第386話 グリムナとの対談
深い森の中をスタスタと歩くグリムナ。日も暮れて真っ暗闇なのにものともせずに歩いていく。それになんとなく木が避けてくれているような気がする。
俺とダンは気配察知を高めているので普通に歩けるが、それが出来ないシルフィードは何度かつまずくので手を繋いだ。
どれくらい歩いたか感覚が分からない。すぐかもしれないし、ものすごく歩いたかも分からないままエルフの里に到着した。今日は新月なのか星明かりでしか確認出来ないが想像していたよりずっと広い。
里に踏み入れると他のエルフ達の気配はするが姿は見えない。グリムナが俺達を引き連れているとはいえ警戒しているのだろう。なんとなく憎悪の感情も解るから人間が相当嫌いなようだ。
里の中央にある蔦に絡まれた大きな建物というか岩なのだろうか?暗くてよく分からない所に連れていかれた。まさか牢屋じゃないだろうな?
中に入るとそんな事はなく、華美な装飾品は無いがとても美しい部屋だった。
「ススナ、ここでいい。下がれ。他の者も同じだ。この者達に話がある」
「し、しかし・・・」
「聞こえなかったのか?」
また凍りつくような目線と威圧だ。
部屋に居た護衛であろうエルフとススナは無言で部屋から出ていった。
扉が閉まるとグリムナから威圧がパタッと無くなる。
「シルフィード、ずいぶんと探したんだぞ。よく会いに来てくれた」
グリムナはシルフィードをギュッと抱き締めた。先程の氷の眼差しはすでに暖かい親の眼差しに変わっている。
突然抱き締めたられたシルフィードはオロオロした。
「ど、どうしたシルフィード、お父さんを覚えていないのか?」
「グリムナさん。シルフィードはお母さんを目の前で殺されたショックで小さい頃の記憶があまりないんだ。あとエルフの掟?の影響もあるかもしれない」
グリムナがピクっと反応する。
「なぜお前がエルフの掟の事を知っている?」
途端に冷たい視線と威圧を放つエルフに戻るグリムナ。
俺は鑑定魔法を使える事とシルフィードに刻まれた紋章の事を話した。
「お前はそんな事まで出来るのか。エイブリックの手紙に書いてあった事は大袈裟でも無さそうだな」
何が書いてあったのだろう?そういえばウエストランド王国とドワーフの国の使者とか言ってたよな?ウエストランド王国はわかるけどドワーフの国の使者ってなんだ?
詳しく話を聞かせろという事だったので、俺が知っている限りのシルフィードの事を話していった。
「そうか、帝国領を探しても見つからなかったわけだ。ウエストランドの方へ行ってたのか」
アーノルド達が言ってた通り、グリムナは瘴気が濃くなったシルフィード達の村を救う為にディノ討伐に参加し、その後村に行ったら殺しあった村人の死体を発見したらしい。シルフィードと母親の死体が見つからなかったので生きていると信じて帝国領方面を探し回っていたみたいだ。シルフィードの母親の死体がなぜ見付からなかったのかが解らないけど。
「そうか、ナターシャはやはり死んでしまってたのか・・・」
愛する人の死を聞いて涙を浮かべるグリムナ。
「しかし、シルフィードが助かってくれたのは幸いだ。どうやって生き延びた?」
「今、ボロン村というところがあってね。そこの村長夫妻が親代わりに面倒をみててくれたんだよ」
「そうか、それは礼をせねばならんな。あとなぜここに里があると解った?」
「時々グリムナさんがシルフィードの元居た村に来てたというのを聞いて、村からの距離とか瘴気の流れていく方向とかを考えてこの辺りだろうなと推測して探してたんだよ」
「ほう、それで」
「何回探しても見つからないし、猿達に追われて道が解らなくなるから通った所に目印代わりに柱を建てていったんだよね。それでも見つからないから、瘴気の森近くまで捜索に行った時に柱の位置がおかしい事に気付いたんだよ。まっすぐ歩いたはずなのに柱が森を囲むように円を描いてたから」
