第383話 敵(かたき)
んがーーーー!
ヒグマ腕をブンブンするダン。鮭とか狩ってくれたら似合うだろうなと思いつつ。取りあえず腕が生えた事を俺とシルフィードは喜んだ。
「まぁ、贅沢言っても仕方がねぇ。腕が生えた事に感謝しねぇとな」
掌まで熊になってしまってたら申し訳ないけど、人間の掌だから許してもらおう。
また地面からトカゲが来るかもしれないので地面も土魔法で強化しておく。トカゲに土魔法攻撃が効かなかったから気休めかもしれないが、近付いて来た時に分かりやすくはなるだろう。
「今日はここで泊まって、明日の早朝すぐにここから離れようか」
「そうだな。飯も食ったしさっさと寝て出発するか」
ダンはそう言って錆びたフランの剣を腰に差す。
「ダン、元通りには出来ないけど、錆びは落とせると思うけどどうする?」
「錆びを落とせるのか?」
「錬金魔法で錆だけ落とせると思う」
じゃ頼むわ、との事なので酸化した部分を分離する。
「おっ、刃先は甘ぇがピカピカになりやがった。ありがとよぼっちゃん。きっとフランも喜んでやがるぜ」
ボロボロの防具は魔道バッグに入れ、剣は持っておくとの事なので土魔法で鞘を作っておいた。
その夜は土魔法で強化した小屋で気配察知をしながら寝ることにし、翌早朝に走ってここから離れた。
気配察知にも意識を集中して少しでも早く円を描いた柱の元へ向かう。
ヤバッ
異常な気配を察知して俺がシルフィードを庇いダンが剣を構えた。こんな強い気配なのに寸前までわからなかった魔物・・・
俺達の前に仁王立ちした魔物は紫色をした馬鹿デカいオーガだった。
「貴様は・・・っ」
ダンがみるみるうちに金色に輝いていく。その金色の光はまるで怒りの炎のようだ。
「ダン、こいつは・・・」
「あぁ、フランをやった奴だ。ぼっちゃんはシルフィードを守って下がってくれ」
「一緒に・・・」
「頼む、ぼっちゃん。俺に
・・・
・・・・
・・・・・
「解った。でも危なくなったら援護に入るからな」
フォレストグリーンアナコンダより凄まじい殺気を放つ紫色のオーガ。全身の毛穴から冷や汗が吹き出す。
シルフィードはガタガタ震えて立ち竦んでしまっているので抱き抱えて後ろに飛んだ。
「食らえっ!フランの
がぁーーーっ!
唸りを上げてダンの剣を受けながら反撃をしてくるオーガ。
「ぐっ」
ダンはその攻撃を剣で受けるが、質量パワーとも強化したダンよりオーガの方が上だ。おまけにオーガに食らわせたダンの初撃の傷が治っていく。ピンクの光は見えなかったので治癒魔法ではない。単純に自己修復能力が異常に高いのだ。
オーガはダンより俺達の方を見る。
「お前の相手はこっちだろうがっ」
無視されたダンはオーガに連撃を入れていくが、その度にシュワシュワと傷が塞がっていく。
ダンに任せてくれと言われたがそうもいかなくなってきた。狙われているのは俺だ。そういえばトカゲも俺を狙って来た。前もそうだった。恐らく強い魔物は一番魔力を持っている者がわかるのだろう。魔力=栄養だからな。一番効率良く魔力摂取が出来る俺を狙うのは当然か。そうなるとシルフィードもヤバい。俺とほとんど変わらない魔力総量だからな。
シルフィードを土の柱で上に逃がしても狙われる恐れがあるからこのまま守って戦う方がいい。
取りあえず土壁を何枚か出してこちらへ来るのを防ぐ。
がぁーーーっ!
