第390話 エルフの長老

「ほう、活気が無いか」


「うん。なんか淡々と生きているって感じかな。何を楽しみに生きているのかが分からなかった」


「そうだな。アーノルド達は実に楽しそうにしていたのを良く覚えている。ナターシャも良く笑う人間だった」


「今日コックのコクナさんに俺が知っている料理を教えてから帰る約束をしたんだけどね、ちょっと思うところがあるんだ」


「どんな事だ?」


「ずっと変わらない里。今までもこれからも。そこに来た俺達は異物だよね。エルフ達が変わらない事を望むならあまり余計な情報を与えない方がいいんじゃないかと思ったんだ」


「なぜそう思う?」


「知る幸せと知らない幸せってあると思うんだよ。知らないままならずっとこのまま平和に暮らしていけると思う。でも知ってしまったらもっと知りたくなったり、外の世界に興味を持つ者が出てくるかもしれない。それがエルフに取って良いことか悪いことか判断がつかないんだよ」


「里の変化か。お前が里のおさならどうする?」


「エルフの悲劇の事を知らなかったら発展するのに外部と接触を図るよ。楽しみの無い人生なんて楽しくないからね。でもここにエルフ達が来て変わらない生活をしているのは理由があるでしょ。まぁそれでも限定しながらでも外部と接触することを選ぶかな」


「そうか。昨日作った牛肉料理だがもっと柔らかく作ることは出来るか?」


「違う料理になるけど出来るよ」


「よし、それでは今日のマス料理と柔らかい肉料理を明日作ってくれ。3人分頼む」


3人分?と思いながら了承した。



翌日マスのオイル煮と甘露煮を持って養殖場に向かう。


「持って来たよー」


「本当に来たのか?」


「え?昨日約束したよね?」


「いや、人間は約束を守らないと教えられてたからな。てっきり来ないと思っていただけだ」


「あー、そんな人もいるし、うっかり忘れる人もいるけどね。全員がそうなわけじゃないよ。はい、2種類作ってきたよ。これがオイル煮でこっちが甘露煮だよ」


「本当に小魚が旨いのか?」


「口に合うかは好みだからね。グリムナさんとススナさんは旨いと言ってくれたよ」


「ススナ、お前は人間の作る物を食ったのか?それにグリムナ様が食べたと言うのは本当か?」


「本当だ。旨いかどうかはお前が決めろ」


まずオイル煮から食べる。


・・・・

・・・・・

・・・・・・


次に甘露煮。


・・・

・・・・

・・・・・


「作り方を教えてくれ」


どちらも難しいものではない。ちょっとしたコツと作り方を教える。


「こんな食い方があるのか。人間の街では普通なのか?」


「まだ普通じゃないね。甘露煮は醤油がここにしか無いからまったくないよ」


「ヨウナ、昨日生で食ったが衝撃的な旨さだった。それ以外のもめちゃくちゃ旨かった」


「生で食った?腹は大丈夫か?」


「まったく問題は無い。生の魚に問題があるわけではなく原因は他にあるらしい。それを取り除けば問題ないみたいだ」


「そうなのか?なら俺にも食わせてくれないか。マスは焼いて食うものだと思っていたが他にも食べ方があるなら是非知りたい」


昨日自分で余計な情報を与えない方がいいかもしれないと言ったばかりなんだよな。オイル煮と甘露煮を食べさせておいてなんだけど。


「うん、戻ったらグリムナさんに聞いてみるよ。勝手に里の人に食べさせていいかわかんないから」


「今、小魚の料理をくれたじゃないか」


その通り。


「ほ、他のはおさに食べてもらう料理だから・・・」


「そうか。それなら仕方がない」


エルフってあっさり詐欺にかかりそうだな・・・



そのあと湖に他に何かいないか確認してみる。マス釣にいく湖と同じなら蜆やザリガニがいるはずだ。


「ススナさん。ここで漁をしてみていいかな?」


「構わんが魚ならヨウナにもらえばいいだろう?」


「いや、魚以外に蜆とかザリガニとかいるんじゃないかな?と思って」


別に好きにしろと言われたので土魔法のかごを投げて底引きをしてくる。


案の定、蜆もザリガニもいた。


「それがお前が言ったシジミとザリガニか?それはマスの餌だろう?」


蓄養のマスにはこれらを潰して与えているらしい。


「これ、美味しいんだよ。お昼ご飯に食べようか」


魚の餌を食うのか?とススナは言うがダンの旨いぞという言葉に黙った。


グリムナの家に戻った俺は蜆に砂を吐かせている間にパスタを作っていく。蜆のボンゴレ風パスタとザリガニのトマトクリームパスタだ。


チャッチャッと作っていくのをコクナ達は真剣に見ている。


「この細長いのはなんだ?」


「麺の一種でね、パスタっていうんだよ。パンの代わりだね。はい出来上がり。蜆のパスタとザリガニのトマトクリームパスタ。あっさりとコッテリの2種類作ってみたよ」


グリムナに出す前に全員で試食。


「さ、魚の餌が・・・こんなに・・」


コクナ達とススナが驚く。


「蜆は砂を吐かせる手間はあるけど、味噌汁に入れてもいいし、白ワインで蒸してもいいしね。ザリガニはフライや天ぷらとか色々と美味しく食べられるよ」


うんうんとダンとシルフィードが頷いた。



グリムナも魚の餌を・・・と言いかけたが食べてびっくり、目を見開いて食べていた。


「グリムナさん、養殖場のヨウナさんにマスの料理を作ってあげてもいかな?」


「なぜだ?」


「マスの食べ方が色々あるなら知りたいって」


「あいつが自分からお前にそう言ったのか?」


「実は小魚をもらう時に旨くないだろと言われたからオイル煮と甘露煮を持っていったんだよ。それなら他のもとなっちゃって」


「そうか。ではその返事は夕食後にする。少し早めに作っておいてくれ」


誰か来るのかな?


ては夕食の準備に取り掛かろう。


ダンとシルフィードに牛と豚ミンチを作ってもらう。


「この機械はなんだ?」


「ミンサーっていってね、肉を細かくしていく機械なんだよ。これもドワーフの職人に作ってもらったやつ。調理器具は帰るときにここにおいて帰るから使い方覚えてね」


「こんな機械を置いて帰るだと?貴重なものではないのか?」


「かなり丈夫に作って貰ってる奴だから壊れにくいとは思うけど永遠にもつものじゃないけどね。包丁でも出来るけどこっちの方が簡単に出来るから。器具類は買うと高いけど、まぁ俺は貰ってるものだからいいんだよ」


「貰う?人間の世界は金というものが必要なんだろ?」


「そうだよ。でもこれは俺が考えて作ってもらったやつだから材料費くらいしか必要ないんだ。他の調理器具もそうだよ」


「お前が考えているだと?」


「自分で全部やるなら魔法で何とかするようにしていくけど、魔法が使えない人でも同じように出来るようにしていくには道具を作らないとダメだからね」


「なぜ魔法が使えない者の事まで考える必要がある?」


「なぜって?他の人が同じもの作れた方がいいに決まってるじゃん。それにこういうのがヒントになって自分が知らない新しい物が出来てきたりするかもしれないからね。料理も同じだよ。俺が料理を教えた人は何か新しい物を考えだそうと頑張ってるよ」


「新しい物を考え出す?」


「そう。そうやって美味しいものや楽しい物が増えて欲しいなと思って」


コクナは黙ってしまった。


晩御飯はハンバーグを作るけど、コッテリソースにするかあっさりソースにするか迷うな。両方の味付けを用意しておいて好きに食べてもらうか。


ガーリックトマトソースと大根おろしポン酢を用意する。後は生野菜サラダだな。キュウリ、トマト、レタスにマヨネーズかけとけばいいか。


これもコック達に味見をさせてからグリムナの所へ持っていった。


あれ?誰か来るのかと思ったけどグリムナ以外誰も居ない。



「それを持って付いてきてくれ」


「ま、まさかグリムナ様・・・」


「そうだ。何か問題あるか?」


「い、いえ」


俺達はグリムナに連れられて部屋の奥。そこにある扉を開けて地下深くに連れていかれる。


なんだろ?



