第382話 思い込み
クソッ クソッ クソッ
このままでは助けられなかった騎士団長と同じだ。呪いと違ってこの世界には毒を消す方法があるはずだ。毒消しの魔道具があるんだから。
ダンの状態は重体と瀕死を行ったり来たりをしている。何か毒を消す方法が分かれば助けられるはずだ。
「シルフィードっ!何か毒を消す方法を知らないかっ?」
ふるふると首を横に振るシルフィード。
なぜ出発する前に毒対策を取ってなかったんだ。自分達が強くなっていたことで慢心してしまっていた。怪我をしても治せる。魔法が使えたらなんとでもなると。ダンがやられたのもオーガは壁を突破出来ないと思った俺の慢心からだ。俺は何回同じ過ちを繰り返すんだよっ!!!!
「ダンっ!お前はフランとまた会うんだろっ!あの世にフランはいねぇぞっ。こっちに
この世界は魂が輪廻することは解っている。天国や地獄といったものは無い。創造主とも言えるめぐみが魂を処理してまた現世に戻すだけだ。
ダメだ。俺の叫びにもダンの意識は戻らない。
クソッ
「めぐみっ!聞こえるかっ!頼むから応答してくれっ!大至急だ。おい、めぐみっ!めぐみっ!返事しろっ」
あいつに頼んでもなんとかなるとは思えないが何か方法を知っているかもしれない
「おいっ!返事しろよ、ノータリン女っっっっっ!」
『ちょっとぶちょー、誰がノータリンなのよ』
やっと来やがった。
「めぐみ、毒を消す方法を教えてくれ」
『毒?何よそれ?あたしも忙しいって言ってるでしょ。訳わかんないことで呼ばないでよ』
「毒だよ毒。ダンを見てみろっ 毒に犯されて死にかけてんだよっ!早く毒を消す方法を教えろっ」
ダンに治癒魔法・回復魔法・魔力を注ぎながらめぐみに必死に毒の消し方を聞く
『あー、本当だ。魂が離れかけてるわね。別にいいじゃない。またどっかで生まれ変わるんだから。綺麗な魂だからすぐに生まれ変わるわよ』
「そんなこと聞いてねーんだよっ。今助けたいんだっ!毒の消し方教えろっ!そうしないとこの世界をぶち壊すぞっ」
『何よソレ。そんなことしたらまたやり直しじゃない。もうアイテムないんだから止めてよね』
「だったら早く教えろっ」
『ん?スンスン なんかこの辺臭いわね』
「はぁ?そんな事はどうでもいいから、早く教えろっ」
『なんか、魂が腐ったような・・・』
「めぐみっ!」
『もう、うるさいわねっ!ぶちょーは魔法が使えるんだからなんとでもなるでしょっ スンスンスン やっぱり魂が腐っ・・・ あっ!』
「どうにもならないから聞いてんだろうがっ!」
『魔法で消しなさないよ。洗浄魔法とかクリーン魔法とかよく使ってるじゃない』
「あれは身体とか服とかを綺麗にする魔法だろうが」
『ぶちょーが勝手にそうイメージしてるからでしょ。前にも説明したけど、魔法はなんでも出来るのよ。ぶちょーがイメージ出来ないだけで。ぶちょーの方がノータリンじゃないのっ』
「なら、俺は毒も消せるし、無くなった腕も生やせるってのか?何回試してもダメだったぞ」
『腕なんか生えるわけないって心の底で思い込んでるんじゃない? そんなの私がどうにか出来るわけないじゃない。そいつの魂が来たらすぐにどっかに返してあげるわよ。じゃーねーバイバーイ』
イメージ?
そうだ魔法はイメージだ。自分で毒は消せないと思い込んでいた。しかし、毒なんか食らった事がないし、それを打ち消すイメージも持てない。
いや、持てないんじゃない、持つんだ!そうしないとダンを助ける事が出来ない。
というかそもそも毒とはなんだ?
鑑定でも毒としか出てこないが毒の種類は多岐に渡る。特定出来たとしても解毒とかの知識は無いから解毒をイメージしても無駄だ。
めぐみが言っていたクリーン魔法。解毒ではなく毒その物を綺麗にするというか消してしまうイメージでやるしかない。
治癒、回復をしながら毒を消し去るイメージを持ってクリーン魔法を掛ける。
クソッ どれもイメージが曖昧になって治癒と回復の効果まで落ちてしまう。
一気に治癒と回復に集中して状態をマシにさせてからクリーン魔法を試していくしかない。
魔力水をがぶ飲みしながら治癒と回復魔法を強く念じて魔力を注ぐ。
瀕死と重体を行ったり来たりしていた状態が重体で止まった。今だっ!
ダンの身体の表面ではなく体内にクリーン魔法を掛けるイメージで・・・
「ぐっ うっ・・・」
ダンが苦しそうな声を漏らす。
効いているのかどうか分からないが全く動かなかったダンに反応が出た。
もう一度回復と治癒を全力で行ってから体内にクリーン魔法だ。
「ぐぁぁぁぁ」
「ダン、耐えろっ!今お前の身体の中の毒を消している。聞こえてるならお前も身体強化をしろっ」
そうダンに叫ぶとうっすらと金色に光る。
よし、意識は戻っている。俺の声も聞こえているようだ
もう一度治癒と回復を全力で行ってからクリーン魔法を体内にかける。
毒が消える 毒が消える 毒が消える
強く強く強く自分にそう思い込ませてクリーン魔法に魔力を注ぐ
「ぐぁぁぁぁ」
ダンがいっそう大声を上げた後、状態が軽症に変更された。そして魔力の減りがどんどんゆっくりになっていく。
「ぼ、ぼっちゃん・・・」
「ダンっ!大丈夫かっ!」
「あぁ・・・」
「まだしゃべらなくていい。もう少し治療を続けるから」
「こ、今度は・・・ちゃんと・・守れたか・・・?」
「大丈夫だ!俺は何とも無いっ。ダンにちゃんと守って貰ったから」
「そいつぁ・・・ 良かった・・ぜ」
「ダンさんっ! ダンさんっ! しっかりして下さいっ!」
俺が治療している間もシルフィードはずっと泣き叫んでいた。
「シルフィード、大丈夫だ。ダンは助かったよ。今は眠っただけだ。もう少し治療と回復魔法かけるけど、もう心配すんな」
「ほ、本当ですか」
「本当だよ。ほら寝息を立ててるだろ。そのうち腹減ったと言い出すからそぼろ丼でも作ろうか」
ダンのスキルに毒耐性が付いたから本当にもう大丈夫だろう。このまま寝かせておいて飯を作ろう。
ミンサーは持って来ていないので包丁で鹿肉を細かく刻んでいく。
シルフィードにはキュウリを育ててもらって千切りにして貰う。
味噌に砂糖を加えて刻んだ鹿肉を炒めながら味付け。そぼろ卵を作って、鹿肉、キュウリを乗せたらそぼろ3色丼の完成だ。
「ダン、出来たぞ」
「ん?飯か・・・?」
「焼き肉丼食ってから時間はそんなに経ってないけど食うだろ?」
「おぉ、おお」
毒に侵されていた影響か記憶が少し曖昧なようだ。
「お、綺麗な飯じゃねーか。さっそく・・・」
右手で丼を取ろうとしたダンは自分の腕が無いことに気が付いた。
「そっか、無くなっちまったか。まぁ、仕方がねぇ。ちと不便だがな」
そう言ってダンは左手で丼を取り、スプーンで少しずつ食べだした。両手が揃ってないと丼をかきこむことも出来ない。
ここからディノスレイヤ領に戻っても1ヶ月は掛かる。たしか部位欠損を治すには欠損してから2週間くらいまでに治療しなればアイナでも無理だと言ってたからな。ダンはそれが分かってるからあっさりと腕を諦めたのだろう。
「ダン、本当は俺でも部位欠損を治療出来るみたいなんだ」
「ん?ぼっちゃん何度も試してダメだっただろ?気にすんな、大剣は無理でも普通の剣なら片手でも振れる。それに魔銃使いになってもいいしな。ぼっちゃんは懸命に死にかけた俺を助けてくれたんだろ?声は聞こえてたぞ。それで十分だ」
「いや、部位欠損の治療が出来ないのは俺のイメージの問題らしい」
「らしい?誰かにそう言われたのか?」
「あ、あの、ゲイル様がダンさんの治療をしているときに誰かとしゃべってたようだったんですけど・・・」
