第393話 和定食

エルフ長老夫妻のグローナとリアードは結界から解放されたがすぐにこの部屋から出る決心が付かないとのことだった。俺達も丸一日走り続けていたため疲労困憊だ。取りあえず午前中は寝かせてもらって、それから改めて話をすることに。



ふぁぁぁぁよく寝た。俺達が起き出したのは昼過ぎだった。


コクナ達が焼いてくれてあったパンはまだまだだったけど、前の硬くてぽそぽそしたパンよりずいぶんとマシになっていた。


グリムナと共に結界の部屋に行く。


「魔石の魔力はどう?」


グローナは魔石を鑑定していたが昨日と魔力の減り方は同じだったようだ。


「ゲイルよ、ワシらが本当にこの部屋から出ていいと思うか?」


「俺達がここにいる間はもし結界になんかあって里が荒らされるような事があれば一緒に戦うよ」


「相手が人間であってもか?」


「もちろん。単に迷い込んで来たのなら追い返せばいいし、悪意をもって侵入してきたのなら討伐する」


「なぜエルフにそこまで肩入れする?」


「エルフに肩入れするんじゃなくて、悪いやつを討伐するだけ。相手の種族は関係ないよ」


「そうか・・・種族は関係ないか。」


「そうそう。種族がどうであれ、良い奴も悪い奴もいるからね」


「それはそうじゃな。しかしなぜゲイルはそういう風な考え方になった?」


「父さん達もそうだから。ディノスレイヤ領の人達はそんな感じの人が多いよ。冒険者の街だからあまり細かい事を気にしない文化なのかもしれないね」


「お前は魔法を使うことで恐れられたり利用されたりとかはせぬのか?」


「一部の人には恐れられてるかな。みんなの前で盗賊とかに酷いことしてるからね。利用されてるってのは感じたことないけど、嫌ならやらないし」


「魔法を使えぬ他の人間を見下したりせんのか?」


「魔法は使えたら便利だけど、使えなくても生活出来るからね。魔法有りで戦っても父さんやエイブリックさんとか本気で戦ったら勝てないだろうし、魔法がすべてじゃないよ。技術だけで素晴らしい物を作り出したりする方が凄いんじゃないかな」