「そうか、あの突然出来た柱は目印だったのか。数字も彫ってあったから何かわからずススナ達に警戒をさせていたんだ」
「でも近くまで来たらやっぱり柱は直線に並んでたから、里を隠蔽する仕掛けなんだろうなと確信したんだよ」
「で、騒ぎを起こして俺達を引っ張りだした訳だ。まさか里を見付けられるとは驚きだ」
「いや、ウッカリミスがラッキーな方向に行ったから見付けられた訳で、それが無かったら帝国領を探すはめになってたよ」
「なるほどな。運も実力のうちか。解った。お前達を正式な客人として迎えよう」
「それは助かるけど、シルフィードに刻まれた紋章の事を聞いていいかな?」
「詳しくは話せんぞ」
「いや、エルフの事に口出すつもりは無いんだけど、あれ魔力を500しか使えないようにしてあるよね。あれを越えて魔力使ったらどうなるの?」
「魔力が500?なんだそれは?」
あれ?魔力を500に制限するって鑑定に出てたよな。
「いや、シルフィードの魔力総量は6000以上あるんだけどね。エルフの掟で魔力を500に制限する効果があるって出てたんだよ。だからシルフィードは魔力を500近く使うと魔力切れを感じるんだ。なんかそれ以上使うと危ないかもしれないなと」
「エルフの掟はこの里から出て行くものが狙われたり、悪事を働かないように能力を人間と同じにする為の物だ。魔力総量とはなんだ?」
魔法に長けたエルフでも知らないのか。
俺が神のお告げを受けた人間であること、そのお陰で魔法について知っていることを話していく。
「ナターシャも神のお告げを受けていただと?」
「多分ね。俺が作りたかった味噌と醤油のうち、味噌を作ったのがシルフィードのお母さんだから多分そうだと思う」
「うむ、ナターシャの話す事は物語だと思って楽しく聞いていたが・・・」
・・・
・・・・
・・・・・
「すまんが、獣人とシルフィードは席を外してくれないか。アーノルドの息子と二人で話がしたい」
そういやちゃんと自己紹介してなかったな。
「グリムナさん、改めて自己紹介させてもらうね。俺はゲイル・ディノスレイヤ。ディノスレイヤって家名は父さん達がディノを倒した事で貰った家名なんだ。さっきから獣人って呼んでるのはダン。元冒険者で俺の護衛。獣人じゃなくて普通の人間だよ」
「何?熊の獣人じゃないのか?」
「トカゲに腕を持っていかれてね。治癒魔法で腕を生やした時にこんな風になっただけ。母さんならちゃんと元に戻せたんだけど」
「なぜ治癒魔法で熊の腕になったのかわからんが、そうかアイナの息子だから部位欠損まで治癒出来るんだな」
うんともいいえとも言えずに曖昧に笑って答える
「まぁ、獣人でも人間でも構わん。すまないが席を外してくれ。おい、誰か客人と娘を他の部屋に案内してくれ」
グリムナがそう叫ぶと護衛二人とススナが入って来た。
「どうぞこちらへ」
「ぼっちゃん、大丈夫か?」
「まぁ、英雄メンバーの人が俺になんかするとは思えないし、なんかされても俺達だけで防げないだろ?」
ダンもそれを理解してるのかギリッと唇を噛んで別室に行った。
「さてゲイルよ。二人に席を外して貰った訳なんだが」
「ナターシャさんがグリムナさんにした話を確かめたいんでしょ」
「そうだ。ナターシャの話は物語にしては良く出来ていた。まるで本当に他の世界から来たようにしゃべってたからな」
俺は改めて日本語で自己紹介をした
「そ、その言葉は・・・」
「ナターシャさんも同じような言葉を話さなかった?あと日本とか」
「ニホン・・・。ナターシャはニホンから来たと言っていた。まさか本当なのかっ?」
「そう、ナターシャさんも俺も日本で生まれて死んでここに来た。味噌も醤油も日本の調味料なんだ」
