第384話 エルフとの対決
目印代わりに建てた柱のそばまで到着。さっそく地面を隆起させて上から確認してみよう。
「あれ?」
オーガが居たポイントから見た時には円を描くように並んでいた柱達がほぼ直線に並んでいる。
「ダン、どう思う?柱は直線に並んでるよね」
「あぁ、向こうから見た時と並び方が違う。やっぱりぼっちゃんが言ってた通り、なんか仕掛けがされてるな」
やはり認識阻害か結界とかでエルフの里が隠蔽されてるんだな。これ近くで見てたら絶対に気付かない仕掛けだ。初めに上から見ることに気付いて見てたらこの地域にはエルフの里が無いエリアとして捜索範囲から除外していただろう。今回はウッカリがいい方向へ作用してくれてラッキーだったな。
試しに目に思いっきり身体強化を掛けて見ても同じ結果だった。
「見えないけどこの柱の近くが怪しいのは確定だよね。」
恐らく里に誰も近付けないように、里に向かう者は延々とエイプやコングの森を進まされる仕掛けなのだろう。普通なら殺られるか嫌気が差してこの場から離れようとする。よく出来た仕掛けだ。
「確定なのは良いけどよ、どうやって里に進むんだ?」
「進む方法が分かんないから、向こうから来て貰おうか」
「向こうから来て貰う?」
ダンとシルフィードの声が揃った。
「うん、森には申し訳ないけどこの辺りを暴れてめちゃくちゃにしてればエルフが様子を見に来ると思うんだよ。こっちからは見えないけど、向こうからは見えてるはずだからね」
「そんな事して大丈夫か?」
「他に方法ある?今まで誰も見付けられなかった里なんだから普通に探しても見付けられないよ」
「そりゃそうだけどよ」
「めちゃくちゃにしても俺とシルフィードが植物魔法で元に戻せるからなんとかなるよ」
ということでこの辺り一帯を焼き払う事に決定。猿避けの壁を解除して一気に焼き払っていく。
「焼き払えっ!」
ゴゥゥゥゥゥゥっ!
エイプどもを巻き込んで辺り一帯が火の海になる。
しばらく待ってもエルフがやってくる気配は無い。
あれ?これでは足りないのかな。
「シルフィード、その棒を貸して」
シルフィードのミスリル棒を借りる。
「薙ぎ払えっ!」
威力の増した火魔法がビームの様に出て森を破壊していく。これ元に戻すの大変だな・・・
その瞬間、俺達に蔦が巻き付き一気に絡め取られて上空へ持ち上げられる。
しまったっ!
シルフィードのミスリル棒を持ったままだ。シルフィードの攻撃魔法はミスリル棒ありきの威力だ。
絡め取られた俺達に向けて一斉に矢が飛んできた。
「ぼっちゃん!」「ゲイル様」
俺は自分に絡み付いた蔦の魔力を一気に吸って枯らしながら飛んできた矢を土魔法で撃ち落とした。
ダンとシルフィードに絡み付いた蔦からも魔力を吸って枯らしてから魔剣で斬りきざむ。
その場の足元を隆起させてまた襲い掛かって来る蔦から逃れながら矢に対応していく。
「ダンとシルフィードは蔦を斬って。俺は矢を落とすっ」
隆起させた足場を伝って伸びてくる蔦をダンとシルフィードがスパスパと斬り、俺は飛んでくる矢を撃ち落とす。
「おーいっ!俺達は敵じゃないっ!エルフの里を探しに来ただけなんだっ」
エルフ達を攻撃する訳にはいかないので大声で叫んでみるが攻撃は止まない。
仕方がない。
「ダン、矢の方を頼む。俺は下の蔓を焼き払う」
ダンと俺の役割を交代して足元から伸びる蔦を焼き払らい、そのまま火の海を維持する。これで蔦も伸びてはこれないだろう。
「おいっ!聞こえてるか。俺達はグリムナって人を探してるんだ。娘を連れて会いに来ただけだっ」
それでも矢は止まない。
聞こえて無いのかな?
