第391話 この世界の歴史
「これは肉か?」
「牛肉と豚肉を細かくして練り合わせた料理、ハンバーグというものだよ。がっつりならガーリックトマトソース、あっさりなら大根おろしとポン酢で食べてね。野菜には酢と玉子、油、塩を混ぜて作ったマヨネーズというソースを掛けてあるよ」
「お二人は歯が悪くなってあまり固いものを食べる事が出来ん。ここ数十年は魚だけを食べておられる」
そうだったのか。
「ならうどんでも作るよ。鶏肉でつみれとかも出来るし。魚ばっかりじゃ飽きるでしょ。パンも柔らかいから大丈夫だし。あまり食欲が無いときなら雑炊やお粥とか色々と作れるから」
俺が説明するものはちんぷんかんぷんみたいだ。
爺さんと婆さんはトマトソースを付けてハンバーグを食べる。イメージは大根おろしの方だったんだけどね。
「に、肉がこんなに柔らかく・・・」
歯が痛い訳ではなそうだな。ちゃんと噛んでる。
次は大根おろしを乗せて食べる。
どちらも旨そうに食べている。
「どっちも旨いな。この柔らかさならお二人にも大丈夫だろう」
グリムナも一緒に食べ、3人とも綺麗にハンバーグとサラダを食べ終えた。
「人間の世界はこのような旨いものが出来ていたのか・・・」
長老二人は何か思いふけっているようだ。しかし、さっきからずっと気になっていることがある。二人の身体から緑の光が魔法陣に流れている。魔法陣からも光が出ているが源はこの二人からのようだ。
「ゲイルよ。お前と少し話がしたい。悪いが他の者は席を外してくれんか」
「かしこまりました。この者が持って来た手紙をお渡ししておきますのでお目通しを」
グリムナが渡したのはドン爺とエイブリックからの手紙だった。
「さて、ゲイルよ。お前はエルフに何を望む?」
「エルフと言うより、ここで作られている醤油とかワサビとか砂糖になる大根が欲しいな。こっちからは新しい酒や料理を提供するし、ここに無い野菜の種とかも置いていくよ」
「いや、物ではなくエルフそのものにじゃ」
「友好かな。というより敵対しないでいてくれたらそれでいい。後はエルフの事はエルフが決める事だから俺が口を出す問題じゃないと思う」
「エルフの里を見て来たか?」
「少しだけね」
「どう思った?」
俺はグリムナに話した事と同じ事を話した。
「そうか、楽しく生きているようには見えなんだか」
「エルフは初めて見たからあれが普通なのかどうかはわからないけどね。あくまでも個人の感想だよ。ドワーフの国のドワーフ達は物凄い熱量というか自分達の作るものに誇りを持って生きてたよ」
「ドワーフの国にも行ったのか?」
「いつも一緒にいる職人が父さんの仲間でね。武器以外にも色々と作って貰ってるんだよ。そのおやっさんが里帰りに行くときに付いて行ったんだ。おやっさんのお父さんが国の
「ドワーフの国から来ただと?」
「そうだよ。旨い飯と酒が飲めるとかでね。楽しそうにやってるよ。ずっと東の方から逃げて来たハーフ獣人もいるし、シルフィードはハーフエルフだし、色々な人種が集まって来てるね。数は少ないけど」
「揉めたりはせんのか?」
「ドワーフは俺が生まれる前から居たから大丈夫だけど、ハーフ獣人とハーフエルフのシルフィードの正体はまだ隠してる。種族がどうこうで見られるより、その人個人を見てもらいたかったから。もうすぐ隠す必要無くなると思うけどね。シルフィードは自分がハーフエルフとばれるのが怖いみたいだから、それが消えるまで隠すけど。まぁなんかあれば俺が守るし、俺が居ないときはウエストランド王国の王子、エイブリックさんが隠密の護衛を付けてくれているから大丈夫。あ、これはシルフィードには言ってないから内緒ね」
「ハーフエルフに人間の王家が隠密の護衛を付けてるだと?」
「元々は俺が事件に巻き込まれる可能性があったからなんだけどね。俺自身はダンが護衛に付いてくれてるし、父さん母さんは自分の身を守れる。後は俺と親しいメイドのミーシャとシルフィードが狙われるかもしれないから対策をお願いしたんだよ」
「なぜそこまでする?」
「仲間だから」
「ハーフエルフが仲間じゃと?」
「そうだよ。シルフィードはいい娘でね。ハーフエルフは災いを呼ぶとか言われてずっと正体を隠して生きて来たんだ。お母さんも殺され、お父さんもどこにいるかも知らない。初めて会った時はフードを深く被って顔すら隠してたよ。それが縁があって一緒にいるようになって、良く笑うようにもなった。大切な仲間だよ」
「お前はハーフエルフが恐ろしくはないのか?」
「元々そんなの信じてなかったし、なぜそう言われるようになったかの理由も父さん達から聞いたからね。本人が悪いわけじゃないのに酷い話だよ」
・・・
・・・・
・・・・・
「本人が悪いわけじゃない か・・・。その通りじゃな。少し昔話をしていいか?」
「うん、聞きたい」
「これはワシ達が生まれる前の大昔の話じゃ」
長老ははるか昔の事を話し始めた。
