


ダンは二度とごめんだと首を振った。


「だから鑑定魔法が使えて、魔力を出し入れ出来る能力があって、魔力が増える条件を知っている人にしか出来ない方法だね」


「そんな奴は他にはおらんだろう。ということはバレる心配はないな」


あ、嘘を押し通すんだ。40年くらいしたら老けてバレると思うけどね。


「ゲイルよ。魔力が多いほど寿命が長いことはどう思うんじゃ?」


「どうだろうね?確かに死にそうになる時は魔力がどんどん抜けて行くから無関係じゃないとは思うけど」


「そうじゃ、人もエルフも死ぬ時は魔力が抜ける。エルフは寿命も長いし、魔力も多い。やはり魔力が多いほど寿命が長いのではないか?」


「シルフィードはハーフエルフだけどほとんどエルフと変わらないよね。今20歳過ぎているけど人間で言うと10歳くらいの見た目でしょ?俺は普通の人間と同じように成長してるから違うんじゃないかな。事故とかが無くてもだいたい70~80歳くらいで死ぬんじゃない?」


普通の人間と同じって自分で言ってて悲しくなるな。


「そう言われるとそうじゃな」


「考えてもわからないことはこれ以上考えても無駄だね。取りあえず俺がエルフの血を引いてないことは理解してもらえたかな」


「うむ、里・・いや国の皆を騙す事になってしまうが、それは3~40年後のゲイルの成長具合を見て判断しよう。寿命の事もエルフの血を引いている事も可能性が0になった訳ではないからな」


いや、0だよ。元の世界にエルフなんていなかったし、例えアーノルドかアイナの祖先にエルフが居たとしても俺の魂は人間だ。エルフの可能性は0なのだ。


シルフィードとの結婚の話もうやむやにしておこう。元の世界で結婚して子供も育てた。その記憶が鮮明に残っている俺の中では自分は既婚者なのだ。それにシルフィードは寿命が同じぐらいのエルフと恋愛して結婚する方がいいに決まってる。俺がシルフィードを守りたいと思うのは父性愛に近い。恋愛感情とは違うのだ。



エルフの国で料理や酒などを広めるのは許可された。外に興味を持って国を出たいと言い出すものは許可制にするらしい。条件としてエルフの国の事は秘匿すること、ウエストランド王国以外の国には行かないこと。複数のエルフで行動すること等の条件が付くらしいが、まぁ妥当な条件だろう。


「ゲイル様」


少し遅めの昼御飯を作りに厨房に行くとススナとコクナがいきなり俺達を様付けで呼ぶ。


「いや、今まで通りでいいよ」


「しかし、王族の、しかもハイエルフになられる事が確定されている方にそのような・・・」


確定してないから。


「俺はこの国を治めているわけじゃないし、料理とか教えるけど、俺も醤油の作り方とか種とか貰って帰るからギブアンドテイクだよ。だから前みたいにしてて。居心地悪いから」


でもと言いかけるので仕方がなく命令ということにしておいた。俺もグリムナや長老に敬語使ってないしな。


なんか精神的に疲れたから甘いご飯にしよう。


すぐに出来るパンケーキを作っていく。ダンとシルフィードには簡易で作った土魔法の遠心分離機で生クリームを作ってもらおう。ハチミツだけでも良かったんだけどね。



「お待たせ。甘いおやつみたいなご飯にしたよ」


こういうのも初めてなのでグリムナ達は喜んで食べる。シルフィードも嬉しいようだ。ダンは不服そうだけど。


グリムナ達に料理を覚えたい人向けに料理教室、米、薄力粉、片栗粉、トウモロコシ等のここには無いものの育て方と果物や野菜の品種改良のやり方、蒸留酒の作り方等を教えていくスケジュールを相談する。俺は醤油の作り方を教えてもらわねば。


