第381話 ダンの過去その3
そうか、ダンはその時に身体強化と気配を消す能力を身に付けたんだな。
「で、なんとかディノスレイヤ領まで辿り着いたって訳さ。食えるもんは何でも食って、立ち寄った村で着なくなった服とかを狩った肉と交換してもらったりしながらな」
「苦労したんだね」
「まぁ、俺一人なら諦めてたかもな。フランが居たから俺が頑張らないとと思って必死だったぜ」
ーディノスレイヤ領に辿り着いたフランネルとベアトリアー
「ねぇ、ベアトリア、ここは冒険者の街なんだって」
「なぁ、姫様。ベアトリアって止めてくれませんかね。今さらだけど」
「どうして?」
「俺は女みたいな名前がずっと嫌だったんだ」
「えー、可愛いじゃない」
「だから嫌なんですよっ」
「だったら、私のこともいい加減名前で呼びなさい」
「しかし・・・」
「もうここは私達の国じゃないし、知っている人も誰もいないわ。それに敬語も無し。冒険者って敬語使わないって聞いたわよ」
「いや、俺は冒険者じゃないし・・・」
「馬鹿ねぇ、今からなるんじゃない」
「本気で言ってます?」
「当たり前でしょ。今の私達は身分を証明するものも無いし、住む所も何も無いわ。そんな私達にぴったりでしょ」
ー過去の冒険者ギルドー
「ようこそ冒険者ギルドへ。登録ですか?それとも依頼ですか?」
「もちろん登録よっ!」
「ではお名前をこちらにお書き下さい」
俺の名前はダンっと・・・
「名前ダンにするの?」
「いいでしょ、なんでも」
「そうね、じゃ私はフランっと」
「ダンさんとフランさんですね。こちらが冒険者証になります。依頼はあちらの掲示板から自分達の達成可能な物を選んで下さい」
「ずいぶんと簡単になれたわね」
「そうですね」
「もうっ!私達は冒険者になったんだから、敬語も何も無し。それに私の名前はフラン。いいわねダン」
「わかったよフラン」
ー現在のゲイル達ー
「その後依頼を受けまくってな、他のパーティーメンバーも増えて名前が売れていったんだ。金もどんどん稼げて食うのにも困らなくなった」
「家は買わなかったの?」
「いつかエレオノローネ王国に戻るつもりでいたからな。もしみんな無事でも国はボロボロになってるだろうし、そうなりゃ復興にも金がかかる。飲み食いと武器や防具は買ったがそれ以外は貯めてたんだ」
戻るつもりだったんだ・・・
「風の噂にエレオノローネ王国が滅びたって聞いても金を貯める癖が抜けなくてな。使う当ての無い金だけが貯まっていきやがった。それとフランはアーノルド様やエイブリック様の英雄譚が好きでな、特に炎の魔剣に憧れていたんだ」
「それでダンは炎の魔剣にこだわってたの?」
「そうだ。俺が先に手に入れて悔しがらせてやろうと思ってな」
そう言ってカッカッカッカと笑うダン。きっとフランに炎の魔剣を使ってカッコいいところを見せてやりたかったのかもしれない。
「まぁ、冒険者生活は順調だったよ。あのオーガと出くわすまではな」
ー過去のダン達の苦戦ー
「なんだよ、このオーガの数はよっ」
「うるせぇ、ごちゃごちゃ言わずに早く斬れっ」
「だぁぁぁぁぁっ!」
ハァハァハァ
「ダン、なんとかしのげたわね」
「あぁ、キツかったぜ。フランもぼろぼろじゃねーか」
「うるさいわねっ!」
「おい、ダン。ポーションも切れちまったからここで終わりにして戻るぞ」
「そうだな、戻ろ・・・なんだこの気配はっ」
ダン達を襲って来たのはオーガの変異種だった。
「ちっ、変異種のお出ましかよ。撤退しながら戦うぞ」
オーガの変異種に襲われながらも倒しつつ撤退するダン達。
ハァハァハァ
「ここまで来ればもう大丈夫じゃない?」
「キツかったぜぇ、誰だよ瘴気の森の近くにお宝があるって噂してたやつはよっ。何にも無かったじゃねーか」
