第394話 えっ?
「あれ?楽しい話をしてたんじゃないの?シルフィード大丈夫?」
「いえ、悲しくて泣いてんじゃないです」
ならいいんだけど・・・
「ゲイル、この前の料理と違うのか?」
「ちょっと違うのにしてみたんだけど美味しくなかったら違うのを作るよ。じいちゃんばあちゃんが好きそうなのにしてみたんだけど」
一通り料理の説明をする。
まずはワインで乾杯だ。俺はジュースだけど、シルフィードも飲むのか。変な酔い方するなよ。
「なんともこれは旨い」
「えぇ、天ぷらというのも美味しいですね」
リアードの声を初めて聞いた。ばあちゃんの癖に若い声だな。
「この米というのと生の魚は相性がいいな」
グリムナも気に入ったようだ。
「米から作った酢があれば寿司っていう料理が作れるんだけどね。ワインから作った酢だと合わないから。生の魚とワインってあまり相性が良くないでしょ。この時期に熱い酒はどうかと思ったんだけど、そっちの酒をちょっと飲んでみて」
「なんだ骨が入ってるじゃないか」
グリムナがそう言ってる横でダンがくーーっとか言いながら飲んでやがる。
それを見たグリムナ達は骨酒を飲んだ。
「なんだこの酒は?」
「お土産に持ってきた酒を更にきつくしてから水で薄めてあるんだよ。蒸留酒には匂いがあってそれとだと魚の風味と喧嘩しちゃうからね。酒の風味を減らすためにそうしたんだ」
「お前の言ってる事はよくわからんが旨いのは分かる」
長老二人も刺身を食べながら骨酒を飲んで笑顔になっている。皆の口に合ったようだ。
俺は大葉にマスの刺身を包み、ワサビを乗せてから醤油を付けて食べる。旨ぁぁぁぁ
「その葉っぱはその辺に生えてるやつだろう?」
「青紫蘇とか大葉とか呼ばれるやつなんだけどね、マスの天ぷらにも巻いてあるから塩で食べてみて」
「うむ、これは旨い」
「えぇ、生の魚にも良く合うわ」
「こんな草みたいなものが旨いとは・・・」
「魚にも合うし、鶏肉とかにも合うよ。大葉だけで天ぷらにしてもいいし。好き嫌いの分かれる味だと思うけど俺は好きなんだよね。焼き肉の時にご飯にちぎって乗せて食べるのも好きなんだ」
「あのハンバーグというのにもあうのか?」
「大根おろしとポン酢のソースがあったでしょ。あれと一緒に食べるといいよ。脂がきついなと思ってもさっぱり食べられるし」
「外の世界はこのような旨いもので溢れておるのか・・・」
「長老様、それはちょっと違うな。旨いものがあるのはぼっちゃんの周りだけだ、他はここの料理と変わらんぞ」
「これは人間の料理ではないのか?」
「まぁ、ぼっちゃんは人間だから人間の料理で間違いないがな。ぼっちゃんが考えて他の者に教えていってる。ディノスレイヤ領、王家、ぼっちゃんが開発している庶民街。このあたりだと旨いものが食える。今はドワーフの国でも食えるかもしれんな」
「それではドワーフ共もこの飯と酒につられたわけか」
「まぁ、半分くらいはそうだな。残りの半分はぼっちゃんといると面白いからじゃねーか。何やらかすかわからんからな」
やらかすとか言うな。
「そうだな。ここに来て数日でまさか長老達を部屋から出せるとは思ってもみなかった。礼を言う」
「ワシらからも礼を言わせてくれ。ワシらはあそこで生涯を終える覚悟をしておった。それでいいと。しかし、こうやって外に出て旨い飯と旨い酒を味わえる。こんな幸せな事はない。ひ孫とも手を繋ぎ話が出来た。シルフィードに手を繋いで貰って改めて思った。こんな小さな手を持つ子供にワシらはなんという業を背負わせてしまったのかと・・・」
グローナとリアードは涙を浮かべた。
その後、シルフィードに話した内容を俺達にも教えてくれた。
「あの時、ワシらが反対せずに里に迎え入れてやってればシルフィードの母親も死なずにすんだかもしれん。すまんかったシルフィードよ」
「いえ、おかげでゲイル様達に出会え、ボロン村の村長や皆も優しくしてくれました。お母さんが死んじゃったのは悲しいけど、今の私は幸せです」
「そうか、そうか。エルフの血を引くものが人間に幸せにしてもらったか。やはり間違ってたのはワシらの方みたいじゃな・・・」
「いや、グローナさん達は私より公を取ったんだよ。種族のトップに立つ者としてそれは正しい決断だったと思う。解ってはいてもそういう決断が出来る人は滅多にいないからね。それに自分達の人生を犠牲にして皆を守る事なんて誰にも出来ないよ。俺は二人を心の底から尊敬するよ」
「わ、ワシらが正しかったと言ってくれるのか・・・」
「もちろんだよ。シルフィードのお母さんが死んじゃったのは悲しいけれど、あれは事故だ。エルフが悪いわけではない。強いていえばディノと瘴気のせいだ。グローナさん達のおかげで里も平和だし、当事者のシルフィードも幸せだと言ってくれている。それが答えだと思うよ」
「そうか、そうか。人間のお前がそう言ってくれるか・・・」