「魔法が全てではない・・・か」



そんな話をしばらくしてから長老夫妻はこの部屋を出ると決心した。


扉の前まで来ても外に踏み出す一歩がなかなか出ない。


「シルフィード、二人の手を引いてあげて」


「あ、あの・・・手を繋いでもいいですか」


おずおずと両手を出して二人の前に差し出すシルフィード。二人は少し戸惑いを見せながらも手を出した。


「い、行きましょう」


シルフィードは後ろ向きに歩き、二人の手を引っ張った。


そしてついに扉の向こうへと二人は出た。


「も、もう大丈夫じゃ。後ろ向きに歩くと危ない」


シルフィードはそう言われて手を離そうとする。


「じゃが、もう少し手を繋いでいてくれんか」


グローナ達はシルフィードに前を向かせて二人の間に入れてまた手を繋いだ。


シルフィードはひいじいちゃん、ひいばあちゃんと手を繋いで階段を上がっていく。なんとも微笑ましい。



「ちょ、長老様」


グリムナの部屋に入ると護衛達とススナがその場で膝をついた。


「うむ。皆元気そうで何よりじゃ。グリムナ。明日の朝にエルフの民を全員集めよ。里の皆にこの度のこと、これからの事を話したい」


「かしこまりました」


グリムナが顎でクイッとすると誰かが部屋から出て行った。


「ゲイル、今晩の飯だが、この前の魚料理を作ってくれないか。特に生の魚を用意して欲しい」


「わかった」


「シルフィードはここに残ってくれないか。4人で話がしたい」


「わ、わかりました」


「じゃあ俺達は魚をもらってくるね」


俺とダンはススナに連れられて養殖場へ。シルフィードはその場に残ってお話だ。



養殖場に到着すると、ヨウナが居たので魚を貰いに来たと伝えた。


「料理の件はどうなった?」


「ごめん、まだ返答待ちなんだ」


「ダメそうか?」


「どうだろうね?長老が明日皆に話をするって言ってたからそこで話があるかもしれない」


「長老?グローナ様とリアード様の事か?」


「そうそう。結界のためにずっと部屋に閉じ籠っていたんだね。里と皆の為とはいえ凄いよ」


「どういう事だ話が見えん」


ススナが追加で説明をする。


「間も無く通達がここにも来るだろう。長老様は先ほど結界の部屋から出てこられた」


「何っ?どういうことだ。結界を無くすのか?」


「いや、そのあたりのことは俺にも知らされてはいない。もう大丈夫だと言われただけだ」


ススナはまだ詳細を知らされてはいないようだから少し説明をする。


「結界は魔石で起動させてるから大丈夫だよ。侵入者が来ても10日はグローナさん達が部屋から出てても大丈夫だから」


「魔石で起動?」


「その事も明日説明があると思うよ。今回の事とこれからの事を話すって言ってたから」


「そ、そうなのか」


「うん。どんな話になるかは知らないけど、長老達が部屋から出て来たのは事実だよ。グリムナさんがこの前の魚料理を食べさせたいみたいだから大きいのと小さいのちょうだい」


詳細は直接長老が話すだろうから大丈夫だということだけ言ってさっさと用件だけを伝える。わかったと返事をしたヨウナは見事なマスと小魚を持ってきてくれたので下処理だけして持ち帰る。



「ススナさん。大葉、青紫蘇ってないかな?」


「どんな物だ?」


こんな葉っぱでねと説明していくがよくわからないようだったので畑に案内してくれる。


畑の担当と話してくれるススナ。その辺に生えてるから勝手に持っていけとのことだった。エルフはあまり食べないらしい。


柔らかそうな葉を見繕って大量に採取する。ワサビも忘れずにと。


ザリガニと蜆も捕ってから戻る。


今日の献立はマスの刺身をメインに天ぷらと蜆の味噌汁だ。


コクナに聞くと野菜にオクラやナスもあったので、天ぷらにする。


お土産の蒸留酒を更に蒸留してほぼアルコールを作って水で薄めてマスの骨酒も出そう。長老解放の祝いだからな。季節外れかもしれないけど、刺身をつまみながら飲んでもらえば良い。ワインと生魚ってあまり相性がよいイメージが無いのだ。


後は米を・・・、シルフィードと言いかけて居ないことに気付く。いつも米を炊いて貰ってるくせが出てしまった。ダンが代わりにやってくれるけど、シルフィードが炊いてくれた方が旨いんだよね・・・



ーグリムナの部屋ー


「シルフィードよ、今まですまなんだ。ワシらのひ孫じゃと言うのに何もしてやれんどころか、ひ孫とすら認めていなかった愚かなワシらを許して欲しい」


「い、いえ。私も父さんの記憶が無いんです。だからあまり実感が無くて・・・」


「母親が殺されたショックで記憶が無いとは聞いておる。それとお前に刻んだ紋章のせいもあるじゃろう」


エルフの掟のことだろう。


「グリムナは成長したあとワシらが外に出られん事をいいことに、フラフラと里の外に出ておった。ワシらはそれを苦々しく思っておったんじゃ」



ー過去のエルフの里ー


「グリムナよ、なぜ里の外に出るっ!お前の両親は殺され、お前の兄は人間に復讐するとここから出て行きおった。里のおさはお前しかおらんのじゃぞっ!」


「じっちゃん、俺は里長さとおさとして・・・」


「他の者達に示しがつかんっ、じっちゃんと呼ぶなと言ってあるだろうがっ」


「グローナ様、私は外の情報を集めているのです」


「そんな事をする必要はないっ!この里は結界に守られておる。大人しく里の中で皆の手本となれっ。お前の兄に賛同する者はまだおるのじゃぞ」


月日が流れ・・・


「何っ?人間との間に子供が出来たじゃとっ!お前はいったい何を考えておるんじゃっ!だから里の外に出るなと言っておったじゃろうがっ」


「じっち・・・、グローナ様。ナターシャは教えられてきた人間とは違います。心優しく話もおもしろい。是非この里で共に暮らす許可を・・・」


「ならんっ!断じてならんっ!人間とハーフエルフをこの里に住まわす等とふざけた事を申すなっ。特にハーフエルフは人間に狙われて必ずこの里に害をもたらす。断じてならんっ」