スケジュールの相談が終わった後、マスの養殖場に行き、まずヨウナに料理教室の事を伝えに行く。


養殖場に向かう途中、エルフ達が俺達に向かって頭を下げて通り過ぎるのを待つ。嫌だなこういうの・・・


養殖場にいるヨウナも頭を下げたまま顔を上げない。


「ヨウナさん、顔上げてくんない?」


「昨日までの無礼な振る舞い誠に申し訳なく・・・」


「そんなのどうでもいいよ。普通にしてて。ススナさんにもそうお願いしたから」


「ヨウナ、ゲイル様より普通にしろとのご命令だ」


もう・・・・、様付けも止めろって。


なんとか今まで通りにしてもらうようにして料理教室の事とか条件付きで国の外に出られることとか説明する。


「本当か?」


「本当だよ。生の魚料理は寄生虫の駆除が出来るようになってからになるけど、それ以外は魚以外も教えるから」


それだけ伝えて戻る。


晩御飯に肉料理をリクエストされているので急いで準備していかないといけないのだ。コクナたちに説明しながら作っていく。


長老達は歯が悪くて肉を食べないのではなく、硬い肉が嫌いだったようで柔らかくした肉は喜んで食べていた。



翌日からはグリムナ邸の前で土魔法で作ったオープン料理教室を開いた。調理器具の問題は残るが、魔法を駆使したやり方で対応する。どんな詠唱をしているのか知らないが出来る人がいるから、後でそのやり方を広めてくれればいい。


それから冬になるまで料理指導、農業指導、蒸留酒指導、そんな生活が続き、エルフ達とも距離が縮まっていった。醤油の作り方は麹が手に入ればだいたい知ってるやり方だった。戻ったら酒作り職人のジョージにやってもらおう。


料理や農業指導でシルフィードが俺のサポートをすると、なんて姫様は甲斐甲斐しいのかしらとかひそひそ話をされている。婚約したとかグローナは宣言していないが、皆は俺が婿入りすると思っているようだ。



結界の影響を受けずに直線で進んだらエルフの里からシルフィードの元居た村まで2日程度でいけるらしい。俺達が想像してたより遠くから結界の影響があるみたいで、国に近付くほどその影響が強くなるのとのこと。ダンみたいにきっちり方向を認識出来る冒険者だからこそ強い影響を受ける所まで来れていたらしい。普通の人なら柱を建てた所までも来れないみたいだ。


いよいよ冬になり、エルフの国からウエストランドに戻る事になる。


「シルフィード、お前のエルフの掟を消そう」


「いいの?」


シルフィードはグリムナとの距離が縮まり、敬語ではなく普通に話せるようになっていた。俺には相変わらず様付けだし、敬語だけれども。


グリムナは何やら長い詠唱を唱えていくとシルフィードの胸元から白いモヤのような物がフワフワと上空へ向かって霧散していった。


「これで紋章が消えているはずだ。ゲイル、鑑定してみてくれ」


「いや、大丈夫でしょ。胸元から白いモヤみたいなもの出て消えていったし」


またシルフィードを脱がせて見たら何を言われるかわかったもんじゃない


「一度見たんだろ?」


何度か一緒に風呂にも入った事は言わない。


「いや、シルフィードも恥ずかしいだろうし、グリムナさんの魔法を信じるよ」


「み、見られても大丈夫です」


「いや、シルフィード。鑑定しなくても紋章があるかどうかは自分で見えるだろ?自分で確認しなさい」


そう、消えた紋章なんて鑑定出来ないから俺が見てもシルフィードが自分で見ても変わりはないのだ。


「あ、そうですね・・・」


真っ赤になったシルフィードは後ろを向いて自分の胸元を確認した。


「な、無くなってる」


ちゃんと紋章を解除する魔法は成功したようだ。


グリムナがその時にチッと舌打ちした。


あ、こいつ親の前で胸元を見ただろうとか既成事実をつくる為に鑑定しろと言いやがったんだな。なんてヤローだ。油断も隙もあったもんじゃない。やっぱりこいつエイブリックと同類だ。


次は俺達だけでこの国に来ても結界が働かないようにするために登録するとのこと。やり方は登録用の石に一滴血を垂らしてそれを結界に埋め込むらしい。



「シルフィードよ、ずっとここに居てもいいのじゃぞ」


「ありがとう。でも私はゲイル様達とパーティーなので一緒に帰ります」


「そうか、寂しくなるな。せめて10年に1度は顔を見せに来ておくれ」


「はいっ」


1年に1度とかじゃないんだ・・・



翌朝皆に万歳されながらエルフの国を出る。


帰りの旅はグリムナが同行する事になった。ボロン村のダートス夫妻への礼、アーノルド達とドン爺とエイブリックに今回の結末を話すらしい。同盟の返事もあるからな。


他のエルフ達が人間の国に行っても問題がないかの確認もあるだろう。グリムナがエイプやゴングをどうやって倒すのか少し楽しみでもあった。



さらばエルフの里、もといエルフの国よ。またお土産持って遊びに来るよ。

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