第380話 ダンの過去その2

「前に俺を鑑定した時に俺の名前を見ただろ?」


「うん」


「俺の出身はセントラル王国とウエストランド王国の中間くらいにあった小さな国でな、うちが貴族っていってもちゃんとした爵位も無いちっぽけな国だったんだ。エレオノローネ王国って立派な名前がついてたけどな」


「どんな所だったの?」


「今のディノスレイヤ領の3倍くらいの大きさの国だから、国というか街くらいの所だ。農作物と畜産くらいしか無い辺鄙な所だな。まぁだからこそどこからも攻められず国として成り立ってたんだがな」


「フランさんもそこの国の人?」


「本名はフランネル・エレオノローネ。まぁ所謂、姫様って奴だ。うちのダンクローネ家は代々王家の護衛をしている家でな。俺はそこの三男だったんだ」


「近衛騎士の家系だったんだ。凄いじゃん」


「ちっぽけな国って言ったろ。王家の護衛ったって知れてる。小さな国だから兵士とかも居ないし、防衛は国民全員でやらなきゃならねぇ。だから男は小さい頃から剣の稽古をさせられてるから俺が特別だったわけでもねぇ。単なる役割だ」


それで護衛として小さな頃から剣の稽古をしてきたってわけか。


「あの木剣と隙間を通す稽古はその時にダンもやってたの?」


「そうだ。小さい頃からやらされてたぞ。俺は子供の頃は身体も小さくてな。よくアニキ達にボロクソにやられてたわ」


ダンの小さい頃って想像が付かない。小熊だったのだろうか?


「フランは俺より2つ年上で長女だったんだが、上に二人兄がいたせいかめちゃくちゃおてんばで、剣の稽古をしてやがったんだ。俺は稽古の相手を毎日毎日させられてたよ。歳も上だし身体も俺より大きい。家ではアニキ達にやられ、昼間はフランにやられる子供時代だ。そんときゃ家系を呪ったぜ。普通の家に生まれてりゃこんな目に合わずに済むってな」



ーダンの子供時代ー


「ほら、ベアトリア立ちなさいっ!まだ稽古は終わってないわよっ」


「もうボロボロだよ姫様」


「姫様じゃなくてフランネル、姫なんて名前じゃないわっ」


「もう終わりにしようよ」


「うるさいわよチビベアっ!早く立たないとこのまま打ち込むからねっ」


カンカンカンカンっ


「わ、まだ立ってないのにっ!やめてやめてやめて ぎゃーーーっ」



それから数年・・・


「何よ、あんた私より大きくなってるじゃない」


「男は日々成長するものですよ。それより姫様もずいぶんと女性らしくなってきたんじゃないですか?」


「ど、どういう意味よっ!」


「いや、可愛いらしくなってきたなぁと・・・」


「か、可愛い・・・」


顔を真っ赤にして右耳の後ろをポリポリ掻くフランネル。


「隙ありっ!」


カツンっ!


「きーーーっ!やったわねー」


ガッガッガッ


「うわ、待て待て待て待って下さーいっ」


「知らないわよバカっ!」


ガツンッ


「ってててて、女性らしくなってきたのは外見だけかよ・・・」




「ねぇねぇ、ベアトリア、冒険者って知ってる?」


「何ですかそれは?」


「国にも誰にも縛られずにあちこちに行って魔物を倒したりする仕事なんですって」


「へぇ、そんな仕事があるんですね」


「そうよっ、私も冒険者になって世界中に行ってみたいなぁ」


「姫様なんだから無理ですよ」


「そんなの解ってるわよ、バカっ!ベアトリアなんて大っ嫌い!!!」


それから何年か経ち、フランネルが14歳になったときに事件が起こる。


「なんじゃと?フランネルをセントラル王国の貴族のめかけに差し出せじゃと?」


「はい、国王様。西の辺境伯様が是非にと」


「無礼にも程があるぞっ!我が国が小さいとはいえ、一国の姫をめかけに差し出せとはなんたる言い種じゃっ!それに貴様は大エヌ帝国の使者であろうっ!なぜ貴様がそんな事をワシに言ってくるのじゃっ」


「はい、我が大エヌ帝国はこれからセントラル王国と協力関係になりますもので」


「まさか貴様、セントラル王国に取り入る為にフランネルを手土産にするつもりではあるまいな」


「いえいえ、フランネル様をご所望なさったのはセントラル王国の西の辺境伯様でございます。こんな辺鄙な国に大変美しい姫がいらっしゃる事と聞かれ・・・」


「きっさまぁぁぁぁ!我が国に出入りしているのはお前の所だけじゃろうがっ!セントラル王国の貴族がなぜフランネルの事を知っておるのじゃっ。それに所望じゃと?フランネルは貢ぎ物ではないっ!誰かこいつを叩き斬れっ!」