元々エルフは神のように崇められる存在だったらしい。美しい見た目、長寿、あらゆる魔法を使いこなす神のごとき存在。魔法の使えない人間や獣人を従え生活していた。
ドワーフは数が少ないながらも魔法が使える者がおり、寿命も長く力も強い。どちらかといえばエルフに反発する存在だったようだ。
エルフは人間に魔法や魔法陣を教え徐々に魔法が使える人間が増えていく。魔法により人間の生活が豊かになり、寿命は短いが数が増えるスピードが早い人間。徐々にエルフと人間の勢力図が変わっていく。そして獣人は人間より身体能力が優れている代わりに知能が低く、次第に人間に使われる立場になっていく。人間は争い事を繰り返しては滅びまた増えていく。
ある時を境に人間が魔法で攻撃することを考え、あらゆる魔道具を作り、更に発展していく。それに伴い争いも増えていった。そして激しさを増した争いは滅びを招いた。
生き延びた者たちで世界をやり直すため、今度は初めからエルフと人間が手を組み、少数のドワーフも加わった。獣人はそこに加わらず自然の中で自分達だけで暮らす事を選んだ。
また世界は発展をし始めたが攻撃魔法と武器を手に入れた人間は自分たちが一番優位な立場になるためにエルフを迫害し始める。数の多い人間に劣勢になったエルフは人間から逃れて僻地へと住処を移しこの里を作った。
「エルフは魔法で攻撃したりしないの?」
「魔法は生活に密着しており、エルフの詠唱に攻撃魔法はない。人間が増えるに連れて次第にエルフ達も簡単に覚えられる人間の言葉が主流になり、新たな詠唱を作り出せる者はいなくなった」
「人間の詠唱で魔法は発動しないの?」
「人間は大昔のエルフ語を人間の言葉に変えて魔法が使えるようになった。しかし、エルフは人間の詠唱では魔法が発動しないのだ」
「不思議だね。そもそも魔法って詠唱いらないんだけどね」
「何っ?」
「俺が考えるに魔法って魔力を具現化するものなんだよ。イメージをしっかり持って魔力を流せば魔法になる。この魔力を流すっていうのが解らなくて魔法を使えない人が多いんだよ。本当は誰でも魔法が使えるんだ。あとは魔力を流す量のコントロールが難しいから上手く発動しなかったりとかだね」
ほらと火の玉を浮かべて見せる。
「高速詠唱でなく無詠唱じゃと?」
「詠唱はその魔法のイメージを強く持つ為の物みたいでね、それで覚えると詠唱無しでは使えなくなるみたい。シルフィードも植物魔法は詠唱するけど、水や火は詠唱無しで出来るよ」
「な、なんと・・・」
「グローナさん達が魔法陣に流してるの植物魔法だよね?」
「何っ?この魔法陣が見えるのか?」
「え?緑色に光ってるよね?」
「ば、馬鹿な」
あ、もしかして光って見えてるの俺だけなのか・・・
「俺は魔法というか魔力が出てるのが見えるんだよね。魔法の種類によって色が違うんだよ。魔法陣も緑、グローナさん達から魔法陣に流れている光も緑だから。その結界は森の木達をコントロールしてこの里に来れないようにしてるんじゃないかな?」
「そうじゃ。エルフしかこの里に近付けないようにするための魔法陣。ここに来た時に代々伝わる秘伝の魔法陣をここに書いた」
「もしかしてずっとこの魔法陣に魔力を流し続けてるの?」
「それがワシらの宿命じゃ」
「外には出てないの?」
「無論」
この二人はこの結界を維持する為だけに存在しているみたいだ。200年以上ここに閉じもってるなんて・・・
「魔石置いといたら外に出られるんじゃない?」
「どういうことじゃ?」
「魔法陣を起動させるには魔力だったら何でもいいと思うんだよ。植物魔法陣を起動するには植物魔法が一番いいんだろうけど、単純な魔力でも起動すると思うよ」
特変異の魔石を出して二人の魔力が流れ込んで行く所に魔石を置く。
「ちょっと魔力流すの止めてみて。もし魔法陣が起動しなくなったら分かるから。その時は俺が植物魔法を流すから大丈夫だよ」
二人とも信じられないようなので、小麦の種を魔道バッグから取り出して一瞬で育てて見せる。
「ね、これで植物魔法使えるの分かったでしょ。だから安心して」
二人は顔を見合わせて魔力を流すのを止めた。二人から緑の光が消えるが魔法陣からは消えない。
魔石を鑑定してみる。
【魔石】瘴気により特変異したオーガ産
・魔力11050/12210
これを満タンにして減り具合を見る。
・魔力12209/12210
始めに1減っただけで中々減らないな。というかしばらく待っても一向に減らない。
「グローナさん、魔石の鑑定出来る?」
そういうと魔石の鑑定をした。
「巨大な魔石だとは思っておったが、なんじゃこれは?特変異したオーガの魔石?」
「ここを探している時に襲われてね。ダンが
「こんな巨大な魔石を持つ化け物をたった3人で・・・」
二人は驚いていたが俺は無視して魔石の魔力が減るか鑑定を続けたのだった。
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