ゲームの様な世界とは言わないが、他にも同じような世界があり、魂が輪廻していること、種族の魂は他の種族にはならないこととかを説明する。
「通常、魂は他の世界には行かないんだけど、特別に神様同士が魂の交換をすることがあるみたいなんだ。俺の場合は魔法の才能があったみたいなんだけど、元の世界には魔法が無いからこっちでその才能を生かして発展させろって事で、前の世界の記憶を持ったまま連れて来られたんだよ」
「ナターシャもそうなのか?」
「この世界の神様はいい加減な奴でね。説明も足りないし、ナターシャさんの場合は何にも聞かされてなかった可能性がある。前世の記憶って奴も本来は全部消すんだけど、消し忘れてたりとか、発展させるために消さなかったりとか色々やらかしてんだよ。記憶を持ったまま生まれ変わるとすぐ死ぬとか言ってたし、遺跡から出る魔道具とか作った人も俺が居た世界から来た人だと思うんだ」
「遺跡から出る魔道具を作っただと?」
「多分ね。ただ遺物は数百年前とかに作られたみたいだけど、俺が居た時代と同じ頃の人じゃないと考えつかない物が多いから時間軸もおかしいんだと思う。神様と人間の時間感覚も違うし原理もよくわかんないんだよね」
「なぜ、同じような時代から来たとわかるんだ?」
「車とか電車とか飛行機の話をしてなかった?馬が無くても走る馬車とか空飛ぶとか」
「あ、あぁ・・・」
「それが出来たのは240~50年前、日本で一般的に走るようになってから100年も経ってないからね。少なくともそれぐらいの誤差しかないよ」
「ナターシャの物語は全部本当だったのか・・・」
「俺が居た時代はこういった異世界に行く物語が一般的にあったから俺はすぐに理解出来たけど、ナターシャさんは少し前の時代から来たか、そういう物語をあまり知らなくて混乱したのかもしれない。こんな話をべらべらしたら頭がおかしいと思われるから普通しないしね。俺も生まれ変わりの話をするのはこれが初めて。父さん達には神様のお告げとは話しているけど、違う世界から来たとは言ってないし、元の世界の話もしていない」
「なぜ俺にこの話をした?」
「ナターシャさんの話を少し信じてたんでしょ?でも確かめようもないだろうし。ダン達に席を外させたから他の人にも話すつもりもないだろうと思ってね」
「お前、子供の癖になんでも理解したその感じ、本当は何歳だ?」
「元の世界で55歳だっけな?で死んで、こっちの世界で5年。足したら60歳ってところかな」
「なるほど。元々人間の55歳ならその態度も頷ける」
「そう。中身はじじいなんだよ。だけど魂も今の肉体に引っ張られるみたいでね。ダンとか自分の子供みたいな年齢のはずなのにそんな風に感じなくなってる。生まれ変わったすぐはそうでも無かったんだけどね」
「魂が肉体に引っ張られる?」
「そう。さっき魂の種族が変わる事がないと言ったけど、エルフと人間の子供の魂はどうなると思う?」
「ハーフエルフの魂になるんじゃないのか?」
「ハーフエルフの魂は無いんだ。神様曰く、どっちかの魂を持つらしいんだ。人間の魂かエルフの魂か。シルフィードは多分エルフの魂なんだと思うよ。肉体は人間とエルフが混ざってるかもしれないど」
「なぜそう思う?」
「魔力総量が人間より段違いに多いからね。あれはエルフの特性なんじゃないかな。魔力って魂に関係してくるみたいだし。俺も魔法の才能がある魂みたいだから」
「なるほどな。もう少しその魔力総量とかを詳しくは教えてくれないか」
グリムナとの話はまだまだ続きそうだ。
俺、飯の途中だったから腹減ってんだよね・・・
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