「そんな迷信を・・・」


「ワシらエルフは攻撃魔法を使えん。が、ハーフエルフはエルフと同等の魔力を持つ者も多く、しかも攻撃魔法を使えるのじゃぞ。それを利用しようとした人間が今までどれ程居て争いになってきた事を教えたじゃろうがっ!」


「しかし・・・」


「ならんっ!その子供には掟の紋章を入れろ。災いの種にするなっ」


「じっちゃん・・・・」




「父ちゃん 父ちゃん 今から何するの?また他の魔法を教えてくれるの?」


「シルフィード、すまん・・・・」


「いやぁーーー、痛いよっ 痛いよっ やめて父ちゃんっーーーー」


「あ、あなたいったい何をっ」


「すまん、ナターシャ、シルフィードを災いの種にするわけにはいかんのだ」


紋章を刻まれるのには痛みが伴う。激しい痛みでシルフィードは気を失い、グリムナは気を失った娘を抱き泣いていた。


「ナターシャ、まだ長老の説得が出来ていない。シルフィードには魔力を制限する紋章を入れた。これで人間と変わらない存在になった。二人を人間として里に暮らせるようにするから」


「こうして会いに来てくれるだけで良いわよ。シルフィードが生まれて、グリムナが会いに来てくれるからもう一人じゃないもの」


「ナターシャ・・・・」




「グローナ様、娘には掟の紋章を入れました。これで普通の人間と変わりません。何卒、里に住む許可を」


「ならん。ここにはエルフが人間に迫害された記憶が残っているものも多数おる。そんな所に人間を連れてきて幸せに暮らせると思うか?」


「・・・・」


「お前が人間の村に会いに行くのは許そう。しかし、ここへ連れてくるのはやめておけ。お前が言えば里の者達は受け入れざるを得ない。が、皆がそれで幸せになれると思うか?」


・・・・・

・・・・・・


「むっ?」


「なんだこのおぞましい気配は? グローナ様、様子を見てきます」


「グリムナ、気を付けろ。こんな気配はただ事ではない。警備の者達も連れていけ」



瘴気の森から突如として現れたディノ。その怪物はおびただしい瘴気を放って周りの魔物を凶暴化させて暴れだした。


弓や剣しか攻撃手段を持たないエルフが敵うはずも無くなすすべが無かった



ー現代ー


「ディノに立ち向かう人間はたくさんいたが、他の魔物に苦戦してたくらいでな。もう無理だと思った。そんな時にわずか5人組でバンバン魔物を倒す奴等がいたんだ。それがアーノルド達だったんだ。俺はそこに加わり、ようやくディノを倒してナターシャとシルフィードに会いに行ったら大勢の村人達が死んでいた。村も瘴気が濃くなっていたからその影響だろう。必死にお前達を探したが見つからなかったんだ」



シルフィードの知らなかった過去が長老とグリムナによって話された。アーノルド達が教えてくれた通り、自分は捨てられた訳ではなかったこと。グリムナが里に迎えいれてくれる為に努力してきてくれたことが分かり胸がいっぱいになった。



ーご飯を作り終えたゲイルー


シルフィード達はどんな話をしてるんだろな。お父さんとひいじちゃんばあちゃんに甘やかされてるに違いない。


「お待たせっ!今日は和定食にしてみたよ。もし口に合わないようならムニエルとか作るから」


料理を作り終えてグリムナの部屋に入るとシルフィードは涙を浮かべ、なんとなく重い雰囲気だった。


あれ?







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