そうか、必死だったから声に出てたんだな。
俺はめぐみの事をダンとシルフィードに話した。
「え?ぼっちゃんお告げだけでなく、神様と話出来んのかよ?」
「まぁ、神というかこの世界を作った人?話してるとイラッとしたりするからほとんど呼び掛けないけど」
めぐみの姿を見たことがないから勝手に女の人と思ってるだけだが、確実に人ではないわな。
「神様はめぐみってお名前なんですか?なんどもめぐみって・・・」
「うん、この世界の人がそう言うからみたいだけど」
「この世界?」
あっ・・・・
まぁいいか。
「ここと同じような世界がたくさんあるみたいだよ。似てたり似てなかったりするみたいだけど。」
「へぇ、そうなのか。似てる世界ってどんなんだろうな?」
俺が異世界から来たことまでは黙っておこうか。そのうち話すかもしれないけど今話したら混乱するだろうからな。
「で、めぐみが言うには俺の心の底で無くなった腕とか生える訳がないと思い込んでいるのが原因みたいなんだよ。その思い込みが無くなれば魔法で部位欠損が治るらしい」
「まぁ、アイナ様の治癒魔法を見たことがなければ普通そうだよな」
「で、俺だけでなく、シルフィードとダンの力も借りて試そうと思うんだ」
「どうやるんだ?」
「ダンは治癒魔法を使えないけど、腕がそこにあると信じて身体強化を腕にかける。俺とシルフィードは腕が元通りになると信じて治癒魔法をかける。特にシルフィードは母さんの治癒魔法を見てるからイメージしやすいだろ?」
俺もアイナの治癒魔法を見ているが元の世界のイメージの方が強い。それが今のイメージより勝っているのだろう。
えーっとなんだけっな。スタッほにゃらにゃら細胞はありまーす、の方じゃ無くて、IPなんたら細胞の方は治験が始まってたんだよな。だから部位欠損は元の世界でも元に戻せる可能性がある。魔法でなんでも出来るこの世界で出来ないはずがない。現にアイナには出来ているんだから。
「ゲイル様、やってみます」
「ぼっちゃんがチャレンジするなら俺もやるぜ。腕に闘気を纏わせりゃいいんだな?」
「そう。そこに腕があると思ってやってね」
3人でダンの腕がそこにあると信じて魔力を込めていく。シルフィードはぶつぶつと詠唱を唱えミスリル棒を構える。ダンは目を瞑り身体強化を始めた。
俺はシルフィードが持っているミスリル棒に一緒に手を添えてシルフィードの魔法に上乗せするように治癒魔法を流した。
ダンの身体が金色に光り、シルフィードからピンクの光がダンに注がれていく。そこへ俺の治癒魔法が加わり金とピンクが入り交じった何とも美しい光にダンが包まれていく。
生える 生える 生える。
きっとダンの腕は元通りになる。
なんせ熊なんだから野生の回復力と生命力は凄まじいんだ。絶対に生えるっ!
神々しい光がダンの身体からどんどん無くなった腕に集約されていく。その光が腕を作り出してダンの腕が戻っていったのだった。
「やった!成功だ!ダン、腕が戻ったよ!」
「おぉー!腕があるぜっ!」
「やりましたっ!ゲイル様!成功しましたっ!」
やった やった やった!
やっぱり俺のイメージが問題だったんだ。アイナの慈悲の心はまだわかんないけど、ダンの腕が戻せたっ!
「なぁ、ぼっちゃん。腕が生えたのはいいんだけどよ・・・」
あ・・・・
元に戻ったダンの腕はヒグマのような毛がびっしりと生えていた・・・
俺の熊のイメージが強すぎたみたいだ。
「ほ、ほら、ダンって毛深かったじゃない?それが強化されたんじゃないかな?」
「そんな訳あるかーーーーーっ!」
まぁ、腕が生えただけでヨシとしよう。もう一度やるにはダンの腕を切り落としてやり直すしかないし、次にやっても同じ熊の手みたいになるだろう。俺のイメージはダン=熊で定着しているからこれを消すのは無理だ。
そしてヒグマ腕をブンブン振り回すダンの右腕は筋力も熊並になったみたいで非常にパワフルだった。
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