「ひっひぃぃぃぃぃ」


「陛下、お待ちをっ!使者を斬ったとなれば大エヌ帝国と戦争にっ」


「そ、そうですぞ。私を斬ったとなれば戦争になりますぞっ」


「こんな裏切り者どもの国なんぞ知ったことかっ!お前らがやらんのならワシが斬ってやる」


ズバッッッッッ


「ぎゃーーーっ」


「国民に伝えろ!我がエレオノローネ王国は戦争に備えると。すぐに準備と態勢を整えよっ!」


「ハッ」



ーフランネルの部屋ー


ベアトリアはフランネルと話をしていた。


「どうしました姫様?」


「戦争になるかもしれないって。ベアトリアは聞いてないの?」


「聞いてますよ。姫様を守る為の戦争だと。しかし、相手は大エヌ帝国でしょ?うちの相手になりませんよ」


「姫って呼ぶなって何度も言ってるでしょ」


「来年成人なさる姫にそういう訳にはいきませんよ。もう子供じゃないんですから」


「もうっ、ベアトリアには姫って呼ばれたくないのっ!」


「いーえ、自分は姫様の護衛です。護衛が姫様を名前で呼ぶなんておかしいでしょ。100歩譲ってフランネル姫様です」


「ベアトリアのバカっ!女みたいな名前の癖にっ!」


「なんだとっ、人が気にしてることをーーーっ」


「なあに?怒ったのベアトリアちゃーん」


「姫様ーーーっ!」


「姫って呼ぶなら私もベアトリアちゃんて呼ぶからね。いーだっ!」


部屋でフランネルとベアトリアがじゃれていると、


カンカンカンカンカン


非常用の鐘がけたたましく鳴った。


「何事だっ!?」


「敵襲 敵襲っ!」


「なにっ?」


バンっ!


フランネルの部屋の扉が激しく開けられれ、ベアトリアの兄が飛び込んで来た。


「兄上っ、敵襲は本当ですかっ」


「ベアトリア、お前は姫を連れて抜け道から逃げろっ」


「えっ?たかが大エヌ帝国ごときに」


「違うっ!セントラル王国が攻めて来た。早く逃げろっ」


「セントラル王国が? なんでっ?」


「知るかっ、いいから早く逃げろ。相手が多すぎるっ」


「兄上や父上は」


「王が采配を取る。俺達は護衛だ」


「お、俺も戦いますっ」


「バカ野郎っ!お前は姫の護衛だろっ!姫を逃がせというのは王命だ。今ならまだ間に合う。さっさと行けっ」


「わ、私も一緒に父上と残ります」


「姫様、王命でもありますが、長年護衛を勤めて来たダンクローネ家を代表してお願い申し上げます。必ずや生き延びて下さい。ベアトリア、姫様を必ずお守りしろ」


「わ、わかりました兄上。ご武運を。姫、行きますよっ」


「でもでもっ、お父様やお母様が」


「いいから来いっ!フランっ」


ベアトリアはフランネルの手を引っ張って城の抜け道から裏道へ出て走った。


ちっ、こんな時に限って姫はドレス姿だ。すぐに見つかってしまう。


ベアトリアは鎧と服を脱ぐ。


「べ、ベアトリア。なんで服なんて脱ぐのよっ」


「姫様、ドレスを脱いでくれ」


「こ、こんな所でなにするつもりよっ、こ、心の準備が・・・」


「何ごちゃごちゃ言ってんだ。早く脱いでこれを着ろって言ってんだよっ」


変な勘違いをしたフランネルは真っ赤になって右耳の後ろをポリポリ掻く。


「ちゃ、ちゃんと初めに説明しなさいよねっ」


バシッとベアトリアを平手打ちしてからベアトリアの服に着替えた。鎧とフランネルのドレスを木の後ろに隠して逃げる二人。


「おい、逃げた姫を探せっ」


ちっ、もう追っ手が来てやがる。


「ハァハァハァっ 待って。もう走れない」


剣の稽古をしてきた姫とはいえ、朝晩走り込みをしていたベアトリアに付いてこれなくなるフランネル。しかし、立ち止まってしまったら確実に捕まる。姫が捕まったら殺されるより辛い目に合わされるだろう。それを想像したベアトリアは一気に身体に怒りの感情が立ち込めた。


バッとフランネルを抱き上げる。


「ちょっ、ベアトリアっ」


「しっかり捕まってろ、走りにくい」


スピードを上げて走るベアトリア、必死にしがみつくフランネル。



ドサッ キャッ


「うぇぇぇぇぇ」


「ど、どうしたのベアトリアっ」


な、なんだこれ・・・。強烈な吐き気が身体を襲う。だ、ダメだこんな所で気を失っては・・・


吐き気を強い意思で抑え込み、ベアトリアはフランネルの手を引っ張って茂みに潜む。


ベアトリアはフランネルを抱き締め、そのまま気を失った。



「はっ!追っ手は?」


ベアトリアは自分が気を失っていたことに気付いて慌てて飛び起きた。


「私達に気付かないで行っちゃったわ」


「気付かずに?」


「ええ、ベアトリアが抱き締めていてくれたおかげで怖くなかったからかしら」


フランネルにそう言われてカーッと赤くなるベアトリア。


「いいいいいや、あれは必死で・・・、決してよこしまな気持ちではなく」


「バカねっ、解ってるわよそんなこと。それよりこれからどうする?」


「しばらく様子を見てから西へ逃げましょう。ウエストランド王国領まで辿り着いたらそこまでは追って来れないはずですから」


「わかったわ」


それからしばらく、声や音がする度に木と同化するイメージで二人は隠れ続けて西へ西へと逃げ続けたのだった。



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