「まったくよ。骨折り損のくたびれ儲けってやつね」
ブォンッ
「フラン避けろっ」
ザシュッ
ブッシューーーッ
「フランっ!フランっ!」
「ダン逃げろっ!見たことねぇオーガだ。紫色のオーガなんて知らねぇーぞ」
「フランっ、しっかりしろ。俺が連れて帰ってやるからな」
ぐぁぁぁぁ
ドガンっ
「ぐっ、 このくそったれめっ」
紫のオーガの一撃をなんとか大剣でしのいだダン。抱き抱えているフランの背中かから生温かいものが腕を伝って滴り落ちる。
ガンゴンッ
ガンゴンッ
他のパーティーメンバーが加勢に入り、なんとか攻撃をしのいでくれている。
「ダン、逃げて・・・」
「バカ野郎っ!フランを置いて逃げられるかっ!俺はお前の護衛だっ!」
「ダメよ、あなたまで死んでしまうわ。他の仲間も巻き添え・・ゴフッゴフッ」
「フランっ!」
「お願い・・・逃げて・・・」
「ダメだっ!俺はお前が、お前を・・・っ」
「ダンっ!早く逃げるぞっ!こっちはもうもたんっ」
「これは命令よ・・・ フランネル・エレオノローネの名に置いて命じます。ベアトリア・ダンクローネ、私を置いて逃げなさい」
「フランっ!」
「お願い・・・・」
「ダンっ! 来いっ!」
「フラン、すまん。ダンは必ず生きて返すっ!」
「みんなおね・・・がい・・、ダン・・・わ・た・・しは・・あなたの・・・」
「フラーーーーーンっ」
ー現在ー
グスッグスッ
「おいおい、シルフィードなんで泣いてやがんだよ」
「だってだって」
「ぼっちゃんまで何だよっ そんな号泣するこったねぇだろ。冒険者にはよくある話だって前にも言っただろ」
「ぞ、ぞうがもしんないげどざぁ・・・」
ゲイルは涙でまともに話せない。
「俺は結局女一人守れなかった大バカ野郎なんだよ。その後は知っての通り何も出来なくなってた所をアーノルド様に拾って貰ったって訳だ」
俺とシルフィードはダンの話を聞いていつまでも涙が止まらなかった。
「ちっ、酒のせいか余計な事まで話しちまったぜ。ぼっちゃん、風呂作ってくれ。熱めのやつを頼・・・」
ドンっとダンが俺を突き飛ばした瞬間、地面から馬鹿デカいトカゲが飛び出してダンの腕を食いちぎった。
しまった、油断した。ダンの過去話で号泣していた俺は気配察知をしていなかった。壁があると安心しきってしまっていた。
ダンの左手に嵌めてある治癒の腕輪からピンクの光が出て傷口は塞がるも、失った腕は戻らない。あいつの咥えている腕を取り戻せば繋げられるかもしれない。
燃やすと腕まで燃えてしまうので土魔法をぶつけるがトカゲには効かない。魔剣を抜いて斬りかかるも腕を咥えて土の中に消え去ろうとしている。
「待ちやがれっ!」
きゃーーーーーっ
「ダンさん、ダンさん、しっかりしてっ!」
治癒魔法で傷は治ったはずのダンがその場で崩れ落ちている。倒れたダンに気を取られた瞬間にトカゲにも逃げられてしまった。
クソッ
トカゲを追おうとしたが、ダンの様子がおかしい。
慌てて鑑定する
【状態】重症/毒
毒?
そういやトカゲには絶対噛まれるなよとアーノルドから忠告されていた。さっきのトカゲは前のよりデカイから毒も強いのかもしれない。
ダンの噛まれた所より上を土魔法で縛って毒の回りを遅くするがすでに全身に回ってしまったようで効き目がない。こうしていることを間にもどんどんとダンが毒に犯されていく。
必死に治癒魔法と回復魔法を同時にかけていき、どんどん減る魔力を補充する。
魔道バッグから魔法水を出し、魔力を補充しながら続けるが毒が消えない限り終わりは無い。
【状態】瀕死/毒
「ダン、しっかりしろ、ダン!ダン!ダーーーーーンっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます