第389話 エルフの里の実態

翌日ススナに案内されてマスの養殖場に向かう。


なるほど、養殖場は湖から流れ出る川に作ってあるんだね。これなら水の入れ換えもしなくていいしな。


養殖担当の人にススナが何やら説明してくれている。


「何が聞きたいんだ?」


「これ、完全養殖?それとも蓄養?」


「なんだそれは?」


「えーっと、捕ってきた魚をここで飼ってるのか、卵から育ててるかを聞きたいんだよ」


「産卵シーズンになると卵をここで小魚にして湖に返す。ここにいるのは捕ってきた奴だ」


なるほど。孵化させて放流か。それなら持続出来るな。


「じゃあ小魚と大きなマスを何匹かもらえる?」


「小魚なんてどうするんだ?」


「食べるんだよ」


「小魚なんて旨くないだろ?」


「焼いて食べるならそうだけど、違う食べ方するなら小さい方がいいんだよ」


明日小魚料理を持って来ると約束して大小あわせてマスを貰う。


その場で小魚の鱗と内臓を取って保存魔法を掛けて箱のなかへ。大きいのは3枚おろしにして急速冷凍だ。


「お前、人間の癖に魔法を使えるのか?あと詠唱はどうした?」


「俺、詠唱知らないんだよね。エルフの魔法は古代エルフ語を使うの?」


エルフ達の魔法は古代エルフ語を高速詠唱するらしい。もしかしたら魔法の発祥はエルフからなのかもしれないな。ボソッと呟いた後に同じように魚を凍らせて見せてくれた。


無詠唱に驚きつつも俺がさも当然のように魔法を使ったことで少し認めてくれた様な気がした。


里にエルフ達がいるが全員青年や年頃の女性ばかりに見える。見た目では年齢が分かりにくい。


当然、俺達もじろじろと遠慮無く見られるが誰も話し掛けては来ない。何となく年齢が上だろうなぁって感じの人は憎悪の目、まだ若いんだろうなぁって感じの人は珍しい者を見る目だ。


エルフの住む家は木が家になったのかな?みたいな感じだ。もしかしたら植物魔法を駆使するとあんな家が作れるのかもしれない。


しかし、活気が感じられない。とても静かでドワーフの国で感じた熱量というか熱苦しさみたいなものは無く、淡々と植物を育てたりしている。畑も肉体的に耕すとかではなく、魔法でやってるみたいだから汗臭さも無い。


「なんかエルフ達って表情も薄いし活気が無いね」


「店も無ぇな。まぁ外部から誰か来るわけでもねぇから当たり前か」


隔離された世界。大抵の事は魔法でなんとかなるし長命だと新しい刺激なんて無いだろうな。


何が楽しみで生きてるんだろ?


「ススナさん、エルフの楽しみって何?」


「俺の仕事は里を守る事だ。」


「いや、仕事じゃなくて楽しみはなんなの?」


「里の皆は役割を与えられて暮らしている。昔からそうだし、これからもそうだ」


ようするに無いってことだね。


俺なら耐えられるだろうか?なんの変化も無いまま生まれて死んでいく・・・


そんな事を考えながら里の中を歩いていき、ワサビが自生している所に連れて行ってもらう。群生はしているが川の中ではない。これなら根は大きくならないわな。


数本を抜いて川の中へじゃぶじゃぶと入り砂利になっているところに植えていく。


「何をしているんだ?」


「水の流れのあるところでワサビを育てると根が太く大きくなるんだよ。ワサビって殺菌作用があるんだけどね、それがワサビ自身にも毒みたいになって根が大きくならないんだよね。水の中だとそれが流されて大きく育つんだよ」


川の中で植物魔法で大きくしていく。よし、立派なワサビだ。


何本か収穫してグリムナの家に戻った。


小さなマスはオリーブオイル、ニンニク、塩を入れてゆっくりとオイル煮にしていく。オイルサーディンならぬオイルトラウトだ。もうひとつは生姜を加えて甘露煮に。


大型のマスは解凍していく。48時間経ってないから急速冷凍は気休めだけどクリーン魔法で寄生虫除去してあるので大丈夫だろう。


皮付きの物は唐揚げとムニエルにしよう。


「何を作るんだ?」


「塩焼き以外のマス料理だよ」


骨を軽く炙ってから出汁を取っていく。そこに砂糖少々、柑橘類の絞った物、醤油を混ぜる。なんちゃってポン酢醤油だが中々旨い。大根おろしも作っていくか。ダンとシルフィードに大根おろしを作ってもらう。マスの唐揚げには大根おろしとポン酢醤油を掛けてもらえばいいな。