ガコッ ガコッ
凄いパワーだ。強化した土壁でも粉砕される。ただスピードは俺達の方が上なので逃げ切ることは可能だ。しかし、ダンは引かないだろう。敵を討つ千載一遇のチャンスなのだから。
「いいか、シルフィード。落ち着いて身体強化をしろ。スピードは俺達の方が上だ。攻撃はダンに任せて俺達は逃げに徹する」
ガタガタ震えるシルフィードを抱き締めてそう言い聞かせる。俺にはドワンほどの安心感をシルフィードに与えてやれない。壁を壊されても何度も作り出して時間を稼ぐ。ダンはオーガを斬りつけ続けるがオーガはそれを物ともせずに俺達を狙い続けた。
「くっそーーー!俺の力はこんなもんじゃねーぞぉぉ」
更にダンの光が強くなる。使い慣れている身体強化とはいえそんなに一気に強化したら魔力が切れる。
ダンと反対側に逃げていた俺達は距離が開いている為にろくに魔力も補充してやれない
ゲイルはダンに魔力を補充するため壁を作りつつダンの後方へと回り込んだ。
その事によりオーガはダンと正面から対峙する態勢になった。
「ダン、魔力は気にすんな。俺がいくらでも補充してやる」
ダンの背中から魔力をどんどん補充していく。さらに金色に光輝くダンの連撃スピードが上がって行く。
オーガの再生スピードよりダンの連撃の傷の方が上回りだした。魔法水を飲みながらダンに魔力を注ぎ続ける。
ガガガガガガガッ
ぐぉぉぉぉお
オーガが苦しみの悲鳴を上げ始めた。もう一息だっ。
そう思った時、オーガの身体が金色に光り出した。
「ダン、離れろっ」
とっさにダンを掴んで身体強化した身体で後ろに飛ぶ。
どがーーーんっ
俺達が飛び退いた場所にオーガの強烈な一撃が炸裂した。爆発にも似た衝撃波が俺達を吹き飛ばす。
ゴフッ
俺達は衝撃波で木に叩きつけられるが3人とも治癒の魔石からピンクの光が出て致命傷には至らない。
「ダンっ!逃げるぞ」
「あいつは あいつはフランの
こんなに感情的なダンを初めて見る。もう何を言っても止まらないだろう。俺達が逃げてもダンは命を捨ててでも敵を討ちに行く。ならば・・・
「ダン、俺達も攻撃する。止(とど)めはお前に任せる。それが条件だ」
「頼むっ」
「頼まれたっ!シルフィード、お前はファイアボールをありったけ打て、俺は足止めをする」
走ってこっちに向かって来たオーガを足元から串刺しにしていく。
木に打ち付けられて生存本能が働いたのか震えが止まったシルフィードはファイアボールを撃ち出した。
思ったよりファイアボールが効いているオーガ。弱点は火属性の攻撃なのかもしれない。
燃え盛るオーガに自分が焼かれるのを物ともせずに斬りつけるダン。俺が火魔法を使えばダンまで確実に巻き込んでしまうので、そのまま土魔法でめった刺しにしていく。
「食らえっ」
串刺しで動きの止まったオーガの頭を目掛けてダンの渾身の一撃が入る
ガキンっ
ぐぁぁぁぁぁぁ
雄叫びを上げて頭を振るオーガ。
しかし、ダンの剣も今の衝撃で折れ、シルフィードのファイアボールも魔力切れで止まった。
「止(とど)めだっ!」
ダンはフランの剣を抜き上に飛んだ。
ドワンの剣ですら折ったオーガの頭だ。錆を取っただけの剣では止(とど)めは無理だ。でももう止まらない。
「ダンっ!剣に炎を纏わせろっ」
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
ダンの身体が金色と赤に包まれた。
ボゥゥゥ ゴウッ
ズバババババババっ ボゥゥゥ
炎を纏ったフランの剣は紫色のオーガを頭から真っ二つに斬り裂いた。
ズゥゥゥゥン
右半身は串刺しにされたまま、左半身は大きな音と共に倒れさった。
「ハァハァハァハァ」
その場で座り込むダン。
「フラン、敵は取ったぜ。ぼっちゃん達の力を借りてだけどな」
無理矢理炎を纏わせたフランの剣は半分熔けて原型を止めていなかった。
「ダン、ごめん。フランさんの剣がそんな事になっちゃって・・・」
俺が炎を纏わせろと言わなければここまで酷い事にならなかっただろう。ドワンに頼めば修復出来るかもしれないが、そうなると作り直しに近い。もはや形見の剣と呼べなくなってしまうかもしれない。
「いや、フランもきっと喜んでるさ。なんせ自分の剣が憧れの炎の剣になって自分を殺したオーガを倒したんだからな」
カッカッカッカと、これで俺も炎の魔剣使いになれたぜと大笑いするダン。
「でも・・・」
「ぼっちゃん、アーノルド様もぼっちゃんに折られた剣を大切にしているだろ?こいつもそうだ。元の形は保って無ぇが思いは失われちゃいねぇ。姿形は問題無ぇ。大切なのはそこにどんな思いがあったかだ。この剣はそれを全て持ってる。感謝するぜぼっちゃん」
「そっか」
涙を浮かべながらも晴れ晴れとしたダンの顔を見て俺はそう答えた。
折れてしまったドワンの剣と半分熔けたフランの剣を土の箱に入れ、代わりにダンの刀を手渡した。
刀をフンフンと素振りするダン。
「よしっ、こんな感じだな。剣より折れやすいから気を付けて振らねぇとな」
倒した紫色のオーガから巨大な魔石を取り出す。
鑑定
【魔石】瘴気により特変異したオーガ産
・魔力11050/12210
瘴気により特変異?
瘴気は魔物を特別に変異させるって事か?それならば普通の変異種は何が影響して変異しているのだろうか・・・
「すっごい大きな魔石ですね」
「あぁ、こんなの見たことないね」
「ぼっちゃん、その魔石を王様とエイブリック様の土産にしたらどうだ?その魔道バッグって宝物庫にあったやつなんだろ?」
「えっ?あ、うん。そうだね。お土産にしよう」
魔道バッグは無理矢理宝物庫から出してくれたみたいだから、このお土産があれば正当化する理由になるかもしれないしな。
「あとこのオーガはどうする?」
こいつを全部入れたら魔道バッグも満杯になってしまうかもしれない。
「じゃあ頭だけ持って帰ろうか。」
死んでも硬ぇてなと言いながらダンが半分になった頭を斬ってくれたので、生き返るなよと念じながら保存魔法を掛けて土の箱に入れた。
念の為残った身体は火魔法で焼き付くしておく。
さて、今回の目的地であるエルフの里を探しにいきましょうか。
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