第385話 グリムナ登場
「おーい、ぼっちゃん、晩飯にしようぜーーっ」
ダンはエルフとお互い監視し合うようにしているのだけなので暇なのだろう。俺達はせっせと森を再生しているからあっという間に時間が過ぎるので飯の時間に気付かないのだ。
ダンの声を聞いて周りを見てみると日が暮れかけていた。木々に囲まれた森は夜が早い。
ダンの元に戻って晩飯の準備をする。
「鶏肉がたくさんあるから焼き鳥でもしようか」
「タレはあるのか?」
「ベントと作ったタレでいいなら、味噌があるから似たようなのが作れるよ」
「じゃ、ぼっちゃんはタレを作ってくれ。鶏肉の仕込みは俺とシルフィードでやるわ」
「ご飯はどうする?」
「酒を飲むわけにはいかんから飯は食いてぇな」
ということで鶏肉の仕込みはダン、ご飯はシルフィード、タレは俺が作ることに。ダンには土の串を渡しておいた。
しかし、あのエルフは飲まず食わずでずっと立ちっぱなしだ。たいした精神力だな。
少しずつ味見をしながらタレを調合していく。ジュースが無いので魔法水で甘味を付け、一度沸騰させた蒸留酒と少々スパイスとガーリックなんかを足していく。
いつもの味とは違うけど、これもなかなかの仕上がりだ。
「じゃあ、焼いていこうか」
薪もいい感じに炎が収まっているので焼きやすい。
ジュワワワー
滴り落ちる脂とタレが香ばしい匂いを放つ。それも風魔法でエルフの元へ。
目を強化してエルフを見てみるとヨダレが出ている。
シルフィードによそってもらった白飯にタレたっぷりの焼き鳥をトントンとして乗せてやる。
ダンは串の焼き鳥をかじりながら焼き鳥丼を掻き込む。両手があって良かったね。ヒグマ腕だけど。
「うっめぇぇぇぇ」
「街の焼き鳥と違うけどこれも美味しい~」
ダンもシルフィードも幸せそうだ。
俺も焼き鳥を食べると我ながら上出来だ。めちゃくちゃ旨い。
「きっさまらぁぁぁぁ」
「おい、もう大声でしゃべんのしんどいんだよっ!こっちに来て食えよ。お前の分もあるからっ」
「誰が人間の飯なんかっ」
「いい加減意地はんのやめろよっ。ヨダレ垂れてんだろうがっ」
「う、うるさいっ!口から汗が出ただけだっ」
目から汗という言い訳は聞いたことあるけど口から汗って初めて聞いたな。
「いいからこっちに来いよっ」
「そうやって騙すつもりだろうが。そんな手には乗らんぞっ」
「お前を騙してどうすんだよ。こっちが殺るつもりなら、そこにいても殺れるんだからこっちに来ても一緒だろっ」
「・・・・・・」
「あ、あの一緒に食べませんか。とっても美味しいですよっ」
シルフィードもエルフを誘ってみる
「ほれ、お前の分も焼けたぞ。冷めると不味くなるぞっ」
ダンも声を掛ける
「くっ、くそっ」
エルフってプライド高いのか、こいつが特別なのか・・・
「早くこっちに来いよ。俺が作ったタレがエルフの口にも合うか試して欲しいんだよっ」
仕方がないので俺も折れてやる。
エルフはゆっくりとこちらに近付いてきた。
「お、お前達は何者だ?」
「何回も説明しただろ。それより早く試してみてくれ。食いながら話せばいい。飲み物は酒と水どっちがいい?」
水とボソッと答えたのでコップに水を注いでやる。
一口確かめるように口に含んでから一気に飲み干した。よっぽど喉が乾いてたのだろう。
ダンが焼いた焼き鳥をご飯の上にトントンして串から外して乗せて渡す。
「なんだこれは?」
「焼き鳥丼だよ。鶏肉をタレで焼いてご飯に乗せたものだ」
「ご飯?」
「米っていう植物の種だ。見たことないか?」
「こ、これは草の種ではないか・・・。こんな物を食わせるのかっ」
「嫌なら鶏肉だけ食えよ。」
俺はご飯をおにぎりにして焼いていく。
一口焼き鳥を食べたエルフはカッと目を見開きガツガツと食べ出した。焼き鳥に付いた米粒も一緒に食べたみたいでご飯が旨いとわかったようだ。
「こ、この味はグリムナ様がお持ちになられている味噌という物に似ている・・・」
「味噌はシルフィードのお母さんが作った物だよ。その味噌をベースにタレを作ってあるからね。似てて当然だよ。元は同じなんだから」
「で、では・・・本当にグリムナ様の・・・」
「何回も言ってるじゃん。俺はグリムナさんを知らないけど、父さん・・・、アーノルド・ディノスレイヤっていうんだけどね、昔凶悪なディノって魔物が出たときに一緒に討伐したって言ってたよ。シルフィードはグリムナさんの娘なんだけど、母親が殺されたショックで昔の記憶があまりないんだ」
「た、確かに・・・この娘はグリムナ様の面影が・・・」
「ナターシャが殺されたというのは本当か?」
そう話し掛けられてバッと俺とダンは臨戦態勢に入った。まったく気配が解らなかった。
「お前がアーノルドの息子か。剣から手を離せ。攻撃する意思は無い」
「グ、グリムナさん?」
「そうだ。その歳でいい反応だ。さすがはアーノルドの息子だと言いたい所だが気配察知はまだまだだな。そっちの獣人も変わった剣を納めろ」
俺もダンも冷や汗をかいていた。気配察知をしていたのにも拘わらず声を掛けられるまで気が付かなかったのだ。さすが英雄パーティーの一員。アーノルドやエイブリックも本当はこうやって俺達に気付かれないまま動く事が出来るのだろう。
「ススナ、お前はここで何をしている。」
「グ、グリムナ様。申し訳ありません」
焼き鳥を目を見開いて食ってたエルフはススナというのか。
「俺達が無理矢理飯を食わしたんだよ。人間の飯がエルフの口に合うか試して欲しいって」
「この匂いは味噌か?」
「そうだよ。シルフィードのお母さんが作った味噌をベースに焼き鳥のタレを作ったんだ」
俺はグリムナの放つ威圧に耐えながら平然としたフリをして答えた。
「シルフィード、大きくなったな」
シルフィードは目の前にいる緑色の髪を持つ美しいエルフから出る冷たい視線と威圧にコクンとしか動けない。
「お前達、私の後に着いて来なさい」
「グ、グリムナ様。人間を里に連れて行くおつもりですか?それにこの人間はリッチーの魔法を・・・」
「この人間はウエストランド王国とドワーフの国の正式な使者だ。仕方があるまい」
「し、しかし・・・、ハーフエルフと獣人まで・・・」
グリムナはススナを凍りつくような目線で見る。
「それがどうした?」
めちゃくちゃ怖くてダンは獣人じゃないよとも言えない。ダンから出る半端ない警戒心が俺にも伝わってくる。
「い、いえ。出すぎた真似を致しまして申し訳ございません・・・」
それには何も答えないグリムナはさっさと歩き出したので、慌てて後片付けをして後ろを付いて行ったのだった。
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