「俺達はエルフの里を攻撃する意思は無いっ!しかしこの攻撃が止まらないなら身を守る為に辺り一帯をすべて焼き尽くすっ!それでもいいのかっ!」
そう叫ぶと矢が飛んで来るのが止まった。なんだよ聞こえてんじゃねーか。
足元の火魔法を消しても蔦が伸びてくることはなかったので隆起させた地面を戻して下に降りる。
「熱っちいぃ」
今まで炎に炙られ続けていた地面から熱気が俺達に襲いかかる。水で冷やすとロウリュウ状態になってしまうので、温度を下げた冷風で周りを冷やしていく。
「お前達は何者だっ!」
ギリギリ見えるところからエルフらしき男が叫んで来た。
「俺はゲイル・ディノスレイヤ。あんたがグリムナさん?」
「違うっ」
なんだ違うのかよ。
「植物を枯らした魔法といい、この凄まじい火魔法といい、お前はリッチーかっ?」
「違うっ」
同じ言葉で言い返してやる。
「なら何者だっ」
さっき言ったじゃん・・・
「ただの人間だよ」
「嘘を言うなっ!ただの人間があんな魔法を使えるかっ!それに他の二人はハーフエルフと獣人だろっ」
違うっ!とは言えないかも・・・
ヒグマ腕のダンを見たらそう思うわな。
「俺達はこのハーフエルフのシルフィードのお父さん、グリムナさんを探しに来ただけだ。この事をグリムナさんに伝えてくれないかっ」
「なぜグリムナ様の名前を知っているかは知らんがそんな戯れ言を信じられるか。さっさとこの場を去れっ」
エルフって人間に恨みを持ってたんだったな。そりゃなかなか信じようとしないのも無理はないい。
「じゃあ、手紙を預かって来ているからそれだけでも渡して。それでもグリムナさんが帰れというなら大人しく帰るからっ」
せっかくここまで来たがグリムナが会わないと言うならば仕方がない。無理矢理行っても仕方がないからな。
俺は魔法で王家からの手紙とアーノルド達からの手紙を飛ばして男に届けた。
「ひとつはウエストランド王国からの手紙、もうひとつは俺の父さんからの手紙。どちらもグリムナさんがディノ討伐した時のパーティーメンバーだよ。それを渡してくれ。それでもダメなら帰るからっ」
「こんな物をグリムナ様に渡せると・・・」
「渡してもくれないならあんた達を敵と見なしてここら全部焼き払うからね。エルフの里がどこにあるかわからないから巻き込むよ」
お願いしてもダメそうなので脅す。
「きっさま・・・・っ」
「手紙を渡してくれるか、俺達と敵になるか選んで。それまでは攻撃しないからっ」
「くっ・・・」
そこまで言うともう一人出て来て手紙を持ち去った。恐らく届けてくれるのだろう。
俺達に話し掛けていた男はそのまま俺達をにらみ続けている。
少なくとも数時間は待たされるだろうからその間にシルフィードと破壊した森を修復していく。
薙ぎ払ったといっても切り株や根が生きてるみたいなので再生も早く出来そうだ。元の木より低いがある程度伸ばせばちゃんと元に戻って行くだろう。
シルフィードにミスリル棒を返して手分けして木を再生していく。
「お、お前達なぜその魔法をつかえるっ?」
「だから言ったじゃん。この娘はグリムナさんの娘。グリムナさんから植物魔法を教えて貰ったの。俺はそれを教えてもらったんだよっ」
「ば、馬鹿なっ ハーフエルフはまだ解るが人間が古代エルフ語を理解出来る訳が・・・」
なんかごちゃごちゃ言ってるけど大声で応え続けるのもしんどいので無視だ。ある程度森を再生した所でダンが、
「おーい、ぼっちゃん。そろそろ飯にしようぜーーっ」
そういや昼飯食ってなかったな。
ダンのいる場所に戻って飯の支度をする事に。シルフィードの魔力も無くなりそうだし丁度いいタイミングだ。
「何作ろうか」
「カレーは残ってねぇのか?」
カレーか・・・残ってたかな?
魔道バッグに在庫リストとか表示されると便利なんだけどな。
クーラーを一つ一つ出して確認していく。
あっ
まだ満タンのクーラーがいくつか出てきた。鶏肉がパンパンに詰まったクーラーとソーセージとベーコンが詰まったクーラー、スパイスセットの箱・・・
「ダン、まだ有ったわ。鶏肉もあるから唐揚げとカレーにしようか」
「おぉ、そういや唐揚げをずっと食ってなかったな。それで頼むわ」
シルフィードにご飯を炊いてもらい、ダンにじゃがいも、ニンジン、玉ねぎの処理をお願いする。俺は唐揚げの準備だ。
カレーに合わせるので塩胡椒だけのシンプルな唐揚げにする。
下ごしらえの終わった具材に鹿肉を加え、カレーをダンとシルフィードに作ってもらう。唐揚げも久しぶりなのでダンは山盛り食うだろうからせっせと魔剣で鶏肉を切り分ける。ドワンが見たら怒りそうだけどこいつで切る方が楽なのだ。
味付けした鶏肉をせっせと揚げていく。
「ご飯炊けました。」
「カレーもこんなもんでいいだろ」
丁度唐揚げも揚げ終わった。グッドタイミングだ。
俺とシルフィードはそこそこに盛り、ダンは超大盛りだ。
さっきから俺達を睨んでいるエルフがなんか叫んでるけど無視していたので、キレて大声で叫んだ。
「何をしているか聞いてるだろうがっ!返事をしろっ!!!」
「今から飯食うんだよ。良かったら食べるか?」
「どこからそんな物を出したっ!それに人間の飯なんか食えるかっ!」
あっそ。
「いっただきまーす」
またエルフを無視して俺達は唐揚げカレーを食べ始める。昔のシルフィードなら俺とエルフのやり取りに オロオロしてご飯に手を付けなかっただろうが、俺の対応にもすっかり慣れて普通に食べ出した。
「美味しいです」
「そうだな、やっぱりぼっちゃんの作る飯は旨ぇぜ」
「カレーは自分達で作ったじゃないか」
「そうだけどよ、スパイスの調合はぼっちゃんだろ。カレーって絶妙に旨ぇよな」
「はい、唐揚げもとっても美味しいです」
「シルフィードの炊くご飯も完璧だよね」
俺達は恥ずかしげも無くお互いを褒め合う。
「だからこの匂いはなんだって聞いてるだろうがっ!」
「なんだよ、さっき人間の飯なんて食えないって言っただろうが。関係ないだろっ」
「うるさいっ!なんの匂いか聞いてるだけだっ!」
「カレーと唐揚げだよ。言っても知らないだろ。食いたきゃ食いたいと言えよっ」
「い、いらんっ。ど、どうしても食えと言うなら考えてやっても・・・」
あっそ。
「ダン、ソーセージ焼いてやろうか?これもカレーに合うぞ」
「おっ、いいねぇ。焼いてくれ」
シルフィードも食べると言うのでソーセージを炙っていく。ぱちっ弾けて破れた皮から脂が落ちてジュワーという音と共に煙と匂いが立ち込めるので風魔法でエルフの元に流してやる。仁王立ちして俺達を監視しているエルフは朝から飲まず食わずだ。この匂いはたまらんだろう。
「おぉ、カレーにめちゃくちゃ合うじゃねーか」
「すっごく美味しいです」
「だろ?チーズがあったらそれを合わせるってのもあるんだよ」
「なんだよそれ、めちゃくちゃ旨そうじゃねーか」
「戻ったら作ってやるよ。もっとスパイスが安く手に入るようなら西の街でカレー屋をオープンしてもいいんだけどね」
「スパイスは栽培出来ねーのか?」
「あ、植物魔法使えば栽培出来るかもしれないね。シルフィード、帰ったらやってみてくんない?」
「わかりました。やってみます」
よしよし、ボロン村もシルフィード無しでやっていけるようになったみたいだし、シルフィードの仕事は特殊な植物の栽培担当をしてもらおう。ディノスレイヤ領はドワーフのファムにやってもらえばいいしな。
「おい、聞いてんのかっ!この匂いは何だって聞いてるだろっ」
「ソーセージだよ。これも知らないだろ?食いたいならそう言えよ」
「だから、どうしてもと言うのなら・・・」
「ご馳走さまでした」
ダンもシルフィードもお腹いっぱいとのことなので、最後の唐揚げを食べて、残ったカレーは蓋を閉めて魔道バッグに戻す。
エルフから「あぁ・・・」とか聞こえたけど無視だ。別に頼んでまで食ってもらう必要はない。
ゲイルとシルフィードは食後の休憩を取ってから再び森の再生を行っていったのだった。
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