第388話 エルフの里でも料理

お昼ご飯は卵、ベーコン、トマトサンドイッチにした。ベーコンはこれで終了だ。


「なんだこの食べ物は?」


「ベーコンは豚肉から作ったもので持ってきたやつ。これで最後だけどね。他のはここの材料を使ってる」


「これはパンか?」


「そう。干し葡萄から作った酵母というものを混ぜて作るとこんな風にフワフワのパンが出来るんだよ」


「人間はこのようなパンが一般的なのか?」


「いや、元々はここで食べたパンと同じだったよ。俺が作って広めている所」


「なるほどな。これは旨い。他にも色々出来るのか?」


「晩御飯は牛肉料理を予定してるけど、グリムナさんは魚が好きだと聞いたから明日は魚料理をするよ」


「魚を焼く以外に何かするのか?」


「うん、そのつもりだけど、新鮮な魚でやりたいから自分で捕りに行きたいんだけどいいかな?」


「グ、グリムナ様っ!こいつはグリムナ様に生の魚を食わせようとしているのです。これ以上勝手な真似を・・・」


「お前達はこのサンドイッチというものを食べたのか?」


「い、いえ、人間の作る料理など・・・」


「では口出しをするな。ススナ、明日養殖の池に連れていってやれ」


養殖?


「マスは養殖してるの?」


「湖にもいるが育てた方が楽だからな」


すげぇ、養殖してるんだ。是非養殖のやり方を教えてもらわねば。


「お、お待ち下さいっ 人間どもに里の中を見せるなど」


グリムナから冷気が漂いだす。


「貴様は私の決めた事に不服があると言うのか?」


「い、いえ・・・」


「ならばこいつのすることを黙って見ておれ。口出しすることは許さん」


グリムナって、おっかねぇな。


「今晩の牛肉料理とは旨いのだろうな?」


「俺達は旨いと思うけど、エルフの口に合うかはわからないかな。シルフィードは俺の作るものはなんでも食べてくれるけど」


「シルフィード、こいつの作る料理は旨いか?」


「は、はい。美味しい料理だけでなく、果物とか味噌で作ったタレとか、色々な物を私の村にも教えてくれたり、力の無い者でもボアや鹿を狩る方法を教えてくれて、村がとても豊かになりました」


「そうか。ならばこの里にもお前の知識を授けてもらおうか」


「俺の知識?」


「あぁ、明日、養殖場に行くついでに里を見て回るがいい。それで何か気付いた事を教えろ」


「見て回ってもいいの?」


「ただし、エルフは人間嫌いな奴が多い。嫌な思いをするのは覚悟しておけ」


ここに着いた時も憎悪の感情をぶつけられてる。エルフの悲劇は人間にとっては歴史上の事でもエルフにはそうじゃないからな。


「それは理解してる。おとなしく見学させてもらうよ」



また厨房に戻って晩御飯の仕込みをしていく。


「ねぇ、調味料って何があるか見せてくれない?」


俺にそう言われたコックは冷やかに無言で見せてくれる。


塩、胡椒、味噌、醤油、ワインビネガー、ハチミツ、菜種油、オリーブオイル・・・


ホントに基本の物しかないな。


ん?この薄茶色いのは・・・


ペロッ


わ、砂糖じゃん。


「里にサトウキビあるの?」


「サトウキビとはなんだ?」


ぶっきらぼうだけど答えてはくれるコック


「この砂糖の原料だよ」


「これは大根から作ったものだ」


大根?あっ、てん菜のことか。そうか、てん菜なら気温が低くても栽培できるじゃないかっ!これは是非種を貰わねば。


「あとバターは無いの?」


「バターとはなんだ?」


あ、無いのか。これは作らないとダメだな。ということは生クリームも無いだろうな。


ぐぅ~~~


ん?誰かの腹がなったぞ。


ふとススナと目が合う。


「ススナさん、もしかしてサンドイッチ食べなかったの?」


「う、うるさい」


「なんか作ってあげるよ。どんな物が食べてみたい?」


「べ、別に腹が減ってるわけでは・・・」


「また意地張ると食べられなくなるよ。今ならなんか作る時間あるけど、後になると無理だよ」


外で俺達が飯食ってるのを食べ損ねているからそれを思い出したのだろう。


「ど、どうしても食って欲しいのなら・・・」


「はいはい、どうしても食べて欲しいから早く言えよ」


「お、お前達が昼に食っていた・・・」


あぁ、カレーと唐揚げが気になってたのか。匂いだけ嗅がされてたからな。


魔道バッグにカレー残ってるけど、ご飯がないな。


「ちょっと違うけどいいかな?」


そういって唐揚げの仕込みをダンとシルフィードに頼み、俺はカレーを少し煮詰めて硬くしてからパン生地で包んでいった。コックたちも初めて嗅ぐカレーの匂いにピクピクしていたので食べたがるかもしれないな。


残ってるカレーを全部カレーパンにするか。


せっせと包んで油で揚げていく。その後は唐揚げだ。


「はい。ご飯じゃないけどね。カレーパンと唐揚げ」


ススナは恐る恐るカレーパンを口にした。


カッと目を見開いてガツガツ食う。右手にカレーパン、左手に唐揚げ。相当お気に召したようだ。


コック達もカレーパンと唐揚げに興味津々だ。


「コックさん達も食べてみて。カレーはスパイスの在庫があまりないから、次食べられるかどうかわかんないよ」


シルフィードがコック達にカレーパンを手渡す。


いらんと言い掛けるがグリムナの娘から手渡された物を断る訳にもいかないようで受け取った。


「あの・・・、ゲイル様の作る物は美味しいですから食べてみてください」


そう言われたコック達はカレーパンを食べた。


「な、なんだこの柔らかいパン・・・、それにこの中に入っている物・・・」


「中に入ってるのはカレーという食べ物だよ。色々なスパイスを混ぜて作ってある」


「これは里でも作れるのか?」


「ここだと材料が手に入らないから、今回は持ってきたのが無くなれば無理だね。帰ったらスパイスを育ててみるつもりだから、成功したら簡単に手に入るようになるよ」


「それを里にも持ってこれるか?」


「俺達は里に自分で入れないから誰かが取りに来てくれるなら大丈夫だよ」


コック達にディノスレイヤ領と王都の西の街の場所を説明しておく。俺達が帰ってから2~3年したら出来ていると思うと伝えた。


ちなみに唐揚げも相当旨いと感じたらしく片栗粉の説明などもしていく。


「この粉はここでも作れるから。グリムナさんが魚を好きなら魚の唐揚げも美味しいよ。明日それも作るよ」


ここにいる間に俺が知っている事を伝える事にする。コック達も意地より新しい物を選んだようだ。



晩御飯は玉ねぎのすりおろしに漬けて柔らかくしたサーロインステーキとヒレステーキだ。付け合わせはポテトサラダとド定番。


次にワサビの根をゆっくりとすりおろしていく。葉や茎を食べるだけで根は食べたことがないらしい。天然のワサビの根は細かったがちゃんと管理して育ててやれば大きく太くなるだろう。


ダンに牛乳からバターを作ってもらう。バターと生クリームがあると料理の幅が広がるからな。


ローストビーフはすりおろし玉ねぎと赤ワインで作ったソース。ステーキにはガーリックバター醤油だ。それにワサビのおろした奴を小皿へと。


厨房で試食だ。


案の定生焼けだと驚くが食べてから判断しろと言うと食べた。


「な、こうやれば硬くもパサパサにもならないから美味しく食べられる」


「ぼっちゃん、醤油って旨ぇな」


「だろ?醤油は万能調味料なんだよ。これから料理の種類が一気に増えるからな」


ワサビをちょいと付けて食べるのも気に入ったようだった。



もちろんグリムナも気に入り、これなら魚より旨いとのことだった。明日の魚料理を食べてどっちに軍配あがるかな?




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