第392話 開放

「グローナさん、この魔石に魔力流してみて」


魔法に長けた長老なら魔石に充填出来るかもしれない。


グローナは言われた通りに魔石に向かって植物魔法を流すと魔石の魔力が満タンになった。


そこからやはり魔石の魔力は減らない。


「これ侵入者が来ない限りほとんど魔力使わないんじゃない?グローナさんも魔石に魔力充填出来るみたいだし、ここ離れても問題無いと思うよ」


「なんじゃと?」


「起動する時に魔力が1減っただけでそこから減らないからね。毎晩寝る時に魔石を鑑定して減った分だけ補充してやれば十分だと思う。侵入者が来たら結界が働いて魔力減るかもしれないけど、誰か来たら分かるんでしょ?魔石は大きいからそれから魔力補充しに来ても十分間に合うよ」


「なんてことじゃ。ワシらがずっと魔力注いで来たのは・・・」


「無駄とは言わないけど、この魔石があればその必要ないんじゃないかな。しばらく魔力の減り具合を確認して検証しないといけないけど。俺たちが外に出て魔法陣起動させて魔石の魔力の減り具合を試してもいいし」


「ここからワシらが出ても結界に支障がないと言うことか?」


「多分ね。明日からそれを検証しようか?」



そう言われても心配なのだろう。二人は今夜もここに居るらしい。明日の朝に迎えに来るねと約束をして扉を開けようとした。


ぐっっ!


開かねぇ・・・


「これどうやったら開くの?」


「おぉ、すまん。その扉は外から限られた者しか開けられんのじゃ」


マジかよ。こりゃ朝まで出られんな。


この部屋から出るのを諦め、俺は爺さん婆さんにシルフィードとの出会い、ドワーフの国の話、ディノスレイヤ領や西の街の話、蛇退治やここまで来るまでの色々な話を夜通しした。


外の世界から隔絶された二人にとって俺の話はとても楽しかったようで、嬉しそうにずっと聞いていた。そして話し疲れた俺はいつの間にか眠ってしまった。



「ぼっちゃんっ!」「ゲイル様っ

!」


「あ、おはよう。もう朝?」


光の差し込まないこの部屋は時間がよくわからない。


「なんだよ、寝てただけじゃねーか」


二人は朝まで帰って来なかった俺を相当心配していたらしい。シルフィードは涙目になっている。


「すまん、呼び出しが無かったものでずっと話し込んでいるのかと思っていた」


「いやあ、ゲイルの話が面白くての。つい呼び出ししそびれてしまった。すまんかったの」


呼び出しできたのか・・・ まぁ、200年以上ここに閉じ籠っている年寄りのわがままに怒るわけにもいかない。


どれくらい魔力が減ったか魔石を鑑定すると魔力が5減っていたから何事もなければ1日あたり魔力を10~12使うようだ。


「グローナさん、今日は侵入者がいたらどれくらいの魔力を使うか実験しよう」


「頼めるか?」


「ここに居る俺達しか出来ないからね」


「なんの話だ?」


グリムナが俺達の見えない会話に疑問を抱くので結界の魔法陣と魔石の説明をする。


「それは本当なのか?」


「それを今日検証するよ。ダン、俺達の二人でやろう」


「わ、私も行きますっ」


「シルフィードはわざわざ危険な目に合う必要ないよ。戦いの訓練もここに来るためのものだしね。目的を果たしたんだからここで待ってて。それよりグローナさん達と話でもしてて」


そう言うと、とても寂しそうな顔をするシルフィードだが、意味もなくエイプやコングの居る森に連れていきたくはない。検証に3人もいらないのだ。


「シルフィード、お前は父さんと爺ちゃん婆ちゃんと話をしておけ。俺達が居ない方が話せる事もあるだろうからな」


「でも・・・」


「ゲイルよ、シルフィードはお前の仲間なのであろう?それならば連れていってやるがよい」


グローナ、あんたの曾孫だぞ?


「いや、無駄に危険な目に合わせるわけには・・・」


「お前の両親、アーノルドとアイナはその危険な冒険にずっと一緒だったのではないのか?」


グリムナ、お前は父親なんだぞ。


「そりゃそうだけど。検証が目的なんだから不必要に危険にさらす必要ないじゃん」


「シルフィードはお前が守らないとダメなのか?」


「いや、そういうわけじゃないけど・・・」


なんでみんなしてこんな小さな女の子を危険な目に合わせようとするんだよ?


「ゲイル、シルフィードはお前にとって仲間か手の掛かる荷物かということだ。荷物なら置いていけ、仲間なら連れていけ」


「いや荷物だなんて・・・」


「わ、私はゲイル様と一緒に行きたいんですっ」


「ぼっちゃん、俺達はパーティーだ。余計な気遣いは無用だ。怪我や病気ならともかくな。行きたいと言うなら連れて行ってやれ。その為に厳しい稽古を続けてきたんだ。話は帰って来てからでも出来る」


・・・

・・・・

・・・・・


「わかった。シルフィード、無茶はするな。きちんと俺とダンを頼れ」


「はいっ」




グリムナに里の外まで連れ出してもらう。


「ここに明日の朝迎えに来る。それまで侵入を試みてくれ」



俺達3人はエイプ、コングを倒しまくり、ほぼ24時間休まずに里に向かうであろう道を走りまくった。


「ハァ ハァ ハァ。やっと朝だ。 な、シルフィードは待ってた方が良かっただろ?」


「い、いえ。同じ苦労をしたいんです。ただでさえゲイル様はなんでも一人でされてしまうので・・・」


「ぼっちゃん、次やる時は俺が留守番してるわ」


アホかっ


「次はダン一人で行ってもらうわ。何でも屋だろ?」


「誰が何でも屋だっ!」


そんな下らない事を言ってるとグリムナが迎えに来た。


急いで里に戻るぞとの事でヘトヘトな俺達の事を気にせず走り出しやがった。



「ゲイルよ。よく戻った。この魔石を見てくれ」


そう言われて魔石を鑑定すると1000程魔力が減っていた。


「結界が丸一日作動してこれだけしか減らないなら10日は離れてても大丈夫だね。グローナさん達も普通の生活出来るよ」


「結界の心配をせずに外に出られるのか・・・」


二人の目に涙が溜まる。里を守るためとはいえ自らを犠牲にして200年以上ここにいたのだ。それが今日終わる。


本人達にしかその気持ちはわからないだろう。そんな長老達に誰も声をかけることが出来なかった。


こうしてエルフの里の長老は結界に縛り続けられる人生から解放されたのだった。


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