第387話 レアモンゲットだぜ!
「魔力総量の話をする前にちょっとご飯食べていい?」
「飯を食ってたんじゃなかったのか?」
「まだ俺は飯の途中だったんだよ。それと異世界の話が終わったんならダンとシルフィードを戻してもらっていいかな?心配してると思うし、これからする話は二人とも知ってるから」
「あぁ、解った」
護衛とススナに連れられて二人とも戻ってくる。俺の顔を見てダンはほっとしたようだ。
「ゲイルは魚を食えるか?」
「好きだよ」
「おい、ゲイル達の夕食を用意しろ」
いや、焼おにぎりがあるんだけどと言い掛けたが魚を出してくれるならありがたく頂こう。
「グリムナさんはお酒飲む人?」
「お前は飲むのか?」
「いや、この身体だから無理。後10年くらいしたら飲めるかな!? って、俺じゃなくてね、お土産持って来たんだよ」
魔道バッグから蒸留酒を3樽出す。1樽はほんの少し使ったけれども誤差の範囲だ。
「そのバッグは魔道具か?」
「そう。エイブリックさんに旅の餞別だって貰ったんだ。ずいぶんと貴重な奴だから奪われるなよと」
「それは遺物だろう。そんな物をくれてやるとは随分と関係が深いようだな」
「そうだね、ありがたい事にドン爺とエイブリックさんには本当に良くしてもらってる」
その分無茶ぶりも多いけど。
「ドン爺?」
「あぁ、ウエストランド王国の王様だよ。ドン爺と呼べって言われてるんだ」
「一国の王を爺さん呼ばわりか」
「エイブリックさんとか、孫のアルとかさんづけや愛称で呼んでるから自分もなんか愛称で呼んで欲しかったみたいだよ」
「王族を愛称で呼ぶのか。アーノルドの息子らしいな。この手紙を見てみろ」
<よう、元気か。俺の息子がお前の娘を連れて会いに行くから宜しくな>
実にアーノルドらしい。俺の名前すら書いていない。
「お前がここを見付け出せないとは微塵も思ってなかったようだな。まぁ実際見付けだした訳だが」
そこまでグリムナが話した後に料理が運ばれて来た。
「夕食の時間が過ぎてるから簡単な物しか無いが、軽く食べる分には良いだろう」
パンと夏野菜のサラダ、そしてマスの焼き魚だ。なんか刻んだ野菜が添えられている。
「魚は塩かそこの醤油をかけて食べるが良い」
えっ?えっ?えっ?
「醤油っ 醤油って言った?」
「ナターシャが味噌と醤油を作ってたと言ったのはお前ではないか。何をそんなに驚いている?」
「いや、だって醤油は完成してないって・・・」
「あぁ、上手くいかないと言ってたな。作り方を聞いてうちのやつらに作らせたんだ」
なんとっ!醤油が完成してたなんて。
ドキドキしながら魚に少しずつ垂らす。
そして焼きたてのマスを一口パクっ。
おおおおおぉ、醤油だ。元の世界より味が濃いけどまごう事なき醤油だ。俺は今モーレツに感動しているっ!
「そんなに旨いか?魚に掛けるくらいしか使い道が無いぞ」
「何言ってんだよっ!醤油があれば料理の味付けが格段に増えるんだよっ。こ、これ作り方教えてというか、麹が欲しいっ」
ふんふんと鼻息の荒い俺の顔を近付けられて引き下がるグリムナ。
「あぁ、好きなだけ持っていけ・・・」
「じゃあ、グリムナさんはこの酒飲んで。ダン飲み方を説明してあげて」
俺は涙を流しながら魚に醤油を掛けて冷めた焼おにぎりをパクついた。これはパンではなく米だ。まだ味噌塗ってなくてよかった。
シルフィードは俺がめちゃくちゃ興奮して食べてるのを見て同じにように食べ出した。が、俺ほどの喜びは無い。魚の次は横に添えられていた野菜を刻んだ物を口に入れ・・・
「シルフィードっ!それをそんなにたくさん口に入れたら・・・」
「ゴホっ ゴホゴホゴホゴっ」
シルフィードは咳き込んだ後に鼻を摘まんでジタバタしている
「そんなに口に入れるからだ。水を飲めっ」
「ご、ごべんなざい・・・」
あーあー、魚が飛び散って口の回りについてんぞ。美少女が台無しだ。魔道バッグからタオルを出して口の回りを拭ってやる。
「あ、ありがとうごさいます」
子供みたいに口の周りを拭われて真っ赤になるシルフィード。
これなんの野菜だろ?
からし菜かなんかか?
一口食べてみる
ツーン
こ、これはっ・・・・
「グリムナさん、これワサビだよね?ねぇ、ワサビだよねっ!ちょうだいっ!これもちょうだいっ!」
ふんふんふんふしゅー
「い、いくらでも生えてるから持っていけ・・・」
やった!醤油とワサビが手に入るなんて。ここまで苦労して来た甲斐があった。
グリムナはダンに教えられた蒸留酒を飲んだ
「な、なんだこの酒はっ!」
「おやっさん・・・、ドワーフのドワンのおやっさんと作った酒だよ」
「何っ?ドワンとお前が作った?教えろっ!この酒の作り方を教えろっ!」
今度はふんふんと鼻息の荒いグリムナに顔を近付けられる。
「わ、ワインとかあるなら作れるよ・・・」
あの冷たい視線とクールな態度はどこにいった?グリムナの本性ってこっちなんじゃなかろうか?