最地下には頑丈そうな扉がある。


「入ります」


そう声を掛けてグリムナは扉を開けた。


音も無く開く重そうな扉。魔法でサポートされているのだろうか?


扉の中は淡い緑の光に包まれており、その光の元は俺がイメージする魔法陣から出ているものだった。魔法陣に書かれているのは古代エルフ語だろうか?まったく見たことがない文字のような物と記号のようなものが記されていた。


「グリムナ、なぜ人間を連れてきた」


わっ!びっくりした。気配消されててまったく分からなかった。


魔法陣の奥に誰か二人いる。


「グローナ様、リアード様。私の娘とその守護をしてくれている者を連れて参りました。その者が挨拶を兼ねて料理を献上したいと申しましたのでお召し上がり下さい」


スーッと近付いてくる男性エルフは爺さんだった。


「ワシはこの里を守るものの一人グローナ。ゲイル・ディノスレイヤよ。お前は何をしにこの里に来た?」


名乗って無いけどグリムナが伝えてあったのだろうか?


「え?シルフィードのお父さんを探しに来たんだ」


「それだけか?」


「それが一番大きな目的」


「他は?」


「エルフが人間と敵対する可能性があるのかの調査」


「敵対するならどうするつもりであった?昔のように皆殺しするつもりであったか?」


「いや。説得するつもりだった。エルフの悲劇の事を聞いて悪いのは明らかに人間だからね。恨まれてるのも理解してるし、憎悪されるのも分かる。それだけの事を人間はしたみたいだからね。でももうその人達は居ない。都合の良い話だけど今の人達にその尻拭いをさせて欲しくないなぁと思っただけ。もしエルフが攻撃してくるなら俺達も大切な者を守る為に戦わざるを得ない。そうなるとどちらかを根絶やしにしない限り怨嗟は続くからね。そんな事をしたくないんだよ」


「ほぅ、さすがは神の使徒だな。それとも魔王の戯れ事か?」


えっ?


「なんなのだお前は?神と魔王が混在するものなど見たことがない」


あぁ、俺は鑑定されてるのか。ぜんぜん分かんないな。鑑定されるのはとっても嫌な感じがするんじゃないのか?


「俺の称号のことかな?それいい加減なんだよ。誰かが強く思ったり多くの人がそうだと思い込むと付くみたいでね、猿殺しとかも無い?」


・・・

・・・・

・・・・・


「それ、ここの里を探してる時にエイプやコングを倒しまくって付いたんだよ。シルフィード、俺の事を猿殺しとか思わなかった?」


「お、思いました。あんなに鮮やかに倒せるなんてと思って見てました」


「他にも神様とか色々とあるでしょ。人間の世界で魔法をバンバン使うと神とか悪魔とか色々と思われてるんだよ。ちなみに神の使徒は両親やダンとかの仲間がそう思ってるだけ」


「グローナ様。この者も鑑定魔法が使えます」


「なるほど、それらはそういうものであったか。この歳になって新しい事を知るとは思わなんだ」


「こちらの料理もその新しいものでございます。是非お試しを」


グローナと呼ばれる者、リアードと呼ばれる者。この二人グリムナの爺さんと婆さんにあたり、この里を作った人達らしい。


取りあえず冷めてしまったハンバーグを火魔法で温め直して土魔法でテーブルと椅子を作り、爺さん、婆さん、グリムナの前に置いたのだった。




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