「あとはこれからどうするかだね。エルフが望むなら俺としてはこの里に料理と酒とか皆が楽しめるものを伝えて帰りたいと思ってる。それによって外の世界に興味が出て外に行きたがる人が出てくるかもしれない。それがこの里にとって良いことか悪いことかは判断がつかないから長老達とグリムナさんで決めて。ダメならこれ以上何もせずに帰るから」
「いや、もう腹は決まっておったが改めてその考えが正しいと確信した。グリムナとまだ相談はしておらんが恐らく同じ考えじゃろう。このエルフの里はウエストランド王国、そしてドワーフ王国と同盟を結ぶ」
グローナがそう言うと、グリムナもリアードもこくんと頷いた。
ドン爺とエイブリックからの手紙には同盟の申し込みとエルフの里を国と認める内容だったみたいだ。
これまで通り、エルフの里は秘匿し、国交を結んだことも公にしない。ドワーフの国と同じ方式だ。エルフの里はグローリア王国となり、グリムナは初代王様になることが決まった。
アーノルドはエルフは王族しか家名を持たないと言ってた情報は正しくはなかったが、この事により正解な情報になったのは面白い。
翌日、里のエルフ達が集められ、長老が本当に外に出ていることに驚き、皆ひれ伏している。自らを犠牲にして里を守っていることを知っているエルフ達は神を見るような感じで崇めていた。その長老から魔石によって結界が維持出来ること、それを可能にしたのが俺達であること。里が国になりグリムナが王になること、ウエストランド王国とドワーフ王国と同盟を結ぶことを説明していく。大きくざわつくエルフ達。
しかし、マイクも無しに皆に声が伝わっていくのは魔法なのだろうか?魔力の光も見えないからエルフの特殊能力なのかもしれない。でも、ここに集めるのに使いを出していたな。グローナのスキルかな?
そしてざわつきが少し収まった頃に爆弾発言をするグローナ。
「シルフィードは元より、ゲイル・ディノスレイヤをグローリア王国の王族とする」
えっ?
「そんなの聞いてないよ?」
俺は慌ててグリムナに聞いてないと言う。
「お前には今言ったからな。姫の婿だから当然だろ?」
は?
「シルフィードが姫なのは分かるけど、婿って?」
「アーノルドとアイナと同じようにするのかどうか聞いただろ?お前はシルフィードを連れて行ったじゃないか」
「いやいや、あれは冒険者パーティーとしてでしょ。結婚とかそんな話じゃないじゃないか」
「お前、シルフィードの紋章見たんだよな?」
「うん、鑑定したよ」
「どこに紋章があった?」
「・・・・・」
「責任取れ」
いや、あれは医者と同じ原理で・・・
「俺まだ5歳だよ。結婚とかそんな・・・」
「解っている。お前達はまだ子供だ。100年か200年後で構わん」
いや、100年後って・・・俺死んでるから。200年後なんて3回くらい死ねる。
横でその話を聞いていたシルフィードは真っ赤っかになっていた。
その後もエルフが人間に迫害されてここに里を築いた歴史と実際に迫害をした人間はもう居ないこと。同盟を結ぶのは人間とではなく、グリムナと共にディノを倒したアーノルド、アイナ、ドワン、エイブリック、ミグルがいるウエストランド王国であること。特にエイブリックはウエストランド王国の次期国王であることから信用出来ると説明していく。
そして俺はどうやらドワーフ王国の王族にも加えられているらしく、グローナの説明で初めて知った。それってドワンとミゲルが義理の親戚になってんじゃん・・・。帰ったら
ざわざわざわざわ。
その子供は人間ではありませんか。
どこからかそんな声が聞こえてくる。当然の反応だな。
「ゲイルは人間だがエルフの血を引いておる。その証拠にお前達より魔力が多い。すでにハイエルフ並みじゃ」
えっ?
いっそうざわつくエルフの民。
「グリムナさん、俺、エルフの血を引いてないよ」
民を納得させるためとはいえ、嘘は良くない。
「じっちゃんがお前の魔力はすでに普通のエルフより多いと言ってたから間違い無いだろう。そんな人間がいるはずも無い」
「いや、俺は自分で魔力を増やしたんだよ。初めから多かったわけじゃない」
「なんだとっ?」
「いや、本当の話」
ざわついていたエルフ達の俺を見る目が変わった。なんか崇められている気がする。それに憎悪の感情も消えている。
あとハイエルフってなんだ?
「シルフィードも同じく、ハイエルフ並みの魔力を持っている。このまま成長すればハイエルフになるじゃろう。何かしら意見のあるものはおるか?」
おお、姫と王子がハイエルフになられるのか。それならばこの里、いや国は安泰だ。
そんな声が聞こえてくる。
バンザーイ バンザーイ バンザーイ
グローリア王国バンザーイ。
なんだよそれ。なんでエルフが万歳なんて知ってるんだよ
「とにかく、魔力を増やせる話は後だ。もう後には引けん」
あーあーあーあー、どうすんだよこれ?
止まない万歳コールにダンはカッカッカッカと笑っていやがった。
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