そろそろ夕食の時間なのでマスの刺身を作っていく。育てたワサビのすりおろしと醤油で味見。


うわっ、めっちゃ旨い。もう一切れをポン酢醤油とワサビでいってみる。おぉ、甲乙付けがたいが個人的にはポン酢醤油の方が好きだな。


「ぼっちゃん、どうだ?」


「めちゃくちゃ旨いよ。釣りに行った所のマスより旨いかもしれない」


養殖場で飼われているからなのか脂ものっている。


「おい、本当にグリムナ様に生の魚を出すつもりか?」


「もちろん。めちゃくちゃ旨いよ。一口食べてみてよ。お腹痛くなったりする原因は生の魚じゃなくて、魚に付いてる目に見えないような小さな虫が原因でね、それはクリーン魔法で取り除いてあるから大丈夫だよ。まぁ、食べ慣れてないから気持ち悪いかもしれないけどね。食べなれると好きになるよ」


ダンとシルフィードは俺が作るものに抵抗がない。なんの恐れもなく食べてみる。


「お、旨ぇじゃねぇか。醤油とワサビを付けると尚旨ぇ」


シルフィードはワサビを付けて食べ、鼻を摘まんで涙目になっている。


「シルフィードはワサビが苦手みたいだね。ポン酢醤油だけで食べるといいかも」


水をごくごく飲んで落ち着いた後にポン酢醤油だけで食べてみる。


「お、美味しいです。すっごく美味しいです」


二人は大丈夫みたいだな。


「ススナさんも試してみる?」


いらんとは言わずに食べるようだ。


「う、旨い・・・」


うん、エルフの口にも合うようだね。


コック達も試していく。


「な、生の魚がこんなに旨いとは驚きだ」


「大昔はエルフも生で食べた事があるんじゃないかな?でもお腹痛くなったりしたから生で食べるなとずっと言われ続けてるんだと思うよ」


「そうなのか?」


「エルフの歴史は知らないけど、食べられる物、食べられない物を実際に食べてみて受け継がれて来てるんだと思う。それは人間も同じだと思うよ」


「なぜお前はそんな事を知っている?人間の世界では常識なのか?」


「いや、生で食べる人はまだいないよ。クリーン魔法を使える人も少ないしね。エルフの里にはクリーン魔法使える人いるでしょ?」


「あぁ、いる。俺も使える」


「ただクリーン魔法って難しくてね。除去したいものをきっちりイメージ出来ないと除去出来ないから、寄生虫っていうのを知らないと危ないかもしれない」


初めて自分に掛けたとき全身の皮膚持ってかれかけたからな。便利ではあるが難しい魔法と言える。毒まで除去出来たからもっと研究する必要もあるだろう。


「その寄生虫とやらはどうやって知る事が出来る?」


目に見えるやつもいるし、目に見えないような奴もいるからな。顕微鏡とかあればいいんだけど・・・


「エルフの里に道具を作る人とかいる?」


「どんな物だ?」


「顕微鏡っていうものなんだけどね。目に見えない小さな物を拡大して見る為の道具なんだけど。物凄く透明なガラスとか作れる?」


「いや、そういう物を作れる者はおら

ん」


そうだよな。これは戻ってからドワンに作ってもらうか。


「じゃあ、俺が戻ったら作ってもらうよ。透明なガラスも作れるから出来るかもしれない」


「人間はそんな物を作れるのか?」


「いや、ドワーフの武器職人だよ。今色々な物を作って貰ったりしているんだ」


「ドワーフが人間の街にいるのか?」


「うん、俺が生まれた所はいるよ。まぁ人数は少ないけど、ドワーフの国から何人か移住もしてきたから今まで無かったような物が色々作ってもらえて助かってるよ」


それを聞いてコックは黙ってしまった。


そして


「俺はコクナだ」


「俺はゲイル。グリムナさんの娘のシルフィード、こっちはダン。改めて宜しくね、コクナさん」


どういう心境の変化かわからないけど、コックはいきなり名を名乗り、今夜出す料理を一通り作って欲しいと言ってきた。


出来ているオイル煮と甘露煮を食べ、唐揚げ、ムニエルの味見をしていった。


「他にも色々と作れるのだろう?」


「グリムナさんからしばらく居ていいと言われているから、全部作り方教えて帰るよ」


「頼む」



グリムナも出された料理を満足気に食べ終えた後に今日見た里の事を聞きたいと言い、俺が感じた事を話す事にしたのだった。


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