「ワインならいくらでもあるぞ。さぁ、作りに行こう」
グリムナ・・・なんとなくエイブリックと同じ臭いがするな・・・
「グリムナさんっ、取りあえず蒸留酒はそこの3樽あればしばらく持つでしょ。それが無くなる前に教えるからっ」
「本当だな?嘘だったら・・・」
「こっちも欲しい物があるから交換だよ交換っ!」
おいっ、グリムナ!近い近い近いっ!
自分から近付くのは耐えられるけど、近付かれるのは嫌なのだ。
グリムナの興奮した姿を見て唖然とする護衛とススナ。日頃はクールなグリムナしか見たことがないのかもしれないな。
ダンも魚に醤油を掛けて食べ、ワサビの茎を刻んだ物を食べた、
「ぼっちゃん、確かに旨ぇがそこまで興奮するもんか?このワサビってのは酒に合いそうだけどよ」
「グリムナさん、エルフの里では牛肉ってある?」
「あんな硬い肉を食うのか?柔らかい所もあるがパサパサで旨くもないだろ」
「じゃあ、俺が明日料理を作るよ。他にも色々作るからしばらく居ていい?」
「しばらくって5~6年か?構わんぞ」
あぁ、エルフの時間感覚よ・・・
「いや、冬になる前に帰るよ・・・」
翌日の朝食はポソポソのパン、ポソポソのスクランブルエッグ、何かわからないジュースだった。エルフの飯も同じか。
グリムナにお願いして厨房を使わせてもらう。数人のコックがいるがものすごく視線が冷たい。グリムナの客人だと紹介されているので何かされるわけではないが刺さるような視線というのはこのことだろう。
「ススナさん。焼き鳥は美味しかったんだよね?」
ススナは警備を担っているらしく、俺達の監視役みたいなものをしている。
「だ、誰が人間の食い物なんか・・・」
不味いと言わない所をみると旨かったのだと判断しよう。
パン種を出して新しくこねたパン生地と混ぜていき、下ごしらえをしておく。
次は牛肉だ。少し焼いて味見をしてみるとグリムナが言っていた通り硬いのでサーロインは後で玉ねぎに漬けよう。それとヒレだな。モモ肉はプスプスとフォークで刺して胡椒とオリーブオイルに漬けておく。肉はこんなもんだな。
「おい、グリムナ様に牛肉を食わせるつもりか?」
コックが俺に話しかけて来た。
「そうだよ。なんで?」
「グリムナ様は魚を好んで召し上がるのだ。牛肉は好まれん」
「そうなの?じゃあ明日は魚にしようか。生で食べられそうな新鮮な奴ってあるかな?」
「生で?そんな物を出せる訳がないだろうがっ」
「あんたコックなんだろ?食わず嫌いはダメだよ。自分で味を確かめないと」
「うるさいっ!食わなくても解るっ。生で魚を食べた奴がどうなるか知らんのかっ」
なるほど、過去に食べた人がいるんだな。
「大丈夫だよ。クリーン魔法も掛けるし、一旦冷凍もするから。朝捕れたマスはある?」
「うるさいっ!絶対に生の魚を出すのは許さん。だから素人がグリムナ様の料理を作るのは反対だったんだっ」
「素人っていうけどさぁ、今朝出して貰った卵料理はあんたが作ったの?食べさせて貰って言うのもなんだけど、美味しくなかったよ」
「なんだとっ!」
「じゃあ試しに同じの作ってやるよ。他のコックもどっちが美味しいか試してみてよ。エルフの好みがあんたの作った卵料理の方が旨いと言うなら考え直さないといけないから」
料理は文化だ。その土地や食べ慣れた物の方が旨いというのはあるからな。
「ダン、マヨネーズ作って」
ハンドミキサーを渡してマヨネーズをダンに作ってもらう。でも熊毛入れんなよ
俺は卵に塩胡椒と少し牛乳を混ぜる。
「出来たぞ」
すごいパワーだな。マヨネーズもあっという間だ。出来たマヨに熊毛が入ってないか確認してから混ぜてあった卵に少し投入。
バターが無いらしいのでフライパンにマヨを入れて溶けた所に卵を投入だ。オムレツにしようかと思ったけど、今朝と同じスクランブルエッグにした方が解りやすいだろう。
手早く混ぜてほぼ火が通った所で完成。
「はい出来たよ。ススナも味見をしてみて」
話しかけてきたコック、他のコックはフンッとバカにしたような顔で口に入れた。
ススナはガツガツと食っている。少なくともススナは俺達の味覚と同じなのだろう。
コック達は黙っている。
「た、卵料理なんて単純なものでいい気になってるんじゃねぇ」
あ、旨かったんだね。
「あんたコックの癖に何言ってるの?単純な料理ほど難しいんだよ。特に卵は火の通し方でぜんぜん違うからね。旨いと思ったんなら黙って見ててね」
ここでもコックとしばらくいがみ合うんだろうなぁと思いながら、昼飯の準備に取りかかっていったのだった。
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